脊髄損傷者の勃起障害に関するアンケート調査 牛山武久(国立身体障害者リハビリテーションセンター病院 小谷俊一(中部労災病院 診療部長) 泌尿器科部長) 岩坪暎二(総合せき損センター 泌尿器科部長) 木元康介(総合せき損センター 泌尿器科副部長) 目的 私たちは脊髄損傷患者の排尿障害・性機能障害の治療に日夜励んでいます。 排尿障害についてはその実態をよく把握しており,診断・治療についても決ま った手順があります。しかし,性機能障害についてはよく実態が把握できてお らず,治療に苦慮することも多いのです。患者さんも排尿障害については他の 患者にいろいろ聴いたり,相談できるでしょうが,性機能障害についてはそう は い か な い で し ょ う 。脊 髄 損 傷 患 者 の 性 機 能 の 調 査 に つ い て は , 小 谷 ら の 1990 年 の 調 査 , 吉 井 ら の 1992 年 の 調 査 が あ り ま す が , 今 回 バ イ ア グ ラ の 発 売 後 の アンケート調査をすることは非常に意味のあることと考え,調査をした次第で す。 回答率 連 合 会 の 名 簿 か ら 1432 人 の 方 に 質 問 表 を 送 ら せ て い た だ き ま し た 。そ の う ち , 734 人 の 方 ( 50.2% ) か ら 回 答 を い た だ き ま し た 。ご 協 力 に 感 謝 い た し ま す 。 そ の 年 齢 構 成 は 図 1 に 示 す ご と く 40− 59 歳 ( 今 後 中 年 層 と 呼 ぶ ; 以 下 同 じ ) が も っ と も 多 く , つ い で 60 歳 以 上 ( 高 齢 層 ), 20− 39 歳 ( 若 年 層 ) と な っ て おります。これを以前の調査と比べたのが図2で,今回の調査は高齢層に偏っ た傾向がみられました。 1 図 1 無回答 2%(17) 20-39歳 9%(69) 60歳以上 38%(276) 40-59歳 51%(372) 図 2 60.0% 50.0% 40.0% 30.0% 20.0% 10.0% 0.0% 10-19 歳 20-39 歳 今回調査 40-59 歳 小谷(1990) 60 歳以上 吉井(1992)* * : 女性も含む 2 障害を受けてからの期間 図3に示しますように,年齢が上がるにつれ,期間ものびる傾向でした。 図 3 60% 1年未満 1∼6年未満 6∼11年未満 11∼16年未満 16∼21年未満 21∼26年未満 26年以上 無 回 答 50% 40% 30% 20% 10% 0% 20-39歳 40-59歳 60歳以上 脊髄損傷の原因 図4に示しますように殆どの方が外傷によるものでした。 図 4 20−39歳 わからない 1(1%) 病気 6(9%) 無 回 答 1(1%) 60歳以上 40−59歳 その他 わからない 4(1%) 無 回 答 8(2%) 病気 2(1%) 16(4%) 外傷 61(89%) 外傷 342(92%) 3 病気 19(7%) その他 9(3%) 外傷 247(90%) 無 回 答 1(0%) 損傷部位 図5に示しますように,若年層で頚髄損傷が多い傾向でした。 図 5 20−39歳 わからない 無回答 1(1%) 1(1%) その他 1(1%) 7-12胸椎 18(26%) 40−59歳 60歳以上 無回答 12(3%) その他 4(1%) 頚椎 95(26%) 腰椎 78(21%) 頚椎 31(46%) わからない 1(0%) その他 無回答 11(4%) 2(1%) 腰椎 77(28%) 頚椎 50(18%) 1-6胸椎 28(10%) 1-6胸椎 40(11%) 1-6胸椎 17(25%) 7-12胸椎 143(38%) 7-12胸椎 107(39%) 排尿方法 図6に示しますように,自己導尿,集尿器,尿道留置,自排尿,膀胱ろうの順 でした。 図 6 尿道留置カテーテル 10(14%) 63(17%) 60(22%) 集尿器をつけている 12(17%) 79(21%) 56(20%) 140(38%) 98(36%) 間欠 間 欠 導 尿 (または自 己 導 尿 ) 自然な排尿(正常な排尿) 膀胱瘻 その他 無回答 33(48%) 9(13%) 31(8%) 18(7%) 2(3%) 18(5%) 11(4%) 3(4%) 35(9%) 23(8%) 0(0%) 6(2%) 10(4%) 20-39歳 4 40-59歳 60歳以上 結婚 結 婚 に つ い て は 図 7 ,8,9 に 示 し ま す が ,若 年 層 で 離 婚 率 が 高 い の が 目 に 付 き ます。 