森林と昆虫の多様性

 森林と昆虫の多様性
1 生物多様性と林業
1990年代に、熱帯林の過度の伐採
などから、国際的に森林の持続可能
な経営について論議され、1993年に
モントリオールプロセスとして基準が
示されました。日本の林業は永続可
能な経営を行える保続経営でしたが
、これとの違いは、木材生産を含みな
がら、自然環境や社会環境を包含し
ていることです。その基準の最初の
項目に、生物多様性の保全が掲げら
れています。こうした経営を裏付ける
ものとして、森林認証制度や
ISO14000シリーズなどがあります。で
は、様々な森林施業の現場において
、生物多様性に配慮していることは、
具体的にどう示せるでしょうか。
2 多様性の測定
図 トラップ別の捕獲カミキリムシ種類数
『図名:トラップ別の捕獲カミキリムシ種類数』、
マレーズのみ:36種、マレーズ+誘引:22種、
誘引のみ:10種、未捕獲:63種、Total:131種(新捕獲14種)
生物により多様性のはかり方は違い
ますし、またその対象面積も異なってきます。鳥獣は流域レベルの評価に向いているでしょうが、林班
単位レベルには不向きと考えられます。そこで、昆虫による多様性の測定方法について試験を行いま
した。昆虫の中でも、カミキリムシ類はそのほとんどが樹木を利用しており、同定(種類の特定)も容易
です。また、調査方法は、誰でも行える方法でなければ、比較検討が困難ですので、トラップによる捕
獲を行いました。用いたトラップは、林内を飛んでいる虫が偶発的に捕獲されるマレーズトラップと、ハナ
カミキリ類などの訪花性カミキリムシ類を効率的に捕獲する誘引トラップです。
3 どれだけ捕れたか?
写真 マレーズトラップ
調査は、林齢の異なるナラ林で、2年間行いました。ト
ラップは、春から初雪が降るまで設置し、サルのいた
ずらなどによる欠測がありましたが、捕獲種類数は
68種類にのぼりました。調査地域周辺では、117種類
が記録されており、本調査で新たに14種類が捕獲さ
れました。この数値は、県内他地域の報告に比較し
ても多い方であり、調査手法として合格と判断されま
す。多様度指数の計算には、マレーズの捕獲データ
が有効と考えられました。一方、誘引トラップには二
次林化等の指標になると期待されるヒメハナカミキリ
類が多く捕獲されることから、捕捉的な利用が考えら
れます。
4 現場での利用
現在、施業別のスギ・ヒノキ人工林、松くい虫被害林、カシノナガキクイムシ被害林など、全国の様々
な森林で調査が行われ始めています。しかし、県内の森林において、多様性に及ぼす影響を評価する
には、まだまだデータが足りません。今後、様々な機会を利用して、データを集めていく必要があります
。
(新潟県森林研究所 布川耕市)
林業にいがた2005年2月号
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