TMI 中国最新法令情報 ―(2012 年 8 月号)

TMI Associates
International Legal Services
http://www.tmi.gr.jp/
TMI 中国最新法令情報
―(2012 年 8 月号)―
TMI 総合法律事務所
〒106-6123 東京都港区六本木 6-10-1
六本木ヒルズ森タワー23 階
TEL: +81-(0)3-6438-5511
FAX: +81-(0)3-6438-5522
E-mail: [email protected]
〒200031 上海市淮海中路 1045 号
淮海国際広場 2606 室
TEL: +86-(0)21-5465-2233
FAX: +86-(0)21-5465-5745
E-mail: [email protected]
皆様には、日頃より弊事務所へのご厚情を賜り誠にありがとうございます。
お客様の中国ビジネスのご参考までに、「TMI 中国最新法令情報」をお届けします。記事
の内容やテーマについてご要望やご質問がございましたら、ご遠慮なく弊事務所へご連絡下
さい。なお、バックナンバーについては、弊事務所のウェブサイトに掲載させていただきま
すので、併せてご利用下さい。(http://www.tmi.gr.jp/office/china/index.html)
目次
一.中国最新法令
(1) 危険化学品経営許可証管理弁法
(2) 「十二五」期間中の外資利用及び国外投資計画
(3) 国家知識産権局行政復議規程(2012 年改正)
(4) 民政部による民間資本の高齢者福祉サービス分野への参入を奨励及び誘導することに
関する実施意見
二.連載 中国企業法実務/第二弾:各種契約締結の実務(第 5 回 代理店契約)
三.上海法務事情
中国国際貿易仲裁委員会(CIETAC)の内紛
1
Copyright © 2012 TMI Associates
All rights reserved
TMI Associates
International Legal Services
http://www.tmi.gr.jp/
一.中国最新法令(2012 年 7 月中旬~8 月中旬公布分)
(1) 危険化学品経営許可証管理弁法 1
国家安全生産監督管理総局 2012 年 7 月 17 日公布 2012 年 9 月 1 日施行
① 背景
昨年 3 月 2 日に「危険化学品安全管理条例」
(国務院令第 591 号)
(以下、
「管理条例」
という)が改正され、新たに公布された。同条例の改正に伴い、危険化学品に関連する
一連の行政規則の早期改正も必要となった。本誌先月号に掲載した「危険化学品登記管
理規則」の改正に続き、国家安全生産監督管理総局は、2002 年 10 月 8 日に制定され、
同年 11 月 15 日に施行された旧「危険化学品経営許可証管理弁法」を廃止し、今年 7
月 17 日に改正後の「危険化学品経営許可証管理弁法」
(国家安全生産監督管理総局令第
55 号)(以下、「改正管理弁法」という)を公布した。同弁法は同年 9 月 1 日より施行
される。
② 主な内容
改正管理弁法は、全 6 章(総則、経営許可証の申請条件、経営許可証の申請及び授与、
経営許可証の監督管理、法的責任、附則)、40 条からなり、次の 6 つが今回の改正のポ
イントとなる。
(ア) 危険化学品経営許可証(以下、「経営許可証」という)を取得せずに、危険化学
品経営活動を行うことができる例外が設けられた。(第 3 条)
(1) 危険化学品安全生産許可証を合法的に取得した危険化学品生産企業がその工
場の範囲内において、当該企業により生産された危険化学品を販売する場合。
(2) 港湾経営許可証を合法的に取得した港湾経営者が港湾内において、危険化学品
の貯蔵経営に従事する場合。
(イ) 従来の甲(劇毒化学品及びその他の危険化学品)、乙(劇毒化学品以外の危険化
学品)の 2 種類の許可証が一本化され、経営許可証発行機関が省レベルの人民政府
及び区を設置する市の人民政府から、区を設置する市及び県級人民政府に改正され
た。(第 5 条)
(ウ) 危険化学品経営に従事する者は、合法的に登録された企業でなければならない
(第 6 条)。この改正により、個人は危険化学品経営を従事することが出来なくな
った。但し、改正管理弁法が施行される前に既に許可証を取得している個人は、そ
の許可証の有効期限内において、引き続き経営活動を行うことが出来るという経過
措置が定められている。(第 38 条第 2 項)
(エ) 経営許可証を申請するための提出書類リストが更新された。特に、貯蔵施設を有
する場合に、別途貯蔵施設に関する証明書類等の提出も求められるようになった。
(第9条)
