佐世保市立総合病院 地域連携室だより 2015 年 3 月号 Vol.94 佐世保市立総合病院における前立腺がん治療 泌尿器科 診療部長 古川正隆 近年、高齢者の増加と PSA 検診の普及により前立腺癌患者は増加する傾向にあります。 特に佐世保市では 2003 年より前立腺研究財団による前立腺がん検診が行われ、その後も佐 世保保健所健康づくり課による検診が続行されており、泌尿器科領域において、最も患者数 の多い癌となっています。 その治療法に関しては、様々な選択肢があり、年齢や癌の進行度によって決定されますが、 ①手術療法、②放射線療法、③薬物療法、④PSA 監視療法の 4 つに大別されます。今回、 当院で行っている治療法について、ご紹介したいと思います。 1 手術療法 現時点で最も根治性の高い治療法であり、手術療法の適応は 10 年以上の余命が期待でき る転移のない局所限局性前立腺癌です。通常、PSA 値が 10ng/ml 未満、Gleason score 7 以 下、T1c~T2b の症例が推奨される病態ですが、高リスクの前立腺癌症例に対しても前立腺 全摘除術の適応があり、最近では広範前立腺全摘除術や拡大リンパ節郭清などを組み合わせ ることによって根治性を高める取り組みが行われています。また腹腔鏡下の手術も行われて おり、当院でも 2014 年 6 月に腹腔鏡下前立腺全摘除術の施設基準を取得し、開始していま す。近い将来にはロボット支援下の腹腔鏡下手術に移行していくものと思われます。 2 放射線療法 近年の放射線治療技術の進歩はめざましく、組織内照射である小線源療法と外部照射であ る、三次元原体照射(3DCRT)、強度変調照射(IMRT)、新しい治療機器としてトモセラピー、 重粒子線治療などが普及しつつあります。適応は遠隔転移を有しない局所限局性前立腺癌症 例ですが、前立腺全摘術後の再発に対する救済療法として放射線療法が選択されることもあ ります。また最近では IMRT による骨盤内リンパ節への照射も行われています。当院では 2003 年 5 月より 3DCRT による根治照射療法を行ってきました。照射は 3Gy を 23 回、total 69Gy 照射する寡分割照射といわれる方法で、高・中リスク群に関してはホルモン療法を併 用しています。現在までおよそ 400 例の前立腺癌症例の放射線治療を施行してきましたが、 治療結果は良好で、有害事象も重篤なものを認めておりません。 3 薬物療法 前立腺癌に対する薬物療法はホルモン療法が主体となります。その適応は余命が比較的短 い高齢者、診断時すでに骨転移やリンパ節転移など遠隔転移を有する進行癌症例、そして合 併症を有するため、手術や放射線療法ができない症例です。前立腺癌はアンドロゲン依存性 を有しており、アンドロゲン除去療法が有効な治療法として広く施行されています。 LH-RHagonist または LH-RHantagonist による内科的去勢療法と抗アンドロゲン薬を併用 する combined androgen blockade(CAB)療法が一般的です。有用性、安全性に優れた治療 法ですが、長期にわたって治療継続が必要であり、男性機能低下、メタボリックシンドロー ム、骨密度の低下などの有害事象が存在します。また CAB 療法を行っている患者の中には 治療が効かなくなる去勢抵抗性前立腺癌(CRPC:castration-resistant prostate cancer)の症 例があり、タキサン系の抗がん剤であるドセタキセルによる化学療法を行う必要があります。 さらに昨年 CRPC に対する新しい薬剤としてホルモン剤であるエンザルタミドとアビラテ ロン、タキサン系の抗がん剤であるカバジタキセルが承認されましたが、高価な薬剤である 上に、有害事象や投与時期などの問題が解決されておらず、しばらくは慎重投与が必要と考 えています。 4 PSA監視療法 PSA 値の上昇を契機に診断された前立腺癌の中には、一定程度の割合で高分化かつ小病 巣の前立腺癌が含まれ、これらに対する過剰治療の懸念が強くなっています。