C.研究結果 また,マウスやラットに投与し,当該試料の毒性 の強さを確認しておく必要がある。 1.化学物質検査マニュアルの作成 ③有機分析: 有機物が主因の場合,水中の全 有機炭素(TOC)値が異常値を示す。主因が有機塩 1-1.試料別検査マニュアル(大阪府公衛研) 素化合物であれば全有機ハロゲン(TOX)値が異常 試料を,(1) 水,土壌・底質などの試料,(2) 空 値を示す。これらの異常値は,それぞれの試料に 気試料,(3) 食品試料,(4) 血液・尿などの生体 よって異なり,環境調査を行っておく必要がある 試料(化学物質を対象),(5) 生体試料(薬物を (指標項目試験) 。 対象) に分類し,大阪府立公衆衛生研究所にお けるそれぞれの検索マニュアルの概要を示す。 有機物の可能性が高い場合は,前処理としてカ ートリッジ濃縮(C18等)に10ml程度を通水し, ジクロロメタン(脱水)とメタノールで溶出し, 1-1-1.水および土壌等環境試料中の中毒物質 確定分析試料とする。ここで必要な注意は,試料 の検索 の液性である。高pHや低pHの試料はカートリッジ 水試料としては,水道水,井戸水,河川水,お を通過したり,溶出しないことがあるので,逆性 よび浴用水が考えられる。河川水や浴用水の場合, イオンで溶出する必要がある。また,濃度によっ 人で直接の中毒原因となることは少ないと考え ては樹脂を分解することがあるので注意が必要 られるが,毒物の投入あるいは自然発生した毒物 である。 が混入することもあるので,対象として含めるこ 確定分析には,GC-MS (低沸点化合物,中沸点 ととした。一方,土壌などの中の物質が直接死因 化合物),LC-MS (不揮発性物質および熱分解性 となることはまず考え難い。土壌などの試料は原 物質),有機個別分析を行い,対象化合物と同類 因物質が存在したか否かを検討するための材料 化合物の検索を行う。低沸点化合物にはヘッドス となると考えられる。 ペース法やパージトラップ法を使いハロゲン化 したがってここでは水試料における原因物質 アルキルなどの分析の他に,臭気物質の分析が可 の検索を主にとりあげ,土壌,底質などの試料に 能であり,通常内蔵するライブラリーによって推 ついても若干言及する。 定可能である。 水および土壌,底質などの試料中の中毒物質の 特殊な場合は,赤外分光光度計で骨格,官能基 検索方法に関するフローシートを図1に示す。併 の検索を行った後,そのまま,あるいは,前処理 せて,有機中毒物質の種類を表1に,無機中毒物 を行い,GC-MS やLC-MS による確定分析を行う。 質の種類を表2に示す。以下に図1のフローシー トの概略を説明する。 水質分析 ①外観試験: 水試料でヒトの健康あるいは生 ④無機分析: 金属であれば硝酸酸性とし(加 熱・加温/ろ過・遠沈/希釈等)を行い,ICP/ ICP-MS/原子吸光分析用の試料とする。 非破壊分析としての蛍光X線分析用試料には, 命に関わった場合は,その濃度は非常に高く,そ そのまま,あるいは,乾燥したものを専用ホルダ の水は異常な外観を示すはずである。 ーに入れて分析する。この機器は,手軽である反 pH,色調,濁り,臭気によって分析の方向性を 決定する。 ②毒性試験: しかし,河川水のように流動し 面,軽金属の感度は低く,Li,Be,B は感度がな いので注意が必要であるが,試料の損失や形態の 変化がないことの利点がある。 ている場合,主因となる化合物は採水時点で流れ 金属の場合は,その形態により毒性が著しく違 去っている可能性があることから,対象試料その う(ヒ素,水銀,ホウ素等)ものがあるので,イ ものが毒性をもっているかどうかの検討を行う オンクロマトグラフあるいは LC-ICP-MS により 必要がある。魚類ではメダカ,金魚等に適用する。 確認する。 図1 水および底質中の中毒物質検索方法フローシート ( 試料 ) ( 推定分析 ) ( 確定分析 ) (対象化合物等 ) 現場の状況試料の状況等により分析方向を決め、分析方法に合う前処理を行う メダカ・金魚/水槽 毒 性 検 索 毒性の程度や作用の把握及び確認 マウス・ ラット/経口投与 外観等の検査 目視、臭気等の官能検査やpH等により分析方法 を決める 形、色、粘度、Ph、濁(臭気{味}) 低沸点化合物(石油類、ベンゼン、トルエン、キシレン、 TOC計 水 塩ビ・モノマー、シンナー 、クロルシアン、アルコール) GC−MS ↓ 中沸点(サリン、DDVP、リン酸エステル) 高沸点(農薬:バラチオン、ダイアジノン、ダイオキシン) TOX計 ↓ ↓ 農薬(バラコート、ジクワット) → LC−MS(UV等) フェノール類(フェノール、クレゾール、クロロフェノール、OPP) 合成洗剤(ABS、LAS、非イオン界面活性剤) ↑ 前処理 (酸溶 解、 濾過 脱水 遠沈等) 蛍光X線分析計 I CP または I CP−MS 有 機 分 析 自然毒(テトロドトキシン、マイコトキシン、アフラトキシン、ミクロシスチン) 有機個別分析 ホルマリン 医薬品(アルカロイド、解熱剤、抗生物質) 赤外分光光度計 無 機 分 析 有機・無機化合物の検索で不明又は、確認を要する時 鉄、マンガン、銅、カドミウム、鉛、クロム 原子吸光分析計 ニッケル、亜鉛、水銀、マグネシウム ナトリウム、カリウム、カルシウム、アルミニウム ↓ アジ化ナトリウム 鉱酸(塩酸、亜硝酸、硝酸、硫酸、臭素酸、塩素酸) イオンクロマトグラフ 有機酸(酢酸、蓚酸) ↓ ← ↑ 水銀(昇汞、甘汞、ヨウ化水銀、酸化水銀、有機水銀) ヒ素(亜ヒ酸、ヒ酸、有機砒素、ヒ化水素) LC−I CP・MS 土壌 底質 等 ホウ素(ホウ酸、ホウ砂、水素化ホウ素)・・・(形態分析) ↑ ウラン、リチュウム、ベリリウム、アンチモン・・(一斉分析) ↑ 放射線測定 塩素、次亜塩素酸、過塩素酸(比色) 無機個別分析 水銀/(水銀メーター) シアン化合物(シアンイオン、クロルシアン、チオシアン) X線回折計 TOC計:水中全有機炭素分析計 TOX計:水中全有機ハロゲン分析計 形態分析へ GC−MS:ガスクロマトグラフ−質量分析計 LC−MS:高速液体ク ロマトグラフ−質量分析計 LC−I CP・MS:高速液体クロマトグラフ−高周波プラズマ・質量分析計 形態分析(アスベスト) 核燃料(ウラン、ストロンチュウム) 医療試薬(ヨウ素、コバルト) 有機物 表1.