(オ) 経営許可証の発行について、発行機関が書類を受理してから、経営許可証を発行
するまでのプロセスが詳細に決められた。申請を受理してから 30 業務日以内に、
許可するか否かについて決定し、許可の決定を出してから 10 業務日以内に、経営
許可証を発行しなければならないと定められている。(第 10 条~第 12 条)
1
《危险化学品经营许可证管理办法》(国家安全生产监督管理总局令第 55 号)
2
Copyright © 2012 TMI Associates
All rights reserved
TMI Associates
International Legal Services
http://www.tmi.gr.jp/
経営許可証の有効期間は従来通りの 3 年と定められている。有効期間を延長する
には、有効期間が満了する 3 ヶ月前までに、延長申請をし、第 9 条に定められてい
る申請書類を提出するものとしている(第 18 条)。但し、安全管理に関する 3 つの
要件を満たし、発行機関の同意を受ければ、申請書類を提出せずに、経営許可証の
延長申請ができる(第 19 条)。
(キ) 管理条例に違反した場合や、経営許可証の偽造・変造、違法譲渡をした場合等の
罰則が明確にされた(第 5 章)。
(カ)
(2) 「十二五」期間中の外資利用及び国外投資計画2
国家発展改革委員会 2012 年 7 月 17 日公布 同日施行
① 背景
2011 年に中国の第 12 次 5 ヶ年計画(以下、
「十二五計画」という)が制定され、2011
年から 2015 年までの 5 年間(以下、
「十二五」という)の国民経済・社会の発展目標を
示すとともに、その達成に向けた戦略、産業政策や重点プロジェクトを盛り込んだ中期
計画が発表された。十二五計画では、経済成長方式の転換、新しい成長産業の育成や、
農村地域の都市化の推進などの政策傾向が見られる。十二五計画の政策傾向を外資利用
及び国外投資に関連する部門に盛り込んで、実施するために発表されたのが、
「十二五」
期間中の外資利用及び国外投資計画(以下、
「十二五外資計画」という)であり、第 11
次 5 ヵ年計画を振り返って、2011 年からの 5 年間における重点任務及び、それを実現
するための主要な政策措置が掲げられた。
② 主な内容
(ア) 十二五期間における外資利用及び対外投資の指導思想、主要目標、及び重点任務
が明確化された。
(1) 適度な規模を維持し、国外貸付の効果を発揮させる
貸付の規模を適度に維持し、国外からの借入金の利用分野を拡大する。特に、
省エネ、排出削減、環境保全、交通インフラ施設、新型農村建設などの分野にお
ける発展を重視する。
(2) 外債の安全性を維持し、外債構成を最適化する
(3) 外資構成を最適化し、その質を全面的に引き上げる
外国の資金を受け入れると同時に、先進的な技術、管理経験、優秀な人材も積
極的に受け入れる。ハイレベルの製造業、ハイテク産業、省エネ・環境保全、新
型エネルギー産業など、新型産業の発展を促進し、現代的な産業体系を構築する。
現代型物流、ソフトウェア開発、職業訓練、情報コンサルティング、科学技術
サービス及び知的財産サービス分野などサービス業における外資の受入れ及び対
外労務請負サービス分野での外資参入を促進する。また、銀行、証券、保険、電
信、燃料ガス、物流、教育、体育分野等の開放を段階的に進め、医療、文化、旅
行、家庭内サービス等の産業への外資の参入を誘導する。
(4) 各地域の調和的発展、投資協力を促す
東部沿岸地域においては引き続き外資利用によって、産業構造を「量」より「質」
を重視する形に改造し、中西部地域においては、外資の誘致に注力し、政策的に
サポートする。
2
《“十二五”利用外资和境外投资规划》(国家发展和改革委员会)
3
Copyright © 2012 TMI Associates
All rights reserved
TMI Associates
International Legal Services
http://www.tmi.gr.jp/
(5) 対外投資に努め、投資レベルを引き上げる
(6) 企業の実力、投資主体を強化する
(イ) 上記重点任務遂行のため、十二五期間中各点に関し政策を制定することが明確に
されている。
(3) 国家知識産権局行政復議規程(2012 年改正) 3
国家知識産権局 2012 年 9 月 1 日公布 同日施行
① 背景
現行の「国家知識産権局行政復議規程」(以下、「復議規程」という)は 2002 年 7 月
25 日に公布され、2002 年 9 月 1 日に施行されたものである。復議規程は、
「中華人民共
和国行政復議法」
(以下、
