3年次前期 専門科目群Ⅰ (必修科目) 2単位 医療薬剤学Ⅰ 5回目 生物薬剤学講座 児玉庸夫 1 医療薬剤学Ⅰは医薬品の有効性と 安全性を基礎から理解するための学問 医薬品 有効性 安全性 2 講義の内容(1) • • • • • • • 第1回 薬物の生体内運命 第2回 薬物の副作用(薬物有害反応)(小テスト) 第3回 薬物の循環系移行と排泄(小テスト) 第4回 薬物の投与方法と経口投与製剤(小テスト) 第5回 薬物の吸収と影響因子(1) (小テスト) 第6回 薬物の吸収と影響因子(2) (小テスト) 第7回 薬物の運命、副作用(薬物有害反応)、及び 吸収のまとめと演習(中間テスト) 3 講義の内容(2) • 第8回 薬物の生体内分布(小テスト) • 第9回 薬物の体液中での存在形態と分布容積 (小テスト) • 第10回 薬物代謝と薬効(小テスト) • 第11回 薬物の排泄(小テスト) • 第12回 薬物の相互作用(小テスト) • 第13回 演習 4 第5回 薬物の吸収と影響因子(1) • 薬物の主な吸収部位を列挙できる。また、 消化管の構造、機能と薬物吸収の関係、 受動拡散(単純拡散)と促進拡散の特徴、 及び能動輸送の特徴を説明できる。薬物 の吸収に影響する因子を列挙し、説明でき る • 薬剤師国家試験 医2A-a、生体膜透過 医2A-b、吸収 医2A-f、薬物動態の変動要因 5 薬物の主な吸収部位 代 作用部位 肝臓 消化管 謝 崩壊→分散→溶解 血 液 直腸 糞中排泄 舌下錠 バッカル錠 吸入 坐剤 内用剤 組 織 尿中排泄 口腔 粘膜 腎臓 皮膚 筋肉、皮下 調剤 臨薬動 6 生体膜の構造的・機能的特徴 • 生体膜は、上皮細胞と内皮細胞に分類さ れる • 上皮細胞及び内皮細胞は、細胞膜で覆わ れている • 薬物の透過を考える場合、薬物分子が生 体膜を透過する必要があり、生体膜のどこ の部分を透過するか、薬物分子の物理化 学的性質、あるいは部位特異的な生理的 機能に依存する 7 わ生薬 上皮細胞の構造と物質の輸送経路(1) 8 わ生薬 上皮細胞の構造と物質の輸送経路(3) • 薬物の輸送経路には、細胞膜を直接透過 する経細胞輸送と、細胞と細胞の間を透 過する細胞間隙輸送がある • 単純拡散で薬物等が経細胞輸送される場 合、脂質二重層を通過するため、比較的 脂溶性が高い薬物が透過しやすい 9 わ生薬 上皮細胞の構造と物質の輸送経路(4) • 薬物透過の方向性は、管腔側の頂側膜か ら血液側の側底膜側方向の場合は吸収と 呼ばれ、その反対方向の側底膜から頂側 膜側方向の場合は分泌と呼ばれる 10 わ生薬 生体膜での物質輸送機構 • トランスポーター(輸送担体)が介在しない輸送 単純拡散 • トランスポーター(輸送担体)が介在する輸送(糖、 アミノ酸、ペプチド、水溶性ビタミン、胆汁酸、アミ ン、有機酸類など) 促進拡散、能動輸送 • 細胞膜の形態変化により生じた小胞内に包み込 まれて細胞外から細胞内に輸送される、または 細胞内から細胞外に輸送される形式 膜動輸送(サイトーシス) わ生薬 新薬 11 単純拡散による生体膜での物質輸送(1) • 薬物が生体内へ移行する場合、 生体膜両側における濃度勾配 に従って、濃度が高い方から 低い方へ透過する下り坂輸送 である 12 わ生薬 単純拡散による生体膜での物質輸送(3) • 単位時間当たりの透過量(透過速度)は、 Fickの法則(フィックの法則)で示され、吸収 部位の薬物濃度と透過速度の関係は直線 的となり、薬物濃度に比例して透過速度は上 昇する J=-D・dc/dx (1) J :単位時間当たりの透過量(透過速度) dc/dx:膜を隔てた薬物の移行元(高濃度)と わ生薬 移行先(低濃度)の濃度勾配 よ薬計 生薬 (xは膜の厚さを示す) 13 D :拡散係数(cm2/s、長さ2/時間 ) (3)式と(4)式から