有機中毒物質の種類 有機物種類 塩素系 溶剤 炭化水素系 無機消毒剤 消毒剤 有機消毒剤 アルカロイド 駆虫剤 解熱鎮痛剤 麻酔剤 医薬品 催眠剤 強心剤 消毒剤 化学療法剤 有機塩素剤 農薬 有機リン剤 有機窒素剤 食品添加物 人工着色料 植物自然毒 藻類産生毒 自然毒 動物自然毒 カビ毒,菌毒 藻類毒 アルコール アヘン 嗜好品 覚醒剤 ニコチンほか 有毒昆虫 クモ毒 動物性毒 ヘビ毒 軍事関係 毒ガス 対 象 化 合 物 トリクレン、パークレンなど ジメチルおよびジエチルエーテルなど 次亜塩素酸、オゾンなど クレゾール、フェノールなど アヘン、ヘロイン、コカイン、キニーネなど サントニン、四塩化炭素など アミノピリン、アンチピリンなど エーテル、クロロホルム、亜酸化窒素など バルビタール、抱水クロラールなど ジギタリスなど ホルマリン、クレゾール、フェノールなど 抗生物質など BHC、DDTなど パラチオン、TEPP、EPNなど パラコート、ジクワットなど オーラミン、ローダミン、硫酸銅など キノコ、バッカク、ジャガイモに含まれる毒物など ミクロシスチンなど フグ、アサリ、カキに含まれる毒物など アフラトキシン、エンテロトキシンなど ミクロキスチンなど 酒類 たばこ、シンナーなど ハチ毒、イエダニ毒、毒ガ、ムカデ毒、毛虫毒など サリン、ホスゲンなど 表2.無機中毒物質の種類 無機物種類 対 象 化 合 物 ヒ素化合物(亜ヒ酸、有機ヒ素) 水銀化合物(昇汞、甘汞、ヨウ化水銀、酸化水銀) 銀化合物(硝酸銀) 強酸(硝酸、硫酸、塩酸) アルカリ(苛性カリ、苛性ソーダ、炭酸ソーダ、アジ化Na) 鉛(硝酸鉛) クロム(重クロム酸塩) タリウム(脱毛剤、ねずみ取り剤) 銅(硫酸銅) 鉄(硫酸第一鉄、硫化鉄) 工業薬品類 リン化合物(黄リン) アンチモン(吐酒石) ホウ素(ホウ砂、ホウ酸) 亜硝酸、亜硝酸アミル、ニトログリセリン 塩素(高度さらし粉、殺菌剤) 臭素 ヨウ素 シアン化カリ 一酸化炭素 炭酸ガス 地質由来 イオウ(硫化水素、二流化炭素) イオン性のものは,イオンクロマトグラフある いは個別分析を行う。この中には外観の試験(pH) で推定できるものもある。 ルから物質を同定する。 ピークが出現しないか,小さくて同定できない 場合は,Tenax や活性炭などを詰めた捕集管上に その他の無機化合物として,消毒剤,シアン化 濃縮し,加熱あるいは溶媒により脱着して GC/MS 合物の個別分析があるが,これらの多くはトータ に注入し,出現したピークのマススペクトルおよ ルとしてではなく,形態別に分析する必要のある び保持時間から物質を同定する。 ものがあり,特殊形態分析法としては,X線回折 具体的には,捕集袋の採取口に捕集管を接続し, 計による分析方法(固体として)が必要な場合も 吸引ポンプにより 0.1∼0.5 L/min 程度の流量で あるかと思われる。 空気サンプルを吸引し,有機ガス・蒸気を捕集剤 ⑤不溶解性物質: 以上の他に,沈殿や浮遊物 に吸着させる。吸引総量はサンプルの濃度により 質が考えられるが,ろ別し,種々の溶媒に溶解し 異なるが,5∼50 L 程度である。次いで,脱着装 て,水と同様の分析を行う。 置により捕集管を加熱して有機ガス・蒸気を脱着 ⑥放射性物質: 放射性物質は,GMサーベイメ し,その一部または全部を GC-MS に導入する。あ ーターや液体シンチレーションカウンターを用 るいは,捕集管の捕集剤をバイアルビンに取り出 い,放射線の放出を確認する。検出した場合,汚 し,脱着溶媒(二硫化炭素など)を添加して,1 染拡大や被爆防止の対策を講じ,ゲルマニューム 時間程度ゆっくりと攪拌した後,溶媒 1∼2μL を 半導体検出器によるγ線核種分析などにより,放 GC-MS に注入する。 射性物質の定性・定量を行う。人工放射性物質の ②無機ガス・蒸気(シアン化水素,アンモニア, 場合,ラジオアイソトープとして厳しく管理され ホルムアルデヒド,塩素,ホスゲン,アルシン, ているので,化学系の情報が得られる場合が多い。 水銀など) 天然放射性物質の場合は,トリウム系列やウラン 現場で直接,検知管で測定するか,捕集袋の採 系列に由来するものが多い。しかし,不明の場合 取口に検知管を接続して測定する。検知管での測 は,先の有機物や無機物の検索を行って確定する 定では,目的成分以外の物質でも反応する場合が 必要がある。 ある。従って,存在が疑われた物質については, 土壌分析 作業環境測定ガイドブックなどの方法に従って 土壌の分析は,通常,検索された化合物の存在 確認測定を行なう。 の有無を判定するために行われることが多い。硝 例えば,シアン化水素はピリジンピラゾロン法, 酸等による前処理あるいは有機溶媒による抽出 アンモニアはインドフェノール法,ホルムアルデ を行い,水試料と同様の分析を行う。しかし,回 ヒドは DNPH 法,塩素は ABTS 法,ホスゲンは 収率は存在する金属等により著しく低くなる場 アニリン法,アルシンおよび水銀は原子吸光法な 合があるので,十分な検討が必要である。 どがある。ただし,これらの確認測定でも,方法 によっては目的成分以外の物質も反応する場合 1-1-2.空気試料中の中毒物質の検索 空気中の有害化学物質については,気体および があることは念頭に置いておく必要がある。 ③無機ガス(酸素,一酸化炭素,硫化水素) 揮発性物質を中心に考える。空気試料中の中毒物 酸素,一酸化炭素,硫化水素については,隔膜 質の検索方法に関するフローシートを図2に示 ガルバニ電池式あるいは定電位電解式で,リアル し,以下にその概略を説明する。 