このことから low grade かつ low stage(具体的には Gleason score 6 以下、陽性コア 2 本以下、PSA 10ng/ml 以下、臨床病期 T2 以下)の前立腺癌に対して 3~6 ヵ月毎の PSA、直腸診、経直腸超音波検 査、1~3 年毎の再生検を行い、PSA 倍加時間が 3 年未満、生検で Gleason score の上昇や 陽性コアの増加など、腫瘍体積の増大を示唆する所見を認めるものは積極的治療に移行する ものです。 当院では平成 25 年 7 月より連携手帳を用いて、前立腺癌診療の適正化や患者通院負担の 軽減を目的に、地域の開業医の先生方の協力のもとに前立腺癌の医療連携を行っています。 以上、当院で行っている前立腺癌診療について報告いたしました。 新たながん薬物療法と 薬剤師の役割 がん薬物療法認定薬剤師・緩和薬物療法認定薬剤師 古賀 聖子 抗がん薬いわゆる殺細胞薬は、かつて化学兵器として使用されたマスタードガスを起点に 今日まで様々な作用機序の薬剤が開発されてきました。近年、がんの浸潤・転移・増殖に関 わる分子が次々と解明されると、これら特定の分子の働きを阻害する分子標的薬の開発によ りがん薬物療法は大きな転機を迎えると同時に、がんの個別化治療という方向性が示されま した。例えば、増殖シグナル伝達系の一つである KRAS 野生型に有効とされた抗 EGFR 抗 体薬のパニツムマブは、現在では KRAS の別の変異や KRAS 以外の RAS 系の変異がある と無効であることが判明し、さらに高度な個別化が求められています。また、肺がん増殖因 子の一つである ALK 融合タンパクの阻害薬も開発され、ALK 陽性肺がんへの高い効果が 認められています。この他、がん細胞を攻撃する T 細胞を活性化する抗体薬も出現し、こ れまで薬物療法の効果が乏しかったメラノーマ等への有効性が期待されていますし、昨年は 分子標的薬以外にも、去勢抵抗性前立腺癌に対する新たな薬剤として、エンザルタミド、ア ビラテロン、カバジタキセルが相次いで発売され治療の選択肢を広げました。加えて、抗が ん薬による発熱性好中球減少症を予防する初の持続型 G-CSF 製剤も発売されました。 また、既存の抗がん薬の新たな併用レジメンも増え、当院では大腸がん化学療法の 3 分の 1 は内服薬と注射薬の併用レジメンとなっています。一方で、新規薬剤の開発によって分子 標的薬による皮膚障害など新たな副作用への対応も必要となりました。このような状況で副 作用を軽減し有効な薬物療法を行うには、調剤薬局の役割も重要です。 実際に調剤薬局に訪問薬剤管理指導を依頼したことで、外来患者の抗がん薬服薬アドヒア ランスが向上した事例も経験しました。今後は外来指導の拡充と地域の調剤薬局と連携強化 により、安全で有効ながん薬物療法のための地域サポートを実現したいと思います がん相談員(看護師)斉藤梨恵 平成26年12月より地域連携室にてがん相談員として勤務してお ります斉藤梨恵と申します。私はこれまで医療機関・福祉施設にて看 護業務を行ってまいりました。地域連携室での業務に携わるにあたり、 これまで習得してきた看護経験・知識を生かしながら、地域の窓口としての役割を果せるよ う努力していきたいと思っております。 また、がん相談員としては知識も経験も不十分ではありますが、常に学ぶ姿勢を忘れず、皆 様の心に寄り添っていきたいと思っております。 病 院 情 報 平成 27 年1月の救急外来 患者数 救急車搬入 紹介患者数 ドクターヘリ 入院患者数 による搬入 924 人 308 人 242 人 323 人 6人 (救急車使用 平成 27 年 1 月の紹介患者数 紹介患者 数 1858 人 市内 市外 紹介率 逆紹介率 一般病床 利用率 1364 人 494 人 84.2% 79.4% 87.2% 佐世保市立総合病院の理念 私たちは患者様を中心として、安全で安心できる 心暖まる医療を提供します。 1.チーム医療の実践 2.インフォームド・コンセントに基づいた医療 3.先進的な高度医療 〒857-8511 189 人) 地域連携室の モットーは 1.笑顔 2.親切 3.丁寧 長崎県佐世保市平瀬町 9-3 佐世保市立総合病院 地域連携室 室長 : 中村 昭博 担当 : 緒方 福田 酒井 野田 後藤 田渕 楠本 外尾 空閑 藤木 斉藤 北村 TEL(0956)24-1515(内線 6921) FAX(0956)24-0474(連携室直通)
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