7.大規模畑作 桃野 寛 北海道立中央農業試験場生産研究部長 1

である 25 ㍑/10a の少量散布が現在行われている。
7.大規模畑作
桃野 寛 北海道立中央農業試験場生産研究部長
1.はじめに
小麦・大豆・ジャガイモ・タマネギについて、耕
起播種法・防除管理・収穫調製等の機械化栽培体系
雑草の管理は、雇用労働力が集めにくくなるにつ
れ、トラクタ装着型カルチベータに株間除草機構を
付与した高性能カルチベータや株間除草機を取り付
けた乗用管理機が登場し普及している。
3.作目別機械化の特徴
の変遷を振り返る。
2.共通作業
1)小麦:小麦の主産地である道東は、成熟期を迎
1)耕耘・播種:北海道十勝・網走の大規模畑作地
える7月下~8月中旬にかけオホーツク気団が活発
帯では、小麦・ジャガイモ・甜菜の3作目、あるい
になって低温で且つ長雨が続くことから穂発芽被害
は豆類を加えた4作目の輪作体系が取られている。
に悩まされていた。このため晴れた日の短期間に収
耕耘の基本はプラウによる反転耕であるが、ジャガ
穫が可能な大型コンバインの導入が推進し、同時に
イモ収穫後の小麦播種前にはロータリ耕耘やチゼル
短期間に大量の小麦を乾燥処理する必要から、大型
簡易耕が行われ、小麦収穫後はプラウ反転耕を行う
高速乾燥機と乾燥と貯蔵を兼ねるドライ・ストアー
農家が多い。一方、連作が長いタマネギ栽培地帯で
(D.S)と称される乾燥貯留ビン等を組み合わせた
は、1970 年代後半から下層土を作土層に混入させな
多様な共同乾燥施設が国の生産振興対策や構造改善
い縦軸回転ロータリあるいは歯かんが往復動するパ
事業等で導入された。
ワーハローや鎮圧ローラを組み込んだコンビネーシ
1980 年代には、穂発芽被害を回避するため収穫期
ョンハロー等が導入されてきた。心土破砕機ととも
に入った高水分小麦をモーア刈りし、地干し後にピ
に移植苗の活着性を高めるためアップカットロータ
ックアップコンバインで収穫する技術が開発された
リによる砕土整地も普及している。
が、
3日に一度の降雨条件下では普及が難しかった。
麦類及び豆類の播種は、傾斜播種板方式のトラク
しかし、収穫期の気象条件が変化してきた近年は、
タ装着総合施肥播種機で行われていたが、1980 年代
ヘイバインと称する牧草用機械で刈穫り、2日間の
に入ると PTO 駆動のブロワーを搭載した真空播種
地干し後にピックアップコンバインで拾い上げ脱穀
機や、各社が輸入したグレーンドリルによる小麦の
する収穫体系が網走管内斜里町の麦作集団において
条播が導入されたのもこの頃からである。
春小麦で実証し、2005 年に生産性の高いこの大規模
2)防除・管理:薬剤散布作業は個別農家が対応し、
畑作経営集団に対し天皇賞が授与された。
トラクタ直装型ブームスプレーヤにより 100 ㍑/10a
北海道における春まき小麦は、2000 年以降、製パ
の薬剤を散布する。畑の長辺が 360mの場合、散布
ン特性が高い春まき小麦品種が開発され、栽培面積
幅が 16m のスプレーヤでは一往復で 1,200 ㍑が必要
は拡大傾向にある。その推進技術には、積雪地帯に
となる。
水補給の無駄な移動時間を少なくするため、
おける初冬蒔き栽培技術があり、ワンマンで 100ha
タンク容量が 5,000 ㍑級のトラクタけん引型や自走
以上の大規模の小麦を栽培している農家が出現して
式スプレーヤが開発され普及している。根菜類の畑
いる。
には防除畦と称するトラクタ走行用の空畦を設けて
最先端の農業技術としては、2000 年から北農研セ
おくが、防除畦数を減らすため散布幅が 20m 以上の
ンターが中核研究機関となり、衛星画像情報を元に
ブームスプレーヤも導入されてきている。1990 年に
小麦の成熟情報マップを作成し、GPS データに基づ
入ると少量散布機であるエアーアシストブームスプ
く効率的なコンバイン収穫システムが芽室町におい
レーヤが欧州から輸入された。当時は少量散布用の
て稼働している。成熟期の揃った荷受け水分差の少
登録農薬がなかったが、1990 年後半から、十勝農試
ない原料が搬入されることで、乾燥経費の節減にも
にて甜菜の病害虫に対する少量散布試験が本格的に
寄与している。
実施され、少量散布農薬も登録されて慣行の 1/4 量