タイム(応答時間 20∼30 秒)に濃度が表示され ①有機ガス・蒸気(有機溶剤など) るガスモニターを使用し,表示された数値を読み 捕集袋(テドラバック)あるいは真空瓶のサン 取ることにより測定する。 プル 0.1 ∼ 1ml をガスタイトシリンジにより ④粒子状物質(砒素,鉛,カドミウムなど) GC-MS に注入し,出現したピークのマススペクト サンプルを採取したフィルターを蛍光X線分 図2 空気中の有害化学物質の検索フローシート --- 気体および揮発性物質を中心に考える --- 1.サンプリングおよび分析 気体・ 蒸気状物質 吸引ポンプ( 3台) 捕集袋( 20L) に 採取 ガスタイトシリンジ − GC/MS 真空ビン( 1L)に 採取 濃縮 − 加熱・溶媒脱着 − GC/MS 検知管( シアン化水素,アンモニア,ホルムアルデヒド 塩素,ホスゲン,アルシン,水銀) 脂肪族炭化水素 芳香族炭化水素 ハロゲン化炭化水素 アルコール 酢酸エステル ケトン 物質毎に確認検査 ( 作業環境測定ガイドブック等) ガスモニター( 酸素,一酸化炭素,硫化水素) 粒子状物質 吸引ポンプで フィルター上に 採取 蛍光X線 分析計 溶媒に溶解 − ICP/MS, 原子吸光光度計 砒素 鉛 カドミウム 2.サンプリング時の安全 呼吸保護具 防護メガネ 保護衣 保護手袋 安全靴 酸素濃度が低下した場合 有害性が高い場合 エアラインマスク, 空気ボンベ式呼吸器 酸素濃度が低下していない場合 高性能フィルター付き防毒マスク 析計にセットし,検出された蛍光X線の波長によ 複雑多岐な分析系の中から,限られた時間ある り物質を同定し,その強度により半定量する。さ いは限られたサンプル量で,迅速かつ正確に原因 らに,酸などの溶媒に溶解し,ICP-MS あるいは原 中毒物質を究明せねばならない状況におかれる。 子吸光光度計により確認,定量測定を行なう。 ここで最も重要な手がかりとなるのは,中毒発生 サンプル採取および運搬時の留意事項 状況に関する情報と初動の簡易検査の結果であ ①ガス・蒸気状物質の場合,空気サンプルを携 り,同時にサンプルの外観,におい,色,pH 等 帯用吸引ポンプにより,20L テドラバッグに捕集 の官能性状検査の結果である。以上の情報や検査 する。検体量を多くするため,複数セットを同時 結果と長年の実務経験から,中毒物質が有機化合 に稼動する。 物であるか無機化合物であるかの推定,および大 ②検知管およびガスモニターによる測定は,現 地で実施する場合と,①により空気サンプルを持 ち帰って測定する場合とがある。 ③粒子状物質の場合,空気をハイボリュームサ 量の原因物質による中毒かあるいは微量の原因 物質による中毒かを判断する。 有機化合物であるか無機化合物であるかの推 定後の個々の物質の確定試験法は,大阪府公衛研 ンプラーにより吸引し,フィルター上に採取する。 検査実施標準作業書(GLP-SOP)に従い,GC,GC-MS, なお,ハイボリュームサンプラーの使用には LC,LC-MS,AA,ICP-MS,TLC デンシトメーター, 100V 電源が必要であるので,サンプリング可能 イオンクロマトグラフ及び比色分析(分光光度 場所はある程度限定される。 計)などで行う。 ④サンプリング実施者の健康を守るため,酸素 濃度が低下している場合は,エアラインマスク, (1)簡易検査 得られた試料について,大阪府立公衆衛生研究 ホースマスク,あるいは空気ボンベ式マスクを装 所で確認検査を行う前に,府下各保健所で下記の 着する。酸素濃度が低下していない場合は,上記 毒劇物迅速検査キットを用いて予備的な簡易検 の呼吸保護具,あるいは高性能フィルター付き防 査を行う。 毒マスクを装着する。また,必要に応じて,ヘル メット,防護メガネ,防護手袋,防護衣,安全靴 などを使用する。 ・ヒ素化合物:メルコァントヒ素テスト(メル ク社) ・青酸化合物:メルコァントシアン化物テスト (メルク社) 1-1-3.食品試料中の中毒物質の検索 健康危機管理において原因中毒物質を究明す るさい,原因中毒物質の大部分が経口的に摂取さ れ,しかも食品の形態で取り込まれるケースが圧 倒的に多い。一口に食品と言ってもミネラルウオ ・コリンエステラーゼ阻害剤:きっとセーフ AT-10(ネオジェン社) (2)確認検査 食品中の中毒化学物質の確認検査における検 索フローシートを図3に示す。 ーター,茶飲料のようにマトリックスが少ない清 ①前処理 涼飲料水から,カレーのように油脂,香辛料など 食品中の原因物質を推定する場合,前処理法の のマトリックスが非常に多い食品まで,あるいは 選択が最も大切である。大量の原因物質による中 液体から固体まで,あるいは親水性から親油性ま 毒かあるいは微量の原因物質による中毒かによ でと言った具合で千差万別である。このような多 って前処理法を選択する。すなわち,大量の原因 種多様の食品試料から原因中毒物質を推定し,適 物質による中毒の場合は,試料を水で希釈して前 用する前処理操作と分析機器の組み合わせを想 処理法の一部を省略することも可能である。逆に 定すれば,中毒物質検出マニュアルは食品衛生検 微量の原因物質による中毒の場合は,前処理法に 査指針(厚生省)などの成書に匹敵するボリュー 新たに濃縮操作を加える必要性も生じる。また, ムとなる。 マトリックスが少ない試料の場合は,前処理法の 食 品 有 機 化 合 物 図3.