看護師長の承認行為尺度の開発

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看護師長の承認行為尺度の開発
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萩本孝子
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笠松由佳
2)
相澤恵子
3)
柳井晴夫
4)
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3)
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キーワード: 承認,職務満足,組織コミットメント,尺度開発
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要 旨
本研究の目的は「看護師長の承認行為項目リスト」(萩本,2009)をもとに「看護師長の承
認行為尺度」を開発し,信頼性と妥当性を確認することである.研究対象は,看護師長以上の
管理者を除く看護師606名である.因子分析等から項目の削除と構成概念妥当性の検討,「ミネ
ソタ満足度尺度」および「組織コミットメント尺度」の下位尺度である「情動的コミットメン
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hα等から信頼性を検討した.その結
ト」との相関係数から基準関連妥当性を検討, Cr
果,「看護師長の承認行為尺度」は32項目から22項目に洗練された.信頼性は,尺度の全体の
Cr
onbac
hαが09
.
.
.
.
6,各因子では08
5~09
2(p<0
01)であり,内的整合性が高いことが確認さ
.
.
れた.妥当性については,
「ミネソタ満足度尺度」とは r
=05
1(p<0
01)で有意な相関を認め
.
.
基準関連妥当性が支持された.しかし,
「情動的コミットメント」とは r
=03
1(p<0
01)で弱
い相関であり,基準関連妥当性の確認については課題が残った.因子分析では「看護師長の承
認行為項目リスト」(萩本,2009)と同じ4因子『親密な交流』『支持的な相談・助言』『心地
受付日:2014年3月17日 受理日:2014年6月15日
1) 順天堂大学医学部附属順天堂医院 看護部 J
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2)
虎の門病院 Tor
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3) 日本看護協会 J
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4) 聖路加看護大学 St
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*責任著者 Cor
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56
.18,No.1,2014
日看管会誌 Vol
.%であり,構成概念
よい注目』
『肯定的な業績評価』が抽出された.22項目の累積寄与率は693
妥当性は確保された.
看護管理者が本尺度を参考にして承認行為を実践することにより,看護師の職務満足を高め,
組織コミットメントを強めることが可能となる.
Ⅰ.緒言
家としての知識よりも,明確な管理スタイルとして,
ケアリングとしての感情的要素が重要であり,それ
臨床で働く看護師にとって,質の高い看護を提供
により看護師の自信とモチベーションの向上がもた
するためには仕事の継続性と経験の豊富さが必要で
らされるという.
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,
1
994),看護師が職場に適応し,長く
あり(Be
以上のことから,看護師長は,日本の文化的背景,
働き続けられる職場環境をつくるのは,看護師長の
特に人間関係を考慮した上で自分の部署の看護師の
大きな役割である.離職率の低い職場では,看護師
仕事ぶりを認め動機づけることのできる「承認する」
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.
,
1997),看護師
の職務満足が高く(Da
行為を実践することが必要であると考えるが,既存
の職務満足に関連した変数に関するメタ分析では,
の尺度では看護師の感情を受容し,情緒的な面を支
職務満足と承認の間に相関があることが確認されて
援する項目が少ないことが問題である.
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.
,
いる(Bl
1993).また,職務満足と組織
萩本(2009)は,看護師長の承認行為の項目を精
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.
,
コミットメントは関係性があり(I
選し32項目の「看護師長の承認行為項目リスト」を
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2001 ;Ma
2008),組織コミットメントの下
作成し,信頼性を確認した.また日本の看護師の職
位概念である情動的コミットメントは,上司からの
場において,看護師長の承認行為には,情緒的な要
支援により強められる(難波ら,2009).
素と手段的な要素が必要であることを示した.今回,
egen,
承認の研究については,1990年代前半に Bl
「看護師長の承認行為項目リスト」を,日本の文化的
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.
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.
(1992)や Go
(1993)が,看護師長
背景や看護師長の権限の範囲で実践できる「看護師
の承認行為の構成要素を明らかにした.看護師長の
長の承認行為尺度」として項目を厳選し簡便化した
承認行為の中で看護師が最も重要としたのは「金銭
上で,信頼性と妥当性を確認することに取り組む.
的報酬を与える」行為であった.しかし,日本のほ
看護師長による「承認」の重要性や承認行為を具
とんどの病院組織においては,看護師長に昇給や金
体的に提示することは,看護管理手法の開発につな
銭的報酬を決定する権限がないことから,既存の尺
がるものである.つまり,看護師長が今まで無意識
度では日本の看護師長に適用するには限界がある.
