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第6学年A組
道徳の時間学習指導案
指 導 者
研究協力者
1
2
主題名
堀井
小池
綾子
孝範
人としてどうありたいか 【D(22)よりよく生きる喜び】
資料名「ライオンと子犬」(山本有三 原作)
子どもと主題
(1) 子どもについて
卒業を間近に控え,これまでの自分の成長を見つめつつ,これからの自分の生き方につ
いて意識し始めている子どもたちである。「将来はこんな仕事に就きたい」「こんな人に
なりたい」など,自分の将来の姿を思い描き,そこに憧れや目標をもって大きな一歩を踏
み出そうとしている様子が感じられる。また,多くの子どもたちは自分の良心に従って判
断することの大切さを理解している。しかし,実際の行動場面となると,楽しさに流れて
しまい,間違った行動をしてしまう姿も見られる。
(2) ねらいとする価値について
本時でねらいとする内容項目【D(22)よりよく生きる喜び】は,平成27年3月の学習指
導要領改訂で新しく5・6年生に加わった内容項目である。
人は本来,よりよく生きようとする存在であり,そのために人間性をより高めようと努
めるすばらしさをもっている。一方で,誰もが誘惑に負けたり,やすきに流されたりする
といった弱さももち合わせている。人は決してその弱さをそのままにはしておくことなく,
弱さを羞恥として受け止め,それを乗り越え誇りを感じることを通して,生きることへの
喜びを感じる。人としての生きる喜びは,誰かからほめられたり,認められたりすること
だけで生ずるものではない。誰もが悩み,苦しみ,悲しみ,そして良心の呵責と闘いなが
ら,弱い自分の存在を意識するようになる。そして,誇りや愛情,共によりよく生きてい
こうとする強さや気高さを理解することによって自分の弱さを乗り越え,人間として生き
る喜びを感じることになる。
本資料は,山本有三原作の文学作品であり,中学1年生の副読本に掲載されているもの
である。サーカスでは,ある日,猛獣使いが芸のごほうびとしてライオンに生きている子
犬を与えようとする。それに盛んに拍手をして同意する見物人。しかし,猛獣使いが何を
してもライオンは子犬を食べようとはしない。見物人は事の成り行きをじっと見守ってい
たが,そのライオンの見せた気高い行為に,見物席から拍手がわき起こり,それはやがて
嵐のような拍手となっていく。「生命の尊さ」について考えることができるとともに,人
間誰しもがもつ弱さや醜さを理解し,美しいものや気高いものに感動する心を基盤として
「人間のよさ」について考えることのできる資料である。拍手をした見物人の思いやその
拍手の意味について考えることで,生命の尊さについて語り合い,誰もがもつ人間の弱さ
とそれを乗り越える強さを感じ取っていく子どもたちの姿を期待したい。
(3) 指導にあたって
子どもたちは,見物人の心の動きに着目しながら資料を読むだろう。そこで,猛獣使い
の提案に対しての「盛んな拍手」,ライオンの行為を見てからの「嵐のような拍手」につ
いて客観的に見て,それぞれの拍手をしたときの見物人の思い,その行為の意味について
考えることができるようにする。「嵐のような拍手」は,子犬が助かったことの喜び,ラ
イオンの行為に対する賛辞と捉えることができるが,それだけではない。猛獣使いの提案
に対して拍手をした自分たちをふり返ったものでもあることにも気付かせたい。2つの拍
手を比較したり,後半の拍手に至るまでの見物人の心の動きについても話合いを広げたり
することで,生き物すべての命は尊いものであるということを再認識すると同時に,その
場の雰囲気や楽しさに流されてしまうといった人間がもつ「人としての弱さ」を意識でき
るようにしたい。また,「嵐のような拍手」は見物席の片隅から起きた拍手をきっかけと
して広がっていくことにも注目させる。その意味を問うことで,見物人たちがライオンの
気高い行為を目の当たりにし,広がっていく拍手の中で気付いていったであろう「生命の
尊さ」「人間としての在り方」への思いにも共感できるようにしていきたい。自分たちの
行為を反省した上で,よりよく生きていこうとする,見物人の前向きな拍手であることに
も気付くことができるようにしていきたい。
本時は敢えて,展開後段としての「自分自身についてふり返る時間」はおかない。資料
についての話合いを通して,資料の登場人物と自分を重ねることで自分自身についてもふ
り返ることができると考えてのことである。人間の弱さ,そして強さ,気高さを理解した
上で,子ども自身が今後,誇りある生き方,夢や希望など喜びのある生き方につなげてい
けるようにしたい。
3
資料分析
《登場人物の動き,かかわり合い,気持ちの変化,キーワードなど》
《主な発問》
猛獣使い
「・・・芸のごほうびとして,これ(子犬)をライオンに投げてや
りたいと存じますが,いかがなものでございましょう。」
見物人
さかんな拍手
口笛を鳴らすものも
おもしろそうだ!