図 7 結 婚 の有 無 (20−39歳 ) 受傷前の結婚の有無 無回答 1(1%) 受傷後(現在)の結婚の有無 無回答 1(1%) 既婚者 5(7%) 現在既婚 26(38%) 現在未婚 42(61%) 未婚者 63(92%) 未婚者の受傷後 既婚者の受傷後 その他 1(2%) 結婚した 23(37%) 離婚 2(40%) 既婚のまま 3(60%) 未婚のまま 39(61%) 5 図 8 結 婚 の有 無 (40−59歳 ) 受傷後(現在)の結婚の有無 受傷前の結婚の有無 無回答 8(2%) 未婚者 165(44%) 無回答 11(3%) 現在未婚 107(29%) 既婚者 199(54%) 現在結婚 254(68%) 既婚者の受傷後 未婚者の受傷後 その他 2(1%) 離婚後再婚 12(6%) 無回答 1(1%) その他 1(1%) 無回答 2(1%) 離婚 19(10%) 未婚のまま 85(51%) 結婚した 77(47%) 既婚のまま 165(82%) 6 図 9 結 婚 の有 無 (60歳 以 上 ) 受傷後(現在)の結婚の有無 受傷前の結婚の有無 その他 1(3%) 無回答 11(4%) 未婚者 37(13%) 未婚のまま 13(35%) 既婚者 228(83%) 既婚者の受傷後 未婚者の受傷後 離婚後再婚 4(2%) その他 1(3%) 未婚のまま 13(35%) 結婚した 23(62%) その他 6(3%) 離婚 7(3%) 結婚した 23(62%) 既婚のまま 210(92%) 7 無回答 1(0%) 受傷後の性交渉の試み 受 傷 後 に 性 交 渉 を 試 み な い 理 由 と し て , 図 10, 11, 12 に 示 し ま す が , 若 年 層 は相手がいないという理由が最多で,他の世代は勃起しないので不安という理 由が一位を占めました。 図10 20−39歳 9% 勃起しないので不安 13% したいと思わない 78% 相手の女性がいない その他 0% 無回答 0% 40−59歳 図11 45% 勃 起 しない の で不 したいと思わな 20% 相手の女性がい な 19% 14% その他 無回答 3% 60歳以上 図12 42% 勃起しないので不安 28% したいと思わない 相手の女性がいない 5% 15% その他 9% 無回答 8 勃 起 機 能 問 診 表 ( IIEF) 図 13 に 示 し ま す が , す べ て 5 点 満 点 で 点 数 が 高 い ほ ど 勃 起 機 能 が よ い こ と を 表します。すべて 2 点以下で年齢と共に下降するのがよくわかります。 図 13 2.0 1.8 勃起を維持する自信度 1.6 1.4 挿入可能な勃起の硬さ になる頻度 勃起を維持することがで きる頻度 勃起を維持する困難度 1.2 1.0 0.8 0.6 満足に性交できる頻度 0.4 0.2 0.0 20-39歳 40-59歳 60歳以上 生活満足度 図 14 に 示 し ま す が , す べ て 6 点 満 点 で 点 数 が 高 い ほ ど が 満 足 し て い る こ と を 表します。これを見ますと,生活全体・パートナーとの関係・家族生活の満足 度は高いことがわかります。しかし性生活に関しては,どの年齢層でも低いこ とがわかります。 図 14 5 4 20-39歳 40-59歳 60歳以上 3 2 1 0 生活全体 性生活 パートナー との関係 9 家族生活 現在の勃起の状態が今後一生続くとしたら満足か不満か? 図 15 の 円 グ ラ フ に 示 し ま す が , こ の 質 問 に 対 す る 答 え は 不 満 と 非 常 に 不 満 を 合 わ せ る と ,若 年 層 で は 76% が 不 満 ,中 年 層 で は 61% が 不 満 ,高 齢 層 で は 49% が不満と若いほど不満度が高いことがわかります。 図15 20−39歳 満足 4(6%) 無回答 3(4%) 40−59歳 60歳 以上 無回答 35(9%) 大変満足 5(1%) 無回答 59(21%) 満足 18(5%) 満足・不満の どちらでもない 10(14%) 非常に不満 27(40%) 非常に不満 124(34%) 満足・不満の どちらでもない 88(24%) 不満 25(36%) 非常に不満 81(29%) 満足 6(2%) 満足・不満の どちらでもない 76(28%) 不満 102(27%) 不満 54(20%) 性交渉の頻度 図 16 の 棒 グ ラ フ に 示 し ま す が , 若 い 世 代 ほ ど 性 的 に 活 発 な こ と が わ か り ま す し,高齢になるほど,回答されない方が多い傾向です。 図16 20-39歳 11.6% 13.0% 30.4% 13.0% 8.7% 10.1% 4.6% 3.5% 3.5% 40-59歳 60歳以上 22.5% 5.9% 19.4% 27.7% 35.5% 64.1% 8.7% 1.4% 1.1% 1.1% 1.1% 0回 1回未満 1回 10 2回 3回 4回以上 無回答 13.0% 治療意向と実際の医師への相談 勃起障害に対し治療を受けようと思った人と実際に医師に相談した人の比率を 図 17 の 円 グ ラ フ に 示 し ま す が , そ れ ぞ れ の 世 代 で , 若 年 層 : 43% (治 療 受 け た い;以 下 同 じ )と 28% (実 際 に 相 談;以 下 同 じ ),中 年 層:34% と 17% ,高 齢 層 : 24% と 12% と な り ,2 割 か ら 4 割 の 方 が 治 療 を 受 け た い と 思 い な が ら ,実 際 は その半数くらいしか医師に相談してないことがわかります。 