的に行っていた行為が,具体的に記述されることに
日本では1996年から2000年前半まで,田口(1998)
よって,看護管理者の学習と行動変容をもたらすこ
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.
(1992)の質問項
や尾崎(2003)が,Bl
とができる.また,看護師長による承認行為が,職
目を日本の実状にあうように修正して看護師長の承
務満足,組織コミットメントと関係性があることが
認行為について研究しているが,修正した質問紙の
明らかになれば,看護管理者は看護管理手法として
信頼性や妥当性については確認されていない.
承認行為を実践することにより,看護師の職務満足
日本の組織・社会の文化的背景においては,一人
を高め,組織コミットメントを強めることが可能と
で「耐え」
「忍ぶ」といったような自己抑制と全体と
なる.ひいては,日本の看護師の職場定着に寄与す
の調和を重んじることや,人々の能力や業績を称賛
ることが可能である.
するより,和や序列を大切にし,ミスをしないこと
が よ し と さ れ て き た 風 土 が あ る(太 田,2007).
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t
h(2000)によれば,看護師の職場では,看護
Ⅱ.目的
師長が自分達に対して感情面を理解し支援してくれ
ると感じること,看護師長が部署の感情的な雰囲気
「看護師長の承認行為項目リスト」から「看護師長
を決める中心人物であり,看護師長の技術面や専門
の承認行為尺度」を開発し,信頼性と妥当性を確認
l
.18,No
.1,2014
日看管会誌 Vo
57
2.質問項目
することである.
1)属性
属性については,経験年数,年齢,性別,職位等
Ⅲ.方法
を質問した.
2)看護師長の承認行為項目リスト
1.用語の定義と概念枠組み
萩本(2009)は,日本の看護師長が実践できる承
本研究の承認とは,看護師長が当該看護師に対し
認とは何かを探り,日本の文化的背景や看護師長の
て相互作用の中で生じる肯定的フィードバック機能
権限の範囲で実践できる看護師長の承認とは何かを
である.承認行為とは,承認していることを具体的
記述し,看護師長の承認行為項目を選定した.手順
に示す行動のことであり,言語的・非言語的な内容
として承認行為のアイテムプールを作成した.まず,
を含むと定義した.
egen,etal
.
,
既存の文献(Bl
1992;尾崎,2003;田
概念枠組みを図1に示した.看護師長の承認行為
口ら,1998)から看護師長の承認行為の項目を俯瞰
は,情緒的な要素である『親密な交流』
『心地よい注
し,内容の重なりがあるもの,日本の文化にはそぐ
目』と,手段的な要素である『肯定的業績評価』
『支
わない行為および日本の看護師長の権限の範囲から
持的な相談・助言』の4因子から構成される.本研
逸脱する行為を削除し36項目とした.さらに萩本の
究では,看護師長が承認行為を行っているかという
看護師長としての経験から看護師の情緒的支援を示
看護師長の認識ではなく,当該看護師が看護師長か
す承認行為28項目を案出し64項目とし調査票を作成
らの承認を認識しているかという側面を重視する.
した.
すなわち,当該看護師の看護師長からの承認行為に
,
00名を対象に,
関東近県の3病院の一般看護師14
対する認識を測定している.
萩本が作成した「看護師長の承認行為」64項目に対
既存の研究では,組織コミットメントと職務満足
し,それぞれの項目について看護師長から認められ
とは関係性があることが明らかになっている
たと感じる度合いを「大変そう思う」「そう思う」
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.
,
Mahmoud,
2001 ;
2008).組織コ
(I
「あまり思わない」「全く思わない」の4段階で回答
ミットメントの下位概念である情動的コミットメン
を求め,肯定的な度合いが強い回答から4点, 3
トは,上司からの支援により強められる(難波ら,
点,2点,1点として得点を与えた.有効回答数は
2009)ことから,看護師長から承認されていると認
.%)であった.64項目のなかで
555(有効回答率396
識している看護師は情動的コミットメントが強いと
「そう思う」「大変そう思う」を合わせた割合が70%
考えた.また,職務満足と看護師長による承認とは
以上の32項目を,看護師長から認められたと感じる
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ta
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.
,
2004)ことから,看護師
関連がある(Er
支持の高い項目として採択し,
「看護師長の承認行為
長から承認されていると認識している看護師は職務
項目リスト」とした.看護師長の承認行為として最
満足が高いと考えた.
