シンナー - 日本中毒情報センター

公益財団法人 日本中毒情報センター 保健師・薬剤師・看護師向け中毒情報
【シンナー】Ver.1.00
公益財団法人 日本中毒情報センター
保健師・薬剤師・看護師向け中毒情報
シンナー
1.概要
接着剤や塗料うすめ液などに使用されるシンナーは、トルエンが主成分でキシレ
ン、酢酸エチルを含有する有機溶剤混合液である。メタノールを含有する商品もあ
り、ごく一部にベンゼンを含むものもある。
シンナー吸入によって多幸感を求めようとする者があり、吸入中に意識を失い、
ビニール袋から口、鼻をはなせず窒息する場合がある。また、吸入中、引火して熱
傷を負うケースもある。ここでは主成分のトルエン、キシレンの毒性について述べる。
2.毒性
シンナーとしてのヒト経口推定致死量
15~30mL
キシレン:ヒト経口最小致死量
50mg/kg(4)、
ラット経口 LD50 4,300mg/kg
ベンゼン:ヒト経口最小致死量
50mg/kg(0.057mL/kg)(4)
トルエン:ヒト経口推定致死量 15~30mL(2)、
ヒト経口最小致死量 50mg/kg
ヒト中毒発現血中濃度 2.5mcg/mL
(50%に顕著な中毒症状発現)(1)
ヒト吸入最小中毒量 100ppm(4)
酢酸エチル:ヒト吸入最小中毒量 400ppm(4)、
ラット経口 LD50 5,620mg/kg(4)
3.症状
循環器系:心室細動による不整脈(死亡原因となる)
呼吸器系:吸入時・・・気管支・喉頭の刺激、肺水腫
誤嚥時・・・出血性肺炎
神経系 :吸入・・・多幸症、頭痛、めまい、運動失調
経口・・・初期に興奮、後期に抑制。大量では錯乱、昏睡
消化器系:嘔吐、口腔・胃の灼熱感、流涎、咳嗽
その他 :キシレンによる肝障害、好酸球増多症、尿細管性アシドーシス
から低カリウム血症性筋肉麻痺、血尿、蛋白尿、腎不全(不可
逆的)、代謝性アシドーシス
慢性吸入者:CPK の上昇、
ミオグロビン尿症の場合・・・横紋筋融解症を考慮
筋力低下、胃腸障害、嗜眠、幻覚、末梢神経障害、
高クロル血症性アシドーシス、小脳性運動失調
4.処置
家庭で可能な処置
催吐は誤嚥の危険性があるので禁忌
医療機関での処置
嚥下後 1~2 時間以内の胃洗浄有効(カフ付きチューブを使用)
誤嚥性肺炎対策、アシドーシスの補正、対症療法
呼吸管理、心電図モニター
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【シンナー】Ver.1.00
5.確認事項
1)呼気臭:呼気にシンナー臭がするか・・・小児の事故で、呼気にシンナー臭があ
れば誤飲または吸入の可能性が高い。仕事中の事故では事情がはっきりして
いるが、故意に吸入している場合にはシンナー吸入を隠すことが多い
2)部位:小児の経口事故の場合、誤嚥性肺炎をきたすことが多い
3)患者の状態:症状の有無
6.情報提供時の要点
1)吸入:新鮮な空気を吸入させても頭痛や悪心など起こるようであれば受診を指示
2)経口:嘔吐したり誤嚥した可能性のある場合には化学性肺炎の危険が高いので
受診を指示
7.体内動態
吸収:あらゆる経路から吸収。とくに吸入や経口で急速に吸収されるが、
経皮吸収はきわめて遅く、一般には全身的な急性中毒症状が発現す
るまでにはいたらない
分布:脂肪組織に蓄積し、ゆっくり排泄
排泄:トルエンは主に肝臓で代謝され、馬尿酸として尿中へ、20%以下
が未変化体で呼気中に排泄(半減期は 7.5 時間)。キシレンは肝で
代謝され、メチル馬尿酸として尿中へ、5%以下が未変化体で呼気
中に排泄(半減期は 20~30 時間)
8.中毒学的薬理作用
トルエン、キシレン:麻酔作用、皮膚・粘膜に対する刺激作用
ベンゼン:骨髄造血細胞阻害作用
9.治療上の注意点
1)急性中毒では麻酔作用が問題
2)慢性中毒では骨髄抑制、肝障害、腎障害、脳萎縮などさまざまな作用を
示す。吸入嗜癖の場合、慢性中毒による健康障害(前述の症状)につい
て注意し、家庭や友人等を含めた周囲の協力により吸入を止めるよう強
力に指導するのが望ましい
3)診断確定には気中・血中トルエンの濃度測定、尿中馬尿酸の測定
4)メタノール混入シンナーではメタノール中毒にも注意
5)動脈血ガス、胸部単純 X 線撮影。 無症状でも 6 時間は経過観察が必要。
過呼吸、発熱等異常がみられた場合は入院加療
6)心電図モニターにより不整脈に注意。エピネフリンは、心筋の感受性を
高め、不整脈誘発の危険性が高いので使用を避ける
10.参考文献
(1)Poisindex (1989)
(2)Clinical Toxicology of Commercial Products
(3)産業中毒便覧 (1981)
(4)RTECS (1997)
(1984)
11.作成日
20011114 Ver.1.00
ID M70137_0100_2
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