実際に相談した医師は泌尿器科医がほとんどでした。 これまでにあなたは勃起の問題について 治療を受けたいと思ったことはありますか? 最初に相談した 医師の診療科 勃起に関して医師に相談した経験の有無 20−39歳 無 回 答 2(3%) 無 回 答 5(7%) 整形外科 2(11%) その他 1(5%) ある 19(28%) ある 30(43%) ない 37(54%) ない 45(65%) 泌尿器科 16(84%) 40−59歳 無 回 答 15(4%) 無 回 答 37(10%) ある 62(17%) その他 1(2%) 無 回 答 2(3%) 整形外科 9(15%) ある 125(34%) ない 232(62%) リハビリテー ション科 2(3%) ない 273(73%) 泌尿器科 48(77%) 60歳 以 上 無 回 答 37(13%) ある 33(12%) 無 回 答 49(18%) 無 回 答 1(3%) 整形外科 5(15%) ある 65(24%) ない 174(63%) リハビリテー ション科 2(6%) ない 194(70%) 11 泌尿器科 25(76%) 医師に相談しない理由 そ の 理 由 は “ 面 倒 く さ い ”“ 恥 ず か し い ” が 多 い 理 由 で し た 。 20歳 −39歳 51.1% 面倒くさい 42.2% 恥ずかしい 26.7% 行く病医院がわからない 35.6% 検査内容が不安 40.0% 費用が問題 24.4% すでに解決済み 40−59歳 48.7% 面倒くさい 41.0% 恥ずかしい 行く病医院がわからない 34.4% 検査内容が不安 34.4% 26.0% 費用が問題 すでに解決済み 10.3% 60歳 以 上 面倒くさい 24.7% 21.1% 恥ずかしい 行く病医院がわからない 13.4% 検査内容が不安 12.4% 費用が問題 7.2% 78.9% すでに解決済み 12 治療経験 どのような治療を受けているかという質問に対しては,バイアグラが圧倒的に 多かったのですが,海綿対注射や陰圧式勃起補助具を使用している方も中年・ 高齢層に小数見受けられました。 20.0% 18.0% 16.0% 2.9% 14.0% 1.4% 12.0% 1.4% 1.3% 0.3% 0.8% 10.0% 7.3% 8.0% 6.0% 0.4% 0.7% 11.6% 4.0% その他 ペニスプロステーシス 陰圧式勃起補助具 陰茎海綿体内注射 バイアグラ 4.0% 4.8% 2.0% 1.8% 0.0% 20-39歳 40-59歳 60歳以上 保険適応 勃 起 障 害 の 治 療 は 保 険 適 応 さ れ る べ き か と い う 質 問 に 対 し ,87( 若 年 ,中 年 層 ) ∼ 67% ( 高 齢 層 ) で “ は い ” と 回 答 さ れ ま し た 。 医 師 へ の ア ン ケ ー ト( ニ ー ル セ ン 調 査 の 図 ),一 般 人 に 対 す る ア ン ケ ー ト( 白 井 先生たちの結果)でも脊髄損傷患者には保険適応してもよいという意見が多い ようです。 20−39歳 無回 3(4%) 40−59歳 無回 いいえ 16(4%) 33(9%) いいえ 6(9%) は い 60(87%) 60歳 以 上 無回答 59(21%) いいえ 32(12%) は い 323(87%) 13 は い 185(67%) AC Nielsen 社 「ED 治 療 薬 の保 険 適 応 についての意 識 調 査 」 (内 科 医 114 名 に対 するアンケート 調 査 実 施 :2000 年 1 月 実 施 ) 保険で負担 すべき 16.9% 保険負担す わからない 3.4% べきではない 14.4% 診断・検査費 用のみ保険 13.6% 68.6% 対象を限定し て保険 51.7% 保険適用に対する一般市民の考え 男性 (n=2034) 女性 (n=1820) 1.4%1.0% 1.4% 7.3% 13.1% 勃起不全も病気のひとつなので 他の病気と同様に健康保険で負 担すべき 2.2% 38.9% 41.4% 糖尿病、脊髄損傷、拳児希望な ど条件を決めて健康保険で負担 すべき 現状通り健康保険では負担する べきではない その他 43.0% 50.2% 無回答 14 最後にこのような貴重なデータを提供していただきました会員の皆様に感謝い た し ま す 。こ の 結 果 は 9 月 に 開 催 さ れ ま す 日 本 性 機 能 学 会 及 び 日 本 神 経 因 性 膀 胱 学 会 で 一 部 を 発 表 し , 10 月 に タ イ で 開 か れ ま す ア ジ ア 太 平 洋 性 機 能 学 会 と 11 月 に 開 か れ ま す 日 本 パ ラ プ レ ジ ア 医 学 会 で 全 部 を 発 表 す る 予 定 で す そ の 間 に論文化も予定しております。 今後はほとんどデータのない女性の性機能障害のアンケート調査を行う予定で す。会員の皆様にはご協力のほどをよろしくお願いいたします。 15
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