食品中の中毒化学物質の検査フローシート (図3 1/2) [前処理操作] [公衛研 SOP(標準 作業手順)] 溶媒抽出 ↓ 精 製 [対象化合物] GC, GC-MS ダイオキシン類(PCDD,PCDF,Co-PCB) 有機塩素化合物(PCB等18品目)*1 有機塩素系農薬(DDT等22品目)*2 有機リン系農薬(パラチオン等34品目)*3 ピレスロイド系農薬(ピレトリン等9品目*4 含窒素農薬(ビテルタノールなど6品目)*5 カーバメイト系農薬(カルバリル等8品目等)*6 有機スズ化合物(TBTO,TPT) 有機水銀化合物(メチル水銀) LC, LC-MS パラコート LC ふぐ毒(テトロドトキシン)*7 麻痺性貝毒(サキシトキシン)*8 下痢性貝毒(ジノフィシストキシン)*9 植物有毒成分(アルカルイド等) 10-301 10-303 10-302-2 カビ毒(アフラトキシン等) 23-004 芳香族炭化水素(ベンゼン等) アルコール類(メタノール等) フェノール類(クレゾール等) アルデヒド類(ホルマリン等) 苦情例有り 苦情例有り 苦情例有り 油脂(酸化物) 22-077,8 シアン化合物 リン化合物 21-024 21-002 AA, ICP-MS カドミウム*10 鉛*11 スズ*12 ほう酸*13 22-015 22-001 22-016 21-009 Colrimetry 砒素化合物 27-004 還元気化AA 総水銀 27-001 IC 陰イオン類(臭化物,フッ化物,ヨウ化物) アジ化ナトリウム Colrimetry 残留塩素 TLC, LC 水蒸気蒸留 (酸性) ヘッドスペース法 有機溶媒抽出 水蒸気蒸留 (酸性) 無 機 化 合 物 [使用機器] 灰化 (湿式,乾式) 透析, ろ過操作など GC, GC-MS Titration Colrimetry 24-002 26-015 26-015 26-015 26-015 26-015 24-006 27-002 21-010 苦情例有り *1 有機塩素化合物としては,以下の18品目の化合物に適用できる。 (図3 続き 2/2) α-BHC,β-BHC,γ-BHC,δ-BHC,Total-BHC, p,p'-DDT,o,p'-DDT,p,p'-DDE,o,p'-DDE,p,p'-DDD,Total-DDT, HCB,HCE,PCB,アルドリン,エンドリン,ディルドリン,ヘプタクロル *2 有機塩素系農薬としては,以下の22品目の化合物に適用できる。 α-BHC,β-BHC,γ-BHC,δ-BHC,Total-BHC, p,p'-DDT,o,p'-DDT,p,p'-DDE,p,p'-DDD,Total-DDT,HCE, アルドリン,エンドリン,カプタホール,キャプタン,クロルベンジレート,クロロタロニル, ジコホール,ディルドリン,テプフェンピラド,プロシミドン,ヘプタクロル, *3 有機リン系農薬としては,以下の34品目の化合物に適用できる。 EPN,アセフェート,イソキサチオン,イソフェンホス,イプロベンホス,エジフェンホス, エチオン,エトプロホス,エトリムホス,キナルホス,クロルピリホス,クロルピリホスメチル, クロルフェンビンホス,ジオキサベンゾホス,ジクロフェンチオン,ジクロルボス,ジスルホトン, ジメトエート,スルプロホス,ダイアジノン,テルブホス,トリクロホスメチル,パラチオン, パラチオンメチル,ピリダフェンチオン,ピリミホスメチル,フェニトロチオン,フェンチオン, フェントエート,ブタミホス,プロチホス,ホロサン,マラチオン,メチダチオン *4 ピレスロイド系農薬としては,以下の9品目の化合靴に適用できる。 シハロトリン,シフルトリン,シペルメトリン,デルタメトリン,テフルトリン,フェンバレレート, フルシトリネート,フルバリネート,ペルメトリン *5 窒素系農薬としては,以下の6品目の化合物に適用できる。 イプロジオン,キノメチオネート,ビテルタノール,フルトラニン,プロポキスル,メプロニル *6 カーバメイト系農薬としては,以下の8品目に適用できる。 イソプロカルブ,クロルプロファム,オキサミル,カルバリル,ジエトフェンカルブ, ピリムカルブ,フェノブカルブ *7 *8 SOPの方法は生物学的検定法としてのマウスを用いた検定法( マウスユニットで毒の強さを表す) 方法であるが,高速液体クロマトグラフによる分析も可能である。 *9 SOPの方法は生物学的検定法としてのマウスを用いた検定法( マウスユニットで毒の強さを表す) 方 法であるが,ELISA( 酵素免疫測定法) による分析法( 公衛研SOP( 10-302-1),および高速液体クロ マトグラフによる分析も可能である。 *10 *11 *12 *13 原子吸光分析計および高周波プラズマ−質量分析計で測定できる金属類を4種 のみ示したが,これ以外に68種の金属原子が測定できる。参考として以下に示す。 Li ,Be,Na,Mg,Al,Si,P,S,K,Ca,Sc,Ti,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Ga,Ge, As,Se,Br,Rb,Sr,Y,Zr,Nb,Mo,Ru,Rh,Pd,Ag,In,Sb,Te,I,Cs,Ba,Hf,Ta,W, Re,Os,Ir,Pt,Au,Hg,Tl,Bi,La,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb, Lu,Th,U 一部を省略することも可能である。逆にマトリッ メイト系農薬の一部)が対象化合物の場合: 有 クスが非常に多い試料の場合は,新たに分離精製 機溶媒抽出−精製法で前処理後の試験溶液を LC 操作を加える必要性も生じる。以上の例のように (UV-VIS,FL,PDA) ,LC-MS による確認検査を行 臨機応変に最良の前処理法を選択する。 う。 ②有機化合物確認検査 3) マリントキシン類(ふぐ毒,麻痺性貝毒, 有機溶媒抽出−精製法においては,茶飲料,清 下痢性貝毒)及び植物有毒成分が対象化合物の場 涼飲料水,牛乳などの液体試料の場合は,試料そ 合: 有機溶媒抽出−精製法で前処理後の試験溶 のままあるいは超純水で適宜希釈後,前処理操作 液を LC(UV-VIS,FL,PDA),LC-MS による確認 を行う。 検査を行う。 食品全般について,固体試料の場合は超純水を なお,マリントキシン類に関しては機器分析に 適宜加えホモジナイズして均一化したものある よる確認検査に先立ち,生物学的検定法としてマ いは遠心分離後の上澄液について前処理操作を ウスを用いた検定法(マウスユニットで毒の強さ 行う。 