テイラー展開

テイラー展開
森 真
1
序
関数 f (x) の x = a におけるテイラー展開は
f (x) = f (a) + f 0 (a)(x − a) +
f 00 (a)
(x − a)2 + · · ·
2
と表される.右辺の級数が収束する範囲でのみ成り立つことに注意しなけれ
ばならない.この右辺が収束する範囲は |x − a| < ρ と a 中心の円 (複素平面
で考えると本当に円) になる.この ρ > 0 であるとき,f は x = a で解析的で
ある,または正則であるという.もちろん,f が何回でも微分できなければ
ならない (C ∞ 級) が,それよりも厳しい条件である.a = 0 のときにはマク
ローリン展開とも言われる.
2
誤差近似
まず,有限項で止めることを考えよう.これだけなら,必要な回数だけ微
分できる関数について成り立つし,実用的かどうかは別として収束半径など
に気を使わなくてよい.
1 回微分できて,その微分 f 0 が連続 (C 1 級) のとき,高校で習った平均値
の定理
f (x) − f (a)
= f 0 (c) (c は x と a の間の点)
x−a
が出発点である.これは
f (x) = f (a) + f 0 (c)(x − a)
と変形できる.c = a + θ(x − a) (0 ≤ θ ≤ 1) と表して
f (x) = f (a) + f 0 (a + θ(x − a))(x − a) (0 ≤ θ ≤ 1)
と表すこともできる.この方が,x と a の大小関係に気を使わなくてすむと
いう利点もある.
1
n 回微分できて,n 回微分 f (n) が連続 (C n 級) のときには
f (x) = f (a) + f 0 (a)(x − a) +
+
f 00 (a)
f (n−1) (a)
(x − a)2 + · · · +
(x − a)n−1
2
(n − 1)!
f (n) (a + θ(x − a))
(x − a)n
n!
と表すことができる.ここで
Rn =
f (n) (a + θ(x − a))
(x − a)n
n!
が誤差項である.
n − 1 項までの和 (n − 1 次近似)
f 0 (a)(x − a) +
f (n−1) (a)
f 00 (a)
(x − a)2 + · · · +
(x − a)n−1
2
(n − 1)!
で,f (x) の値を近似したときの誤差が Rn というわけである.
誤差は正確にわからないからと投げ出したのでは意味はない.近似がどの
程度正確をを知るためには,誤差がいくつ以下であるかを知ればよい.これ
はコンピュータにはできない仕事で,まさに人間の知恵が必要とされるとこ
ろである.上で与えた誤差の式はその一つの表現であって,これ以外にも誤
差の形は適材適所を選ぶべきである.ともあれ,馬鹿の一つ覚えと言われて
もこの形でやってみようではないか.
2.1
sin x のマクローリン展開
sin x = x −
x3
x5
+
+ ···
3!
5!
である.誤差
Rn =
f (n) (θx) n
x
n!
に現れる f (n) (θx) は ± sin(θx) か ± cos(θx) であるから,その絶対値は 1 よ
り小さい.したがって
|Rn | ≤
|x|n
n!
であることがわかる.
図に表してみよう.黒線が sin x,赤線が近似,青線が近似に誤差を加味した
線で 2 つの青線の間に真の値が入っていることに注意しよう.最初の図 (0 次
近似) は平均値の定理である.第 2,第 3 の図 (1 次近似,2 次近似) は,sin x の
x3 の係数は 0 であるので,ともに x による近似だが,x + R2 か x + 0x2 + R3
と誤差項の評価が後者の方がよくなっている.同様に第 4,第 5 の図 (4 次近
似,5 次近似) も x −
x3
3!
による近似だが同じ理由により後者の方がよくなっ
ている.
2
3
2
1
-3
-1
-2
1
2
3
-1
-2
-3
-3
-2
4
4
2
2
-1
1
2
3
-3
-2
-1
-2
-2
-4
-4
1
2
3
1
2
3
4
3
2
2
1
-3
-2
-1
1
2
3
-3
-2
-1
-1
-2
-2
-3
-4
図 1: sin x の 0 次近似から 4 次近似
2.2
ex のマクローリン展開
ex = 1 + x +
x2
x3
+
+ ···
2
3!
であり,誤差は
eθx n
x
n!
である.e < 3 であることは容易にわかるし,ex は単調増加で,正の値をと
Rn =
るから誤差は
Rn ≤
3|x| n
|x|
n!
で与えられる.しかし,3|x| も x が整数のところしかわからないので,m−1 <
|x| ≤ m のときに 3|x| < 3m で近似することにしよう.指数関数の近似はとて
もよいのだが,それでも x が大きくなると誤差は大きくなることがわかる.
3
30
25
20
15
10
5
-3
-3
-3
-1
-2
-2
-2
1
3
30
25
25
20
20
15
15
10
10
5
5
-1
-1
2
30
1
2
3
-3
-2
-1
30
30
25
25
20
20
15
15
10
10
5
5
1
2
3
-3
-2
-1
1
2
3
1
2
3
図 2: ex の 0 次近似から 4 次近似
2.3
log(1 + x) のマクローリン展開
log(1 + x) = x −
である.誤差項は
Rn =
x2
x3
+
+ ···
2
3
(−1)n−1 n
x
(1 + θx)n
注意しなければならないのは右辺の収束半径が 1 であることである.x > 0
のときには θ = 0 のときに Rn は最大で,x < 0 のときには θ = 1 のときに
|Rn | は最大になる.したがって
|Rn | ≤

