No 2011- 5 【ものづくり閑話】 ブラブラの楽園

No 2011- 5
【ものづくり閑話】
ブラブラの楽園
縁あって、ふたたび南半球の小さな島国フィジーを訪れた。フィジーは韓国ソウルの仁川空港から、約
9 時間の飛行である。夕刻仁川空港を発つと、朝方フィジーの国際空港ナンデイに到着する。空港を一歩
出るとそこは眩いばかりに日差しが強い暑い暑い熱帯の地である。フィジーは、南緯18度、東経178
度、時差は日本より先行すること3時間、300余りの島からなり、本島のビチレブ島は四国ほどの大き
さで
人口約90万人、その内訳はフィジー系51%、インド系44%である。
おもな産業は、さとうきびからの砂糖生産と観光である。インド人が多いのは、さとうきび生産のため
に入植したのが始まりのようである。
さて、椰子の木で囲まれた空港(写真1)を出ると、旅の始まりである。今回のフィジー訪問では現地の
小学生を対象にした科学教室開催も、楽しみの一つである。本稿では、フィジーの人々の生活を主体に記
述したい。
この度、フィジーには約一ヶ月間滞在したが、その間小学生の居
る家庭にホームステイをさせて頂いた。6人+犬一匹の家庭であ
る。ベッド、トイレ、シャワー付(悲しいことに、たまにしか湯
が出ない)の一部屋を提供頂いた。部屋では、やもり、ゴキブリ、
ねずみに出くわすことも有った。最初は夜にゴソゴソする音、顔
の上を何かが歩くのは驚きであったが過ごすうちに慣れてしま
った。以下、日本とカルチャーの違いを感じたフィジーでの生活
の一端である。日本とは大違いである。
写真1 ナンデイ国際空港入り口
毎日、朝夕の食事を家族と一緒に頂いた。朝食は食パンだけ、夕食は、主食のタロ芋と、タロ芋の葉っ
ぱを煮たもののようなことが多い。質素な食事を表すものとして一汁一菜という言葉があるが、フィジー
では一汁もないことが多い。それでも食事の前には、食べられることへの感謝の言葉を神に捧げる。私も、
Thank you for this food.・・・と毎回唱えた。食事時間は、10分程度と短く、食べ残すことなど見たこ
とがない。それでも食事が貧しいとか、不満だとかの声は一切聞かれない。日本では、食べ残すことなど
当たり前、食品の廃棄量は年間約2000万トンとも言われ、日本人の食材に対する感謝の念の乏しさに
改めて驚くばかりである。
夕食時も、また夕食後も室内はほの暗い。電力事情が悪い、電気代が高いことによるが、子供達は、字
が読めない程の暗さで、ごく自然に本を読んだり宿題をこなしている。目が暗さに適応していることに驚
く次第である。日本では、
“目が悪くなるから明るくしなさい”と言って叱られる暗さである。そんな暗い
環境での生活ではあるが、フィジーでメガネをかけた子供を見かけないのは不思議である。
シャワーの湯が、たまにしか出ないのも水道の水圧が低いことによるものと分かった。水道水は、水圧が
低いばかりではなく、白濁していることもあった。そのまま飲むと腹痛を起こすようであり、ステイ先で
も安全の為フィルターを通して水を利用しているとのことであった。
衣類はどうなっているのだろうか?子供達は、こざっぱりした衣服を着ている。聞くところによれば、
欧米やら日本などの先進国から、古着が送られてくるとのこと。無料かタダ同然の値段で手に入る様で
ある。そして、上の子から下へ順番に回して使っている。日本で言う、お下がりである。子供は、一家に
5~6人も珍しくなく、お下がりが当たり前である。子供達の着ている衣服がこざっぱりしているのは、
フィジーの気候にもよる。熱帯に位置し、年中30C前後で暑く乾燥しているため、洗濯してもすぐ乾い
てくれる。この国の焼けつくような暑さは、フィジーの人達の質素な生活にとって救いとなっている。暑
い暑いと言って騒いだ、昨年の日本の暑さは涼しいくらいである。
子供達の靴は、どうであろうか?靴は消耗しやすいため、シャツのようにお下がりを利用するのは難しい
ようである。舗装のない砂利道も多いが、当たり前のように裸足で歩いている子供が多い。足の裏を触っ
たことがないが、きっと靴底のようにしっかりしているものと思われる。次回は、是非触らせてもらいた
いと思っている。
このようにフィジーの人達は衣食住に関し、殆ど資源を消費しない質素な、見方を変えれば、貧しい生
活である。しかしながらフィジーは、この世の楽園とも言われている。島を取り囲む紺碧の美しい海、い
つも緑溢れる野山、ゆったりとした時間の流れ、そんなことも楽園と言われる一因であろうが、一番は人々
の優しさである。貧しい故に、子供が多い故に、人々は分かち合い、助け合っている。知らない者同士が
道で出会っても、朝昼晩“ブラ(Bula)”
“ブラ(Bula)”と挨拶を交わす。気持ちの通い合う社会である。フ
ィジーは、浪費に耽り、華美を求め、競い合う豊かな?先進国社会と対極にある心安らぐ楽園である。
貧しいけれど楽園と言われるフィジーを写真にてさらに幾つか紹介したい。
観光産業はフィジーの収入源の一つである。観光客向けの洒落た
ショップの並ぶデナラウ港から30分も船に乗ればいろんなリゾー
トアイランドに行くことが出来る。さんご礁、紺碧の海で囲まれた
美しい島々がある。無人島であるが、外国からの観光客が来た昼間
だけ賑わう島も多い。島の入り口看板には、
“トルものは写真だけ、
ノコスものは足跡だけ“と自然環境保護への心配りもされている。
島では、魚釣り、スキューバダイビング、シュノーケル、カヤック
などがのんびり楽しめる。昼食は、定番のバーベキュー、飲み物は
フィジーのビタービールが最高である。
写真2 紺碧の海と無人島
街から、一歩郊外にでると、さとうきび畑が広がる。国際空港ナ
ンデイタウンから、バスで50分程度のラウトカ市に、大きな砂
糖工場があり、サトウキビは列車にて集積される。フィジーには
人が乗車する列車は無く、専らサトウキビの運搬用のみである。
線路幅も狭く、いわゆるトロッコのようなものである。
速度も、せいぜい時速20~30kmといったところでしょう
か?新幹線の写真を見せ、その速度を説明しても、なぜそんな速
さが必要なのか?キョトンという感じである。歩く以外の移動手
段は、バス、タクシー、ミニバス、自家用車である。バスは、と
にかく安い。バスに乗る時は、乗車時に行き先を告げ、料金を払
写真3
サトウキビ畑
いチケットを貰う。料金は1時間程度乗車しても1F$(フィジ
ードル:50円程度)ちょっとである。バス(写真4)には、窓ガラスの無いものも多い、スコールが来
れば窓の外のビニールシートを下ろす。バスから降りたい時には、窓際の紐を引っ張れば、運転手横の鈴
がなり、降りたいところで降りることが出来る。 バスはオンボロで、凸凹道をがたごと走る。さながら、
日本の昔の歌“田舎のバス:田舎のバスはオンボロ車・・・それ
でもお客さん、我慢をしているよ・・”のようである。 時には
エンジントラブルで動かなくなったこともある。ただ故障には慣
れているのか、ものの10分程度で修理は完了し動き出した。町
やらビレッジと呼ばれる集落の入り口には、ハムと言われる大き
な段差が設けてあり、街中ではゆっくり、のんびり徐行するよう
になっている。もう一つの移動手段のタクシーも頻繁に走ってい
る。バスより割高の初乗り2.5F$のメーター制であるが、メ
ーターを使うことが少なく交渉することが多い。
写真4
バス内風景
私の場合、良心的なインド人運転手ビリーと仲良くなり、どこで
もメーター料金で迎えに来てくれ安全、安心であった。
一般家庭では、自家用車を持っている家庭も多い。殆どが、日本製の中古車である。ただ関税が高く、
その支払いに苦労しているようである。新聞のチラシを見れば家電製品なども日本での価格と殆ど同じ