生きた子犬を,ポーンと(ライオンのオリの)中に放りこみ
ました。
その瞬間
見物人
急にしいんとなってしまいました。
さっきはわけもなく喜びましたが,現実に生きものが投
げこまれたのを見るとさすがにドキンとしたようです。
本当にいいのか?
子犬をライオンに食べさせる!
←なんとも言えないスリルがある
子犬…ゴムまりのように,オリのすみに転がっていました
いま,やられるか!
いま,かみ殺されるか!
見物人
にぎりしめたこぶしが,
かすかにふるえています。
この2 つの拍手は何
の拍手なのだろう。
やるもんなら,早く
やっちまってくれ!
ライオン…飛びかかりません。鼻の先でにおいをかぐ。前足
で子犬のからだに軽くさわる。
子犬…バネじかけの動物のおもちゃのように,くるりと起き
上がって,ちんちんでもするようにライオンの前に後
足で立ち上がる。
←実にこっけいな形でした。こっけいと同時にあわ
れむべき姿でもありました。
しかし,だれひとり,笑うものもありません。
猛獣使い→馬肉をライオンに与える
ライオン…子犬に分けてやる。
子犬…びっくりしてライオンの方を見る。しっぽをふりなが
ら,自分に与えられた肉を食べ始める。
猛獣使い→あっけにとられる。あせる。
突然
見物人
拍手がおこりました。
猛獣使い→面くらう。何の拍手だ
かわからなかった。
助かってよかった。
感動した。
自分たちは間違っていた。
場内 は嵐のような拍手
で包まれました。
拍手が 「嵐のような
拍手」に なっていった
のはなぜか。
4
本時の実際
(1) ねらい 拍手をした見物人の思い,それぞれの拍手の意味やその変容について話し合うこ
とを通して,誰もがもつ人間の弱さ,それを乗り越える強さを理解し,自分たちの
良心に従ってよりよく生きようという気持ちを高めている。
(2) 展開
時間
○:「対話」の機能を活かすための手立て
学習活動
5分
①
30分
②
資料「ライオンと子犬」の感
想を出し合う。
教師の支援
・
評
価
資料は事前配付とし,じっくりと資料を読ん
で,感想や気になったこと,みんなで考えてみ
たいことなどを書く時間を設定する。本時の導
入では,それらを自由に語らせながら発言を焦
点化し,子ども自身が話合いの方向性を決めて
いくことができるようにする。
「盛んな拍手」「嵐のような ○ 見物人がした「盛んな拍手」と「嵐のような
拍手」について話し合う。
拍手」について客観的に見て話し合う場を設定
【自分との対話】
し,それぞれの拍手をしたときの見物人の思い,
【仲間との対話】
その行為の意味について考えることができるよ
うにする。また,それらを対比させた板書の工
この2つの拍手は何の拍手な
夫をすることで,無駄な殺生をしないというラ
のだろう。
イオンの気高い行為を見たことによる見物人の
〈予想される子どもの反応〉
変容が浮き彫りになるようにする。生き物すべ
《盛んな拍手》
ての命は尊いものであるということを再認識す
・ (猛獣使いの提案に対して)いいぞ!