を表す) ,あるいは ELISA による検定法で予備的 なお,この前処理法には,ゲル浸透法(GPC), 固相抽出法(SPC),マイクロ固相抽出法(SPME), 超臨界流体抽出法(SFE)が含まれる。 確認検査を行う。 4) カビ毒類(アフラトキシン,オクラトキシ ン等)が対象化合物の場合: 有機溶媒抽出−精 1) 有機塩素系農薬(DDT等22品目) ,有機リ 製法で前処理後の試験溶液を TLCデンシトメー ン系農薬(パラチオン等34品目),ピレスロイド ター(UV,FL)でスクリーニング検査を行い,LC 系農薬(ピレトリン等9品目) ,含窒素農薬(ビテ (UV,FL,PDA)による確認検査を行う。 ルタノール等6品目) ,カーバメイト系農薬(カル 5) 低沸点化合物(芳香族炭化水素,アルコー バリル等8品目)が対象化合物の場合: 当該農薬 ル類,フェノール類,アルデヒド類)が対象化合 類の同時一斉分析を実施する。すなわち,試料に 物の場合: 酸性条件下で水蒸気蒸留を行った留 アセトニトリルを加えホモジナイズ抽出し,グラ 液を試験溶液として,GC(FID) ,GC-MS による確 ファイトカーボンのミニ固相カラムにより精製 認検査を行う。 を行う。さらにゲル浸透法(GPC)による脱脂操 作後の試験溶液を GC-MS 測定を行い,検出農薬 なお,GC(FID) ,GC-MS 分析を行うさいにはヘ ッドスペース法も適用できる。 のマススペクトルを機器内蔵ライブラリーより 6) 油脂の酸化変性物が対象化合物の場合: n- 検索する。検索の結果,確定された農薬が有機塩 ヘキサン,エーテル等の有機溶媒で抽出した油脂 素系及びピレスロイド系の場合は GC(ECD) ,有 について,滴定により酸価及び過酸化物価を測定 機リン系の場合は GC(FPD) ,含窒素農薬及びカ する。 ーバメイト系の場合は GC(FTD)による確認検査 ③無機化合物確認検査 を行う。 1) 揮発性中毒物質であるシアン化合物(青酸) ダイオキシン類(PCDD,PCDF,Co-PCB),有機 及びリン化合物(黄リン)が対象化合物の場合: 塩素化合物(PCB等18品目),有機スズ化合物 酸性条件下で水蒸気蒸留を行った留液を試験溶 (TBTO,TPT) ,有機水銀化合物(メチル水銀)及 液として,比色分析を行う。 びその他の農薬が対象化合物の場合: それぞれ 2) 金属化合物が推定される場合は,基本的に の個別分析により,最適な有機溶媒抽出−精製法 は灰化操作が必要である。灰化法として湿式灰化 で前処理後の試験溶液を GC(ECD, FPD, FTD) , 法(マイクロウェーブ湿式分解法も含む),ある GC-MS,LC(UV-VIS,FL,PDA) ,LC-MS によって いは乾式灰化法(低温灰化法も含む)を適用する。 確認検査を行う。 2) パラコート及び農薬類(含窒素及びカーバ なお,湿式灰化法で用いる鉱酸類の組み合わせ として,硫酸-硝酸,過塩素酸-硝酸,過酸化水素 -硝酸などが使用できるが,対象とする金属と確 pH などの観察結果が原因物質の推定に大いに参 認検査で使用する分析機器を考慮にいれて,最適 考になると考えられる。さらに,事故発生後,初 な鉱酸類の組み合わせを選択する。 期に検査される食品・水および空気等の試験結果 茶飲料,清涼飲料水,牛乳等の液体試料の場合 は,超純水で希釈せずにそのまま検液とする。 も原因物質の推定に重要なデータとなる。これら のデータから原因物質を推定し,試料の前処理方 食品全般における固体試料の場合は,超純水を 法を決定する。特に,血液試料は測定対象となる 適宜加えホモジナイズして均一としたもの,ある 原因物質および試験の種類によって,血液の処理 いは遠心分離後の上澄液を検液とする。本検液を 方法や保存方法が大いに異なる事に留意し,適切 灰化して0.5N硝酸でメスアップした溶液を試験 な試料の採取・保存方法を病院等に通知する必要 溶液とする。 がある。すなわち,金属類の測定には,血液を硝 マトリックスが少ない検液では,灰化操作を行 酸で洗浄したプラスティックあるいはガラス瓶 わずにフィルターでろ過した溶液を,0.5N硝酸で に抗凝固剤を加えて採取し,よく撹拌後,冷蔵保 適宜希釈して試験溶液とすることができる。 存する。また,血液中の溶剤を測定する場合には, 2-1) 主に遷移元素が対象金属の場合: 湿式灰 抗凝固剤を加えた採血瓶に採取し,撹拌後,一定 化法または乾式灰化法を行い,0.5N硝酸で定容と 量の血液をテフロンパッキング栓使用の密閉で した溶液を試験溶液として,AA,ICP-MS による きるガラス瓶に採り,速やかに測定機関に送る必 確認検査を行う。 要がある。 ホウ酸が対象金属の場合は,比色分析による確 認検査も適用できる。 ② 有機溶剤等の低沸点化合物が疑われる場合 は,上記の方法で採取した血液試料から,ヘッド 2-2) ヒ素が対象金属の場合: 湿式灰化液を試 スペース法を用い GC-MS で原因物質の同定および 験溶液として,比色分析を行う方法と AA,ICP-MS 定量を行なう。さらに,目的物質が代謝物測定の による方法で確認検査を行う。 可能な有機溶剤(トルエン,キシレン,トリクロ 2-3) 水銀が対象金属の場合: 石英管燃焼分解 -還元気化 AA 法で確認検査を行う。 ロエチレン,テトラクロロエチレンなど)は,尿 中に排泄されるそれらの代謝物を定量すること 3) 陰イオン類及びアジ化物の存在が考えられ により,被害者の曝露程度を推定することができ る場合: 透析,ろ過,遠心等の前処理操作後の る。輸液治療が行なわれると,尿量の大幅な増加 試験溶液を,イオンクロマトグラフ法で確認検査 により代謝物排泄量の評価に影響を与えるので, を行う。 採尿は輸液中を避けることが望ましい。 4) 次亜塩素酸塩などの残留塩素の存在が考え ③ 有機塩素系農薬,有機リン系農薬およびカ られる場合: 透析,ろ過,遠心等の前処理操作 ーバメイト系農薬の場合は,血液試料中の農薬の 後の試験溶液を,AOAC法に準じて比色分析を行う。 