修士学位論文要旨 （ 通 信 制 ） 保 健 科 学 研 究 科 学 生 番 号 M 9 7 1 4 0 4 氏 名 最 相 伸 彦 要 介 護 高 齢 者 と 家 族 介 護 者 の 作 業 参 加 の 相 互 関 係 性 お よ び 健 康 関 連 QOL と 介 護 負 担 感 に 及 ぼ す 影 響 【 背 景 と 目 的 】 厚 生 労 働 省 は ，重 度 な 要 介 護 状 態 と な っ て も 住 み 慣 れ た 地 域 で 自 分 ら し い 暮 ら し を 人 生 の 最 後 ま で 続 け る こ と が で き る よ う ，「 地 域 包 括 ケ ア シ ス テ ム 」 の 構 築 を 進 め て い る ．そ の 課 題 の 一 つ と し て 要 介 護 者 へ の 支 援 と 同 様 に ，介 護 を 担 う 家 族 介 護 者 に 対 す る 支 援 体 制 の 構 築 も 今 後 の 重 点 課 題 と し て あ げ ら れ て い る ．要 介 護 高 齢 者 や 介 護 を 担 う 家 族 に と っ て ，日 常 生 活 の 中 に 介 護 負 担 感 が 存 在 す る こ と は ，仕 事 や 家 事 ，社 会 活 動 ，余 暇 的 活 動 へ の 制 限 な ど 家 族 の 生 活 に 変 化 が 生 じ ，両 者 の QOL へ 影 響 を 及 ぼ す 可 能 性 が あ る た め ，よ り 有 効 な 両 者 へ の 支 援 が 必 要 と さ れ て い る ．今 後 ，地 域 で の 要 介 護 高 齢 者 お よ び 介 護 者 の 生 活 支 援 に 向 け ，作 業 療 法 士 が 果 た す 役 割 や 効 果 を 明 示 す る こ と は ，地 域 リ ハ ビ リ テ ー シ ョ ン 分 野 で 作 業 療 法 が 貢 献 す る た め に も 重 要 で あ る が ， 作 業 療 法 の 焦 点 で あ る 作 業 参 加 が 及 ぼ す 影 響 に つ い て は 検 討 さ れ て い な い ． そ こ で ，要 介 護 高 齢 者 お よ び 家 族 介 護 者 の 作 業 参 加 の 特 徴 を 把 握 し ，両 者 の 作 業 参 加 と 健 康 関 連 QOL や 介 護 負 担 感 の 影 響 を 構 造 的 に 明 ら か に す る こ と を 本 研 究 の 目 的 と し た ． 【 対 象 と 方 法 】 対 象 は ， 西 日 本 A 県 8 か 所 の 通 所 リ ハ ビ リ テ ー シ ョ ン ， 訪 問 リ ハ ビ リ テ ー シ ョ ン ， 訪問看護ステーションのいずれかを利用している要介護高齢者と家族介護者とした． 調 査 項 目 は ， 一 般 情 報 ， 自 記 式 作 業 遂 行 指 標 (Self-completed occupational performance index； 以 下 ， SOPI)， MOS 12-item Short Form Health Survey（ 以 下 ， SF-12），日 本 語 版 Zarit 介 護 負 担 尺 度 短 縮 版 (以 下 ，J-ZBI8)と し た ．分 析 は ，記 述 統 計 ，項 目 反 応 理 論 ，マ ル チ レ ベ ル 相 関 分 析 ，級 内 相 関 ，確 認 的 因 子 分 析 ，マ ル チ レ ベ ル 構 造 方 程 式 モ デ リ ン グ (以 下 ，MSEM)，行 為 者 － パ ー ト ナ ー 相 互 依 存 性 モ デ リ ン グ (以 下 ， APIM)を 実 施 し た ． 分 析 に は ， IBM SPSS Statistics Base Grad Pack 23.0， Mplus Ver.7.3， HAD Ver.12.0， Exametrika Ver.5.3 を 使 用 し た ． な お ，本 研 究 は 協 力 施 設 お よ び 吉 備 国 際 大 学 倫 理 審 査 委 員 会 の 承 認 を 得 て お り ，対 象 者 に は 口 頭 と 書 面 に て 目 的 と 手 順 を 説 明 し ， 同 意 を 得 て 実 施 し た ． 【 結 果 】 対 象 と な っ た 要 介 護 高 齢 者 は 男 性 50 名 ， 女 性 32 名 ， 平 均 年 齢 は 78.3 歳 で あ り ， 家 族 介 護 者 は 男 性 16 名 ， 女 性 66 名 ， 平 均 年 齢 は 68.5 歳 で あ っ た ． 