「行政復議法」という)に基づき、国家知識産権局の行政行為
に対し不服がある場合の、復議(行政機関の具体的行政行為に対する不服申立てがあっ
た場合の審査)を申し立てる範囲やその方法、また行政機関による申立ての受理及び復
議の決定について詳細に定めているものである。行政復議法実施条例は、その後の 2007
年に制定され、また、特許法及び特許法実施条例も、それぞれ 2009 年及び 2010 年に改
正された。それらの法律と平仄を合わせるために、今回の復議規程改正が行われた。新
復議規程は 2012 年 9 月 1 日に公布、施行され、これにより、現行の復議規程が廃止さ
れることとなる。
② 主な内容
新復議規程は従来の 33 条から 35 条になっており、その内容についての大きな改正点
は以下のとおりである。
(ア)行政復議機関が履行する責務内容(第 3 条)
行政復議法実施条例第 3 条により増設された内容に合わせて、本改正では、新た
に 4 つの項目を増やした。
第 4 号 行政復議と同時に申し立てられた行政賠償事項を処理する。
第 7 号 行政復議決定の履行状況を督促する。
第 8 号 行政復議、行政応訴事件の統計及び、重大な行政復議決定の届出登録を実
施する。
第 9 号 行政復議で見つかった問題を研究し、関係政府機関に行政復議意見又は提
案を申し出る。
(イ) 本規程第 5 条に規定された状況を除き、行政復議を申請することができる状況
(第 4 条)
旧行政復議法第 4 条では、具体的な状況を想定した 20 号の内容が設けられてい
た。改正後はそれらの内容を抽象化し、以下のような 5 つの号に統合された。特に
第 5 号の増設によって、今後、行政復議を申し立てられる範囲が拡大し、従来のよ
うに、列挙された内容に限らず、合法的な権益が侵害されたと考えるとき、かかる
具体的行政行為に対して、行政復議を申し立てられるようになったことは大きな改
正点となる。
第 1 号 国家知識産権局の特許申請又は特許権についての具体的行政行為に対して
不服がある場合
第 2 号 国家知識産権局の集積回路図設計登録申請又は集積回路図専有権について
3
《国家知识产权局行政复议规程》(国家知识产权局令 第 66 号)
4
Copyright © 2012 TMI Associates
All rights reserved
TMI Associates
International Legal Services
http://www.tmi.gr.jp/
の具体的行政行為に対して不服がある場合
第 3 号 国家知識産権局の特許再審又は特許無効についての手続的決定に対して不
服がある場合
第 4 号 国家知識産権局の特許代理管理についての具体的行政行為に対して不服が
ある場合
第 5 号 その他、国家知識産権局の具体的行政行為が自己の合法的権益を侵害した
と思われる場合
(ウ) その他、各章において、用語の統一等が行われた。
(4) 民政部による民間資本の高齢者福祉サービス分野への参入を奨励及び誘導すること
に関する実施意見4
民政部 2012 年 7 月 24 日公布 同日施行
① 背景
2005 年、中国国務院は、
「個人私営等非公有制経済発展の奨励、支持、誘導に関する
5
若干の意見」 を公表し、非公有制経済発展に関する 36 条の政策が出された。その 5 年
後の 2010 年には、さらに、所謂「新 36 条」である「民間投資の健全な発展の奨励、誘
導に関する若干の意見」 6が公表され、法によって明確に参入禁止と定めた分野以外の
産業分野への民間資本の積極的な参入が促された。
新 36 条を各産業分野において徹底的に実施させるため、各関連政府部門により所轄
の産業部門における民間投資を促進・誘導するための実施細則が制定され、相継いで公
表されてきた。
今回公表されたのは、民政部により出された「民間資本の高齢者福祉サービス分野へ
の参入を奨励及び誘導することに関する実施意見」
(以下、
「実施意見」という)であり、
主に、高齢者福祉サービス分野への民間資本の参入に関する具体的な政策に関して定め
られているものである。
② 主な内容
実施意見は 7 章 33 条からなっており、主な内容は以下のとおりである。
(ア) 家庭内及びコミュニティ(社区)内における高齢者福祉サービスへの資本参入
家庭内高齢者福祉サービスに関しては、主に、家庭内の介護、家事サービス、メ
ンタルサポート、リハビリサポート、バリアフリー設備の改造、緊急時の連絡、安
全支援及び社会参加などに関するサービスが挙げられている。またコミュニティに
ついては、都市部におけるデイケアセンター、高齢者活動センターなどの施設の普
及、農村部における独居高齢者を重点としたデイケアセンター、一時預かり施設、