も高く認識された項目は「責任ある業務を委任する」
であった.
さらに,精選された項目がどのような要素・概念
図1 概念枠組み
58
.18,No.1,2014
日看管会誌 Vol
で形成されているかを因子分析で明らかにした.因
「全くその通りだ」「少しそうだ」「そうではない」
子分析の結果,
『親密な交流』
『心地よい注目』
『肯定
「全然その通りではない」の4段階,18項目から構成
的な業績評価』
『支持的な相談・助言』の4因子が抽
される.項目数が適当であったのに加え,情動的コ
出された.
「看護師長の承認行為項目リスト」の信頼
ミットメントが上司の支援と結びついていると考え,
onbac
hα)を算出したところ09
.
6であ
性係数(Cr
この尺度を用いることとした.日本語版では高橋
.
.
9~09
4であった.各因子間
り,各因子については07
(宗方,渡辺,2003)に事前許可を得た.
.
.
の相関係数を確認し, r
=03
5~07
1と各因子は互い
に関連があることが分かった.
「看護師長の承認行為項目リスト」の4因子に含ま
れる項目得点の平均値を算出した.
『第1因子:親密
.
.
8,
『第2因子:心地よい注目』は29
7,
な交流』は29
.
6,『第4因
『第3因子:肯定的な業績評価』は29
3.対象と調査方法
1)研究期間
2011年11月~2
012年1月
2)対象
対象施設は,看護部長より研究参加の承諾を得ら
.
子:相談・助言』28
7であった.
れた関東近県の200床以上の急性期,および一般病院
本調査では「看護師長の承認行為項目リスト」32
4施設であり,対象者は,看護師長以上の職位を有
項目を用いた.回答者は,自分に対して看護師長が
,
する管理者を除いた看護師19
90名とした.
行う承認行為を評価し,各項目に関して「大変そう
看護部長宛に,必要人数分の無記名自記式質問紙
思う」
「そう思う」
「あまり思わない」
「まったく思わ
調査票および返信用封筒を送付し,看護師長経由で
ない」の4段階で回答することとした.
各部署の対象者へ調査票の配布を依頼した.回収は,
3)ミネソタ満足度尺度
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,
etal
.
(1967)が開発し「内在的職務満足」
We
「外在的職務満足」の2次元から構成される.「内在
的職務満足」の下位概念に,能力の利用,達成,活
看護管理者からの強制力が働かないよう,研究者へ
の直接個別返送とした.
3)調査方法
(1)妥当性の検討
動性,昇進,権威,創造性,独立性,道徳性,承認,
①構成概念妥当性の検討:項目分析(項目間相関,
責任,多様性があり,
「外在的職務満足」の下位概念
I
T 相関)と,因子分析を行い「看護師長の承認行
には,安定した雇用,社会的保障,上司との人間関
為項目リスト」との整合性について検討した.
係,監督技術,給与,組織方針およびその実践,と
②基準関連妥当性の検討:組織コミットメントお
されている.回答は,「満足している」「少し満足し
よび職務満足度との相関係数を算出した.
ている」
「あまり満足していない」
「満足していない」
(2)信頼性の検討
の4段階,20項目から構成される.項目数が適当で
信頼性を検討するために,折半法を用いて信頼性
あり,看護師長の承認行為の概念と共通する部分も
係数を算出した.さらに内部一貫性の観点から,尺
あり,この尺度を用いることとした.日本語版では
o
nba
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hαを算
度全体および各下位尺度における Cr
高橋(宗方,渡辺,2003)に事前許可を得た.
出した.
4)組織コミットメント尺度
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(1990)が開発し,3次元から構
Al
4.分析方法
成される.第1次元は「情動的コミットメント」で,
尺度の得点の出し方については,すべての項目に
一般的に「ある特定の組織に対する個人の同一化お
ついて,肯定的な度合いが強い回答から4点, 3
よび関連の強さ」と定義される.第2次元は「継続
点,2点,1点として得点化した.回答のばらつき
的コミットメント」で,
「組織の成員であることの報
の相互比較のため,各項目の変動係数を確認した.
酬と費用の関数,すなわち,組織在籍年数の長期化
構成概念の妥当性の確保のために因子分析を行っ
に伴ってコミットメントは高揚する」と定義される.