J=P・S・(C1-C2) (5) J :単位時間当たりの透過量(透過速度) C2 :移行先の薬物濃度(低濃度) C1 :移行元の薬物濃度(高濃度) P :膜透過係数(cm/s、長さ/時間 ) S :膜の表面積 P・S:透過クリアランス(mL/min) 薬物の特定組織への移行時の生体膜透過 指標として、循環血液から血液脳関門を介し わ生薬 生薬 た脳への薬物の移行性にも用いられる 新薬 14 単純拡散のまとめ(1) • トランスポーター(輸送担体)が介在しない 輸送である • 薬物が生体内へ移行する場合、生体膜両 側における濃度勾配に従って、濃度が高 い方から低い方へ透過する下り坂輸送で ある • 単位時間当たりの透過量(透過速度)は、 Fickの法則(フィックの法則)で示される 15 わ生薬 単純拡散のまとめ(2) • 吸収部位の薬物濃度と透過速度の関係は 直線的となり、薬物濃度に比例して透過速 度は上昇する • 輸送の飽和性や、輸送に対する共存物質 による透過変動はみられない • 薬物の脂溶性、分子サイズ、及び水素結 合による影響を受ける 16 わ生薬 単純拡散のまとめ(3) • 薬物の脂溶性、分子サイズ、及び水素結 合による影響を受ける • 脂溶性が高い薬物の生体膜への分配は 高くなり、生体膜透過性は高くなる • 水酸基やアミノ基のような水素結合能(水 素結合数)の高い官能基を持つ薬物では 生体膜透過性は低くなる 17 わ生薬 トランスポーター(輸送担体) 介在輸送 • 糖、アミノ酸、ペプチド、水溶性ビタミン、胆汁酸、 アミン、有機酸類などは生体に必須な物質であ るが、脂溶性が低く単純拡散(濃度勾配に従って、 濃度が高い方から低い方へ透過する下り坂輸 送)で生体膜を透過することは困難であるため、 生体特異的な機能であるトランスポーター(輸送 担体)を介して輸送される(促進拡散:下り坂輸 送、二次性能動輸送:上り坂輸送) • ポンプ機能により濃度勾配に逆らった上り坂輸 送(濃度が低い方から高い方へ輸送される)を示 す(一次性能動輸送:上り坂輸送) 18 わ生薬 トランスポーター(輸送担体)介在輸送の特徴 ①トランスポーター(輸送担体)の数が有限であるので、 基質となる物質の濃度上昇とともに飽和現象を示す (基質の輸送速度は、ミカエリス・メンテンMichaelisMenten式で表される)(促進拡散、能動輸送) ②臓器、細胞、基質特異性を有する(促進拡散、能動 輸送) ③構造類似物質の共存下で、輸送が競合的に阻害さ れる(促進拡散、能動輸送) ④トランスポーター(輸送担体)に特異的な阻害剤が存 在する(促進拡散、能動輸送) ⑤低温下で、輸送能が低下する(能動輸送) ⑥濃度勾配に逆らった上り坂輸送(濃度が低い方から 高い方へ輸送される)を示す(能動輸送) わ生薬 ⑦細胞内のエネルギー代謝の影響を受ける(能動輸 新薬 19 送) トランスポーター(輸送担体)介在輸送における 輸送速度( Michaelis-Menten式) Jmax・C1 J= Km+C1 (1) J :単位時間当たりの輸送量(輸送速度) Jmax :最大輸送速度 Km :Michaelis定数(ミカエリス定数) (輸送される基質に対する親和性を示し、数字が大きい ほど低い親和性、数字が小さいほど高い親和性を示す) C1 (Jmax/2になる薬物濃度) (トランスポーターに対する解離定数) :膜表面での薬物濃度 わ生薬 新薬 20 トランスポーター(輸送担体) 介在輸送による生体膜での物質輸送 透過速度 トランスポーター介在輸送(促進拡散、能動輸送) 単純拡散 薬物濃度がミカエリス定数に比べて著しく低い領 域では、透過速度(輸送速度)は薬物濃度にほぼ 比例する Michaelis-Menten式 薬物濃度と透過速度(輸送速度)の 関係に飽和現象がみられ、薬物濃度が上昇しても透過速 