マンモスの染色体が手に入れば、それを膜 問題がつきまとう。たとえば、マンモスの細胞 で包んで人工の細胞核をつくる。それをゾウ 核を作成する技術は未開発だし、ゾウの卵子 の体に移植すれば、クローンを作成できる。 を採取するのも簡単ではない。マンモスのク 体細胞からクローンをつくる技術は、1996 ローン胚をゾウの子宮に入れて、果たして妊 年にクローン羊「ドリー」を誕生させた英国の 娠させられるかどうかもわからない。 ロスリン研究所チームが確立している。マン もっと実現性の高い課題に取り組む科学者 モスの場合、ゾウの卵子に人工合成したマン もいる。絶滅が危惧される現生動物、あるい モスの細胞核を挿入、電気刺激を与え、卵 は近年に絶滅した動物のクローンづくりだ。サ 子を分裂させてクローン胚をつくる。それを ンディエゴ動物園とニューオーリンズのオーデ 代理母役のゾウの子宮に着床させればよい。 ュボン絶滅危惧種研究所は、絶滅危惧種の ただし、この手順の一つひとつに、大きな DNAを保存している。2003 年にはバイオ関 マンモス再生のレシピ 2008 年にマンモスのゲノム(全遺伝情報)の 70 %の解読が完了し、マンモス再生の夢がふ くらんだ。実現にはまだ大きな障壁が立ちはだ かるが、マンモスと現生のゾウが遺伝的に非 常に近縁であることから、将来的には以下のよ うな方法で再生が可能になるかもしれない。 ケナガマンモス アジアゾウ 冷凍精子を使った人工授精 卵子 核 連企業がこの DNA から、絶滅の危機にある 東南アジアの野牛バンテンのクローンをつくっ 2008年、フクロオオカミのDNA 断片をマ ウスの受精卵に移植したところ、フクロオ オカミのDNA が正しく機能した。緑色の 部分は、フクロオオカミのDNAの働きで マウスの骨格が形成されたところ。 た。卵子や子宮は家畜のウシのものを使った。 同様の方法で、ジャイアントパンダやボンゴ、 スマトラトラのクローンづくりも検討されている。 フクロオオカミなど近年に絶滅した動物をよみ がえらせることも期待できそうだ。 1 冷凍マンモスから、 授精能力をもつ精 子を採取する。 2 マンモスの精 子で ゾウの卵 子を受 精 させる。 3 ゾウの子宮に受精卵 を着床させる。 4 5 ゾウは、マンモスと ゾウの遺伝 子を半 分ずつ受け継ぐ雑 種を産む。 雑 種 の 卵 子で 2 の 方法を繰り返し、で きるだけ純 粋な血 統をつくる。 4 5 冷凍細胞を使ったクローンづくり 今や絶滅種のクローンづくりに立ちはだか る最大の壁は、技術的な壁ではなく、倫理的 な問題かもしれない。 「マンモスは、ゾウと同 じく社会性をもつ賢い動物です」 と、ロンドン自 然史博物館の古生物学者で、マンモスの専 門家であるエイドリアン・リスターは話す。 「ク 1 冷凍マンモスから完 全な細 胞をとりだ し、核を分離する。 2 ゾウの卵子の核を取 り除き、代わりにマ ンモスの核を入れる。 3 電気的、または化学 的な刺激を与え、細 胞を分裂させる。 この 卵をゾウの 子 宮に着床させる。 3a 4a 妊娠に成功すれば、 ゾウからマンモスの 赤ん坊が生まれる。 ローン技術で1 頭だけ再生できた場合、その マンモスは動物園か研究所で孤独に暮らすこ とになります。もとの生息地は残っていません から。見世物の動物をつくるようなものです」 マンモスの合成ゲノムを使ったクローンづくり シャスター、ウェブらとマンモスの DNA 抽 2a 出技術を開発したコペンハーゲン大学のトム・ 遺 伝 子 工 学で、マ ンモスの DNA が長 く連 なった 鎖 を 合 成する。 ギルバートは、生きたマンモスが歩く姿を一目 見たいのは山々だがと断った上で、絶滅種の クローンづくりが賢明な選択かどうか、有用 性があるのか、よく考えてみる必要があると語 る。 「マンモスをよみがえらせるなら、死んだ生 き物なら何でも再生できることになります。地 球がほかに大きな問題を抱えるなかで、果た してそれが賢明な選択なのでしょうか」j COURTESY RICHARD BEHRINGER 数百万個の塩基が 連なったこうした鎖 を折り畳んで染 色 体にする。 合成の膜で染色体 を包んで細胞核を つくる。 上のステップへ 続く。 3b 4b FERNANDO G. BAPTISTA, NG STAFF; ART BY KAZUHIKO SANO(上) 1 マンモス の 遺 伝 情報を読み解き、 以下の二つのプ ロセスのいずれ かに進む。 2b ゾウのゲノムのうち マンモスと異なる箇 所(約 40 万カ所)を 組み替える。 ゾウの皮 膚の細胞 を初 期化して多能 性細胞に変える。 多能性細胞の染色 体を 2b の染色体に 置き換えて、核を分 離する。 SOURCES: HENDRIK POINAR, McMASTER UNIVERSITY; STEPHAN C. SCHUSTER, PENNSYLVANIA STATE UNIVERSITY 61
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