アジアのクマたち−その現状と未来− 用 語 解 説 アンブレラ種(umbrella species) :食物連鎖の高次消費者 ガロ族(Garo):バングラデシュとインドに居住する民族。 などで、生存に広い面積が必要な種。アンブレラ種の保全 バングラデシュのチッタゴン管区、シルヘット管区の により、おのずと広い地域で多様な種とその生息地の保全 と に居住していた初期オーストラロイドとモン が可能となる。 ゴロイドの混合が起源であるとの説もある。 ウルドゥー語(Urdu):インド亜大陸を中心に約 億人が 臼歯列:クマ類では食物の破砕に用いられる口腔内後部の 使用する国際語。アラビア語、トルコ語、ペルシャ語、ヒ 大型の歯の列。 ンディー語などを起源とする。 クマ香油(bear balm):ベア・バーム。クマの体の部位を 影響緩和伐採法(reduced impact logging) :森林の伐採前、 煮て抽出した脂質を含んだ香油または軟膏。 伐採中、伐採後を通じて、森林の損傷、質の低下を最小限 にする森林伐採の方法。マレーシアでは、熱帯雨林の持続 クラスター(cluster) :系統樹上において他よりも系統的に 可能な管理を達成するための選択肢となっている。 より近縁な個体や種などのグループ。 衛星テレメトリー法(satellite telemetry system):動物に 口蓋骨幅(palatal width):口腔内の上部を形成する口蓋骨 取り付けた電波発信器の信号を衛星が受信し、動物の位置 の最大幅。 を検出するシステム。この分野では、システムが 更新世(Pleistocene):約 万年前から 万年前までの よく用いられる。 地質時代。 :∼ 年おきに起こる南アメ エル・ニーニョ(El nio) リカ大陸の西岸沖の海水温が上昇する現象。インドネシア コミュニティ・リザーブ(community reserve) :インドの やマレーシアの一部では、エル・ニーニョによって、厳し 保護区のひとつ。従来の保護区付近に存在する野生生物の い旱魃が起こり、森林火災が大規模になって森林生態系に 生息地を保護区へ組み込むときや、二つ以上の離れた保護 深刻な影響を与える。 区を連結するために設定される保護区で私有地や共有地が 対象となるもの。 大型植食動物(megaherbivore):ゾウ、カバ、サイなどの コンサベーション・リザーブ(conservation reserve):イ 植物食の大型動物種。 ンドの保護区のひとつ。従来の保護区付近に存在する野生 カチン族(Kachin) :ミャンマー連邦北部に居住する民族 生物の生息地を保護区へ組み込むときや、二つ以上の離れ のひとつ。 た保護区を連結するために設定される保護区で公有地が対 象となるもの。 カシミール語(Kashmiri) :インド・アーリア語派の言語の ひとつ。パキスタンの とカシミール地方、イ 固有種(endemic species):ある特定の地域に分布が限定 ンドのカシミール地方に居住するカシミール人が使用する。 されている種。 カメラトラップ法(camera-trapping, camera trapping): コントロール領域(control region) :ミトコンドリア 上 赤外線センサーを利用し、カメラトラップの前を生物が通 のコントロール領域で、 「ループ領域」とも呼ばれる。哺 り過ぎた時に自動で写真撮影をする調査技術。動物の分布 乳類のコントロール領域のサイズは約 塩基対である。 や、標識再捕法を適用して個体群密度を推定することがで この領域はアミノ酸をコードしていないため、他のミトコ きる。 ンドリア の領域よりも変異性が高い。 138 用 語 解 説 最外郭法(minimum convex polygon) :動物の行動圏の推 石灰岩林(limestone forest):石灰岩質の土壌に生育する 定法の一つ。このほかに、カーネル法などがある。 森林植生。 CITES(サイテス):(絶滅のおそれのある野生動植物の種 疎林(open forest) :スリランカの乾燥した低地によくみら の国際取引に関する条約) の略。ワシントン条約ともいう。 れる自然林。乾燥地性常緑樹林、半落葉性、または季節林 国際自然保護連合( )によって草案が作成、 年 で表される場合もある。 