.以下,項目分析(項目間相関,
た.因子負荷量が04
第3次元は「規範的コミットメント」で,
「組織成員
I
T 相関)の相関係数が03
.以下であることを目安と
が自分は組織に留まり,適応しなければならない,
し,項目の削減を行った.そのうえで,内容妥当性
という義務感・規範意識」と定義される.回答は,
については,統計学者1名と看護学修士をもつ者3
l
.18,No
.1,2014
日看管会誌 Vo
59
表1 対象者の概要
名,うち2名は看護管理者としての実践経験をもつ
者で検討した.
n=603
属性・生活要因
N
20-25歳
171
(28.
4%)
26-30歳
219
(36.
3%)
31-35歳
108
(17.
9%)
36-40歳
44
( 7.
3%)
連妥当性,弁別性を検討するため,職務満足度およ
41-45歳
24
( 4.
0%)
a
r
ma
nの
び組織コミットメントの下位尺度との Spe
46歳以上
24
( 4.
0%)
順位相関係数を求めた.なお,分析は統計ソフト
無回答
SPSS(St
at
i
s
t
i
calPackagef
ort
heSoci
alSci
-
女性
その後,信頼性を検討するため,折半法について
a
r
ma
nの順位相関係数を求め,内部一貫性に
は Spe
o
nba
c
hαを算出した.さらに,基準関
ついては Cr
年齢
性別
enc
es
r
.
)Ve
1
7を使用した.
職位
5.倫理的配慮
本研究は筆頭著者の所属施設である順天堂大学医
雇用形態
主任
婚姻状況
研究参加に関する検討を依頼し承諾を得た.
( 2.
2%)
(96.
5%)
21
( 3.
5%)
524
(86.
9%)
79
(13.
1%)
(97.
7%)
13
( 2.
2%)
1
( 0.
2%)
未婚
453
(75.
1%)
既婚
150
(24.
9%)
看護専門学校
204
(33.
8%)
短期大学
125
(20.
7%)
大学
非正規職員
262
(43.
4%)
研究に参加しないことによる不利益が生じないこと,
大学院
8
( 1.
3%)
個人・所属部署は一切特定できないよう匿名性を厳
高校から5年生一貫
4
( 0.
7%)
守することなどの倫理的配慮を行った.
教育背景
13
582
589
無回答
筆頭著者の所属施設において承認を得たことを伝え,
研究への参加は研究協力者の自由意思によること,
看護師
正規職員
学部研究等倫理委員会で承認を得た(承認番号:順
大医倫第2011061号).研究協力を依頼する際には,
男性
%
経験年数
(平均値)
看護師経験年数平均
7.
7年
現在の部署経験年数平均
3.
1年
師長との経験年数平均
1.
8年
Ⅳ.結果
と,各因子において項目数は3項目以上あることを
1.回答者の属性(表1)
確認した(表2).
.%)から回答を得た.このうち
606名(回収率305
「看護師長の承認行為項目リスト」と同様の4因子
回答に7項目以上欠損のあるものを除外した有効回
で構成されたが,第1因子が15項目と多く,因子に
.%)であった.603名
答数は603名(有効回収率303
含まれる項目が一部異なり構成概念妥当性の確保に
.% を 占 め,
の 属 性 は,20歳 か ら30歳 ま で が647
疑問が残った.
.%が女性であった.看護師の平均経験年数は77
.
965
.以下の4項目を削
そこで,まず因子負荷量が04
.年,現在の看
年で,現在の部署の平均経験年数は31
除,残った28項目を再度因子分析し,第1因子の中
.年であった.教育背景
護師長との平均経験年数は18
.
で因子負荷量が04
7以下でかつ同因子内で他の項目
.%,専門学校卒が338
.%,
は,大学・大学院卒が447
と意味が似ていると考えられた2項目を削除した.
.%であり,婚姻状況は751
.%が未婚で
短大卒が207
次に内容妥当性を検討し,「プライバシーを守る」
あった.
は,因子名『親密な交流』と意図がずれており,管
理者の職務であると思われるため削除,
「困ったとき
2.妥当性と信頼性の検討
1)構成概念妥当性の検討
60
に助ける」は,抽象的で分かりにくいため削除,
「看
護師の異動の際は 十分意見をきく」は,該当しない
「看護師長の承認行為項目リスト」32項目につい
場合は回答しづらいため削除した.