度(輸送速度)は上昇しない わ生薬 新薬 21 促進拡散による生体膜での物質輸送(1) • 特定の物質に対して選択性を有す るトランスポーターを介した輸送で あるが、能動輸送と異なり、細胞 内代謝エネルギーを必要とせず、 膜内外の物質の濃度勾配や電気 化学ポテンシャル差に従う下り坂 輸送を促進拡散と呼ぶ 22 わ生薬 促進拡散のまとめ • 特定の物質に対して選択性を有するトラン スポーター(輸送担体)が介在する輸送で ある • 能動輸送と異なり、細胞内代謝エネルギー を必要とせず、膜内外の物質の濃度勾配 や電気化学ポテンシャル差に従う下り坂輸 送である • 基質となる物質の濃度上昇とともに、輸送 には飽和現象がみられる。基質の輸送速 度は、ミカエリス・メンテンMichaelisMenten式で表される 23 わ生薬 能動輸送による生体膜での物質輸送 ・トランスポーターを介した輸送であるが、促進 拡散と異なり、細胞内代謝エネルギーを必要 とし、薬物が濃度の低い側から高い側へと輸 送される上り坂輸送を能動輸送と呼ぶ ・細胞内代謝エネルギーATPを直接利用する一 次性能動輸送と、一次性能動輸送に由来する イオン勾配、電位差を駆動力とする二次性能 動輸送に分類される わ生薬 新薬 24 一次性能動輸送による生体膜での物質輸送(1) • 一次性能動輸送では、細胞内 ATPなどの高エネルギーリン酸 化合物を加水分解してADPに変 換するさいに遊離されるエネル ギーを直接利用して、上り坂輸 送によって物質が輸送される 25 わ生薬 一次性能動輸送による生体膜での物質輸送(2) ・ATPase(ポンプとも呼ばれる)と呼ばれるイオン輸送 型ポンプの代表的な例として、小腸上皮細胞や腎尿 細管上皮細胞の側底膜(血液側)に存在する Na+/K+-ATPaseがあり、ATPの加水分解エネルギー によってNa+を細胞内から細胞外へ汲み出し、同時に K+を細胞外から細胞内に取り込み、細胞内の低Na+ (12mM)、高K+(140mM)濃度を保持している ・ABCトランスポーターファミリーの代表的な例として、 ATPの加水分解エネルギーによって薬物を細胞内か ら細胞外へ輸送(排出ポンプ)するP-糖タンパク質 (MDR1遺伝子が生成する)があり、癌細胞や小腸上 皮細胞管腔側(頂側膜側)などに発現している。 P糖タンパク質により抗悪性腫瘍薬は細胞外に排出さ れるため多剤耐性化の原因となる。また、小腸では 薬物吸収が低下する わ生薬 26 新薬 二次性能動輸送による生体膜での物質輸送(1) わ生薬 新薬 • 一次性能動輸送によって生じたイオン(Na+/K+など)の電気化学 的ポテンシャル勾配を駆動力として、物質がトランスポーターを介 27 して、上り坂輸送される(共輸送、逆輸送(交換輸送)、単輸送) 二次性能動輸送による生体膜での物質輸送(2) ・二次性能動輸送では、一次性能動輸送である Na+/K+-ATPase (ポンプ機能)により形成され るNa+イオンの電気化学的ポテンシャル勾配を 駆動力として、物質の上り坂輸送が起こる ・ Na+依存性トランスポーター以外に、細胞膜を 隔てて形成されるH+、Cl-、重炭酸イオンが連 動し、物質の上り坂輸送が起こる ・小腸上皮細胞における栄養物質の吸収や、腎 尿細管上皮細胞における栄養物質の再吸収 わ生薬 に働いている 新薬 28 共輸送による二次性能動輸送(2) ・代表的な例として、小腸上皮細胞における栄養物質 の吸収や、腎尿細管上皮細胞における栄養物質の 再吸収に関係するNa+/アルドヘキソース共輸送体や H+/ジ(トリ)ペプチド共輸送体(ペプチドトランスポー ター:PEPTと呼ばれ、PEPT1は小腸に発現、PEPT 2は腎臓に発現)がある ・ Na+の下り坂輸送に共役して共輸送されるものとして、 アミノ酸( Na+/アミノ酸共輸送体(アミノ酸トランス