に採択され、 年に発効した。野生動植物の国際取引に よって種の存続が脅かされないことを目的とする。対象種 ダフラ族(Dafla):インドのアルナチャル・プラデシュ州 は同条約附属書に掲載されており、絶滅のおそれの程度と の先住民族であるニシ族の昔の名称。 取引の程度に応じて異なる取引規制が定められている。 チトラル語(Chitrali) :パキスタンの北西辺境州に居住す シカリ:日本の東北地方の伝統的な猟師であるマタギの頭 るチトラル人( )の言語。多くの方言があるが、ほ 領的存在。呪術力を持つと考えられていた。 が主流である。 とんどの人々が使用する 自給のための狩猟(subsistence hunting) :地元住民が自分 チャクマ人(Chakma) :バングラデシュで最大の民族。モ や家族の生活の食料を得るために行う狩猟。 ンゴロイドで、 とベンガル人の混血を起源とし、 谷、 谷に居住する。 ジプシー(Gypsy):ロマ( )ともいう。旅をしな がら生活する伝統を持つ人々または民族。アジア起源とす DNA:デオキシリボ核酸。細胞の核やミトコンドリアに含 る意見もあるが、異論もある。 まれる遺伝子の本体。遺伝情報は、アデニン、グアニン、 シトシン、チミンの 種類の塩基によってコードされてい (日本における) 狩猟:鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関す る。 る法律の第二条では、狩猟とは「法定猟法により、狩猟鳥 獣の捕獲等をすること」と定義されている。狩猟者は狩猟 DNA フィンガープリント法(DNA finger printing) :ある特 を行う都道府県にあらかじめ申請する必要がある。認可さ 定部分の塩基配列の数や長さの違いを個体識別に用いる分 れると、狩猟者はすべての狩猟の対象となる鳥獣を狩猟で 子生物学的手法。 き、狩猟期間中の捕獲数の総数に上限はない。 テルグ語(Telgu):インドのアンドラ・プラデシュ州の公 商業目的の狩猟(commercial hunting):売買によって経済 用語。 的に利益をあげることを目的にした狩猟。 冬眠(hibernation) :冬眠は、冬季の食料不足に対して消費 新参同物異名:生物分類学上、すでに名称が与えられてい エネルギーを下げて対処する動物の適応機構と考えられて る同一の生物に対して、後から異なった名称が与えられた いる。一般に冬眠動物は、呼吸数、心拍数ならびに代謝全 のもの。規約では、原則的に先に与えられたものが有効な 般を低下させる。クマの冬眠では、体温の降下度が小さ 学名とされる。 く、覚醒しやすい。また、一切の摂食、飲水、排泄、排尿 がみられない。本レポートでは、冬眠のため穴に入る行動 生態地域(ecoregion) :大部分の種や生態系のダイナミク は「穴ごもり」として使い分けている。 ス、類似した環境を共有し、長期間の持続という面で生態 学的に相互作用する地理的に独立した自然群集を含む陸と ナガ族(Naga):ミャンマー連邦の北部に居住する民族の 水系からなる広範な地域。 ひとつ。 性的二型(sexual dimorphism):動物の形態にみられる雌 ニシ族(Nishi):インドのアルナチャル・プラデシュ州の 雄間の違い。 固有の民族。 139 アジアのクマたち−その現状と未来− ハプロタイプ(Haplotype):ある集団に受け継がれている は、一時期はヨーロッパの各地でみられたが、現在ではパ ヌクレオチドの配列や遺伝子のセット。 キスタンの農村部でのみみられる。パキスタンでも、 年の大統領令により厳しく禁じられている。 バルティ語(Balti) :パキスタン北部のバルティスタン ( )地方のバルティ人( )の言語。ラダック語 ベア・ダンシング(bear dancing) :踊るように仕込まれた からの派生型で、チベット語古語の方言でもある。 クマを呼びものにする南アジアの大道芸。 バロチ語(Balochi) :パキスタン南西部のバルチスタン ベア・ファーム(bear farm):クマの胆のうあるいは胆汁 ( )地方に住むバロチ人( )の言語。 をとるためにクマを飼育する施設。