ビジネスプロセス表記を 使うこととは

ビジネスプロセス表記を
1. 使うこととは
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ビジネスプロセスを定義する目的は何でしょうか?
• 業務フローを文書化し,業務の進め方のより良い方法を共有するため。
• 業務フローを基に,業務改善していく土台とするため。
• 今後,その業務に従事する人が,より良い仕事の手順を,より早く把握するため。
• 業務改善の結果を改善前と改善後の業務フローを比較するため。
業務フローを文書化
より良い仕事の手順を,より早く把握
業務の進め方のより良い方法を共有
業務改善の結果の検証
本書は,BPMN の可視化によるビジネスプロセスのモデリングについて解説します。
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1. ビジネスプロセス表記を使うこととは
ビジネスプロセス表記を利用したい人へ
あなたは,ビジネスプロセスを評価したい人でしょうか,それとも,分析したい人,
あるいは改善・変革したい人でしょうか。いずれにしても業務に深く関わりを持ち,
ビジネスプロセスを創造し,新しい業務の可能性を見つけようとしておられるはずで
す。ここで重要なことは,現場とのコミュニケーションを促進し,意見を吸い上げら
れなければなりません。これには業務を分析することが必要です。業務分析という仕
事があることを認識することが第一歩です。業務分析の作業の流れは以下のように進
められます。
現状を分析する
現状を分析する
問題点を分析する
問題点を分析する
施策を立案する
施策を立案する
業務分析を行う上でのテーマとして,業務を目に見えるようにすること,すなわち
ビジネスプロセスの可視化です。この技術や手順はいろいろな技法があります。業務
を分析することと,分析した業務を表記することは表裏一体です。業務についていく
ら精通していても,それを人に的確に伝える手段が伴わなければ,ビジネスプロセス
改革(BPR)を目指すにしても,業務を IT によってシステム化するにしても先に進む
ことができません。
本書では,ビジネスプロセスの表記として BPMN を使います。BPMN によってど
のように業務が表現できるかについて解説します。
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ビジネスモデル
ビジネスモデル
ビジネスモデルについていろいろな言葉が出てきます。これらの言葉について説明
しましょう。
ビジネスプロセス
プロセスとは,手順です。ビジネスプロセスと業務とは同じ意味としています。ビ
ジネスプロセスの通常の例として認識されるものには,
• 受注業務,購買業務,発注業務
• 運営メディアの広告営業,携帯における新サービスの企画から運営
• カスタマーサービス・顧客の苦情処理
• ローンの処理,個人が必要とする資金および個人事業主が必要とする事業資金の
融資
• 拡販推進・宣伝業務・業務フロー設計
• ラインの営業活動支援,事業部門と営業部門のシナジーを高めるための施策策
定・運営業務
• 新規事業立ち上げ
これらのビジネスプロセスは,商品,サービスまたは情報を従業員や顧客そしてパー
トナーに届ける際に関係するタスク,ルール,担当者,そして自動化されたシステム
で構成されます。
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1. ビジネスプロセス表記を使うこととは
顧客サービス
顧客サービス
市場調査
市場調査
支払い
支払い
在庫管理
在庫管理
顧客の苦情
顧客の苦情
製品保守
製品保守
配送
配送
生産計画
生産計画
実績レビュー
実績レビュー
購買
購買
宣伝
宣伝
見積り
見積り
ローン
ローン
受注
受注
会計
会計
提案
提案
査定
査定
人事考課
人事考課
給与計算
給与計算
資産管理
資産管理
与信
与信
投資
投資
設計
設計
業務委託
業務委託
ビジネスロジック
ビジネスロジックは,業務のプロセスとルール,業務を進めるために扱うデータに
よって定義されます。狭義としては,業務ビジネスの処理をするアプリケーションの
論理記述を指します。概念的なビジネスロジックは,自然言語の文書やモデリング表
記で表現され,システム化するために Java や C++などのプログラム言語に翻訳され
ます。
モデリング
モデリングという言葉があります。ビジネスプロセスモデリングとして使っていま
す。このモデリングについて少し解説します。
モデルとは,現実のビジネスという複雑なものをいろいろな切り口で単純化して本
質を取り出すことで,現実・理想を特定の側面で解釈・抽出した抽象概念です。この
抽象概念として,事業活動における各業務プロセスの機能とその関係を指すビジネス
