第9章 思想および良心の自由

平成 19 年度【憲法C】
第9章
思想および良心の自由
1 思想・良心の自由の意義
[内面]思想―――→ その表明―――→表現の自由[外面]
良心―――→信条・信仰――→ 信教の自由
【本章の課題】諸外国は、上記の流れで、内心領域の保障を行っている。しかし、日本
国憲法は、表現の自由(21 条)、信教の自由(20 条)に加えて、思想・良心という内面の
みの保障も行っている(19 条)。この意義は何か?
【Point】19 条の意義は、各人の内心とは異なる行態をとることを、国家により強制され
ないことにある、と解される。
2 19条に関する論点
1
【論点】
①19 条は、内心領域全般を保護しようとしているのか、それとも、内心のうち「信条」
を保護しようとしているのか。
②19 条の保障範囲は、外面的活動にまで及ぶか。
③19 条は「沈黙の自由」を保障しているか?
2
【論点①】について
①学説の立場
信条説:19 条にいう「思想・良心」とは、人の内面的精神活動のうち、宗教上の信仰
または体系的知識に準ずべき世界観、人生観を指す。
→13 条の理解に関する「人格的利益説」と共鳴している。
内心説:「思想・良心」とは、人の内心領域における価値判断・事物の捉え方全般を指
す。
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②評価
「思想とは、広義には、具体的な問題に関する意見または態度等をいう。良心とは、
広義には善や悪に関する道徳的知識や人の自己意識または自覚をいう」という思想・良心
の定義からすると、内心説が適切であるように思われる(教科書の立場)。
【判例】謝罪広告事件(最大判昭 31・7・4 民集 10・7・785、百選 37)は、信条説に
立つものであると思われる。
→後述する「沈黙の自由」との関係では、信条説に一貫性が感じられる。
3
【論点②】について
【問題】19 条の保障は外面的精神活動にまで及ぶか?
思想・良心の自由を「内心の自由」として限定的に理解すると、当該自由権に外面的精
神活動の自由まで含まれないように思われる。しかし、人の「内心」の状態は、その外部
に表出された行動からしか推し量れないので、19 条の保障を「内心の自由」に限定したの
では、19 条自体の存在価値が減退してしまう。
では、人の「内面領域」と「外面的精神活動」とを峻別することは可能か?
【判例】三菱樹脂事件(最大判昭 48・12・12 民集 27・11・1536、百選 12)
最高裁は「思想・信条そのもの」/「過去の行動に関する事実」の区別のもとで、後者
の調査は 19 条上禁止されている思想調査ではない、と結論している。
【参照】麹町中学内申書事件(最2判昭和 63・7・15 判時 1287・65、百選 38)
【Point】最高裁は、
「思想・信条そのもの」の調査(三菱樹脂)
・記載(麹町中学)と「外
部に表れた行動」
(三菱樹脂・過去の行動に関する事実、麹町中学・校内秩序に害ある行動)
の調査・記載とを二分することにより、「内面領域/外面的精神活動」二分法の可否という
困難な問題を回避している。
4
「沈黙の自由」【論点④】について
「沈黙の自由」の論点:
①19 条は、思想・良心の外部への表出を強制されない自由まで保障しているか。
②これを保障しているとしても、その保障は事実に関する知識や技術的知識にまで及ぶ
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か。
【わたしの疑問】内心説をとる教科書の立場は、刑訴法 160 条・161 条等の規定をどう
評価するのか。「正当な理由」(自己に不利益となる証言等)ない証言拒絶は許されないと
いうのは、信条説を思考基盤とするものではないか。
【参照】道路交通法 72 条
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【確認問題 11】思想・良心の自由に関する以下の記述のうち、判例の立場に照らして妥当
なものを1つ選びなさい。
(1)単に事態の真相を告白し陳謝の意を表明するにとどまる謝罪広告であっても、それ
を強制することは、本人の意に反して強制的に意見を表明させるものであるから、思
想・良心の自由の侵害に該当し、許されない。
(2)企業が労働者の採否決定にあたり、労働者の思想・信条を調査し、これに関連する
事項について労働者に申告を求めることは、思想・良心の自由の侵害となり許されな
い。
(3)強制加入団体である税理士会が政治団体に対して金員を寄付することは、たとえ税
理士に係る法令の制定・改廃に関する要求を実現するためであっても、税理士会の目
的の範囲外であって許されない。
(4)中学校が、高等学校に提出する調査書に、生徒の在学中の政治活動の事実を記載す
ることは、思想・信条を推知せしめ、中学校が調査書に記載しうる事項の範囲を逸脱
するので許されない。
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