何故こんなことになったか 保存料の化学的本質 pH調整剤酢酸ナトリウム

健康食品管理士認定協会会報 第6巻 第2号 2011年
当然であろう。
こうした行為は消費者に対する誤ったへつらいであり、決して消費者の安全を第一に考えた姿
ではない。ただ注意して頂きたいのは、この結論を短絡的に見ていずれにしろ添加物を使用する
ことが危険に感じられるかもしれないが、その必要はない。図に示したようにこの両者の毒性は
食塩の毒性指数25.6よりも低く、食塩よりも使用量が少ないなどのことを考慮すればどちらを使
用してもこの量では健康上の問題は全くない。
何故こんなことになったか
しかし、大きな問題は「保存料を使用していません」と言いながら相対的には明らかに毒性の
強い化学物質をその保存料よりも多く使用していることである。普通に考えれば保存料を使った
方がよいはずであるのを、あえて不使用にしているのは、消費者がそちらを好むからである。
どうしてこのような非科学的なことが、当たり前のように行われるようになったかということ
をよく考えてみる必要がある。その根底には「保存料は危険な物質である」という量を無視した
固定概念で保存料を追放することに情熱をかけた方々の運動と、それを支援したマスメディアの
報道の1つの結果と私は判断している。この問題に関しては更に稿を改める予定である。
保存料の化学的本質
ついでに知っておいて頂きたいのは、合成保存料もpH調整剤も化学的に合成されて作られてい
る点においてもソルビン酸と変わりがない。さらに、両者ともに天然に存在するという意味にお
いても同じである。天然だからどうこうという議論をするつもりはない。しかし、一般の方は合
成という言葉に危険という情報が刷り込まれている人が多いので、あえてこの議論をさせて頂く。
この天然・自然を安全と考える考え方の問題点は、稿を改めさせて頂く予定である。
最も追放の対象となっている保存料ソルビン酸は「ななかまど」という植物に存在するもので
あり、脂肪を構成している脂肪酸の類縁物である。従って、体内に取り込まれたソルビン酸は
我々が脂肪を摂取した時に働く酵素によって分解され体内では水と炭酸ガスになって排泄される。
ソルビン酸の摂取は生物化学的に言えば脂肪酸の摂取と同じと言える。実際、脂肪酸で分子量の
小さなプロピオン酸は立派な保存料として認められているし、このプロピオン酸は多くの発酵食
品に含まれているし、我々の腸内でも発生している。
pH調整剤酢酸ナトリウムもナトリウム供給源となる
酢酸ナトリウムも酢酸のナトリウム塩であるという点において天然物であると言っても良い。
しかし、同じ静菌効果を出すのに片方は約10倍必要であり、毒性は厳密にいえばpH調整剤である
酢酸酢酸ナトリウムの方が高いのである。
さらに、それだけ多く酢酸ナトリウムを使用することはそのまま、問題となるナトリウムの摂取
を増加させることになる(本誌Vol.5 p32参照)
。保存料を使用しなくて酢酸ナトリウムを使用した
食品は消費者に誤った心理的安心感を与えているのみで、消費者の健康を守るという立場からは
全く意味がないというより、使用すればするほど若干ではあるがソルビン酸より毒性の高い物質
を諸費者に摂取させることになる。少なくともナトリウムの供給という観点からは悪いのである。
64
健康食品管理士認定協会会報 第6巻 第2号 2011年
水分含量の調整で何がおこるか
保存料の代わりにpH調整剤を使用した場合、ナトリウムの摂取が多くなったり、ソルビン酸な
どより毒性の強いpH調整剤を使用したりすることを止めようと考えた業者は、この両者を使用せ
ずに安全な食品を作ろうと考える。この両者を使用しないで日持ちを良くする方法として次に考
えられる手は水分活性の調整と言う手段である。
腐敗という現象と水は切っても切れない関係にある。例えば新鮮な魚でも日干しにすればそれ
なりに何日か保存が可能である。このように、食品から水分を取ってやれば腐りにくくなる。と
ころが、新鮮な魚の状態と干物ではまるで味が違ってしまう。それに全ての食品を乾燥させて食
べていたのではそれこそ無味乾燥な食社会となる。
水分を保ったままに水分がないのと同じ状態が作れたらそれは素敵なことである。実際にそう
することは可能である。そのためには水が存在しても水としての作用を止めてしまえれば良い、
すなわち水が存在してもをあたかも存在しないかのようにすれば良いことになる。そんなうまい
方法があるのだろうか。そのためには水に何かを加えてその物質と水を親しませてしまうことに
よってそうすることは可能である。実は水の水分としての活性を失わせて食品を保存する昔から
良く用いられている方法が2つある。それは、砂糖漬けと塩漬けである。
砂糖と食塩には水分活性を変化させる能力がある
水が食品に存在して水としての作用をする能力のことを専門用語では水分活性という。この水
分活性は数値で表され、水そのものが1で砂糖や食塩が溶解しているなど種々の条件によって値
が1より低くなる。砂糖や食塩の水分活性を低下させる作用には、厳密な測定が数多くなされて
おり、数値も種々な条件の値が報告されている。
実際日常生活においても、食品の砂糖漬けを作ったり、新鮮な魚を翌日の焼き魚として食べよう
とする時などに軽く食塩を振っておいたりするものである。
水分活性が0.8を下回ってくると、多くの微生物は繁殖できなくなるので、乾燥させることなく
日持ちをさせる方法として砂糖や食塩の使用という方法がある。しかし、砂糖味はすべての食品
素材に合う訳でもなく、その使用の乱用はそのまま高カロリー食の問題につながる(増粘多糖類
無添加の図参照)、食塩も砂糖と同じように全ての食材に合う訳でもないし、その使用の増加は
健康被害の問題に直結している(本誌Vol.5)。従って「無添加」を標榜するために砂糖や食塩の
乱用によって保存料の添加を止めることはナンセンスである。実際の社会でも砂糖や食塩は大き
く味にも影響するので保存料の代わりに用いているようなことは少ない。
このように、保存料無添加食品と言っても現実にはとんでもない問題点が多く存在する。次号
には冷蔵または冷凍保存による無添加にすることの問題点を指摘させて頂くが、業界をこうした
姿勢に追い込んでしまっている消費者の一般常識の誤りに対して正しい啓発活動を行うのも我々
健康食品管理士の重要な課題であると考えている。
65