飲食配達等のサービス充実が列挙された。
(イ) 高齢者福祉機関又はサービス施設経営への資本参入
高齢者、特に身体機能を喪失した、又は部分的に喪失した高齢者を対象に、集中
的に養護、介護、リハビリ、娯楽を提供する老人ホーム、住宅型老人ホーム等の高
齢者福祉施設経営への民間資本の参入を推進する。特に、この項目においては、以
下のように述べられている。
「『外商投資産業指導目録』の定めに従い、外国資本が国内に投資し、高齢者福
4
《民政部关于鼓励和引导民间资本进入养老服务领域的实施意见》(民发[2012]129 号 2012 年 7 月 24 日)
《关于鼓励支持和引导个体私营等非公有制经济发展的若干意见》(国发[2005]3 号)
6
《国务院关于鼓励和引导民间投资健康发展的若干意见》(国发[2010]13 号 2010 年 5 月 7 日)
5
5
Copyright © 2012 TMI Associates
All rights reserved
TMI Associates
International Legal Services
http://www.tmi.gr.jp/
祉サービス施設を設立することを支持する。国内高齢者福祉機関に対する税務上の
優遇措置は、外国投資者についても適用される。」
(ウ) 基礎的高齢者福祉サービス提供分野への資本参入
政府が所有する高齢者福祉施設におけるサービスについて、入札形式を用い、請
負、共同経営、合弁、合作などの方式で、民間企業又は個人が提供することを認め
る。
(エ) 高齢者福祉産業への資本参入
高齢者の生活サービス、医療サービス、飲食、服装、栄養保健、レジャー、観光、
文化メディア、金融、不動産など高齢者福祉に関する産業への民間資本参入を推進
する。
(オ) 高齢者福祉サービスへの民間資本参入に対する優遇政策の実行
(カ) 高齢者福祉サービスへの民間資本参入に対する資金援助の拡大
(キ) 高齢者福祉サービスへの民間資本参入に対する指導の規範性の強化
(彭涛、瀋暘・中国弁護士)
二.連載
中国企業法実務
第二弾:各種契約締結の実務(第 5 回/全 5 回)
第1回
2012 年 4 月号
合弁契約
第2回
第3回
2012 年 5 月号
2012 年 6 月号
賃貸借契約
労働契約
第4回
第5回
2012 年 7 月号
2012 年 8 月号
技術ライセンス契約
代理店契約
第5回
代理店契約
1. 概要
「代理店契約」や「代理店」といった用語は、民法その他の法令で直接に定義付けられ
ているものではない。そのため、同じく「代理店契約」という表題の契約であっても、必
ずしも契約の実態・法的内容が一致しないことも稀ではない。しかも、
「代理店」という肩
書きを有していても、民法上の「代理権」を与えられていない場合があるなど、契約書の
表題と法律上の制度の名称が一致しているとは限らない。これらの事情を踏まえ、代理店
の実質、法的内容等について、類型を整理した上で、類型ごとに分析していきたい。
大きく分けると、広義の代理店には、
「販売代理店」と「媒介代理店」7の二種類がある。
販売代理店とは、一定又は不定の期間、メーカーが販売代理店に対し、種類をもって定め
られた商品を継続して供給し、販売代理店が品物を購入してそれを再販売する類型である。
一方、媒介代理店とは、メーカーのために、その発売する商品について、継続的に営業取
7
販売代理店と媒介代理店の中国語表記は、それぞれ「経銷商」と「代理商」である。
6
Copyright © 2012 TMI Associates
All rights reserved
TMI Associates
International Legal Services
http://www.tmi.gr.jp/
引を代理又は媒介し、メーカーが販売数量に応じて媒介代理店に報酬(手数料)を支払う
類型である 8。
なお、販売代理店と媒介代理店の分類については、販売代理店はメーカーから独立して
営業する者であり、決してメーカーの代理人になるわけではないから、広義の代理店に属
しないとの見解もあるが、販売代理店と媒介代理店のいずれも、メーカーの商品をより広
範に、効率的にエンドユーザーまで販売する役割を果たす、商品の流通経路におけるメー
カーとエンドユーザーとの間の中間業者であり、メーカーから見れば類似する機能を有す
ると思われるため、広義の代理店として併せて論じることは合理的であると考えられる。
2.販売代理店契約における主な記載事項及び注意事項
(1) 販売代理店契約の解除
販売代理店においては、契約期間が満了する前に、一方当事者の意思によって契約を終
了させる権利及び条件を規定するのが通常である。その内、催告を経ずに解除できる項目
