2016年2月号 - 株式会社コーケン

第 4 3 1 号
平成 28 年 2 月 1 日
コーケン通信
目
1
次
【ニュースファイル 2月】
チョコレート摂取による腸内環境改善効果
2
【今月の特集】
抗寄生虫薬「イベルメクチン」について
3
【ピックアップ情報】
チョコレートと歴史
株式会社 コ
ー
ケ
ン
〒105-0011 東京都港区芝公園 2 - 9 - 5 向陽ビル
TEL. 0 3 - 3 4 3 4 - 7 6 8 1
URL http://www.ja-koken.co.jp/
コ ー ケ ン 通 信
【ニュースファイル 2月】
チョコレート摂取による腸内環境改善効果
カカオ豆に含有されるポリフェノールは、認知症予防、血圧抑制、動脈硬化
のリスク軽減、善玉コレステロール増加など健康増進に対する効果が判明して
いることから、カカオ豆で作られるチョコレートは「健康にいい」と言われて
います。今回は、新たに帝京大学と株式会社明治が「チョコレート摂取による
腸内環境改善効果の探索的研究」の成果を発表しました。
研究内容は、腸内環境改善に対する効果を調査したもので、20歳以上50
歳未満の排泄回数が週平均4回以下の女性を対象に実施されました。
調査項目は「排便回数」
「便色」
「便量」について、高カカオチョコレートを
毎日25グラム、2週間の摂取で行われました。その結果、排便回数や便量の
増加、便色の良化、腸内細菌の変化が認められ、便通が優位に改善されたとい
う報告でした。なお、被験者の体重やBMIの変化はなかったようです。
高カカオチョコレートの継続的な摂取による便通改善効果については、カカ
オに含まれる「カカオプロテイン」によるとされています。世界で初めて抽出
に成功したカカオプロテインは、消化されにくいたんぱく質で、小腸で消化吸
収されずに大腸に届くという特性を持っています。大腸まで届くカカオプロテ
インは、便量を増加して腸内細菌を活性化する作用もあるとされています。
今、日本で便秘に悩む人は、男性約160万人、女性約320万人ともいわ
れており、便秘になることで腸内に有害物質が生成され、さまざまな体調不良
が引き起こされるといわれています。近年、大腸がんによる死亡率が増加して
おり、便通の改善と大腸がんは関連がありそうです。
おいしいチョコレートを食べることでカカオプロテインを摂取することにな
り、便秘が改善できる。ひいては便秘解消、大腸癌予防につながるのであれば
一石二鳥といえますが、やはり食べ過ぎは肥満や糖尿病の要因になるので、適
量の摂取が肝要ということになります。
(1)
(2)
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【今月の特集】
抗寄生虫薬「イベルメクチン」について
ノーベル医学・生理学賞に輝いた北里大特別栄誉教授の大村智氏は、微生物
が作り出す有用な化合物を多く発見し、医療や研究に大きく貢献しました。
中でも寄生虫による風土病の治療薬として実用化した「イベルメクチン」は、
アフリカなどで無償供与され、世界で年間3億人を失明の恐怖から救っていま
す。そこで今回は、ノーベル賞の受賞理由となった「寄生虫によって引き起こ
される感染症の治療の開発」で知られた、抗寄生虫薬「イベルメクチン」につ
いて紹介します。
静岡県伊東市内のゴルフ場近くの土壌中から、新種の放線菌「ストレプトマ
イセス・アベルメクチニウス」が発見されました。共同研究していた米製薬会
社のメルクに試料を送り、実験したところ、寄生虫や昆虫など節足動物の神経
に作用し、少量の投与で高い効果を発揮することが分かりました。
この菌から抽出した化合物を「エバーメクチン」と命名し、薬剤として使う
ための改良を重ね、分子の構造を一部変換して「イベルメクチン」という化合
物が開発されました。
当初は家畜やペットの寄生虫駆除剤として販売されましたが、人間の感染症
にも有効なことが臨床研究で判明したことから、アフリカや中南米の人々を苦
しめていた「オンコセルカ症」という風土病に使用されました。
オンコセルカ症は河川盲目症とも呼ばれ、ブユに刺されることで糸状の微小
生物である線虫が目などに侵入する感染症です。アフリカで年間数万人を失明
させていた恐ろしい病気でありイベルメクチンの効果は劇的でした。WHOは
将来、オンコセルカ症が撲滅するとみています。
イベルメクチンは、寄生虫のフィラリアに感染して皮膚がゾウのように厚く
なる「リンパ系フィラリア症」(象皮病)という熱帯病や、沖縄県や東南アジ
アなどで発生する糞線虫症(ふんせんちゅうしょう)にも効くことが分かりました。