劣悪な飼育環境、胆汁 採取の方法が残酷であると非難の的になっている。 パンジャブ語(Punjabi) :パキスタンとインドのパンジャ ブ地方で使用されている言語。インドのパンジャブ州での ボジュプーリー語(Bhojpuri):インド北部のウッタルプラ 公用語。パキスタンでは人口の約 %がこの言語を使用 デシュ州で使用されている言語。 している。 マイクロサテライト DNA(Microsatellite DNA):遺伝子ゲ ヒンディー語(Hindi) :インド北部の多くの州で使用され ノム上で、少数の塩基の繰り返し配列によって構成される ている言語。 領域。変異率が高く、適応に関する情報をコードしていな いため、個体群内で多くの変異が保有される。マイクロサ フィリンギ族(Firinghi) :バングラデシュに居住する民族。 テライト 解析は、繰り返し数を比較する方法である。 ポルトガル人の子孫とも言われるが、詳細はわかっていな マラーティー語(Marathi):インドのマハーラーシュトラ い。 州で使用される言語。 フタバガキ林(Dipterocarp forest) :東南アジアの熱帯地域 の海抜 メートルから メートルに分布し、フタバガキ マラヤーラム語(Malayalam) :インド南部のケララ州で使 科が優占する森林。 用される言語。 ブヌン族(Bunun) :台湾の代表的な先住民族のひとつ。山 ミトコンドリア(mitochondria):呼吸と代謝反応に重要な 岳地帯に居住し、狩猟採集と焼き畑農業が伝統的な生活様 役割を果たしている細胞小器官。 式であった。 ミトコンドリア DNA(mitocondrial DNA、mtDNA):ミト 、 ブール論理(Boolean logic) :集合どうしの関係を 、 コンドリアの細胞内に存在し母系遺伝する円形の 本鎖 、 で代数学的に表現する体系。例えば、 では与え 。ひ と つ の ミ ト コ ン ド リ ア あ た り に、い く つ か の られた集合全てに共通の要素から成る集合(積集合)を示 分子が存在する。哺乳類のミトコンドリア は される。 塩基対である。ミトコンドリア の進化速度 約 は核 の約 倍である。 分子系統:塩基配列やアミノ酸配列の違いをものさしにし て、生物種や集団間の類縁関係を推定した系図。種や集団 無主物:日本の法律学用語。民法では、所有者のない動産 が分岐してから時代が経過するほど、突然変異により塩基 は、所有の意思をもって占有することによって、その所有 配列やアミノ酸の違いが大きくなるという考えに立ってい 権を取得するとされ、所有者のない不動産は国庫に帰属す る。 るとされている。野生動物は無主物の動産とみなされる が、採集により所有権が認められる。 ベア・ベイティング(bear baiting):クマに向かってブル マグ族(Mogh) :バングラデシュのチッタゴン管区に居住 テリアをけしかけて闘わせる中世からの娯楽。この競技 140 用 語 解 説 山の神:森のカミ、火のカミ、水のカミなど複数の神々か し、丘陵地帯で生活する民族。 らなるとされる日本古来の複合的自然神。 野生の思考(La Pense Sauvage) :さまざまな民族がもっ ている神話的思考が、近代西洋の科学的思考に劣るもので 有害捕獲(有害駆除):人身事故、農業被害、林業被害、漁 はなく、象徴性の強いある種の科学であるとした考え方。 業被害、生態系への被害を防ぐ目的で野生動物を自然界か フランス人の文化人類学者レヴィ・ストロースが著書「 ら除去すること。地方自治体や組織団体の首長が都道府県 (野生の思考) 」で唱えた。狩猟民族の中に や地方自治体の当局に有害駆除の申請を行った上で、狩猟 は、動物は毛皮を着た人間である。つまり、両者の間には 者に実行を依頼する形式が一般的である。 外見の違いこそあれ内面や精神面では違いがないという考 ラワン族(Rawang):ミャンマー連邦北部に居住する民族。 え方がよくみられるが、これは単なる空想ではなく、これ らの狩猟民の生活に基づいた世界観を反映している。 リス族(Lisu) :ミャンマー連邦の北部に居住する民族。 141
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