ポーター)が関与)、 アスコルビン酸(Na+/水溶性ビ タミン共輸送体が関与)などがある ・H+の下り坂輸送に共役して共輸送されるものとして、 ジ(トリ)ペプチドやβ-ラクタム抗生物質などの薬物 (H+/ジ(トリ)ペプチド共輸送体(ペプチドトランスポー ター)が関与)、 乳酸や酢酸などのモノカルボン酸 わ生薬 (H+/乳酸共輸送体(モノカルボン酸トランスポー 新薬 29 ター:MCT1と呼ばれる)が関与)などがある 能動輸送のまとめ • 特定の物質に対して選択性を有するトランス ポーター(輸送担体)が介在する輸送であるが、 促進拡散と異なり、細胞内代謝エネルギーを必 要とし、薬物が濃度の低い側から高い側へと輸 送される上り坂輸送を能動輸送と呼ぶ ・細胞内代謝エネルギーATPを直接利用する一次 性能動輸送と、一次性能動輸送に由来するイオ ン勾配、電位差を駆動力とする二次性能動輸送 に分類される • 二次性能動輸送は、共輸送、逆輸送(交換輸送)、 及び単輸送に分類される • 基質となる物質の濃度上昇とともに、輸送には 飽和現象がみられる。基質の輸送速度は、ミカ 30 エリス・メンテンMichaelis-Menten式で表される わ生薬 膜動輸送(サイトーシス)による生体膜で の物質輸送(1) • 高分子化合物が、細胞膜の形態変化により細胞に生じた小胞内 に包み込まれて、細胞の外側から内側へ、あるいは内側から外 側へ輸送される形式である • 細胞外から細胞内へ取り込む場合をエンドサイトーシス、細胞内 から細胞外へ輸送する場合をエキソサイトーシスと呼ぶ 31 わ生薬 新薬 膜動輸送(サイトーシス)のまとめ • トランスポーターを介するのではなく、細胞表面の 受容体に結合したタンパク質や多糖などの高分 子化合物が、細胞膜の形態変化により細胞に生 じた小胞内に包み込まれて、細胞の外側から内 側へ、あるいは内側から外側へ輸送される形式で ある • 細胞外から細胞内へ取り込む場合をエンドサイ トーシス、細胞内から細胞外へ輸送する場合をエ キソサイトーシスと呼ぶ • エンドサイトーシスには、比較的大きな粒子(1 μm以上、例えば顆粒状物質)を取り込む過程を 指す食作用と、それより小さな粒子や溶解してい わ生薬 る物質を取り込む過程を指す飲作用がある 新薬 32 消化管の構造と機能(1) • 消化管吸収は、 胃、小腸、及び 大腸に分けるこ とができ、小腸 は、消化管吸収 で大きな役割を 果たす吸収部位 である 33 わ生薬 消化管の構造と機能(2) • 口から肛門に至る、全長9mの一続きの中空の管 で、口腔、咽頭、食道、胃、小腸、大腸から成る • 口腔から吸収される薬物もある(ニトログリセリン) • 消化管吸収は、胃、小腸、及び大腸に分けること ができ、吸収に対する有効面積、消化液等の分 泌液量、pH、消化酵素、食物の滞留時間に違い がある • 薬物の胃、小腸、及び大腸の上皮細胞の透過機 構には、単純拡散、促進拡散、能動輸送、膜動輸 送があり、大半の薬物は単純拡散により胃腸管 上皮細胞を透過し吸収される わ生薬 • 小腸は、消化管吸収で大きな役割を果たす吸収 新薬 34 部位である リンパ吸収 • 経口投与後、薬物は消化管粘膜の上皮細胞を 通過して吸収されるが、その後薬物は、腸管膜 に存在する毛細血管または毛細リンパ管に移行 し、全身に分布する • リンパ液流量は、血液流量の1/200~1/500と少 ない • 水溶性薬物の場合は、その98%以上が直接血管 に移行する • 脂溶性薬物や脂溶性ビタミン(ビタミンAなど)な どは、消化管で吸収後、一部が腸管リンパ液へ 移行する • リンパ管の内皮細胞では、その間隙が大きく開 いているところがあるため、血管に比べて分子量 わ生薬 の大きな物質(高分子薬物)が透過しやすい 新薬 35 単純拡散による消化管吸収 pH分配仮説(1) • 薬物は、主に単純拡散により胃腸管の経細胞輸 送で吸収される • 経細胞輸送では、薬物はまず細胞膜(脂質)に 溶解(分配)する必要があり、油/水分配係数の 高い、すなわち脂溶性の高い薬物ほど吸収され やすい • 薬物の多くは弱電解質であり、脂溶性の高い非 イオン形分子が、経細胞輸送で吸収されるため、 吸収部位における薬物の解離に伴い変化する 脂溶性の違いが吸収を支配する。