「責任のある業務
i
s
e
rの正規法を伴うプロマックス回
て,最尤法,Ka
を任せる」は,他の項目に比べ因子負荷量が比較的
転による因子分析を行い,因子数は,初期の固有値
低かったが,
「看護師長の承認行為項目リスト」64項
.以上あるこ
が1以上であること,因子負荷量が04
目の中で看護師長の承認行為として最も高く認識さ
.18,No.1,2014
日看管会誌 Vol
表2 「看護師長の承認行為項目リスト」32項目の因子分析結果(最尤法,Kai
serの正規化を伴うプロマックス回転法)
削除
項目
因子名
※4
第1因子
「親密な ※3
交流」
因子負荷量
項 目
第1成分 第2成分 第3成分 第4成分
1 看護師の提出物にきちんと目を通す
.
922
–.
057
–.
041
–.
165
2 看護トラブルのときすぐに対応する
.
832
ダメなときはダメとはっきり言う
.
744
–.
017
.
036
–.
090
–.
185
–.
087
–.
099
3 看護事故があったとき起こった原因について一緒に考える
4 看護師の心身の体調に気遣う
.
725
.
022
.
085
–.
101
.
685
.
032
.
034
.
097
5 以前話したことを覚えている
.
680
.
039
–.
032
.
022
6 業務中の様子をみてアドバイスをする
.
590
.
090
–.
126
.
232
.
573
.
261
.
103
–.
028
.
546
.
093
.
226
.
035
困ったときに助ける
7 いつでも話を聞く姿勢をとる
※3
看護師の異動の際は十分意見を聞く
.
499
.
130
.
028
.
091
※3
プライバシーを守る
.
484
–.
113
.
212
.
083
いつもと看護師の様子が違うときに気づいて伝える
.
472
.
009
–.
002
.
352
.
471
.
042
.
019
.
289
.
469
.
250
–.
121
.
154
.
408
.
278
.
037
.
023
10 創意工夫を認め,さらに発展させる機会を与える
–.
155
1.
045
.
108
–.
126
11 専門職者としての目標を話し合い,支持・支援する
–.
112
.
882
.
070
–.
026
12 専門分野の講師として推薦する
–.
034
.
745
–.
148
.
036
.
021
.
521
–.
174
.
297
※2
8 部下とよくコミュニケーションをとる
※2
ケースカンファレンスで適切なアドバイスをする
9 責任のある業務を任せる
第2因子
「肯定的な
業績評価」
13 専門分野の業績で昇級を推薦する
※1
第3因子
「心地よい
注目」
.
042
.
281
.
123
.
268
14 無視しないで,必ず返事を返す
物事を判断するときは看護師に相談する
–.
094
–.
043
1.
008
–.
040
15 あいさつをしたり,あいさつを看護師からされたときは必ず返す
–.
031
–.
058
.
961
–.
078
16 視線があったとき,微笑むあるいはうなずく
–.
046
.
024
.
577
.
266
.
214
.
076
.
495
.
071
.
318
–.
060
.
333
.
117
17 看護師の意見を聞くとき,目を合わせている,聞くという姿勢をとる
※1
※1
第4因子
「支持的な
相談・助言」
えこひいきしない
.
311
.
142
.
324
.
156
18 成果に対して個人的に言葉でフィードバックする
親身に看護師の相談にのる
–.
155
–.
057
.
053
1.
033
19 仕事の成果が上がった看護師に感想を述べる
–.
043
–.
017
–.
008
.
925
20 個人的に行為に対して言葉で評価する
–.
040
.
111
.
011
.
703
21 看護師の仕事ぶりを認め周囲に伝える
–.
120
.
221
.
074
.
672
.
222
.
246
–.
036
.
431
22 今まで看護師が出来ていなかったことを出来たと実感したことを評価する
※1
患者ケアや病棟管理について看護師と話し合う
回転後の負荷量平方和
.
209
.
287
–.
087
.
348
14.
250
12.
656
10.
046
13.
436
※1 初回の因子分析において,因子負荷量が0.
4以下だったため削除した4項目
※2 初回の因子分析で削除しなかった28項目を主成分分析した結果,初回と同様に因子負荷量が0.
47以下で比較的低く,同因子内で他
の項目と意味が似ていると考えられたため,追加で削除した2項目
※3 内容妥当性を検討し,削除した3項目
※4 他項目間との相関係数が低い項目が多いため,削除した1項目
れた項目であったため削除しなかった.