プロセスや,情報や資金の流れ,組織構造や収益構造などをそれぞれの側面で抽出し,
目的に応じて具体的な数値モデルや図式を作成することも含まれます。
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ビジネスモデル
モデリングとは,このモデルを作ることです。BPR や企業システム開発の前提とし
て,企業の業務フローやビジネスプロセスの構造がどうなっているかを分析し定義す
ることです。
モデリングのメリットは,
①
現状を分析し問題の理解,解決策の評価。
②
計画中のビジネスモデルをシミュレート。
③
他社のビジネスモデルを参照モデルやベストプラクティスとする。
④
企業活動の設計図としてあるべき姿を設計し,プロジェクトメンバー間で意識
の統一を図る。
⑤
BPR や情報システム化を推進。
BPR
BPR とは,売上高,収益率など企業活動に関するあるゴールを設定し,それを達成
するために業務内容や業務の流れ,組織構造を分析,最適化することです。現在の業
務のプロセスを改良して作業効率を上げる一般的な「カイゼン」とは違い,BPR では
慣例や前提等を考慮せず,ある理想的な結果を導き出すために,現在の IT 技術等を
利用して業務プロセスを元から作り直すことです。
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1. ビジネスプロセス表記を使うこととは
BPM
BPM とは,ビジネスプロセスに関する分析,設計,実行,監視,最適化,改善の
一連の流れを実行し管理するための概念です。一般的には,複数の業務プロセスや業
務システムを見直し,業務フロー全体を統合・自動化して最適化し,ビジネスプロセ
スを集中管理することです。
BPMS
BPMS は,BPM の概念を実行するソフトウェアです。
BRMS
BRMS(Business Rule Management System)は,ビジネスルール管理システムで
す。作成したビジネスポリシーを実際に展開した場合の変更結果を,実装前に予測し
たり,ビジネスポリシーの変更が業績にどのように影響するかを事前に判断したりで
きます。
ビジネスルールの定義では,特定の活動内または活動範囲内での行為,行動,慣行,
または手続きに関する義務を定めた指針といったビジネスの視点からと,情報システ
ムにより実装されるビジネスルールを定義または制約する規定としての IT の視点か
らのものがあります。BRMS では,これらのビジネスルールをルールエンジンによっ
て実行時に解釈します。エンジンは,やり取りされる値やオブジェクトを定義済みの
ルールに基づいて分析し,変更された値やオブジェクトを返すか,あるいは直接アク
ションを実行します。
ビジネスプロセスを評価したい人なら
自分が手がけた事業や業務は誰よりも詳しいはずです。しかし,そのプロセスが現
状に即しているか,新しい市場に対して適合しているか,非効率な状態に陥っていな
いか,については,なかなか判断できないのではないでしょうか。
ビジネスプロセスを評価するには,業務ついてより深く理解することが求められま
す。そのためには,ビジネスプロセス全体とその細部について詳細に知る必要があり
ます。ビジネス評価する人にとって,ビジネスプロセスをフローチャート形式で視覚
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ビジネスプロセスを評価したい人なら
化することは,常に重要なことです。何千もの業務分析者が,企業の作業方法や手順
を学び,ビジネスプロセスを単純なフローチャートで定義しています。このように業
務分析者やコンサルタントが使う手法には興味があるものの,「ビジネスプロセスは
どのように分析するのか」とか「図がうまく書けない」などと疑問符が浮かんでしま
います。ベストプラクティスに書かれた本を読んでもなかなかピンとこないし,ビジ
ネスプロセスの解説書では難しく書かれています。
ビジョンと到達目標
ビジネスプロセスを評価するには,企業が到達しようとする将来像や実現目標を具
体的に明文化した事業経営における「ビジョン」が重要な意味を持ちます。評価する
対象とビジョンの両者は整合性が確保されなければなりません。しかし,実際には整
合性が十分検討されないままで経営と業務の現場のすれ違いが起こります。このよう
なことをなくすためには,経営と現場が共通して目指すべきビジョンを分かりやすい
形で明示することが重要です。
多様な事業を行う企業の経営戦略は,全社戦略と事業戦略の 2 つのレベルに分けて
考えることができます。全社戦略は,どのような事業領域を対象とするか,選択と集
中,資源配分などを検討対象とするもので,事業戦略は,特定の事業分野における投
資のあり方,コストや差別化のあり方などを検討対象とします。実効性を持たせるた