であり、人々の収入に比べ極めて高い価格となっている。ちらしには、支払い方法として月賦払いの金
額は勿論記載されているが、週払い(weekly)まで併記してある。貧しい人にも、何とか買える様にと
いう思いやりか?買わせようという魂胆か?車やら家電製品などのちょっとした便利な物品が、人々の
生活を圧迫しているようであり、便利=困苦な生活という思いがする。
市場には、果物、野菜が一杯である。仕切られた部屋では魚介
類も売られているが、暑い為かかなり臭い。パパイアは年中採
れ、マンゴーは11~12月頃が季節である。パイナップル、
ヤシの実、オレンジ、ジャックフルーツ、りんご、トマト、生
姜などもある。殆どのものが一山、1~2F$(一個だと10
円~20円)で売られており、日本に比べ格段に安く、100
円も出せば食べきれない。パパイヤ、マンゴーなど至る所に自
生しており、手を掛けなくても育つものと思われる。
写真5
マーケット
ただ卵だけは日本の倍程度と高い。
市場では農家の人々が、畳1~2枚程度のスペースで店をだしているが、僅かな売り上げが主な収入源の
ようである。
まだまだフィジーの文化について色んなことをご紹介したい
が、紙面の都合でまたの機会としたい。
最後に、フィジーの小学生(イギリス領であったため、プラ
イマリースクールと呼ばれ8年制である)を対象に実施した科
学教室についてご紹介しておきたい。
フィジー人の子供は家庭では、フィジー語を話すが、学校で
は、1学年より英語しか話してはいけないことになっている。
TVも国策と思われるが殆どが英語放送である。勿論、今回の
科学教室も身振り手振りと小学生向きの英語で行った。
写真6
ナマカ小学校
分光シートを使った虹の万華鏡製作、表面張力の実験、単極モ
ーター実演、慣性モーメントを利用してのゆで卵と生卵
の見分け(卵代が大出費だった)、音に関する実験、アルキ
メデスの原理などが関連する浮沈子の製作・実験などを行っ
た。子供達は、科学に接する機会は殆ど無く目を輝かせ大喜び
であった。底抜けに明るい子供達と楽しめた思い出深い科学教
室であった。
さて、そのようなブラ・ブラの楽園から帰国して、少し経っ
た3月に東日本大震災である。多くの人が家、家財、そして家
族まで失う大惨事である。大変お気の毒な状況である。しかし
ながら、フィジーの人々の生活に比べれば、電力、水道、
写真7
ブンダ小学校
衣食など、まだまだ物質的に豊かかもしれない。東北の地には、
何もなかったように太陽が輝き、三陸の海は豊かなままである。さらに多くの支援、義援金、ボランテイ
アなどで人々の絆はますます強まっているようである。この度の惨事を転じて東北の楽園を目指して欲し
いものである。立派な家、ピカピカの車、便利な家電、ブランド品など追い求め無くても、質実で気持ち
の通い合う社会であればフィジーのような楽園ではなかろうか?
ケレケレ/フィジーでは“ケレケレ”という相互扶助の文化がある。個人の所有物は共有であり、欲しい
物を持っている相手がいたら自分にくれという。貸したものは返さない。無断で他人のものを使ったり、
財布からお金を持っていくことも日常的のようである。日本人にとっては違和感があるが、フィジーの文
化である。130年前まで、人食いも行われていたようである。酋長の墓には食った人間の数だけ石が並
べられている。人の命もケレケレか? 人食いは食料としてではなく宗教的な儀式とのこと、今は無いも
のであり、ご安心を。
最後に:東北の被災地においては、相互扶助が希望の拠り所になると思われる。東北地方独自のケレケレ
文化を築き上げられ、日本の楽園、世界の楽園と言われる地になることを切に祈念している。
テクノネットものづくり
志水慶一
【事務局より】
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