日本国内における健保適応疾患としては、
「腸管糞線虫症」と「疥癬 (かいせん) 」
があります。イベルメクチンの商品名は「ストロメクトール錠3mg」(マルホ株
μgを糞線虫では
式会社)で、それぞれの疾患に対して体重1㎏当たり約200 2回、疥癬では1回服用できます(一般論としては、孵化していない虫卵に対
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しては効果がないため、2回服用が好ましい)。2回内服する場合は1ないし
2週間あけます。
糞線虫は、長さが2mmほどの糸くずのような虫で、人間の小腸上部粘膜に
寄生します。世界的には熱帯から温帯にかけて広く分布していますが、国内で
は奄美・沖縄などの南西諸島が主な流行地です。
感染は土壌中にいる幼虫が皮膚から入ってきて起こり、人体中で世代を重ね
ます。これは成虫が産んだ卵は腸の中でふ化し、幼虫の一部が皮膚や粘膜から
もぐり込んで血液やリンパ液の流れに乗って肺に行き、腸管におりてきて親に
なります。そしてそれがまた卵を産んで、ということを繰り返して、何十年も
感染が持続するのです。
この性質により、この虫をもっている人が、ステロイド薬や抗がん薬などの
免疫機能を抑える働きのある薬の投与を受けると、寄生している虫の数が増え
続け、播種性 (はしゅせい:全身に広がるという意味) 糞線虫症という重い病気
になります。
疥癬は、疥癬虫(ヒゼンダニ)というダニが皮膚に寄生して起こる皮膚感染症
です。体のあちこちに小さな赤いボツボツができ、とくに夜間に強いかゆみを
生じるのが特徴的です。
この病気には通常疥癬と呼ばれるものと他の人に感染する力が強い角化型疥
癬(別名ノルウェー疥癬)と呼ばれる2つの種類の病型があります。
これまでは、主にかゆみ止めの塗り薬が使用されていましたが、イベルメク
チンの登場により1回ないし2回の内服で疥癬虫の駆除が可能になりました。
イベルメクチンは、日本でも重要な治療薬の一つとして使用されています。
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【ピックアップ情報】
チョコレートの歴史と滋養強壮剤
チョコレートは、15世紀
中南米のアステカ文明やオルメカ文明の時代に
王様の滋養強壮の薬として使用されたのが始まりです。その頃のチョコレート
は、今のようなお菓子になっていなかったので、カカオ豆をすり潰したドロド
ロの苦い液体で、それをそのままコップに入れて葡萄酒のように飲んでいまし
た。王様は健康でなければならない、子孫を残さなければならないということ
もあり、滋養強壮面で重宝されていたようです。さらに当時は、儀式としても
用いられていたようで、カカオのドロドロした苦い液体に唐辛子を入れ赤くし
て、刺激的な、一種の興奮剤として使われていたという歴史もあります。
その後、コロンブスなど冒険家がカカオをヨーロッパに持ち帰り、冒険をサ
ポートしてくれた王侯貴族にカカオなどを献上しました。カカオは、チョコレ
ートとして砂糖やミルクなどを入れているので美味しいのですが、カカオ度数
100%のカカオそのものは、単純に苦いだけで、いくら「良薬は口に苦し」
といってもヨーロッパでそのまま薬として使うのは難しかったようです。
そこで、冒険家が献上する時に工夫して砂糖を入れたのが好まれ、ヨーロッ
パに馴染むきっかけとなりました。さらに、王侯貴族のお抱え医師が、当時の
最先端医療としてチョコレートを処方するようになり、より王侯貴族は健康に
も良いという認識を持ち、ヨーロッパで体に良い飲み物として広まりました。
その後、王侯貴族のお抱え薬剤師が一種の滋養強壮剤的なものとして処方する
ようになり、ポピュラーになっていき、多い時では、100種類のいろいろな
処方があったようです。
15世紀のアステカの王様から始まったチョコレートですが、ルイ16世の
お抱え薬剤師が処方箋付きで、王様だけでなく、お金持ちや貴族などを対象に
薬局で販売できるようにしたことで、それが世界最古のチョコレートショップ
として認識されました。日本でも有名な「ガレ」(ドゥボーヴ・エ・ガレ)とい
うブランドです。
それまでは薬だったチョコレートですが、当時は政教一致につき、王様や貴
族が支援している教会にチョコレートを寄付しました。教会では現金を得るた
めにチョコレートに砂糖を入れて固めたり、ドライフルーツにチョコレートを
かけて売るようになりました。それが発展してだんだんとお菓子として扱われ
るようになり、薬としてのチョコレートは忘れられるようになってしまいまし
た。