第 15 章 地理,気候および天然資源 1 • 開放性は技術移転を容易にし,経済をいっそう効率よ い組織に導き,その生産に最良な財に特化することに よって,国の所得を引き上げる.可能性を持つ. 第 15 章 地理,気候および 天然資源 地理と貿易 • 貿易への開放性を決める一因は地理である. • もし,地理が貿易を決めるなら,また貿易が国を豊か ⋆ 講義ノートは http://www2.asia-u.ac.jp/˜ shin/lecture/growth.html にある. ⋆ 第 2 版のスライドは http://wps.aw.com/aw weil econgrowth 2/ → Classrom ReR Slides にある. sources → PowerPoint⃝ ⋆ 第 3 版のスライドは にするものなら,ある国 (または国の地域) に他にま さる基本利点を持つ. 地理的証拠 • 大洋あるいは海まで航行可能な河川の 60 マイル http://wps.aw.com/aw weil econgrowth 3/ → Classrom ReR Slides にある. sources → PowerPoint⃝ (100km) 以内に位置するのは,世界の地表の 17.4%だ けである. • 人為的に変更できない. • しかし,世界人口の 49.4%はこの土地に住み,世界の GDP の 67.6%がこの地で生産されている. • 逆の因果関係が存在しない変数. Figure 1 緯度と 1 人当たり所得の関係 • 海から 100km 以内にある地域の 1 人当たり GDP は, 平均すると,内陸地域の 1 人当たり GDP の 2 倍に達 する. Figure 2 所得と海へのアクセスの地域的広がり • 横軸: 緯度 (赤道からの角度の絶対値) • 縦軸: 1 人当たり GDP,2005 年 (対数目盛) • 赤道から遠ざかるほど平均して国は豊かになっていく. 本章では,地理,気候および天然資源が所得に与える影 響を検討する. • 地理と気候は統計的に有意に所得に影響する. • 現在ではある国では利用可能な資源は,成長の大きな 制約ではない. – 海外から資源を輸入できるからである. – 世界水準での資源の利用可能性は世界全体の成 長の制約になるかどうかは未可決の問題である. 15.1 地理 15.1.1 立地,通商および成長 開放性 • 国際貿易に開放されていることは,その生産性に与え る効果を通じて 1 人当たり所得を引き上げる. • 横軸: 海にアクセスする人口の比率,大洋または運行 可能な河川から 100km 以内に住んでいる人口の比率 • 縦軸: 1 人当たり GDP,1995 年 • 強い正の関係 • サハラ以南のアフリカにおける低い人口比率で,人口 の 21%しか海にアクセスできる場所に住んでいない. 経済活動の主要な中心地と立地 • 世界の最も先進地域 (アメリカ,西ヨーロッパ,日本) から 600 マイル (1,000km) 離れるごとに,運送費は 1%ポイントずつ高くなっていく. • 2 国間の距離が 1%離れると 2 国間の貿易量は 0.85%ず つ低下する. 海へのアクセスと経済活動の主要な中心地からの距離は, 運送費の格差を説明することができる. 第 15 章 地理,気候および天然資源 輸送費 2 細分化された支配構造 輸入品の平均輸送費を輸入総額との比率で表すと, • 一国が大きく統一されたいるから市場も大きく,また それゆえに特化による利益も潜在的にありうる. • アメリカでは 3.6%, • 生産性向上のアイディアは,統一国家ではいたって用 • 西ヨーロッパでは 4.9%, 意に拡大する. • 東アジアでは 9.8%, • 不統一は近隣諸国との争いの可能性も高める.それは 資源の浪費を生む. • ラテン・アメリカでは 10.6% • サハラ以南のアフリカでは 19.5% • そして,事実,産業化以前のヨーロッパは近隣諸国と の闘争を多数経験した. 運送費のこのような格差は貿易量と 1 人当たり所得との 格差とよく相関している. 一国内の地域間の所得格差 歴史的経験 貿易のしやすさは国別ばかりではく,一国内の地域間の 所得格差の説明要にもなる. 国家統一の理論的利点にもかかわらず,歴史的経験から 見てヨーロッパで中央集権が欠如したことは,経済成長に 有利となる多くの点を示唆している. • 中国の例 ■ 鉄砲,黴菌と地理 • 外部からの競争は政府権力の抑制に役だった. • 政府が政治を不安定にする経済革新 (あるいはそれに 伴う不安定化するアイディア) を抑えようとしたとき, 改革者は隣国へ移動できた. 15.1.2 地理的集中度と波及効果 豊かな国は接近している傾向がある. 