定量を食品中農薬の測定方法に準じて実施し,食 品化学課の協力を得る。 1-1-4.生体試料中の中毒物質の検索 また,有機リン系農薬およびカーバメイト系農 生体試料中の有害化学物質の検索のための試 薬については,血球および血清中のコリンエステ 料は事故後などに入院先で採取された血液・尿お ラーゼ活性を測定することにより,生体影響の強 よび吐瀉物・胃洗浄液を想定している。生体試料 さの程度を推定できる。 中の有害化学物質の検索フローシートを図4に 示す。 ④ 金属類は,ICP-MS で同定および定量を行な う。既に原因物質が推定あるいは確定されている ① 1-1-3.の(1)に示した「簡易キット」を用いて 場合は,フレームあるいはフレームレス原子吸光 行なわれた現場での試験結果,あるいは入院先等 光度計で定量を行なう。また,鉛による中毒の場 での被害者の臨床所見および吐瀉物の色・臭気・ 合は,血液中鉛の定量のほか,血球中プロトポル フィリンおよび尿中δ-アミノレブリン酸量を経 も比較的多い。我々は救急救命のために中毒事故 時的に測定することにより,生体影響の程度およ からこれらの薬物を迅速に確定しなければなら び経過を観察することができる。 ない。そのために,様々な簡易検査法により中毒 血液中のひ素の測定については,ICP-MS 法およ び原子吸光光度法のいずれかの方法での測定を 検討していく。 ⑤ シアン化合物の場合は,生体試料中のシア 薬物を推定し,機器分析により原因薬物を確定す る必要がある。 検査材料としては生体試料である胃洗浄物,血 液,尿を用いる。 ンメトヘモグロビンの測定が可能である。血液中 薬物の種類別の確定法 のシアンの測定については,いくつかの測定方法 薬物検査の推定分析のフローシートを図5-1 があり,今後対応できる体制を検討していく。 に示す。初めに薬物スクリーニング用検査キット また,アジ化ナトリウムについては,血液・尿 「トライエージ8テスト」1)を用い,中毒物質の 中アザイドの測定が行なえるよう,順次検討を進 推定を行う。同テスト結果が“+”の場合(ベン めていきたい。 ゾジアゼピン系薬物,バルビツール酸系薬物,三 サンプル採取および運搬時の留意事項 環系抗うつ剤)と,“−”の場合(前記以外)に 尿および血液の採取方法・処理方法・保存方法 分けて,さらに分析を行う。 は目的とする試験および原因物質により異なる 以下,薬物の種類別に記述する。 場合がある。原則的には,以下の方法による。 ① ベンゾジアゼピン系薬物,バルビツール酸 血液はディスポーサブル注射器を用いて,抗凝 系薬物,三環系抗うつ剤 固剤(Ca-EDTA またはヘパリン)の入った,密閉 「トライエージ8テスト」を使用して原因物質 可能なガラス製サンプルビンに採取し,すみやか を推定分析後,HPLC分析やLC-MS分析により確定 に冷所に保管する。 する。「トライエージ8テスト」における血液, 尿はプラスティック製のサンプルビンに採取 する(代謝物量による生体影響評価のためには 24 時間尿が望ましい) 。 いずれの試料も,外部からの試料の汚染を防ぐ ため,できるだけ清浄な場所で採取すること。 検査機関等への運搬はすべての試料を冷蔵あ るいは氷冷して行なう。 尿,胃洗浄液の各試料の取扱いは以下のとおりで ある。 1) 血液試料 1mL にスルホサリチル酸 50mg を 加えて撹拌後,遠心分離(3,000rpm,5分間)し た上清に酢酸アンモニウム 25mg を加えて中和す る。その後,遠心分離(3,000 rpm,5分間)した 上清を検査キットに適用する。 2) 尿試料は遠心分離(3,000 rpm,5分間)後, 1-1-5.生体試料中の薬物の推定・確定分析 上清140μLを検査キットに適用する。 中毒事故による原因物質の検索方法は,一般的 3) 胃洗浄液試料は遠心分離(3,000 rpm,5分 に推定分析から確定分析にいたって成分を特定 間)した後に上清をpH4∼9に調製して検査キット する。薬物による場合は病歴,薬歴等の周辺情報 に適用する。 から事故原因薬物が推定される可能性があり,こ 「トライエージ8テスト」によって,ベンゾジ れらに加えて被害者の臨床所見等の収集も重要 アゼピン系薬物,バルビツール酸系薬物,三環系 である。 抗うつ剤と推定された場合,さらに,機器分析に 薬物による中毒事故は催眠鎮静剤(ベンゾジア ゼピン系,バルビツール酸系,ブロムワレリル尿 素),抗不安剤,精神神経用剤などの中枢神経抑 よって,原因薬物を確定する。 ①-1.ベンゾジアゼピン系薬物(エスタゾラ ム、フルニトラゼパム、ニトラゼパム)2) 制剤の服用によるものが多く見られる。また,解 推定分析によりベンゾジアゼピン系薬物が推 熱鎮痛剤(アセトアミノフェン)による中毒事故 定される場合に実施される向精神薬(エスタゾラ 図4.生体試料中の有害化学物質の検索フローシート 有機化合物 <その他の指標> GC-MS GC 低・中沸点化合物 アセトン、トルエン、 キシレン、トリクロ ルエチレン、テトラ クロルエチレン 吐物 胃洗浄液 トルエン、キシレン、スチレ ン、トリクロルエチレン、テト ラクロルエチレンの尿中 代謝物 高沸点化合物 有機塩素系農薬;DDT 等 有機リン系農薬;フェ ニトロチオン、ダイ アジノン等 カーバメイト系農薬;フェノブ カルブ等 血液 尿 LC-MS HPLC 簡易キット 臨床所見 推 定 医薬品等(図5-1∼5-4 参照) 農薬;パラコート、 ジクワット 無機化合物 吐物、胃洗 浄液では臭 気、pHなど 血球および血清中 のコリンエステラー ゼ活性値(有機リ ン系・カーバメイ ト系農薬) 空気・水・食品等の 試験データ ICP-MS フレームレス原子吸 光光度計 シアン 化合物 鉛 鉛の生体影響指標 カドミウム、 血球中プロトポルフィリン 尿中δ-アミノレブリン酸 水銀 (ひ素) 血液中シアンメトヘモ グロビン 図5-1.