めには,できる限り数値指標を用いて到達目標を設定することです。そうしないと,
業務やプロジェクトを実施後評価することができなくなります。到達目標は,システ
ムの性能や業務プロセスの省力化など直接的な変化だけでなく,期待される業績向上
や顧客増大などの最終的な成果まで対象とします。
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1. ビジネスプロセス表記を使うこととは
業務を評価すること
重要なことは,評価する人は分析を行うことでなく,分析された業務を評価するこ
とです。分析された内容を端的に理解できるということは,電子回路の設計者であれ
えん えん
ば回路図であり,建物であれば図面が読めることです。延々と文書で書かれた業務手
順書を読むことと図面で書かれたものでは,表現力が全く異なることは自明でしょう。
文書表現は,読み手によって理解された結果が異なるという問題があります。誰が
見ても対象が正確に定義され,解釈が異ならないことが最も重要です。正確に業務プ
ロセスが伝達されてはじめて業務を評価することが可能です。
BPMN は,業務を視覚的に理解する機能を提供し,部門や組織にはこれらの業務手
順を基準化された方法で伝達する能力を提供します。
そこで本書では,簡単な業務を例に,少しずつ BPMN で表記し解説したいと思い
ます。いきなり部門全体を目指すのではなく,段階的に経験を上げてレベルアップし
ていただければ思います。
ビジネスプロセス自身の評価については,各企業のノウハウであり,各種の評価手
法があります。この分野については本書では取り上げていませんが,BPMN は大きな
助けになるでしょう。
ビジネスプロセスを分析したい人なら
あなたが新しい事業部門を任された管理職で,担当する部門について今まで経験が
ないのであれば,その企業の業務がどのように行われているかを分析する必要があり
ます。
逆に後任の担当者に業務を引き継ぐ場合に,仕事を説明するとなるとどうでしょう
か。スムーズに業務の説明ができるでしょうか。また,一度で伝えることができます
か?
• 業務の説明ができますか?
• 引き継ぎの資料は何を作ればよいのでしょうか?
• 一度で後任者に伝わりますか?
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ビジネスプロセスを分析したい人なら
立場を代え,あなたがソリューション会社やシステムインテグレータで,顧客の企
業の業務をシステム化することを仕事としているなら,システムを使って利用部門の
業務をうまく回すことが達成目的です。そのためには,利用部門の協力を得て現状業
務の棚卸しを行い,課題やニーズをきちんと聞き出した後で,抽出された課題を整理
して,経営視点から優先度を付けて施策を立案する業務分析の基本を押さえます。
業務分析
現在の業務の順序や進め方が最適なものでしょうか?
今の業務の順序,進め方には,問題や課題はないでしょうか?
業務に不適合がなく,お客様からのクレームがないというのであれば,問題はない
ように見えますが,お客様側から見たときには対応などに問題があり,知らないうち
に他社へ移ってしまうなど,潜在的な問題はどうでしょうか。
現在行っている仕事の順序はベストな方法でしょうか。自分達より効率的にその業
はた
務をやっている人,別部門,企業はいませんか?
逆に,傍から見てあまり効率的に
やっていない人は周りいないでしょうか?
業務分析の仕事では,「なぜ効率的にできるか」「なぜ効率的にできないのか」を
理解することは最も重要なことです。
この作業において,BPMN のビジネスプロセスの表記は,ビジネスプロセス図を
使って業務を視覚化することで的確に業務を理解することができます。
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1. ビジネスプロセス表記を使うこととは
コミュニケーション・ツール
業務のヒアリングや,仕事をするために作業の手順を聞くとき,どれくらいの時間
をかけているでしょうか。聞かれる側として,同じ仕事の手順を,複数の人に何回も
聞かれたことはないでしょうか。社内の至る所でこのようなことが発生しているとす
ると,企業全体では膨大な時間を費やしていることでしょう。
各部門とのコミュニケーションの手段や,簡単に書けて表現力がある手順書が作成
できないものかと思うことはないでしょうか。
BPMN の役割は,組織の業務・システム全体を統一的に表現し,全体像を把握でき
るようにすることです。BPMN は,ビジネスプロセスの設計や管理を行う人向けにデ
ザインされています。ビジネスプロセスを自然に表記するために作られた表記法です
から,視覚的にも柔軟に業務を表現することができます。
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