このような考 わ生薬 え方をpH分配仮説という 新薬 36 単純拡散による消化管吸収 pH分配仮説(2) • 胃粘膜は単純な脂質膜の性質を示すので、胃か らの吸収はpH分配仮説に従う単純拡散によって 起こる • 小腸からの単純拡散による薬物吸収は、pH分 配仮説に従わない場合が多い。この理由として、 小腸上皮細胞表面のpHは、Na+/H+逆輸送によ るH+の汲み出しによりpH6.1~6.8を示し、消化管 管腔内のpH7.0~7.4より低いためと考えられて いる。最近では、このpHが低くなることを、微環 境microclimate pHと呼んでいる わ生薬 • 直腸粘膜からの薬物の吸収はpH分配仮説に従 新薬 37 う単純拡散によって起こる 単純拡散による消化管吸収 pH分配仮説(3) • 弱酸性あるいは弱塩基性の薬物における イオン形と非イオン形の比は、薬物の有す るKa(解離定数)と溶解する溶液のpHによ るヘンダーソン・ハッセルバルヒ Henderson-Hasselbalchの式で計算できる • 平衡状態では、消化管膜の両側(管腔側 及び血液側)において、非イオン形薬物濃 度は等しい わ生薬 新薬 38 単純拡散による弱酸性薬物の吸収(1) 弱酸性薬物の水溶液 Ka [HA] [HA]:非イオン形分子の濃度 -]:イオン形分子の濃度 [A + [A ]+[H ] [H+]:消化管の水素イオン濃度 Ka:解離定数 ヘンダーソン・ハッセルバルヒHenderson-Hasselbalchの式 [HA] pKa = pH + log [A ] 以上の関係から、吸収部位での非イオン形分率αは [HA] 1 α= = [HA] + [A ] 1 + 10pH-pKa わ生薬 新薬 39 単純拡散による弱酸性薬物の吸収(2) pKa = 4.4の弱酸性薬物の胃内(pH = 1.4)におけるαは、 1 1 α = 1 + 10pH-pKa = 1 + 101.4-4.4 = 1 (この薬物は、胃内ではほぼ非イオン形で存在する) 非イオン形分子の脂溶性が同じであれば、酸性薬物では pKaが大きいほど吸収部位(胃、小腸など)での非イオン形 分率αの割合が高くなり、吸収されやすい 吸収部位(胃、小腸など)での非イオン形分率αは [HA] 1 α= = [HA] + [A ] 1 + 10pH-pKa わ生薬 新薬 40 単純拡散による弱塩基性薬物の吸収(1) 弱塩基性薬物の水溶液 Ka [BH+] [BH+]:イオン形分子の濃度 [B]+[H+] [B]:非イオン形分子の濃度 [H+]:消化管の水素イオン濃度 Ka:解離定数 ヘンダーソン・ハッセルバルヒHenderson-Hasselbalchの式 [BH+] pKa = pH + log [B] 以上の関係から、吸収部位での非イオン形分率αは [B] 1 α= = + [BH ] + [B] 1 + 10pka-pH わ生薬 新薬 41 単純拡散による弱塩基性薬物の吸収(2) pKa = 4.4の弱塩基性薬物の胃内(pH = 1.4)におけるαは、 [B] 1 = 0.001 α = [BH+] + [B] = 1 + 104.4-1.4 非イオン形分子の脂溶性が同じであれば、塩基性薬物では pKaが小さいほど吸収部位(胃、小腸など)での非イオン形 分率αの割合が高くなり、吸収されやすい 吸収部位(胃、小腸など)での非イオン形分率αは [B] 1 α= = + [BH ] + [B] 1 + 10pka-pH わ生薬 新薬 42 消化管吸収に及ぼす生理的要因 消化管内移動速度(1) • 経口投与された薬物が胃から小腸へ移行す る速度(胃内容排出速度)と時間(胃内容排 出時間)による影響を受ける • 食事の摂取は、胃内容排出速度を低下させ、 絶食投与と比較して食後投与では、薬物の最 高血漿中濃度到達時間は遅延し、最高血漿 中濃度は低下する • 胃腸機能調整薬・制吐薬メトクロプラミド(プリ ンペラン錠5mg)は、胃の蠕動運動を促進し胃 43 内容排出速度を上昇させる わ生薬 消化管吸収に及ぼす生理的要因 消化管分泌液(1) • 胃内pHは空腹時でpH1.2~1.8、食後はpH3.0~5.0 である • 1日あたりの胃液分泌量は2~4Lである • 食事の脂肪は、胃酸分泌を阻害する • 薬物のバイオアベイラビリティ(生物学的利用能)は、 食事の量や組成による影響を受ける • 抗コリン薬アトロピン、プロパンテリンやヒスタミンH2 受容体遮断薬(ファモチジンなど)は胃酸分泌を抑制 する • 制酸薬の重曹、水酸化マグネシウムにより、胃内pH は上昇する(大きくなる) • 塩酸リモナーデによリ、胃内pHは低下する(小さくな る) 44 わ生薬 消化管吸収に及ぼす生理的要因 消化管分泌液(2) • 小腸上部から胆汁が分泌され、胆汁中にはコール 酸、ケノデオキシコール酸などの胆汁酸が含まれる • 胆汁酸は界面活性作用を有するため、難溶性薬物 (抗真菌薬グリセオフルビン)の吸収に大きく影響す る • グリセオフルビンを高脂肪食とともに服用すると、空 腹時に比べてより高い血中濃度が得られる • 胆汁酸は、高脂肪食により分泌が促進される • インドメタシンのプロドラッグであるインドメタシンファ ルネシアは、胆汁酸によって可溶化されて吸収が増 加する 45 わ生薬 消化管吸収に及ぼす生理的要因 初回通過効果(1) • 消化管(胃、小腸、大腸)において、薬物が吸 収されて全身循環に移行する前に門脈を経 て肝臓を経由する • 薬物は、肝臓や消化管粘膜に存在する酵素 で代謝されることがあり、全身循環に移行す る前に受けるこれらの代謝は初回通過効果 (first pass effect)と呼ばれる(静脈内投与で は、初回通過効果はみられない) 46 わ生薬 消化管吸収に及ぼす生理的要因 初回通過効果(2) • 肝臓を1回通過したときの薬物濃度の減少率を肝抽 出率という • 投与された薬物が全身循環に移行した割合をバイ オアベイラビリティ(生物学的利用能、Fで示される) という(F=1とは、投与した薬物全量が吸収され、全 身循環に移行したことを示す) • 経口投与時の薬物のバイオアベイラビリティ(F)は、 (1-肝抽出率)より小さい • 肝代謝が唯一の消失経路である薬物について、投 与量に対する消化管粘膜を透過した割合をFa、肝 抽出率をEhとすれば、この薬物のバイオアベイラビ リティは、Fa・(1-Eh)で表される 47 わ生薬 消化管吸収に及ぼす生理的要因 初回通過効果(3) FF:消化管壁へ入る割合 FG:消化管壁で代謝を免れる割合 FH:肝臓での代謝を免れる割合 •経口投与でのバイオ アベイラビリティ(F)は F=FF・FG・FH ・各過程で薬物の20% が除去されたとすると、 F= FF(0.8) ・FG(0.8) ・ FH(0.8)=0.51 ・つまり、バイオアベイ ラビリティは51%となり、 経口投与された薬物 の51%が全身循環に 移行したことを意味す る 48 わ生薬 消化管吸収に及ぼす生理的要因 初回通過効果(4) • 経口投与で、肝臓での初回通過効果(first pass effect)が大きくF=0.5以下の薬物として、アルプレノ ロール、クロルプロマジン、ジルチアゼム、5-フルオ ロウラシル、イミプラミン、硝酸イソソルビド、リドカイ ン、モルヒネ、ニカルジピン、ニフェジピン、ニトログリ セリン、プロプラノロールなどがある • 塩酸プロプラノロールは、経口投与で初回通過効果 を受けやすいので、口腔粘膜への投与の方がバイ オアベイラビリティが高い 49 わ生薬 消化管吸収に及ぼす生理的要因 腸肝循環 • 吸収された薬物が肝臓に移行した後、胆汁中 に排泄された薬物が、小腸で再び吸収を受け、 門脈を経て肝臓に戻ることを腸肝循環 (enterohepatic circulation)という • 胆汁酸は腸肝循環される • 腸肝循環される薬物として、麻薬性鎮痛薬モ ルヒネや非ステロイド性抗炎症薬インドメタシ ンなどがある • 腸肝循環で、薬物の血中濃度が持続されるこ とがある 50 わ生薬 消化管吸収に及ぼす生理的要因 トランスポーターを介した薬物吸収(1) • ペプチドトランスポーター(PEPT1)は小腸に発 現し、H+濃度勾配を駆動力とする二次性能動輸 送体(共輸送)であり、β-ラクタム抗生物質、ア ンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)、 ペプチド結合を有する化学療法薬(ベスタチン) などの薬物が基質として輸送される(小腸で吸収 される) • セファレキシンやカプトプリルは、(ジ)ペプチドト ランスポーターを介して小腸上皮細胞膜を透過 する 51 わ生薬 消化管吸収に及ぼす生理的要因 トランスポーターを介した薬物排出 • 一次性能動輸送体であるP-糖タンパクは小腸に 発現し、免疫抑制剤(シクロスポリン、タクロリム ス)、抗悪性腫瘍薬(ビンブラスチン、ビンクリス チン、ドキソルビシン)、強心配糖体(ジゴキシン)、 カルシウムチャネル遮断薬(ベラパミル)、ステロ イドホルモン(デキサメタゾン、ヒドロコルチゾン)、 循環器用薬(キニジン)の排出輸送に関与する (小腸での吸収が低下する) • 薬物の吸収がシクロスポリンの同時経口投与に より有意に増大する場合、その薬物の排出方向 の輸送には担体が関与する 52 わ生薬 消化管吸収に及ぼす薬物固有の要因 薬物の分子構造(1) • 薬物の大半は、単純拡散により消化管吸収され、 脂溶性が高いほど消化管膜透過性が高くなる • 多くの薬物は、弱酸性または弱塩基性であるた め、消化管からの吸収はpH分配仮説に従うと考 えられており、非イオン形(分子形)の割合が高 い方が吸収されやすい • ヘパリンナトリウムは、高分子であるため、消化 管から吸収されない • 塩酸バカンピシリンは、アンピシリンの消化管か らの吸収性を増大させるためのプロドラッグであ る 53 わ生薬 消化管吸収に及ぼす薬物固有の要因 薬物の分子構造(2) • 弱塩基性薬物では、pHが上昇するほど吸 収率がよくなる(pH分配仮説に従う) • サリチル酸や安息香酸は、ほとんど解離し ているpH領域でも吸収が良好である。pH 分配仮説に従えば、pH6の小腸よりpH3の 胃の方が非イオン形の割合が高く、吸収 が良好となるはずであるが、pH6の小腸で の吸収速度がpH3の胃での吸収速度に比 べて速い 54 わ生薬 消化管吸収に及ぼす薬物固有の要因 溶解速度(2) • 溶解速度を上昇させるには、薬物を微粉化して粒子径を 小さくし、表面積を大きくして溶解度(Noyes-Whitney式の Cs)を上昇させる(グリセオフルビンなど) • グリセオフルビンを微粉化すると、溶解速度が増加して 吸収性が増加する • 難溶性薬物のバイオアベイラビリティーは、結晶の粒子 径を小さくすると溶解性が高まるため大きくなる • 溶解速度は、薬物の結晶多形や無晶形の影響を受け、 溶解度(Noyes-Whitney式のCs)及び溶解速度の順番は、 無晶性固体>準安定形結晶>安定性結晶である(バル