要 介 護 高 齢 者 お よ び 家 族 介 護 者 の SOPI，J‐ ZBI8 の 項 目 反 応 理 論 の 結 果 ，全 て の 項 目 に お い て 識 別 力 ， 困 難 度 と も 基 準 を 満 た し て い た ． MSEM の 結 果 ， 個 人 レ ベ ル の 作 業 参 加 か ら 健 康 関 連 QOL へ の 非 標 準 化 係 数 は 2.65 で あ っ た の に 対 し て ， 集 団 レ ベ ル の 非 標 準 化 係 数 は 16.23 で あ り 共 に 有 意 で あ っ た ．ま た ，作 業 参 加 か ら 介 護 負 担 感 へ の 非 標 準 化 係 数 は ， -3.24 で 有 意 で あ っ た ． 介 護 負 担 感 か ら 健 康 関 連 QOL へ の 非 標 準 化 係 数 は -4.51 と 有 意 で あ っ た ． APIM の 結 果 ，要 介 護 高 齢 者 の 作 業 参 加 が 自 身 の 健 康 に 与 え る 行 為 者 効 果 と 家 族 の 健 康 に 与 え る パ ー ト ナ ー 効 果 は 同 様 に 有 意 な 影 響 を 示 し た ．標 準 化 係 数 は ，行 為 者 効 果 が 0.46， パ ー ト ナ ー 効 果 が 0.35 で あ り ， 共 に 大 き い 影 響 を 与 え て い た ． 家 族 介 護 者 の 作 業 参 加 は ，自 身 の 健 康 に 与 え る 行 為 者 効 果 の み 有 意 な 正 の 影 響 を 示 し た ．標 準 化 係 数 は ， 行 為 者 効 果 が 0.32， パ ー ト ナ ー 効 果 が 0.38 で あ っ た ． 【 考 察 】 作 業 参 加 の 個 人 レ ベ ル と 家 族 に お け る 集 団 レ ベ ル の 階 層 的 特 性 に お い て ，個 人 レ ベ ル の 作 業 参 加 と 比 べ 集 団 レ ベ ル の 作 業 参 加 が 健 康 関 連 QOL に 与 え る 影 響 は 非 常 に 大 き く ，家 族 と し て の 集 団 特 性 の 影 響 力 は 強 い も の で あ っ た ．こ の 要 因 と し て ，両 者 が 主 体 的 に 影 響 を 及 ぼ し 合 う 作 業 で あ る 共 作 業 の 存 在 が ，健 康 関 連 QOL に 大 き く 影 響 を 与 え て い る こ と が 考 え ら れ る ．ま た ，介 護 負 担 感 か ら 健 康 関 連 QOL に 与 え る 影 響 と 比 べ 作 業 参 加 か ら 健 康 関 連 QOL に 与 え る 非 標 準 化 係 数 は 大 き い こ と か ら ，集 団 レ ベ ル で 健 康 関 連 QOL を 向 上 さ せ る に は ，介 護 負 担 感 の み な ら ず 両 者 の 作 業 参 加 を 支 援 す る こ と が 重 要 で あ る こ と が 示 唆 さ れ る ． 作 業 参 加 の 相 互 依 存 性 に お い て ， 要 介 護 高 齢 者 の 作 業 参 加 は ， 自 身 の 健 康 関 連 QOL の み な ら ず ，家 族 介 護 者 の 健 康 関 連 QOL に も 大 き な 影 響 を 与 え て い た ．こ れ は ，家 族 全 体 の 生 活 が 要 介 護 高 齢 者 を 中 心 と し た 生 活 と な っ て お り ，そ の 影 響 が 家 族 介 護 者 の 健 康 関 連 QOL を 変 化 さ せ る 可 能 性 が あ る こ と を 示 唆 す る ．ま た ，家 族 間 で 作 業 参 加 の 相互の影響の関連性が明らかになったのは本研究による新たな知見であると考えら れ る ． 本 研 究 は ,横 断 的 調 査 に 基 づ い た 知 見 で あ り ,各 変 数 間 の 因 果 関 係 に は 十 分 に 言 及 しきれないことや対象者の認知や記憶などの問題によるバイアスが生じている可能 性 が あ る ．今 後 ，縦 断 的 調 査 を 実 施 し ，よ り 信 頼 性 の あ る 知 見 を 得 て ，地 域 で の 作 業 療 法 実 践 に お け る 具 体 的 な 介 入 の 視 点 を 明 ら か に し て い く 必 要 が あ る ．
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