と、債務不履行等の催告した上解除できる項目に分けて規定する場合が多い。
販売代理店は、通常、将来的に販売代理店として得られるであろう利益を期待して投資
を行っているため、メーカーから一方的に契約を解消されてしまうと多大な不利益を被る
ことになる。そのため、日本法では、裁判例上、信義誠実の原則等を根拠として、期間を
定めない販売代理店契約の解約や期間を定めた販売代理店契約の中途解約・更新拒絶が制
限されたり、数回のみの代金支払いの遅延等の軽微な債務不履行を理由としては販売代理
店契約を解除できないとされたりするなど、販売代理店の保護が図られている。しかしな
がら、中国法においては、このような販売代理店契約の解消の制限についてはまだ明確な
定めがなく、日本法と比べれば販売代理店に対する保護が十分に図られていない。従って、
販売代理店契約の契約解除条項において、合理的な予告期間を定めた上で、契約当事者双
方が任意解除権を有する旨を定めた場合、当該条項は特に制限されることなく有効である
と考えられる。
(2) 販売代理権の類型
販売代理店は、メーカーが当該販売代理店以外の第三者に対し、一定の地域内でその商
品を購入し再販売する権利を付与することができるか否かにより、独占的販売代理店及び
非独占的販売代理店の二種類に分けられる。更に、独占的販売代理店の場合、メーカーが
かかる地域内で自ら商品を販売することができるか否かの区別は重要である。メーカー自
らが販売することが可能か否かについては、販売代理店契約において明確に定められない
ケースも散見されるが、販売代理店契約を締結する際に、明確に規定しておくべきである。
(3) 最低購入数量
最低購入数量とは、販売代理店に対し、一定期間内において、メーカーから一定数量以
上の商品を購入する義務を課す条項を指し、特に独占的販売代理店との契約でよく見受け
られる。
8
代理店がエンドユーザーとの間において、自己の名義で契約を締結するか、メーカーの名をもって(メー
カーの代理人として)契約を締結するかによって、更に「斡旋」
(中国語:
「行紀」)と「仲介」
(中国語:
「居
間」)の二種類に分けられる。現在、もっとも一般的な代理店の類型は「仲介」であるため、本稿において
は、以下、特に断りのない限り、媒介代理店について言及する際は、「仲介」を念頭に置いて論じることに
する。
7
Copyright © 2012 TMI Associates
All rights reserved
TMI Associates
International Legal Services
http://www.tmi.gr.jp/
販売代理店に対する卸売価格は、最低購入数量に応じて設定されることが多い。一般に、
商品の売買においては、購入数量が増加する程、商品の単価が低く設定されるのが通常で
ある。このような購入数量と単価の関係上、販売代理店契約において、卸売単価を決定す
るにあたり、販売代理店に対して一定の数量の商品購入義務を課すことは、自然な結果で
あるといえる。但し、販売代理店の販売能力を考慮せずに、著しく多い最低購入数量を設
定することは、独占禁止法及び不正競争防止法に抵触する恐れがある。
上記のような不都合を避けるために、予め購入数量に応じた卸売価格表を販売代理店に
示し、半年又は一年毎に予定される最低購入数量を達成しなかった場合には、当該価格表
に従って精算をする旨の合意をしておくことも考えられる。
(4) リベート
リベートとは、卸売業者の協力を得て販売を促進するために、一定期間に計上された売
上を元に卸売業者に支払われる割戻金のことである。それが純粋なマージンに過ぎない場
合(リベートが低率であり、支払基準が契約締結時に決まっており、かつ、リベートの支
払いが適切に帳簿に記載される場合)は、基本的に問題ないと思われる。
しかしながら、中国では、刑法に商業賄賂罪 9の定めがあり、不正の利益を得るために、
取引において相手方又は相手方の担当者に高額の金品を与えた場合、商業賄賂罪に該当す
るリスクがある。それゆえ、リベートを規定する際は、特に慎重に取扱うべきである。
(5) 再販売価格
メーカーは、販売代理店に対し、
「標準販売価格」、
「希望小売価格」等の名目で価格を指
示することが多いが、それに従わない販売代理店に経済的不利益を与えた場合、独占禁止
法上の「再販売価格の固定」、「再販売最低価格の限定」 10に該当し、違法行為であると解
される可能性が高い。
(6) 販売代理店への援助
一般的に、販売代理店に対する援助として、見本の提供、広告費の援助、販売代理店の
従業員に対する教育・研修等が挙げられる。但し、かかる援助に対価がなく、又は対価が