ビツール酸誘導体など) • 消化管での溶解性が低い結晶性薬物について、バイオ アベイラビリティーを改善するための方法として、非晶質 化や微粉化がある 55 わ生薬 消化管吸収に及ぼす薬物固有の要因 溶解速度(3) • 溶解速度は薬物の溶媒和の影響を受け、溶解 度(Noyes-Whitney式のCs)及び溶解速度の順 番は、無水物(水を伴わない結晶)>水和物(水 を伴う結晶)である(アンピシリンなど) • 弱酸性薬物はアルカリ塩、弱塩基性薬物は強酸 塩とすることで、溶解度(Noyes-Whitney式のCs) 及び溶解速度は上昇する(トルブタミド(ナトリウ ム塩)など) • ニフェジピンは、水溶性高分子のポリビニルピロ リドンを用いて固体分散体とすると、溶解速度が 上昇するため吸収性が増加する 56 わ生薬 経口投与薬物の消化管吸収のまとめ(1) • 薬物の胃、小腸、及び大腸の上皮細胞の 透過機構には、単純拡散、促進拡散、能 動輸送、膜動輸送がある • 薬物は、主に単純拡散により胃腸管上皮 細胞での経細胞輸送で吸収される • 経細胞輸送では、薬物はまず細胞膜(脂 質)に溶解(分配)する必要があり、油/水 分配係数の高い、すなわち脂溶性の高い 薬物ほど吸収されやすい • 脂溶性薬物や脂溶性ビタミン(ビタミンAな ど)などは、消化管で吸収後、一部が腸管 リンパ液へ移行する わ生薬 新薬 57 経口投与薬物の消化管吸収のまとめ(2) • 薬物の単純拡散(受動輸送)は、Fickの法 則に従う • 薬物のトランスポーター(輸送担体)介在 輸送(促進拡散、能動輸送)は、MichaelisMenten式に従う わ生薬 新薬 58 経口投与薬物の消化管吸収のまとめ(3) • 薬物の多くは弱電解質であり、脂溶性の 高い非イオン形分子が、経細胞輸送で吸 収されるため、吸収部位における薬物の 解離に伴い変化する脂溶性の違いが吸収 を支配する。このような考え方をpH分配仮 説という わ生薬 新薬 59 経口投与薬物の消化管吸収のまとめ(4) • 弱酸性あるいは弱塩基性の薬物におけるイオン 形と非イオン形の比は、薬物の有するpKa(解離 定数)と溶解する溶液のpHによるヘンダーソン・ ハッセルバルヒHenderson-Hasselbalchの式で計 算できる。 • 酸性薬物では、pKaが大きいほど非イオン形薬 物の割合が高くなり小腸(pH6.1~6.8)から吸収 されやすい • 塩基性薬物では、pKaが小さいほど非イオン形 薬物の割合が高くなり小腸(pH6.1~6.8)から吸 収されやすい わ生薬 新薬 60 経口投与薬物の消化管吸収のまとめ(5) • 経口投与された薬物の消化管吸収に及ぼす生 理的要因として、消化管内移動速度(胃内容排 出速度、胃内容排出時間)、消化管分泌液(胃液、 胆汁)、初回通過効果、腸肝循環、血流速度、が 挙げられる • 経口投与により、消化管壁や肝臓で初回通過効 果を受けた薬物のバイオアベイラビリティ(F)は F=FF・FG・FH FF:消化管壁へ入る割合 FG:消化管壁で代謝を免れる割合 わ生薬 新薬 FH:肝臓での代謝を免れる割合 61 経口投与薬物の消化管吸収のまとめ(6) • 経口投与された薬物の消化管吸収に及ぼす製 剤の要因として、製剤からの溶出、及び薬物の 溶解速度が挙げられる。薬物の溶解速度は、 Noyes-Whitney式に従う • 経口投与された薬物の消化管での溶解速度に 及ぼす薬物固有の要因として、粒子径(グリセオ フルビンなど)、結晶多形や無晶形(バルビツー ル酸誘導体など)、溶媒和(無水物、水和物)(ア ンピシリンの無水物は水和物に比べて水に対す る溶解速度が大きい)、塩(アルカリ塩、強酸塩) が挙げられる。 わ生薬 新薬 62
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