健康危機管理検査法フローシート(医薬品) 生体試料 血液 尿 胃洗浄液 ( +) ベンゾジアゼピン系薬物 バルビツール酸系薬物 三環系抗うつ剤 HPLC ( −) 各種周辺情報 HPLC GC トライエージ8テスト [サンプリングマニュアル ] 中毒事故現場におけるサンプリングにあたり,生体試料の場合,特に血液の場合,HB,HI Vなどによる汚 染に対する採集者の安全確保,および,試料のコンタミを防ぐために,ゴム手袋を着用する。また,中毒者の 現場の情報を収集し,試料の臭気や色調および周辺状況を詳細に記録しておく。 ・血液 採取後,血清分離して冷蔵または冷凍保存( 採取量,周辺情報の記録) ・尿 ・胃洗浄物 採取後,冷蔵または冷凍保存( 採取量,色調,pH,周辺情報の記録) 採取後,冷蔵または冷凍保存( 採取量,色調,臭気,周辺情報の記録) [トライエージ8テストのための試料調整 ] スルホサリチル酸( 50mg) 血液1mL 攪拌 遠心分離 ( 3,000rpm,5分) 尿 遠心分離 ( 3,000rpm,5分) 胃洗浄液 遠心分離 ( 3,000rpm,5分) 酢酸アンモニウム( 25mg) 上清 攪拌 遠心分離 ( 3,000rpm,5分) 上清 ( 試料) pH4∼9調整 上清 < トライエージ8テストにおける薬毒物の検出限界 > ベンゾジアゼピン系薬剤 バルブツール酸系薬剤 三環系抗うつ剤 アンフェタミン,メタンフェタミン メサドン コカイン ヘロイン テトラヒドロカンナビノール(THC) 上清 ( 試料) 300 (ng/mL) 300 1,000 1,000 300 300 300 50 * トライエージ8テスト試薬: 国際試薬株式会社( 製造元: 米BIOSITE社) 発売。 有効期限: 製造後9ヶ月。常時在庫有り。 上清 ( 試料) 図5-2.向精神薬(エスタゾラム,フルニトラゾラム)の分析 1M炭酸カリ クロロホ ウム0.2mL ルム3mL 血清0.3mL 胃洗浄液0.5mL 2分間 混合 40℃窒素ガス 遠心分離 ( 1,200rpm,5分) クロロホルム層 (クロロホルム抽出3回) メタノール100μL HPLC分析 蒸発乾固 図5-3.尿中の抗精神薬(ニトラゼパム)の分析 0.28%アンモ ニア溶液 尿10mL (pH10) 尿 内標準溶液 0.2mL クロロホルム 30mL Extrelut 5.0g (Bond-Elutカラム) 内標準液: Nimetazepan 0.8mg/mL in MeOH 溶出 蒸発乾固 HPLC分析 J. Chromatogr. 310. 213-218 (1984) 図5-4.ブロムワレリル尿素,アセトアミノフェンの同時分析 0.1M塩酸 0.5mL 血清 0.5mL 移動相 0.5mL 酢酸エチル Extrelut 2.0g (Bond-Elutカラム) 移動層: リン酸水溶液/アセトニトリル=75/25 溶出液 4mL 減圧 乾固 HPLC分析 島津評論 57. 109-113 (2000) ム,フルニトラゼパム)の確定分析のフローシー ニトロベンジルピリジン法による推定分析5): トを図5-2に,また,尿中の向精神薬(ニトラ 血清,尿,胃洗浄液試料各1mLにNBP溶液〈4-(4- ゼパム)の確定分析のフローシートを図5-3に ニトロベンジル)ピリジン0.45g/mL in アセト 示す。 ン〉0.1mLを加えて混合後,100℃で20分間反応さ 1) 血清0.3mL(胃洗浄液0.5mL)は1mol/L炭酸 せた後に放冷させTEP(テトラエチレンペンタミ カリウム0.2mLを加えクロロホルム3mLで2分間 ン)0.1mL 加えて混合する。その後,ジエチルエ 振とう抽出後,遠心分離(1,200 rpm,5分間)す ーテル1mL を加え混合,ジエチルエーテル層が る。このクロロホルム抽出を3回実施後,クロロ 淡紫色に呈色する。 ホルム層を採集し40℃,N2 ガスで蒸発乾固する。 機器分析による原因薬物の確定6): 血清の確定 残査をメタノール200μLで溶解後,HPLC分析や 分析の概要を図5-4に示す。血清 0.5mLに, LC-MS分析する。 0.1mol/L 塩 酸 0.5mL を 加 え て 混 合 後 , 2) 尿(0.28%アンモニア溶液でpH10に調整) Extrelut2.0g(エーテル洗浄済み)充填ガラスカ 10mL は Extrelut 5.0g を 充 填 し た Bond- ラム(10×150 mm)に添加する。室温で約20分間放 Elutカラムに保持させ,クロロホルム30mLで溶出 置した後に吸着成分を酢酸エチルで溶出し,その させる。溶出液は蒸発乾固後,内標準溶液 4mLを減圧乾固後,残査に移動相(リン酸 (Nimetazepam 0.8mg/mL in MeOH) 0.2mLを加え, 溶液/アセトニトリル=75/25)0.5mL加え,HPLC HPLC分析やLC-MS分析する。 分析やLC-MS分析する。 ①-2.バルビツール酸系薬物 3) 1) 血清0.1mLはアセトニトリル0.2mLを加え10 秒 間 撹 拌 後 , 遠 心 分 離 ( 1,500rpm , 5分間)して除タンパクした上清をHPLC分析や LC-MS分析する。 水 ③アセトアミノフェン 呈色反応を使用して原因薬物を推定後,HPLC分 析やLC-MS分析により確定する。 呈色試験(インドフェノール反応5))による推 定分析: 血清1mLに20%トリクロル酢酸0.2mLを 2) 尿2mLはSep-PakC18カートリッジ(アセトニ 加えて撹拌後、遠心分離(3,000r.p.m.,2分間) トリル5mLで洗浄後,H2O 20mLで活性化)に保持 する。その上清に塩酸1滴を添加し,100℃で20 させた後に 水20mLで洗浄後,アセトニトリル 分間加熱し放冷する。その後,1%オルトクレゾ 0.5mLで溶出させHPLC分析やLC-MS分析する。 ール液1mLと28%アンモニア溶液1mLを添加す ①-3.