「専門分野の
かったため,被該当者に対する測定という観点から
講師として推薦する」は,非該当者の承認について
も,他の項目と比較して特異な概念ではないと考え
T 相関
の認識を測定できない可能性が懸念された.I
T 相関が04
.以下と低い
削除しなかった.最後に, I
.
を確認したところ r
=07
2と高く,識別力を有してい
項目「ダメなときはダメと言う」を削除した(表
ると考えられた.また,無名数である変動係数は
T 相関分析では r
.
.
.
2).I
=04
2~08
1(p<0
01)で,
.
9であり,他の項目と比べて同程度の値を示して
03
中程度から強い相関があった.
おり,非該当者の存在による著明な差が確認されな
以上のように,構成概念妥当性の確保と尺度の簡
l
.18,No
.1,2014
日看管会誌 Vo
61
便性も考慮し計10項目を削除,最終的には22項目と
3)基準関連妥当性の検討
.以上となり,4因子22項目で累積寄与
量はすべて04
①「ミネソタ満足度尺度」との相関係数は, r
=
.
.
05
1(p<0
01)で中程度の相関を認めた.下位尺度
.%であった.この22項目を「看護師長の承
率は693
.
.
=03
7(p<0
01)で弱
の「内在的職務満足」とは r
認行為尺度」とした(表3).
.
.
い相関,「外在的職務満足」とは r
=06
3(p<0
01)
因子間の相関は,各因子間の相関行列を確認し,
と比較的高い相関が認められた(表4).
r
.
.
=04
9~07
7と互いに関連があることが分かった
T
(表4).さらに,導き出された因子内における I
=
②「組織コミットメント尺度」との相関係数は r
.
.
03
0(p<0
01),下位尺度の「情動的コミットメン
相関分析,および項目間相関分析を行ったところ,
.
.
ト」とは r
=03
1(p<0
01),「規範的コミットメン
.
.
第1因子『親密な交流』は, r
=05
2~06
3,第2因
.
.
ト」とは r
=02
9(p<0
01)で中程度よりやや低め
.
.
=06
4~08
1,第3因
子『支持的な相談・助言』は r
.
=01
0でほ
であり,「継続的コミットメント」とは r
.
.
=05
9~06
7,第4因子『肯
子『心地よい注目』は r
とんど相関が認められなかった(表4).
し,主成分分析による因子分析を行った.因子負荷
.
.
定的な業績評価』は, r
=05
6~07
5,と,すべての
結果において相関がみられた.
Ⅴ.考察
2)信頼性の検討
onbachαは,22項目全体で09
.
6と高く内的整
Cr
.
.
5~09
2であった.折
合性が確保され,各因子では08
1.対象者の特性について
.
.
半法では相関係数が r
=09
3(p<0
01)であり信頼
全国の病院に勤務している看護師の年齢階級別の
性は確保された.
.%(厚生労働省,2012
人数の割合は3
0歳未満が2
83
より算出)であるが,本研究の対象者は65%を占め
表3 「看護師長の承認行為尺度」22項目の因子分析結果(成分分析,Kai
serの正規化を伴うプロマックス回転法 )
因子名
項 目
看護師の提出物にきちんと目を通す
第1因子
「親密な交流」
第1成分 第2成分 第3成分 第4成分
1.
010
–.
208
–.
056
–.
023
看護トラブルのときにすぐに対応する
.
877
–.
064
.
027
–.
022
看護事故があったとき起こった原因について一緒に考える
.
797
–.
074
.
096
–.
035
以前話したことを覚えている
.
711
.
083
–.
055
.
021
看護師の心身の体調に気遣う
.
641
.
227
.
030
–.
011
いつでも話を聞く姿勢をとる
.
477
.
178
.
253
.
043
業務中の様子をみてアドバイスをする
.
474
.
461
–.
150
.
021
責任ある業務を任せる
成果に対して個人的に言葉でフィードバックする
仕事の成果が上がった看護師に感想を述べる
第2因子
個人的に行為に対して言語で評価する
「支持的な相談・
看護師の仕事ぶりを認め周囲に伝える
助言」
今まで看護師が出来ていなかったことを出来たと実感したことに評価する
.
465
.
018
.
042
.
296
–.
084
.
964
.
053
–.
060
–.
002
.
939
–.
017
–.
065
–.
104
.
874
.
009
.
029
–.
109
.
819
.
058
.
100
.
229
.
561
–.
043
.
152
部下とよくコミュニケーションをとる
.
406
.
499
.
018
–.