例 • ヨーロッパ • カナダとアメリカ • 日本と韓国 • 中国艦隊 • コロンブス • オーストラリアとニュージーランド ヨーロッパの細分化 集積化 ヨーロッパの細分化した政治構造はその地理によるもの • 波及効果 • 成長にとって重要な共通の特徴を隣国と共有する 15.1.3 である. Figure 3 産業化以前のヨーロッパの中心地域 政府に与える地理の影響 地理が国の広さだけではなく,政府の行動への影響を通 じることである. 第 15 章 地理,気候および天然資源 中国の中心地域 3 温帯 Figure 4 • Cf, Cs, Df, Dw 産業化以前の中国の中心地域 • 世界の最も豊かな地帯 • この例外は比較的小さい Dw 地帯でもっぱら北東アジ アにある国 (韓国,ロシアのウラジオストック) 地理が中国を単一の国として統治 → 経済成長を鈍化させ • 世界人口の 34.9%住み, る要因 • 1 人当たり所得は世界平均の 1.94 倍 インド • 西ヨーロッパでは人口の 96%が温帯に住んでいる. インドの政治的細分化には,ヨーロッパと同じような成 長誘発的効果がなかった. • 北アメリカでは人口比率は 88% • 地理が必然的な定めではない.一部を説明するであろ うが,すべてではない. 15.2.2 15.2 気候 緯度は気候と関連しているので,この関係は 1 人当たり 所得の決定に気候の役割があることを示唆している.しか し,気候は緯度だけに依存するのではない. 15.2.1 気候と農業生産性 天候は生産性に直接効果を与える.最も重要なのは農業 の生産性に与える気候の効果である. 各国間の農業生産性の相違は,1 人当たり所得に奥深く影 響している. 気候地帯 Table 1 Figure 5 緯度と農業労働者 1 人当たり農業 GDP 世界の気候地帯 熱帯 • Af, Am, Aw • 世界人口の 24.3% • 貧困地帯 • 横軸: 緯度 (赤道からの絶対度数距離) • 縦軸: 農業労働者 1 人当たり農業 GDP,2005 年 (対 数目盛) • 豊かな国の労働者によって温暖国は,貧困な熱帯諸国 の労働者の農業生産量の 300 倍も生産している. • 1 人当たり所得は世界平均の 43% 亜熱帯 • Cw • 相対的貧困さを含めて熱帯グループと共通の多くの特 徴がある. 熱帯の気候と農業 • 降雨のパターン • 霜が降りない 第 15 章 地理,気候および天然資源 15.2.3 気候と病気 4 15.3.1 天然資源と成長の関係 天然資源と成長の関係 熱帯と健康環境 • 産業革命以前では,土地は生産要素として資本より ずっと重要な要素であった. 熱帯は健康環境に悪いという十分な証拠がる.熱帯地域 は,人体に有害な疾病であふれている. • 新しく居住できる広い土地を持つ国は,19 世紀の世 界では最も富裕な国であった. • 気温が氷点に達しない地域は,温帯地域より多種類の 寄生虫や病気媒介昆虫がいる. • しかし,天然資源を利用して豊かになった国があるに もかかわらず,多くの他の国では豊かな天然資源は経 • 原人はアフリカの熱帯地域で進化し,年万年もそこに 住んだのであるから,その地方の寄生虫は原人を利用 済成長に結びつかなかった. して進化する十分な時間があった. 例 第 2 次世界大戦後には,経済成長と天然資源の賦存量の マラリアと経済成長 関係は均等ではなかった. • ペルシャ湾岸の産油国 • 熱帯病のうちマラリアは経済成長に最大の影響を与え ている. • 日本 • ナイジェリア,ロシア • マラリアは蚊がほぼ一年中活動する気候のみが感染地 域である. 15.3.2 Figure 6 天然資本 自然資本と 1 人当たり所得 マラリア発生環境とマラリア発症率 • 自然資本は,一国の農地,草地,森林および金属,鉱 物,石炭,石油,天然ガスからなる地下資源の価値を いう. • 横軸: マラリア環境指数 • 縦軸: マラリア環境人口の百分比,1994 年 • 強い正の相関を持つ 15.2.4 • 物的・人的資本とは異なって,自然資本は意図的な投 資によって作られるものではない. • むしろ,一国の自然資本は人間活動とは無関係に存在 する資源を表している. Figure 7 自然資本と 1 人当たり GDP 気候と人間の能力 • 寒冷な気候の方が人間にはいきいきしている. • 横軸: 1 人当たり自然資本,1997 年 (対数目盛) • 縦軸: 1 人当たり GDP,2006 年 (対数目盛) 15.3 天然資源 1 人当たり天然資源が多い国は,無資源国より豊かなのは 明らかにみえる.しかし,資源の賦存度と所得の関係は人 が最初に思うよりはるかに複雑である. • 正の相関 • 多くの天然資源がある国は,所得がより高くなる傾向 がある.