 xn
x≥0

x<0
n
|x|n
(1+x)n
になる.|x| > 1 になると級数は発散する.しかし,その両端で事情が異なる
4
1
0.5
-1
-0.5
1
0.5
-0.5
-1
-1.5
-2
-2.5
-3
-1
1
1
0.5
0.5
-0.5
0.5
1
-1
-0.5
-0.5
-1
-1
-1
-1.5
-1.5
-2
-2
-2.5
-2.5
-3
1
-3
1
0.5
0.5
-0.5
0.5
1
0.5
1
-0.5
0.5
1
-1
-0.5
-0.5
-0.5
-1
-1
-1.5
-1.5
-2
-2
-2.5
-2.5
-3
-3
図 3: log(1 + x) の 0 次近似から 4 次近似
ことが図からわかるだろう.x ≥ 0 の方では近似はよくなっていくが,x = −1
に近くなると近似が役に立たなくなることが図からも見て取れる.この理由
はもちろん,log 0 が定義されないことから来ている.
同様に (1 + x)c のマクローリン展開は一般の 2 項展開を用いて
³c´
³c´
(1 + x)c = 1 +
x+
x2 + · · ·
1
2
をみたすのだが,c が正の整数でない場合には収束半径は 1 となる.これは
(1 + x)a が何回か微分すると x = −1 で存在しなくなることから来ている.こ
の辺に収束半径の理由が潜んでいることはわかるだろう.
3
収束半径
テイラー展開
b0 + b1 (x − a) + b2 (x − a)2 + · · ·
5
が収束する範囲は,今までの議論から考えればわかるように Rn → 0 となる
x の範囲であることがわかる.しかし,この評価は必ずしも容易ではない.し
かし,係数 b1 , b2 , . . . をみると,次のことがわかる.
p
1
lim sup n |bn | =
ρ
n→∞
とすると ρ が収束半径,すなわち |x − a| < ρ で級数が収束する.しかし,上
極限を用いていることからわかりにくいが,
¯
¯
¯ bn+1 ¯
¯
lim ¯¯
n→∞
bn ¯
が存在すれば,この逆数が収束半径になることが示せる.しかし,この極限
が存在しない場合に「収束半径がない」などという議論をしては決してなら
ない.例えば
1 + 3x + 22 x2 + 33 x3 + 24 x4 + · · ·
の収束半径は
1
3
であるし,
1 + x2 + x4 + · · ·
の収束半径は 1 である.
収束半径の内側ではそれこそ「何をしてもよい」.和の順序を変えてもよ
いし,項別に微分したり,積分をしてもよい.つまり,
log(1 + x) = x −
ならば
x+
x2
x3
+
− ···
2
3
x5
x3
+
+ ···
3
5
と
x2
x4
+
+ ···
2
4
を計算してから,引き算をしても log(1 + x) を与えるし,
µ 2 ¶0 µ 3 ¶0
1
x
x
0
0
+
+ ···
= (log(1 + x)) = x −
1+x
2
3
= 1 − x + x2 − · · ·
が成り立つし,
Z
x
x log(1 + x) + log(1 + x) − x =
log(1 + t) dt
Z x 2
Z x 3
x
t
t
=
t dt −
dt +
dt − · · ·
2
0
0
0 3
x2
x3
x4
=
−
+
− ···
2
2·3 3·4
も成り立つ.しかし,あくまでも収束半径内,つまり |x| < 1 をみたさなけ
ればならない.
Z
6
0