086
あいさつをしたり,あいさつを看護師からされたときは必ず返す
.
032
–.
123
.
962
–.
032
–.
024
–.
053
.
956
–.
026
–.
098
.
293
.
695
–.
006
無視しないで,必ず返事を返す
第3因子
「心地よい注目」 視線があったときに微笑むあるいはうなずく
看護師の意見を聞くとき,目を合わせている,聞くという姿勢をとる
専門分野講師として推薦する
第4因子
創意工夫を認め,さらに発展させる機会を与える
「肯定的な業績
専門職者としての目標について話し合い,支持・支援する
評価」
専門分野の業績で昇級を推薦する
回転後の負荷量平方和
62
因子負荷量
.18,No.1,2014
日看管会誌 Vol
.
169
.
111
.
604
.
046
–.
006
–.
125
–.
102
.
971
–.
002
.
011
.
151
.
801
–.
021
.
077
.
124
.
730
–.
004
.
367
–.
197
.
581
9.
421
9.
848
7.
031
7.
734
表4 「看護師長の承認行為尺度」とミネソタ満足度尺度,組織コミットメント尺度との相関係数
看護師長の
承認行為尺度
第1因子
「親密な交流」
第2因子
「支持的な相談・
助言」
第3因子
「心地よい注目」
第4因子
「肯定的な
業績評価」
看護師長の承認行為尺度
第1因子 「親密な交流」
.
940**
第2因子 「支持的な相談・助言」
.
904**
.
771**
第3因子 「心地よい注目」
.
783**
.
681**
.
627**
第4因子 「肯定的な業績評価」
.
817**
.
682**
.
745**
.
485**
ミネソタ満足度尺度
.
510**
.
483**
.
452**
.
407**
.
412**
内在的動機満足
.
371**
.
348**
.
319**
.
304**
.
312**
外材的動機満足
.
627**
.
598**
.
567**
.
496**
.
490**
組織コミットメント尺度
.
304**
.
280**
.
276**
.
232**
.
266**
情動的コミットメント
.
305**
.
278**
.
269**
.
227**
.
289**
継続的コミットメント
.
100*
.
095*
.
106**
.
090*
.
048
規範的コミットメント
.
288**
.
266**
.
259**
.
216**
.
256**
相関係数の *は p<.
05,**は,p<.
01(両側)水準で有意であることを示している。
る こ と か ら,若 い 層 が 多 い と 言 え る.し か し,
「内在的職務満足」の下位概念に「承認」が含まれ
Bl
e
ge
n(1992)の研究では,承認の得点に年齢,病
ているため相関があると考えたが,結果は弱い相関
院の規模,教育,継続年数との明らかな関連はない
であった.
「内在的職務満足」は,他人からの承認が
という結果から,尺度開発に問題はないと考える.
含まれているものの,本質的には「内在的な動機」
による満足度である.一方で,
「外在的職務満足」と
2.尺度の信頼性について
1)Cr
onbachαによる信頼性の検討
はより強い相関が認められた.これは「上司との人
間関係」や「監督技術」などの項目のように,他者
o
nba
c
hαは,22項目全体で09
.
本測定用具の Cr
6,
との関係性によってもたらされる満足度が,
「看護師
.
.
5~09
2であることから,内的整合性が
各因子では08
長の承認行為尺度」と概念が重なるところがあると
高い尺度であることが確認された.
考えられた.
2)項目間相関による信頼性の検討
「組織コミットメント尺度」との相関係数は,r
=
.
22項目全体の合計点と各項目の相関係数は,05
9~
.
.
03
0(p<0
01)であり,下位尺度の「情動的コミッ
.
.
1(p<0
01)であり,内的整合性が高い尺度であ
08
.
.
=03
1(p<0
01)であり,いずれ
トメント」とは r
ることが確認された.
も弱い相関であることから,明らかな基準関連妥当
性は確認できなかった.「看護師長の承認行為尺度」
3.尺度の妥当性について
1)構成概念妥当性
のように情動的な支援の要素が多く含まれる尺度で
あっても,情動的コミットメントとの相関は弱く,
T 相関と項目間相関の結果,すべての結果におい
I
承認行為を受けていると認識している看護師の情動
て相関がみられたことから,構成概念妥当性は支持
的コミットメントが強いとはいえないことが明らか
された.また,因子分析の結果から,前回の研究で
になった.基準関連妥当性の確認においては,より
明らかになった4つの要素が,本研究の因子分析の
承認に近い概念の尺度を用いて検討することが課題
結果から得られた4因子と一致し,最初に理論的に
である.