三環系抗うつ剤4) ると溶液は青色に呈色する。 1) 血清 1mLは内標準溶液(Clobazam 2 0ng/mL in 機器分析による薬物の確定6): 血清の確定分析 MeOH) 3mL,飽和ホウ酸ナトリウム 1mLを加え, の概要を図5-4に示す。血清 0.5mLに,0.1mol/L 1mol/L水酸化ナトリウムでpHを11に調整後,n- 塩酸 0.5mLを加えて混合後,Extrelut2.0g(エー ヘキサン5mLを加えて2分間撹拌して遠心分離 テル洗浄済み)充填ガラスカラム(10×150 mm)に (3,000rpm,10分間)する。有機層は30℃,ヘリ 添加する。室温で約20分間放置した後に吸着成分 ウムガスで蒸発乾固後,移動相(アセトニトリル を酢酸エチルで溶出し,その4mLを減圧乾固後, /リン酸緩衝液pH3.0=50/50)20μLを添加して 残査に移動相(リン酸水溶液/アセトニトリル= HPLC分析やLC-MS分析する。 75/25)0.5mL加え,HPLC分析やLC-MS分析する。 ②ブロムワレリル尿素 ④その他の薬物 呈色反応を使用して原因薬物を推定後,HPLC分 各種周辺情報から原因物質を推定後、HPLC分析 析やLC-MS分析により確定する。 血清,尿,胃洗浄液試料はニトロベンジルピリ ジン法やバイルシュタイン反応による呈色試験 やLC-MS分析により確定する。 留意事項 中毒事故は複数の薬物による場合もあるが,フ で推定分析する。血清は除タンパクが必要である。 ォトダイオードアレイUV-VIS 検出器を用いた HPLC分析により多成分の一斉分析が可能になる 現在中断中) こともある。また,薬剤を服用した場合の有効量 2)上水試験方法 日本水道協会(1993) や血中濃度,尿中濃度並びに代謝産物に関する日 3)日本工業規格 JIS K 0101, 0102, 0103 (1998) 常的な情報の蓄積は中毒事故が生じた場合の迅 4)衛生試験方法 日本薬学会編(1990) 速な推定,確定分析に不可欠である。 5)最新農薬データブック第3版 (1997) ソフト 最近,所持や使用に関して国内の法律による規 制のない薬物や麻薬・覚醒剤に類似する物質を含 サイエンス社 6)13599の化学商品 化学工業日報社(1997) む製品の入手がインターネットにより容易にな っているので,これらによる中毒事故に対応する 本文 1-1-2 関連 ための準備も急がれる。 1)作業環境測定ガイドブック3(特定化学物質 サンプリング時の留意事項 関係)労働省安全衛生部環境改善室編 日本作 中毒事故現場におけるサンプリングにあたり, 業環境測定協会(1998) 生体試料の場合,特に血液(HBV,HIV等による汚 2) 作業環境測定ガイドブック4(金属類)労働 染)に対する採取者の安全と試料のコンタミをな 省安全衛生部環境改善室編 くすためにゴム手袋などを着用する。試料の採取 定協会(1998) 量は可能な限り多く採取しておく。また,中毒者 日本作業環境測 3) 作業環境測定ガイドブック5(有機溶剤関係) や現場の情報を収集し,試料の臭気や色調そして 労働省安全衛生部環境改善室編 日本作業環 周辺状況を詳細に記録しておく。 境測定協会(1998) ・胃洗浄物: 胃内容物を吸引して試料を採取す る。不可能な場合,微温湯や生理食塩液で胃洗 浄を行いその液を採取する。採取後,冷蔵また は冷凍保存する。採取量,色調,臭気を記録す 4) 環境有害物の測定と評価 無機編 多田治, 中明賢二 労働科学研究所(1979) 5) 環境有害物の測定と評価 有機編 多田治, 中明賢二 労働科学研究所(1980) る。 ・血液: 抗凝固剤などを含まないスピッツ管に 採取後,約10分間放置して遠心後,血清または 血漿を分離して冷蔵または冷凍保存する。採取 量を記録しておく。 ・尿: 採取後,冷蔵または冷凍保存する。採取 量,色調,pHを記録する。 本文 1-1-3 関連 1) 薬毒物化学試験法と注解 日本薬学会編 南 山堂(1992) 2) 衛生試験法・注解 日本薬学会編 金原出版 (2000) 3)食品衛生検査指針 理化学編 厚生省生活衛 生局監修 日本食品衛生協会(1991) (項1-1.では,宮島年男,宮野啓一,田中之雄, 福島成彦,熊谷信二,小坂博,吉田俊明,片岡 本文 1-1-4 関連 正博,沢辺善之(大阪府立公衛研)の協力を得 1)小坂 博、宮島啓子;フレームレス原子吸光 法による血中鉛測定方法の検討、大阪府立公衛 た) 研所報 労働衛生編 引用・参考文献 第 21 号(昭和 58 年) 2)M Hirata, T Yoshida, K Miyajima, H Kosaka, T Tabuchi; Correlation between lead in 本文 1-1-1 関連 plasma 1) 独立行政法人・産業技術総合研究所データベース: exposure among lead-exposed workers. Int 「質量分析/赤外分析/紫外分光分析,NMR等デー タ ヘ ゙ ー ス 」( http://www.aist.go.jp/index_j.html and other indicators of lead Arch Occup Environ Health(1995) 68:58-63 本文 1-1-5 関連 1) トライエージ8テスト試薬:国際試薬株式会社 (製造元 BIOSITE社)発売,有効期限製造後 9カ月,常時在庫有 2)J.Chromatogr. 310 (1984) 213-218 3)J.Chromatogr. 616 (1993) 105-115 4)J.Chromatogr. 536 (1991) 319-325 5)薬毒物の簡易検査法 広島大学医学部法医学 講座編 (株)じほう(2001) 6)安藤英治:島津評論,57,1-2,(2000) 109-113
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