のぞく

のぞく
中国4千年の歴史の中を生き延びてきた
骨董品の数々。ある物は、古代の光り輝く
文化・文明を今日に伝えるという学術的な
役割を果たし、ある物は、コレクターの手
元で美術品としての使命を果たしています。
骨董品の世界は奥深き故、私は、これま
であえて足を踏み入れてきませんでしたが、
ついに、その世界の入口を覗いてみました。初めて垣間見た骨董の世界を紹介する
「ど素人」
のレポートですので、その道に詳しい方々は片目をつぶってお付き合い下さい。
「中国の骨董品には20年前から興味を持ち始め、地方へ行くとつい目が向いてし
まうんです。」とお話しいただいたのは、中国駐在歴20年の飯田俊一氏(上海九築国
際貿易有限公司 董事 総経理)です。奥様から冷たい視線を浴びつつも、コレクショ
ンは3、40点にも上るそうです。
「収集当初の物は9割方が偽物でしょう。しかし、偽
物といっても半分程度は相当年数経過した『年代物』であり、私の中では立派な骨董
品です。
」と、まるで童心に返られたように話されていました。飯田氏の収集のコツは、
「信頼のおける骨董商と懇意になること。」に尽きるそ
うです。「おかげで、近年は『本物』のコレクションも
増えてきた」そうです。きっと、骨董商との付き合い
の中で、見る目も肥えられたのでしょう。また、
「友誼
商店など国営のまともな店や博物館の販売所などは、
二束三文の物を偽って売るようなことはしないので、
割高かもしれませんが安心です。」と教えていただき
上海で有名な骨董品街「東台路」
本物は砂浜でダイヤを探すが如く
ました。路肩の屋台で営業しているような店でも、
気に入った物があれば値段交渉の駆け引きを楽しみながら買っ
たりされるようですが、私のような素人なら簡単に騙されて高
く売りつけられるのがおちでしょう。そこで、飯田氏が永年懇
意にしているという骨董商を紹介していただき、プロに骨董の
イロハを教えてもらいました。
そもそも、骨董品とはどういう物を言うのですか?
恥ずかしげもなく尋ねてみました。相手は、上海の豫園で親
飯田俊一氏
の代から骨董品屋を営んでいる秦堅明氏です。一瞬、
「本当に何も知らないんだ!」と
驚いたような表情を浮かべながらも、丁寧に説明してくれました。
「骨董品は、古くは
『夏』の時代から、近くは『清』の時代までの物を言います。基本的には特別の芸術作
品ではなく、日常の生活用品です。金・銀・玉・翡翠等の装飾品をはじめ骨董品の範
疇に属する物は沢山ありますが、歴史的価値を重視した場合には壺・皿など陶磁器類
を指します。文化、文明、時代背景などの要因に加え品質や希少性から、
『磁器なら
ばこの時代の何、この時代であれば陶器の何』という具合に、
『本物』の骨董品が定め
られています。
(別表ご参照)
有名であればあるほど後年になり贋作が発生しています。
」
偽物と本物の見分け方はありますか?
「一言で言えば、経験しかありません。書物での理論的な学習も当然ですが、それ
だけでは全く役に立ちません。一般的に20年程度の経験が必要です。
」確かにそうで
しょうね。本物と偽物を数多く見て、実際に触れてみないと一朝一夕にわかるはずが
ありません。愚かな質問でしたが、それ
でも秦氏はポイントを教えてくれまし
た。「陶器では、色・艶・形・重さ・品
質・底面・感触を見ます。最大のポイン
トは土が違うということです。古い時代
の本物は土の密度が高い為に重量感があ
昔の物だというだけでは、本物の骨董品ではない
ります。後年の土でどんなに精巧なコピ
ーを作っても、これだけは真似できません。
」なるほど、そういうものなんですねぇ。
素人が購入するときの注意点は?
「まず、本物に出会うことはまずないと思って下さい。個人経営の店では、本物は表
に出していないのが普通で、一見のお客さんには本物は売りません。たとえ店員が本
物だと言ってもまず嘘です。本物は、いくつかを店の奥にしまい、客が相当に見る目
を持っていれば、まれに売ることもあります。骨董商も本物は手放したくないという
のが本心ですが、商売ですのでやむを得ない場合もあります。
」なるほど、骨董商はそ
ういう気持ちなのですね。でも、それでは一般の人は本物と巡り合えません。
「偽物と
いっても価値のある物もあります。本物でもコピーでも、本人が好きなものを購入す
る事が最も大切でしょう。
」
いくら好みと言っても、コピーに本物と同じ様な値段をふっかけられるのは悔しい
のですが?
「飯田氏が言うように、ちゃんとした店ではコピーはコピーの相場で売られていま
す。本物の相場、コピーの相場を知っておく必要がありますが、骨董商と懇意になれ
ば、売り買いは別にしても、骨董品を見分ける力や相場観も養われていきますよ。
」
と言うわけで、骨董品の道に即効性のある征服方法はないようです。やはり、奥が
深い世界でした。愛好家の方々にとっては、当たり前と思われる内容だったかもしれ
ませんが、今回の取材で、当たり前のことをその道のベテランに教わることができた
ことは大きな収穫でした。上海で骨董品を探したいというご要望の方は、是非弊所ま
でご連絡下さい。喜んでご案内させていただきます。
◆中国歴代年表と骨董品の関係
時 代
西 暦
代表的
骨董品
夏
商
周
春秋戦国
秦
漢
三国
晋
南北朝
隋
唐
五代
宋
元
明
清
B.C.2205−1766
B.C.1766−1122
B.C.1122− 770
B.C. 770− 221
B.C. 221− 206
B.C. 206−A.D.220
A.D. 220− 265
A.D. 265− 420
A.D. 420− 589
A.D. 589− 618
A.D. 618− 907
A.D. 907− 960
A.D. 960−1280
A.D.1280−1368
A.D.1368−1644
A.D.1644−1911
青銅器
〃
〃
〃
無し
陶器
無し
青磁器
〃
〃
陶器
無し
陶器
磁器
〃
〃
備 考
青銅器には文字が刻んであることも多く貴重な歴史的資料となる。
経済的価値もさることながら、研究の対象としての価値が高い。
時代が短い為。
罐が代表的。
戦乱時代の為。
黒釉が代表的。
青釉、白釉が代表的。
晋時代より表面の装飾が複雑になる。
唐三彩、加彩が代表的。
現存する物が少ない。
陶器が頂点に達す。中国五大窯元(龍泉釜、定釜、耀州釜、鈞釜、汝釜)が代表的。
景徳鎮、青花が代表的。
青花釉里紅、五彩、斗彩が代表的。
時代前半(清三代)は質が高い。粉彩、ファ琅彩が代表的。後半は良くない。