著しく低い場合には、販売代理店に対する利益給与と見られ、税務上問題になる可能性が
否定できない。
(7) テリトリー制
販売代理店契約においては、メーカーが販売代理店に対して販売地域を制限する条項が
よく見られる。日本では、公正取引委員会が策定した「流通・取引慣行に関する独占禁止
法上の指針」により、どの行為が独占禁止法の違反になるか、比較的明確に規定されてい
る。これに対し、中国では、独禁法が 2008 年に公布されたばかりであり、日本のように、
流通業界における独占禁止法の詳細なガイドラインがまだ策定されていない。学界でもマ
スメディアでも、厳格な地域制限(メーカーが販売代理店に対して、一定の地域を割り当
て、地域外での販売を制限すること)が独占禁止法の違反になるか否かについて、論争が
繰り広げられているが、定説や判例はまだ存在しない。実務上、販売代理店契約において、
9
10
刑法第 163 条
独占禁止法第 14 条
8
Copyright © 2012 TMI Associates
All rights reserved
TMI Associates
International Legal Services
http://www.tmi.gr.jp/
厳格な地域制限のような文言が盛り込まれることは少ないが、自動車販売業界を始めとす
る各業界において、メーカーが、事実上、テリトリー外で商品を販売する販売代理店に対
して経済的制裁を課す例は少なくないと言われる。
(8) 競争品の取扱いに関する制限
販売代理店契約において、販売代理店に対し、競業する他メーカーの商品の取扱いを制
限する条項が時折見受けられる。中国の独占禁止法では、垂直的独占合意の類型として、
第三者への再販売価格の固定及び再販売最低価格の限定の二種類が明確に挙げられている
一方で、上記条項のような競争品の取扱いに関する制限が垂直的合意に該当するか否かに
ついては、未だ不明確である 11。しかしながら、関連市場の新規参入者及び既存競争者に
とって代替的な流通経路を容易に確保することを困難にする可能性があることから、独占
禁止法に抵触する可能性は否定できない。従って、当該条項を販売代理店契約に盛り込む
場合、独占禁止法の適用除外条項 12に該当する正当な目的に基づいて行っているものであ
るかや、中国市場に対する影響の程度等を、予め検討すべきであると思われる。
なお、メーカーが関連市場において支配的地位を有し、販売代理店に、競業する他メー
カーの商品の取扱いを制限する場合には、上記の垂直的合意に対する規制の他、独占禁止
法第 17 条第1項第 4 号 13により、支配的地位の濫用と解される可能性が高い。
(9) 商標の使用
販売代理店は、メーカーの商品を地域内で販売するために、メーカーの商標を使用する
ことが多い。商標の使用に関して、実務上、以下のような条項がよく見られる。
①販売代理店は、メーカーが提供する商品に付されている商標を削除したり変更したりし
てはならない。
②販売代理店は、地域内における商品の広告及び販売促進活動において、メーカーの商標
を無償で使用することができる。但し、商標の使用方法について、メーカーから書面に
よる事前の許可を受けなければならない。
3.媒介代理店契約における主な記載事項及び注意事項
媒介代理店との間の媒介代理店契約は、前述の販売代理店契約と類似するところが多い
ため、2で紹介した重複する事項については、割愛する。
(1) 代理権類型
販売代理店の分類と同様に、媒介代理店も、独占的代理店及び非独占的代理店に分類す
ることが可能である。但し、媒介代理店は、販売代理店とは異なり、商品を予め購入する
必要がなく、売れ残りのリスクがないため、販売代理店ほど積極的に販売活動を行わない
可能性もある。従って、媒介代理店に独占的代理権を付与することには慎重になるべきで
11
独占禁止法第 14 条は、事業者が取引相手と独占合意を結ぶことを禁止している。そして、禁止対象とな
る行為は、①第三者に対する商品再販売価格を固定すること、②第三者に対する商品再販売最低価格を限定
すること、③国務院独占禁止執法機関が認定するその他の独占合意である。
12
独占禁止法第 15 条
13
独占禁止法第 17 条第1項は、市場における支配的地位を有する事業者が同項各号に掲げる市場における
支配的地位の濫用行為に従事することを禁止している。そして、同項第 4 号は、禁止対象となる行為の 1
つとして、「正当な理由なく、取引相手が該当事業者とのみ取引を行うことができるよう限定し、又はその
指定する事業者とのみ取引を行うことができるよう限定すること」を挙げている。
9
Copyright © 2012 TMI Associates
All rights reserved
