ジュエリークリーナー - 日本中毒情報センター

公益財団法人 日本中毒情報センター 保健師・薬剤師・看護師向け中毒情報
【ジュエリークリーナー】Ver.1.00
公益財団法人 日本中毒情報センター
保健師・薬剤師・看護師向け中毒情報
ジュエリークリーナー
1.概要
貴金属のお手入れが家庭で簡単にできるとして、様々なジュエリークリーナーが市
販されている。当センターで調べた限りでは、家庭用として現在販売されているも
のは、次の4つのタイプが多い。
(1)チオ尿素含有タイプ:チオ尿素(10%以下)と酸(硫酸、リン酸等 数%)を
主成分とし、シルバージュエリーの黒ずみなどを取り除くことを主目的として
いる。酸性の液体で、貴金属を浸漬して使用する。
(2)発泡タイプ:炭酸水素ナトリウムや過炭酸ナトリウムを主成分とし、含有量は
多いもので 50%程度である。剤型は錠剤や顆粒で、発泡することによる洗浄
効果を期待しており、溶かした液に貴金属を浸漬して使用する。使用溶液の
液性は中性から弱アルカリ性である。
(3)アルコールタイプ:エチルアルコールやイソプロピルアルコールなどのアル
コールを 20%近く含有する。貴金属を浸漬して使用する液体や、貴金属に直
接スプレーするムース状のものがあり、液性は弱アルカリ性である。
(4)界面活性剤タイプ:陰イオン・非イオン界面活性剤を主成分とし、剤型は液
体で貴金属を浸漬して使用するものが多い。
なお外国製品には、日本で毒劇物に該当する成分を含有しているものもあり、
注意が必要である。
2.毒性
チオ尿素:ラット経口 LD50 125mg/kg 1)
硫酸
:ヒト経口推定致死量 濃硫酸(90%以上) 5~10mL
リン酸 :ヒト経口最小致死量 8mL 2)、
ラット経口 LD50 1,530mg/kg
1)
炭酸水素ナトリウム:乳児の経口最小中毒量 1,260mg/kg
1)
ラット経口 LD50 4,220mg/kg
1)
過炭酸ナトリウム :マウス経口 LD50 2,050mg/kg
1)
エチルアルコール :成人経口最小致死量 5~6g/kg
2)
小児経口最小致死量 3g/kg(1mL=0.789g)
イソプロピルアルコール:ヒト経口最小致死量 3570mg/kg
1)
陰イオン界面活性剤:ヒト推定致死量 約 200g
4)
ラット経口 LD50 1~5g/kg
5)
非イオン界面活性剤:ラット経口 LD50 8~30g/kg
5)
3)
2)
3.症状
(1)チオ尿素含有タイプ:経口:チオ尿素及び酸による粘膜の刺激・腐蝕症状
(嘔気、嘔吐、口腔・咽頭・食道・胃の疼痛と炎症)
経皮:酸による化学熱傷を生じる可能性がある。
(2)発泡タイプ:経口:高濃度の場合や錠剤・顆粒をそのまま口にした場合は、
炭酸塩による粘膜の刺激症状(口腔・咽頭の炎症、悪心、
嘔吐)、大量服用時は胃・腸の膨満などが現れる可能性が
ある
(3)アルコールタイプ:経口:アルコールによる 嘔吐、紅潮、頻脈、酩酊、
代謝性アシドーシス、血圧低下、血糖低下、痙攣、
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呼吸抑制、昏睡、小児では特に低血糖性痙攣を生ずる
可能性がある
(4)界面活性剤タイプ:経口:界面活性剤による粘膜の刺激症状(口腔・咽頭の
炎症、悪心、嘔吐、下痢、腹痛、鼓腸)
4.処置
家庭で可能な処置
経口 摂取した製品の成分が明らかで、その毒性が限られており、小児が誤飲
した程度の少量摂取の場合は、牛乳(120mL~240mL、幼児 5mL/kg 以下)を
与える
眼
流水で 15 分以上洗浄、洗浄後刺激、疼痛が残る場合は受診
経皮 水で充分に洗浄、洗浄後刺激、疼痛等が残る場合は受診
医療機関での処置
経口:希釈(牛乳、卵白等)、胃洗浄
チオ尿素含有タイプ、発泡タイプ、界面活性剤タイプのものは、消化管
粘膜の刺激作用に注意する。場合により粘膜保護剤(マーロックス、
アルロイド G など)の投与
発泡タイプのものは、ガスによる消化管の膨満などに留意する。
消化管内ガス排除には、導管による処置やジメチルポリシロキサン
(ガスコンなど)の投与
大量摂取の場合は、血液ガスや血中電解質バランスなどの検査
5.確認事項
・商品名、成分:容器に記載されている成分・性状など
・濃度:錠剤や顆粒の場合は、そのまま口にしたのか、溶かして飲んだのか
・摂取量:少しなめた程度か、容器から飲んでいるのか
・患者の状態:嘔吐していないか、口腔内の灼熱感や食道・胃の刺激症状がないか、
口腔粘膜に発赤などの変化はないか
6.情報提供時の要点
・意図的摂取による大量服用の場合や、錠剤・顆粒をそのまま摂取した場合、
吐かせずにすぐに受診を勧める
・成分などがはっきりしない場合は念のため受診を勧める
・受診の際に容器を持参するように指示する
7.体内動態
・過炭酸ナトリウム:加水分解により過酸化水素を生じる。過酸化水素は体内に
存在するカタラーゼの作用で直ちに水と酸素に分解される
6)
・炭酸水素ナトリウム:経口で良く吸収され、尿中に排泄
2)
・エチルアルコール:胃と小腸粘膜から主に吸収される
2)
・イソプロピルアルコール:経口摂取量の 80%が摂取後 30 分以内に吸収
排泄半減期は 2.5~3 時間
・陰イオン界面活性剤:消化管から吸収され数時間後に肝臓で代謝を受け、
ほとんどが 24 時間以内に尿中及び糞中に排泄
5)
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8.中毒学的薬理作用
・過炭酸ナトリウム:大量服用した場合、過酸化水素分解により酸素ガスを発生し、
胃や腸を膨満
6)
・炭酸水素ナトリウム:胃酸で中和され二酸化炭素を発生する。大量摂取の場合は、
体液電解質、酸塩基平衡に異常を来たす
6)
・陰・非イオン界面活性剤:直接刺激作用、細胞膜の脂質に作用して膜の機能を
消失させる
9.治療上の注意点
・酸を含有するものが多く、催吐や中和はリスクが高いため、原則として避けた
ほうが良い
・胃洗浄は、消化管粘膜の損傷に気遣って行うとともに、穿孔にも注意する
・発泡タイプでは、消化管の膨満がないか、また消化管穿孔を起こしていないか
など、腹部レントゲン撮影などで確認する。
消化管内のガス排除には、導管(胃管など)が原則であるが、状況により
ジメチルポリシロキサン(ガスコンなど)を投与する。
・大量摂取の場合は、消化管に対するチェック以外に、血液ガスや、血中電解質
濃度のチェックなど、総合的な評価も必要である。
11.参考文献
1)RTECS(2001)
2)Poisindex(2002)
3)急性中毒情報ファイル(1996)
4)澤田祐介、他:救急医学.12(10):1415,1988
5)救急中毒ケースブック(1986)
6)家庭内化学薬品と安全性(1990)
12.作成日
20080319 Ver.1.00
ID M70333_0100_2
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