平成 23 年度特殊講義:国際公共政策入門 NPT-CTBT-FMCT 水平拡散防止から垂直拡散を困難にする流れ 担当教員:竹内俊隆 NPT で核保有国の増加を防ぐ。一方、核実験禁止の流れもあった。「死の灰」への危惧から PTBT(地下核実験以外は禁止)が 1963 年に成立し、その後は地下核実験を含む全面的な禁 止=CTBT へ。PTBT では先発核兵器国(英米ソ)は実験継続が困難ではなかったが、後発核 兵器国(フランスと中国)は実験実施に困難が伴うので署名せず。CTBT ですべての核兵器 国の新規核弾頭の開発が困難に(垂直拡散が難しくなった)。だたし、CTBT の発効の見通 しはなし。次の課題は、FMCT(カットオフ条約)で核兵器の原材料である核分裂性物質自体 の量を減らす。 ジュネーヴ軍縮会議が過去 15 年程度空転しており、 交渉はまだ始まらない。 NPT(核兵器不拡散条約) 1968 年に署名開放され、1970 年に発効 (わが国は 1970 年署名、1976 年に批准。批准に 6 年=原子力の平和利用への懸念。海外の 一部では、核武装の可能性を残すためとささやかれた。) 締約国は 190 ヶ国で、非締約国はインド、パキスタン、イスラエル。脱退宣言した北朝鮮 の法的地位は微妙(法的には脱退と思うが、抜け駆けを許す前例となる可能性あり)。 三本柱 ①核不拡散:米、露、英、仏、中は「核兵器国」。 「核兵器国」以外への核兵器の拡散を防止。 「核兵器国」=「1967 年 1 月 1 日以前に核兵器その他の核爆発装置を製造しかつ爆発さ せた国」 ②核軍縮:誠実に核軍縮交渉を行う義務(第 6 条)―交渉であって核軍縮ではない ③原子力の平和的利用:締約国の「奪い得ない権利」(第 4 条)、原子力の平和的利用の軍 事技術への転用を防止するため、非核兵器国が国際原子力機関(IAEA)の保障措置を受諾 する義務を規定(第 3 条)。 加盟国は増加してきた(普遍性の確保) 南ア(91 年。保有していた核兵器を放棄して「非核兵器国」として加入。) 仏・中(92 年)アルゼンチン(95 年)、ブラジル(98 年)、キューバ(02 年) 条約の効力発生の 25 年後(つまり 1995 年)、条約が無期限に効力を有するか追加の一定 期間延長されるかを決定する会議の開催(第 10 条 2) 1995 年 5 月の NPT 運用検討会議 ① 「NPT 延長に関する決定」:コンセンサスにより、条約の無期限延長を決定 ② 「条約の運用検討プロセスの強化に関する決定」:5 年ごとの運用検討会議のために準 備委員会を 3 回開催。 ③ 「核不拡散と核軍縮のための原則と目標に関する決定」:96 年までの CTBT 交渉完了と それまでの核実験の最大限の抑制、FMCT(カットオフ条約)交渉の即時開始と早期妥結、 核兵器国による究極的廃絶を目標とした核軍縮努力 2010 年の運用検討会議 (2005 年の会議では、最終文書は採択されなかった。) 核軍縮・核不拡散のための 64 の行動計画を明記した最終文書を全会一致で採択。 核兵器国による「核廃絶の明確な約束」を再確認し、「逆戻りせず、検証可能かつ透明な」 方法で核軍縮を進める。ただし、核軍縮協議の目標年や、核廃絶への行程表は削除 IAEA(国際原子力機関) アイゼンハワー米国大統領の「Atoms for Peace」演説(1953 年、国連総会で)が契機で、 1954 年に設立。2011 年 5 月末現在の加盟国は 151 ヶ国(インド、パキスタン、イスラエル も)で、天野之弥氏が事務局長。 基本目的 ①原子力の平和的利用を促進 ②原子力の平和的利用から軍事的利用への転用防止 手段 原子力の軍事転用防止のために保障措置を設定し、実施する。 保障措置について ①包括的保障措置協定 NPT が締約国である非核兵器国に対し、原子力の平和利用に係るすべての核物質を対象と する包括的保障措置協定を IAEA との間で締結するよう義務付け。締約国が申告した原子 力施設のみを対象とし、未申告の施設は対象外である。 NPT 締約国は 190 ケ国であるが、包括的保障措置協定締結国は現在でも 164 にとどまる。 ②追加議定書 イラクと北朝鮮が IAEA との包括的保障措置協定にもかかわらず、未申告で核分裂性物質 の製造を実施していたことが判明した。つまり、IAEA の査察では発見できなかった。その ため、1997 年に、IAEA の権限を強化した「追加議定書」が採択された。2011 年 5 月末現 在、139 カ国が署名し、108 カ国で発効している。 内容:現行の保障措置協定で未申告の原子力関連活動を申告すること、現行協定において アクセスが認められていない場所等への補完的なアクセスを IAEA に認めること(チャレン ジ査察) 。そのため、未申告施設にも 24 時間前の事前通告で赴き、土壌や空気中の放射能 を分析することができる。 CTBT(包括的核実験禁止条約) 1996 年に国連総会で採択(軍縮会議ではインドの反対でとん挫-コンセンサス方式のため) 。 2011 年 5 月末現在で、署名国 182 か国、批准 153 か国(ほとんど増えていない) 基本目的(NPT 非加盟国を含むすべての核兵器保有国の性能向上を抑制する) 宇宙空間、大気圏内、水中、地下を含むあらゆる地水空間における核兵器の実験的爆発及 び他の核爆発の禁止。核爆発の定義は yield(威力)がなし。しかし厳密な定義ではない。 未臨界実験は、爆発しないので許容。 発効要件 インド、パキスタン、北朝鮮、イラン、イスラエルなどを含む特定の 44 か国の批准が必要 (第 14 条) 。 5 核兵器国の中では、米中が未批准(署名はした) 。 未批准国:中国、エジプト、インド、インドネシア、イラン、イスラエル、北朝鮮、 パキスタン、米国 未署名国:インド、パキスタン、北朝鮮 検証制度 (1)国際監視制度(IMS) 、 (2)協議及び説明、 (3)現地査察、(4)信頼醸成 (1)国際監視制度:世界 337 か所(最終的に)に設置された 4 種類の監視観測所(地震学 的監視観測所、放射性核種監視観測所、水中音波監視観測所、および微気圧振動監視観測 所からなる。2011 年 5 月末現在で、約 80%)が完成しており、監視の結果得られたデータ は、ウィーンに設置される国際データセンターに送付され、処理される。 (地震主要観測所=50、地震補助観測所=120、水中音波監視観測所=11、微気圧振動監視観 測所=60、放射性核種監視観測所=80、放射性核種のための実験施設=16) (3)現地査察:文字通り査察団を疑惑がある現地に派遣して調べる。「現地査察」の実施 は、51 か国の執行理事会の理事国のうち、30 か国以上の賛成により承認されるグリーン・ ライト方式である。 国内体制は完成(10 か所) ・地震学的監視観測所主要観測所:松代 ・地震学的監視観測所補助観測所:大分、国頭、八丈島、上川朝日、父島 ・微気圧振動監視観測所:夷隅 ・放射性核種監視観測所:沖縄、高崎 ・放射性核種のための実験施設:東海 出典: 国際問題研究所・軍縮・不拡散促進センターの HP から 完全な検証・査察制度などない。あくまでも抑止効果を狙っている。1Kt の爆発は検証可 能、500t 前後も可能と思われる。500t でも軍事的に有用であり、その検証が完全にできな い体制は欠陥ありで、CTBT は批准に値しないとの意見が米国にある。 FMCT(兵器用核分裂性物質生産禁止条約=カットオフ条約) 核兵器の原料である兵 器 用 の 高濃縮ウランやプルトニウムの生産禁 止 を 目 指 す 。当初 は、貯蔵も制限する可能性があった。原材料がなければ核兵器の新規生産は不可能で、核 兵器の老朽化に伴い徐々に核兵器数も減る=本当の核軍縮へ 核兵器国と核拡散防止条約(NPT)の非締結国の核能力を凍結する狙い、とくにインド、パキ スタン、イスラエルによる生産の停止。アメリカ、ロシア、イギリス、フランスはすでに 生産停止。 クリントン米大統領が 1993 年の国連総会で提案。 ジュネーヴ軍縮会議(唯一の多国間軍縮交渉機関)で交渉すら始まらない。
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