企業倫理教育を考える(02)

BEIビジネス倫理研究所/2009
企業倫理の実践に取り組む経営者と担当者へのメッセージ
-中小企業のための企業倫理実践の整備 №09-
企業倫理教育を考える(02)
BEIビジネス倫理研究所 代表 山口謙吉
4.教育について「独自の形」を考える
この「独自の形」をつくるということについては、企業倫理の実践に必要な「知識を
取得する」ことと「価値観(倫理的判断レベル)を認識し、それを常に意識するように
なる」という二つの視点から考えます。
また、
「独自の形」の推進には、以下の4つの基本的な機能を施策毎に工夫していくこ
とが大切です。
①倫理的な問題などを「認識」
②それらに気づくための「意識」
③それらに対する相談、解決の方法、手順などを「理解」
④安心して「実行」
(1)実践のために必要な「知識を取得する」ことについて
企業倫理の実践には、企業倫理の意義、目的や関係法令、社内規範などの基本的な
事項、推進の体制と不測の事態への連絡、対応などの実践の仕組みの理解が必要です。
一般的に講習や講義などの形式で実施されることが多いわけですが、ここではこれを
日常の中にどのように取り入れていくかの工夫が欲しいというわけです。
これらについての説明は、企業倫理実践の社内導入説明会などで行われており、その
内容は小冊子などの印刷物で役員をはじめ全社員に配布されていますので、入社や管
理職への昇進など人事の節目では別として、改めての説明は実施しません。
しかし、定例の自己状況を認識する自己診断や実践状況のチェックの機会に確認を繰
り返し実施していきます。その主な項目は次のことなどが考えられます。
①自分の業務に関する内容・・・関係法令、業界自主規範など
:企業倫理の教育に関係なく知らされ確認していなければならない事項
②社内規範に定める内容・・・経営理念、倫理綱領、関係規程類、事例など
:企業の社会的責任と企業人としての責務、企業倫理の必要性と実践の意義、
経営理念、倫理綱領など規範類の解釈など
③企業倫理実践の仕組みやその内容
:経営計画との関係、推進体制、実施中の施策、ヘルプラインの仕組みとその活
用、ツール類とその活用など
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また、企業倫理の実践にとって重要な次の5項目は、特に意識してもらう必要があり
ますので、意識的に盛り込むようにします。
①企業は社会との共生が求められており、そのためそこで働く自分達には社会的
責任の遂行が不可欠なものであると認識していること
②日常業務における倫理的な意思決定は、利益や他の何ごとにも優先するという
意識をもつこと
③不正な行為や独善的な業務遂行などは、消費者など社会に迷惑を及ぼすだけで
なく、自分の地位や信頼を失うばかりか会社の信用を失墜させ、事業の存続を
も危うくすると認識していること
④企業倫理の実践は、会社で働く全ての人達が、自分のこととして主体的に取り
組んでいくという自覚をもつこと
⑤日常業務の遂行において倫理的判断に迷ったり、非倫理的な場面に遭遇した場
合などには、どこに相談しどのように対応すればよいのか理解していること
(2)「企業が求める価値観を認識、常に意識する」ことについて
企業倫理の実践を確実に定着させていくためには、特別なアイデアは必要なく、地
道に根気強くそして継続的に取り組んでいくことが最善といわれます。企業倫理の実
践というのは前述したとおり、一方で倫理的な企業文化の醸成であり、社内風土の改
革でもあるからです。
当然ながら、社員ひとり一人の倫理的判断レベルが、倫理綱領などで示している内
容以上になっていることが求められます。これは、知識や技能を取得することとは違
い個人の人格にまで関係してくるようなことで、一方的な講義や情報提供、上司から
の指導だけでは難しいものがあります。
理想としては、自分で考え、発言し、気づくことから自らを認識することで自発的に
修正するのが良いとされ、日常での意識喚起と訓練が重視されるところです。ここで
は既に企業倫理を実践している多くの企業や団体で実施して効果的といわれる「ケー
スメソッド」というひとつの訓練の手法を紹介します。
<ケースメソッドとは>
実際に発生した倫理的問題(できれば企業内で発生したもの)などを元に作成
した「例題」について、参加者ひとり一人が全社的立場に立って、解決のために
どのような「意思決定」が最善なのかを討議します。
その過程で他の参加者の考え方などを知ることによって、各自の最善策をまとめ、
発表することで自分の判断レベルを認識するとともに、修正していくことになる
というものです。実施時間は参加人数にもよりますが、全体で1時間から1時間
半程度です。
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予め分析して回答が用意されている手法の「ケーススタディ」と混同されがち
ですが、ケースメソッドでは回答となる「意思決定」は、参加者や職場環境など
の違いにもよりますが同じにならなくてもよいのです。自由な意見交換こそが重
要とされ、必ず参加者は意見を述べることがルール化されています。
※ケースメソッドの主なねらい
①倫理的な問題の発見、分析とそれによる最善の意思決定を導く能力を伸ばす
②自分と他者の倫理的判断の違いを認識し、判断レベルを向上させる
③管理職であれば、各社員の②についての理解を深める
(次回に続く)
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