ると同時に,それでも,その場の雰囲気や楽し
・ おもしろそうだ。
さに流されてしまい興味本位で命を粗末に扱っ
→自分の楽しさや喜びから。
てしまうような「人間の弱さ」を意識できるよ
・ 周りにあわせて何気なく。
うにしたい。
→その場の雰囲気
《嵐のような拍手》
・ 「しいんとなった」
「にぎりしめたこぶしが,
・ 子犬が助かってよかった。
かすかにふるえている」見物人の心の動きにつ
→安心
いても話合いを広げることで,見物人の中にあ
・ ライオンはやさしい,命の大切さを
る良心の呵責,葛藤にも気付かせていきたい。
わかっている。
・ ライオンの行動はすばらしい。
→感動
○ 「嵐のような拍手」は見物席の片隅から起き
拍手が「嵐のような拍手」に
広がっていったのはなぜか。
〈予想される子どもの反応〉
・
だんだんみんなが気付いていった。
→命は大切だ。
→自分たちの行動は間違っていた。命
を粗末にするなんて。周りに流され
て拍手をしてしまうなんて。ライオ
ンの行為はなんてすばらしいんだ。
10分
③
た拍手をきっかけとして広がっていく。拍手が
じわじわと広がっていった意味を問うことで,
見物人たちが気付いていった「生命の尊さ」
「人
間としての在り方」に共感させていきたい。ラ
イオンの気高さに相対して自分たちの行為を反
省した上で,よりよく生きていこうとする,見
物人の前向きな拍手であることにも気付くこと
ができるようにする。
今日の学習を通して考えたこ ・ 本時の学習を通して考えたことを書く活動を
とを書く。
設定し,自分自身を見つめ直し,価値について
【自分との対話】
の自覚を深める場とする。
見物人の変容から,人は誰もが誘惑に負けた
り,やすきに流されたりする弱さをもっている
が,それを乗り越えていける存在であることを
理解し,自分たちの良心に従ってよりよく生き
ていこうという気持ちを高めている。
(発言・シート)
(3) 「仲間との対話」を通して新たな価値を創造する子どもの姿
《学習活動②の後半において》
子どもの姿
2つの拍手を比較して話し合う中で,見物人は子犬が助かった
ことへの「安心感」,ライオンの行動への「感動」で拍手をした
と捉えている。
【協働して追究する「問い」】
「どうして,片すみで起こった拍手が『嵐のような拍手』になっ
ていったのだろう。」
【教師の手立て】
・
ライオンの行動への「感動」で拍手をしたというところを掘
り下げていく
発問:
「拍手がじわじわ広がっていったのはなぜだろう。」
発問:
「今回も周りにつられて拍手をしたのかな。」
◎
仲間との対話
拍手が広がっていく中で,見物人の一人一人がはっと気
付かされたり我に返ったりしていったのだと思う。
・
興味本位で命を粗末にしてしまう人間の愚かさを恥じ
る気持ちになっていった。そんな自分たちよりもライオ
ンの方がずっとすばらしいと思った。
・
雰囲気で深く考えずに拍手をした自分たちの行動,自
分たちのもつ心の弱さを反省している。
だんだんみんな(見物人)が気付いていった
◎
命の大切さ
◎
自分たちの過ち,心の弱さを反省し,「人としてどう
あるべきか」を考え始めている。
目指す
子どもの姿
見物人たちが「命の大切さ」や「自分たちの過ち,心の弱さ」
に気付いていく中で拍手が広がっていったことに気付き,人とし
て「よりよく生きること」について考えている。