構成した概念が支持された.
.
.
=02
9(p<0
01)
「規範的コミットメント」とは r
2)基準関連妥当性
で弱い相関を認めたことは,既存の研究からは得ら
.
=05
1
「ミネソタ満足度尺度」との相関係数は, r
れなかった結果である.日本は,和や序列を大切に
.
(p<0
01)であり中程度の相関を認め,併存的妥当
する文化があること,看護師長からの情緒的な手段
性は支持されたと言える.
を含む承認を得ることにより,情緒的な関係性が生
l
.18,No
.1,2014
日看管会誌 Vo
63
まれた結果,組織成員として組織にとどまり適応し
6.研究の限界 と今後の課題
ようする結果とも考察できる.
本研究は,関東近県の4病院の看護師を対象とし
.
=01
0
「継続的コミットメント」との相関は, r
ているため,得られた結果の一般化については考慮
.
(p<0
5)とほとんど相関がなかったことから,弁別
して活用する必要がある.さらに,看護師が受ける
的妥当性は支持されたと言える.継続的コミットメ
承認は看護師長からだけではなく,組織全体からの
ントは,継続して組織にとどまることにより給与の
承認という視点を取り入れて,同僚,協働する医師
上昇や年功に応じた様々な付加給付を得られること
や他の医療従事者から受ける承認も考慮する必要が
に関連している概念である.
「看護師長の承認行為尺
ある.
度」は,日本の文化に合わせて,金銭的な側面の項
目は削除しているため,相関がほとんどないことは
妥当と考える.
Ⅵ.結論
4.
「看護師長の承認行為尺度」と「ミネソタ満足度
今回,「看護師長の承認行為尺度」の作成を試み
尺度」
「組織コミットメント尺度」の関連につい
て
た.その結果,
『親密な交流』
『支持的な相談・助言』
『心地よい注目』『肯定的な業績評価』の4因子から
「看護師長の承認行為尺度」と「ミネソタ満足度尺
構成される22項目の尺度が完成した.
度」は,有意な正の相関が得られたことから,看護
.
.
6,各因子では08
5~
信頼性は,22項目全体で09
師長からの承認行為を多く受けていると認識してい
.
.
09
2(p<0
01)であり,内的整合性が高いことが確
る看護師ほど,職務満足が高い傾向があることが示
認された.妥当性については,「ミネソタ満足度尺
唆された.看護師長は,日々の看護管理実践の中で,
.
.
=05
1(p<0
01)で中程度の相関を認め,
度」とは r
意図して承認行為を実践することが望まれる.
基準関連妥当性は支持された.しかし,
「組織コミッ
「看護師長の承認行為尺度」と「組織コミットメン
トメント尺度」の下位尺度である「情動的コミット
ト尺度」とは低い相関であった.組織コミットメン
.
.
メント」とは, r
=03
1(p<0
01)で弱い相関であ
トに影響を及ぼすものは,個人特性や職務特性より
り,基準関連妥当性の確認については課題が残った.
ye
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.
(1998)が
も,職場での経験であると Me
因子分析によって4因子が抽出され,22項目の累積
指摘している.その中心的経験となっているのが
.%であり,構成概念妥当性は確保され
寄与率は693
「自己の存在価値の実感」であり,自分自身が組織に
た.
おいて重要と感じられるためには,自己の有用感を
以上のことから「看護師長の承認行為尺度」は,
もち,自己の努力,成長を実感できることが必要で
信頼性と妥当性が高い尺度であり,看護管理者がこ
あるとグレッグ(2005)は述べている.看護師長の
の尺度を参考にして承認行為を実践することにより,
承認行為は,個人の努力や成長を承認する内容も含
看護師の職務満足を高め,組織コミットメントを強
まれていることから,
「自己の存在価値の実感」を高
めることが可能となる.
めることに対して有用であり,看護師長の承認行為
は,組織コミットメントに間接的ではあっても影響
を与えていると考える.
5.「看護師長の承認行為尺度」の簡便性について
本尺度は,
「看護師長の承認行為項目リスト」32項
目の場合と比較し,項目数も22項目に減少したこと
から,対象者へ回答の負担がより緩和された質問紙
であり,信頼性・妥当性の点からもより精度が高
まったと言える.
64
.18,No.1,2014
日看管会誌 Vol
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