日本の「トラ[虎]」にまつわる表現考察 -韓国の「ホーランイ」(호랑이[虎])表現との対照を中心に4) 申 惠 淑* <目 次> 1. はじめに 4.2 強さ・威勢・勇猛 2. 研究目的と方法 4.3 恐さ・冷酷 3. 日本語表現上の「トラ[虎]」のイメージ 5. 「トラ[虎]」と「ホーランイ」 3.1 危険 (호랑이[虎])の言語表現分析 3.2 強さ・威勢・勇猛 5.1 日本における「トラ」、韓国に 3.3 野生の勢い おける「ホーランイ」 4. 韓国語表現上の「ホーランイ」 5.2 言語表現上の「トラ」と「ホーランイ」 (호랑이[虎])のイメージ 6. おわりに 4.1 危険 Key Word : 「トラ」、「ホーランイ」、言語表現、比喩、対照研究 1. はじめに 同一の物事や現象に対しても国によって認識が異なり、言語表現の中でも 違う意味で表現されることがある。殊に、動物を用いた表現はその表現を用 いる人々の文化と強い関わりを持ち、表現中に表れる動物は同じものであっ ても言語によって異なったイメージで使われるケースがある。これは動物が その国の文化と強く関わって認識され、その認識に基づいたイメージで言語 表現に表れるためであると考えられる。 日・韓表現対照研究の中で、日本語表現中に登場する動物と韓国語表現の * 韓国外国語大学校 日本語通訳飜譯學科 講師, 日本語表現 380 日本言語文化……第27輯 中に表れる動物を比較対照した代表的な研究としては李東一(1995)、鄭芝淑 (2000)、申恵淑(2009)などがあげられる。李東一(1995)は、動物の犬と猫が 用いられた日本と韓国のことわざを比喩的意味から分類しており、さらにこ とわざの比喩的表現を通じて日本人と韓国人の言語表現に対する発想や言語 意識の構造などの分析も行っている。鄭芝淑(2000)は、動物の猫を用いた日 本語の慣用的比喩表現を韓国語表現との対照を中心にして研究するにあたっ て、その国独特の比喩表現はその国の生活文化に基づいて発想されたものだ という観点を示している。そして申恵淑(2009)は、日本語表現の中で狐と狸 が表すイメージを分析すると同時に、韓国語表現中でイメージ上、対応する ものに関する考察も行っているが、特に狐と狸が日本文化の中で動物妖怪と してのイメージが強いことに着目し、動物妖怪としてのイメージを中心とし て文化中での認識に基づいた分析を行っている。これらの研究は言語表現の 中で動物が持つイメージはその言語を用いる地域の文化上での認識と強く関 係していることに注目し、言語表現上のイメージ分析に留まらず、文化上で の認識との関係も究明した意味のある研究と思われる。 今までの動物に関する日・韓、両言語の比較対照研究の一分野として、本 稿では十二支動物で日本と韓国に共通する動物、虎を対象に研究を行いたい と思うが、虎が日本語と韓国語表現の中に表れる意味特徴を分析し、また言 語表現を通して日本人と韓国人において、虎はどのように認識されている存 在であるかをも究明したい。 2. 研究目的と方法 中国文化から強く影響を受けてきた日本と韓国において、代表的なものと して十二支の動物は共通のイメージで認識されることが多いが、反面、各国 の文化の特徴と絡み合いその国独特のイメージで固着している部分もある。 その中の虎は日本の山野には実際に生息していなかった動物であったが、近
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