TMI Associates
International Legal Services
http://www.tmi.gr.jp/
ある。
(2) 代金回収
販売代理店のスキームにおいて販売代理店がエンドユーザーから代金を回収することは
当然であるが、メーカーとしては、媒介代理店に対しても同様の期待、すなわち、媒介代
理店がエンドユーザーから代金を回収し、代理手数料を差し引いた金額をメーカーに送金
してもらいたいというニーズがある。しかしながら、他人(メーカー)を代理して販売代
金を回収する業務は、金融業に該当し、特殊な許認可が必要であると考えられるところ、
当該許認可を取得している媒介代理店はほとんど存在しないため、媒介代理店による代金
回収は実質的に不可能であると思われる。
(3) 再販売価格
販売代理店に対し再販売価格を拘束することは、独占禁止法第 14 条に違反するが、媒介
代理店はあくまでメーカーの代理人であり、メーカーの名義でエンドユーザーと交渉し契
約を締結することから、同条に定められる取引相手には該当しないと思われる。なお、商
品がメーカーから媒介代理店に販売された上で、エンドユーザーに再販売されるわけでは
ないため、媒介代理店に対する、一定の価格以上により販売しなければならない旨の指示
は、再販売価格の拘束に該当しないと思われる。従って、メーカーは、媒介代理店の場合、
販売代理店の場合と比べ、エンドユーザーに販売する価格を比較的容易にコントロールす
ることができる。但し、市場において支配的地位を有し、媒介代理店に異なるエンドユー
ザーについて異なる販売価格を指示する場合、独占禁止法第 17 条第 1 項第 6 号14に違反す
る可能性が高い。
(4) テリトリー制
上記(3)と同様の理由により、媒介代理店は独占禁止法第 14 条に定められている取引
相手には該当しないため、販売代理店の場合と比べれば、メーカーが媒介代理店に課する
テリトリーに関する制限は、独占禁止法に抵触する可能性が比較的低いと考えられる。
[応用編―販売代理店 v. 媒介代理店]
本文で述べたように、メーカーとエンドユーザーとの間の中間業者としては、販売代理
店と媒介代理店の二種類があるが、どちらの形式により契約を締結すれば良いか、メーカ
ーは頭を悩ませるところであり、代理店との契約交渉において大きなポイントになる点で
あると思われる。そこで、契約締結の際の参考となるよう、以下のとおり、販売代理店と
媒介代理店を比較し、それぞれの特徴を整理した。
14
独占禁止法第 17 条第1項第 6 号は、市場における支配的地位を有する事業者が行ってはならない、市場
における支配的地位の濫用行為の 1 つとして、「正当な理由なく、条件が同一の取引相手に対し、取引価格
等の取引条件において差別的に取り扱うこと」を挙げている。
10
Copyright © 2012 TMI Associates
All rights reserved
TMI Associates
International Legal Services
http://www.tmi.gr.jp/
販売代理店
販売代理店がメーカーから予め商品を購
入することから、メーカーは、代理店に商
品を販売した段階で確定的な売上を計上
することができる。
売れ残りのリスクがあるため、販売代理店
による積極的な販売活動が期待できる。
販売代理店は、市場で評価の定まっていな
い新製品又は実績のないメーカーの商品
に対し、比較的に慎重である。
再販売価格、テリトリー制等の条項が独占
禁止法に抵触する可能性が高い。
マージンが比較的高い。
販売代理店は、エンドユーザーから代金を
回収することができる。
媒介代理店
メーカーは、エンドユーザーまで販売でき
た段階で、初めて売上を計上することがで
きる。
媒介代理店は、販売代理店ほど積極的に販
売活動を行わない可能性がある。
媒介代理店は、売れ残りのリスクがないた
め、比較的に積極的に代理権を取得する。
販売代理店はメーカーの取引相手である
に対し、媒介代理店はメーカーの代理人で
あるため、再販売価格、テリトリー制等の
条項が独占禁止法に抵触する可能性が比
較的低い。
マージンが比較的低い。
媒介代理店は、エンドユーザーから代金を
回収することができない。全ての代金が一
旦エンドユーザーからメーカーに支払わ
れ、その後、メーカーが媒介代理店に手数
料を支払う。
(鍾雪垠・中国弁護士)
三.上海法務事情
中国国際貿易仲裁委員会(CIETAC)の内紛
中国国際貿易仲裁委員会(China International Economic and Trade Arbitration Commission、略