2)大豆:1980 年頃からビーンハーベスタをベース
にコンバインの開発がはじまり、平行して難裂莢性
早期培土の効果についてはロータリヒラーとともに
品種も開発された。栽培技術としては、刈り取り部
品質向上効果が検証されつつある。
がリールカッターバー方式でも刈残し損失が生じな
4)タマネギ:北海道のタマネギは、移植による春
いよう最下着莢位置を高める一粒点播株間密植(条
まき秋取り栽培が主流である。初期の移植機は苗受
播)栽培が定着し、この条播栽培と早生品種の導入
けホルダーに慣行苗を1本ずつ供給するタイプであ
により、1990 年代に入ると汎用コンバイン収穫がほ
った。1980 年代に入るとホルダーへ自動供給する自
ぼ 50%を占めるようになった。
1990 年代後半からは
走式半自動4畦移植機が開発された。
麦用大型コンバインを活用するための更なる適品種
畑でのワンマン移植作業を可能としたのはテープ
の開発と共に、裂皮損傷・破砕粒対策が検討されて
式移植機であり、1976~1983 年までに自走式1~5
いる。
畦用やトラクタ装着型が開発され普及した。
コンバイン収穫の普及拡大と共に、汚粒大豆の表
テープ式移植機には、前処理として慣行苗を2本
皮の清浄に、乾式・湿式等のビーンクリーナが開発
のテープに巻き取る作業があり、雇用労働による手
され利用されている。
作業であったが、型枠育苗箱から自動供給装置の検
3)ジャガイモ:1978 年にポテトハーベスタとビー
討も行われた。
トハーベスタは農業機械化促進法により国営検査機
コート種子を用いた育苗での得苗率が 95%以上
種として定められ、型式検査は、当時の農業機械化
となり、1980 年代に入ると紙筒移植機も開発された
研究所(現生研センター)が北海道に委託し十勝農
が、セル成型苗を用いた自走式成苗移植機(みのる
試と共に実施してきた。1980 年代は生食・加工用ジ
タマネギ移植機)が登場し省力性が高いことから急
ャガイモの品質向上と収穫時の損傷低減技術が検討
激に普及し現在に至っている。
された。カマボコ状の大きな培土が上いも率の向上
収穫前の根切りが、茎葉の乾燥促進と貯蔵性の向
に効果が高いことが明らかになり、その後、多様な
上に効果的であることからティラー用根切り機が普
整畦培土機が普及した。
及し、1980 年頃には自走式根切り機や乗用田植機の
1980 年代後半にはポテトディガとポテトピック
走行部に装着できる根切り機も普及した。
アップハーベスタ収穫時の打撲・皮切れ損傷を減ら
収穫方式には、大別すると圃場タッピング収穫方
すため、塊茎表面を数時間地干しを行うことで付着
式と定置タッピング方式がある。それまで、地干し
土の乾燥が促進し、表皮の硬度が高まり皮剥け損傷
タマネギの葉鞘の切断(以後タッピング)が機械収
が少ないことが確認され、生食用としてピックアッ
穫作業のネックであったが、スパイラルローラまた
プ収穫機も普及している。
はディスク方式のタッピング機構が開発されると、
1990 年代後半には、東洋農機が英国からソイルコ
堀取りとタッピングを行いコンテナに収納する自走
ンディショニング栽培法の機械装備を輸入し、十勝
式コンバインハーベスタ、堀取りとタッピングを行
農試と共同で栽培試験を実施した。作土層内の大土
い地干し列にする自走式ディガータッパー、拾い上
塊や石レキ等を播種前に除去するのが特徴で、生育
げとタッピングを行いコンテナに収納する自走式ピ
中の塊茎の変形が少なくなり、収穫時の土離れが良
ックアップハーベスタ等、多くの圃場タッピング収
く且つ損傷が軽減した。高価な輸入機であっても
穫方式が開発された。定置タッピング方式は、茎葉
50ha 以上の規模であれば十分導入が可能であるこ
付きのままピックアップハーベスタで収穫し、コン
とは実証されているが、省力・高能率体系であるこ
テナで風乾(キュアリング)後にタッピングする方
とから個人導入の農家も出現している。
式である。収穫作業能率が高く、天候不順で地干し
この栽培法には、全粒播種と植え付け時培土と言
乾燥が進まない地域に適応し、タッピング専用機を
った2つの新たな技術が組み込まれている。全粒播
共同利用することで機械利用経費を低減している。
種については、植え深さ・品種特性の解明がすすみ、