しかし,資源が国を豊かにする法則には多く の例外がある. 第 15 章 地理,気候および天然資源 5 • 天然資源は経済成長に有用であるが,成長を達成する には必要でも十分でもないことを示唆している. • そのうち,資源の枯渇や,輸入国が代替財を見つけた り,新供給源が整備されたりすると,世界市場での価 格が低下する. • 資源ブームによる所得の増加は,ブームが終わってし 自然資本と成長 まうと維持できない水準に消費を増やすように思える. 所得水準よりも所得成長を見ると,天然資源にはさらに 不利な結論になる. • その結果,ブームが終わった国は,消費水準を維持し ようとすると,低い貯蓄率 (そして投資の低下) を経 験する. (1) 総国民資産 • 最終結果は,一時的な資源のブームの後には,ブー ムがまっがく起きなかったときよりも低い所得水準が やってくる. • 総国民資産 総国民資産 = 自然資本 + 物的資本 + 人的資本 (15.1) 工業化の動学 • 総国民資産に占める自然資本の比率 自然資本 総国民資産 = 自然資本 自然資本 + 物的資本 + 人的資本 天然資源は短期の利益を生むが,長期では負担になるよ (15.2) (2) 自然資本と成長 • 国民資産に占める自然資本の割合が大きな国は,1965 年 1998 年にかけて,自然資本の割合が小さな国の成 長よりも,きわめてゆっくりとしか成長していないこ うに経済構造を歪めてしまう. (1) オランダ病 • オランダ病: 天然資源の存在が,究極的には国内の製 造業部門に有害となる過程 • オランダ沖にあった大規模の天然ガス田の 1960 年代初 頭の開発によって,オランダの製造業部門が縮小した. とを発見した. • 天然資源の輸出に多くを依存する国は,1970 年から 1990 年にかけて,資源輸出に依存しない国よりも成 長は遅かったことを発見した. (2) 連関関係 • 後方連関: 国内である産業 (資源採掘など) の生産活 動が他産業の生産物を需要することで他の産業の成長 を刺激する状況. 天然資源の豊かさは,他の事態が等しければ,国の暮ら し向きをよくさせる.しかし,天然資源が所得に与える効 果はよくても微弱である. • 前方連関: (資源採掘のような) 産業が生産のためにそ れを投入しているたの産業の成長に影響すること. 後方連関と前方連関が存在する場合には,天然資源の採 15.3.3 資源の呪いの説明 • 天然資源の存在は,実際のところ経済成長の障害にな りうる. • 天然資源の豊かな国は,経済的成功に必要な文化的属 性を発達させない. 掘は経済全体の発展に始動できる. (3) 飛び地 • 飛び地の形態: ある国の経済の他の部分とはほとんど 何の接触もない経済発展する小さな穴場の形 飛び地の最も究極なものは,沖合いの石油採掘で,ここ では資本と労働者が現地経済とは何の接触もなく,石油が 過剰消費 汲み上げられ輸出されている. • 天然資源に由来する所得の急速な拡大は,一時的な傾 向をもつ. • 新資源の発見あるいは資源価格の急上昇は,一国の輸 出収入を急上昇させる. 政治 • 適切な政策によって,天然資源の存在は成長への重要 な恩恵となりうる. 第 15 章 地理,気候および天然資源 6 • 地理と気候の特性は,国の経済成果と相関する強い証 拠がある. (1) 天然資源が政府の政策に与える負の影響 • 天然資源は政府部門の過剰な拡大を導くことが多い. • 天然資源に関しては,この証拠は弱い. • 政府が天下り団体に分配できる収入が増えると,天然 資源の存在は政府を操るための争いの重要性も増え る.そうした人々は,権力維持あるいは権力獲得によ ■ 資源と初期の産業発展: りいっそうの努力をする. 15.5 • 資源が巨大な経済的レントに結びつく. 基本用語 • spillover (波及効果) • 経済的レント: その要素の供給を引き出すのに必要な 価格を超える生産要素への支払いである. • maquiladora (マキラドーラ,メキシコの関税免除輸 • 大きな経済的レントがあるところでは,このレント・ シーキングの利点は大きく,したがって,こうした活 動に浪費される資源も大きい. 出加工制度) • natural capital (自然資本) • Dutch disease (オランダ病) • 採掘費用 < 市場価格 • backward linkages (後方連関) 結論 • forward linkages (前方連関) ⋆ memo • enclaves (飛び地) 15.6 (2) 天然資源が政治システムに与える負の影響 15.4 石炭鉱業の場合 問題 1, 2, 3, 4, 5, 6
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