称 CIETAC)は、中国において代表的かつ権威のある国際的仲裁機関として、世界的な評判
が高く、実務上、日中間の取引契約や、日中合弁企業の合弁契約等でも、仲裁条項において、
指定されることが多い。
特に、日中間では、裁判所の判決を相互に執行することが実務上できないとされており15、
ニューヨーク条約(「外国仲裁判断の.承認及び執行に関する条約」)に基づき、締約国間では
仲裁判断の執行が保証されている仲裁を利用することが、国際間契約においては、実効的な
紛争解決のために必要である。また、中国の裁判所への不信感(統一司法試験の導入後、裁
判官の質が向上する傾向にあるとはいえ、なお地域保護主義等への懸念がもたれている)か
ら、日系企業の間では、中国国内間契約であっても、仲裁条項が好まれる傾向にある。
ところが、今年の 4 月頃から、CIETAC の北京本部と上海分会との間で論争が起こり、今
15
例えば、東京地裁の専属管轄と契約で定め、中国企業を東京地裁に訴えて勝訴判決を得ても、当該判決
は中国で実務上強制執行できない。
11
Copyright © 2012 TMI Associates
All rights reserved
TMI Associates
International Legal Services
http://www.tmi.gr.jp/
月に入り、北京本部が、上海分会と華南分会への「授権」を中止し、両地区の仲裁案件の取
り扱いを北京の直接管理下に置くという通知を出し、現場では混乱が生じている。
8 月 1 日付の CIETAC 本部による「管理公告」16によれば、今年 5 月 1 日に施行した「中国
国際経済貿易仲裁委員会仲裁規則」の執行を、上海分会と華南分会が拒絶しているため、
CIETAC の統一的運営を通じた仲裁当事者の正常な権利行使の保護が必要として、8 月 1 日
から上海分会と華南分会が仲裁案件を受理・管理することへの「授権」を中止するとしてい
る。同公告によれば、当事者間の契約上 CIETAC 上海分会又は華南分会を仲裁機関として指
定している場合には、CIETAC 本部の秘書局が仲裁申し立てを受理するとされ、上海と深圳
に本部側の連絡窓口を設置し、現地を開廷地として仲裁を行うものとされる。
これに対して、8 月 4 日付で、CIETAC 上海分会と華南分会は「連合声明」17を出し、上海
分会と華南分会は、それぞれ上海市司法局と広東省司法庁にて登記された独立の事業法人で
あること、本部の制定した「仲裁規則」の制定手続と内容には問題があること、本部の「授
権」にはそもそも法的根拠がなくその「中止」にも根拠がないことを挙げて、直ちに反論を
している。同声明によれば、上海分会と華南分会は、引き続き仲裁当事者の約定に従って、
仲裁案件の受理と管理を行うとしている。
今回の内紛は、北京、上海、華南の各仲裁機関設立の複雑な経緯に由来するほか、直接の
引き金としては、経済的な利害関係の対立があると言われている。例えば、北京本部が公布
した「仲裁規則」によれば、いずれの分会で仲裁を行うか、仲裁合意における約定が不明確
な場合には、仲裁委員会秘書局(即ち北京本部の秘書局)が受理するとされており、これに
より、上海分会や華南分会が、案件受理数を減らされると懸念したといわれる。
仲裁法の規定に照らせば、現在の CEITAC 上海分会と華南分会でなされた仲裁判断も、有
効な仲裁判断として、裁判所による執行が認められると思われるが、北京本部関係者は、上
海分会や華南分会の仲裁判断は、承認や執行がなされない恐れがあると主張している。
また、現実問題として、現在北京本部が上海や深圳でも仲裁案件の受理をしていることか
ら、たとえば、CIETAC 上海にて仲裁を行うという仲裁条項に基づき、本来の上海分会と、
北京本部が管理する上海窓口の両者で同時に仲裁案件が受理される恐れがあり、管轄異議等
の争いが起こることが懸念される。
そのため、実務上、当面、仲裁条項の定め方や仲裁申立てにおいては、慎重な検討が必要
なる。いずれにしても、長年をかけて築き上げた CEITAC に関する国際的評判に大きな傷を
付ける現状は、早急に改められなければならないといえる。
(山根基宏・弁護士)
TMI 中国最新法令情報―2012 年 8 月号―
発
行:TMI 総合法律事務所
監
修:何連明・外国法事務弁護士
編集主幹:山根基宏・弁護士
発 行 日:2012 年 8 月 31 日
16
17
http://cn.cietac.org/notes/notes094.pdf
http://www.cietac-sh.org/lhsm.pdf
12
Copyright © 2012 TMI Associates
All rights reserved