持続可能なビジネス・モデル:貧困を削減し環境を守る「フェアトレード」

JFSサステナビリティセミナーNO.4
2005/6/14
持続可能なビジネス・モデル:貧困を削減し環境を守る「フェアトレード」
フェアトレードカンパニー株式会社/グローバル・ヴィレッジ
広報ディレクター 胤森なお子氏
みなさまこんばんは。ただいまご紹介にあずかりました、フェアトレードカンパニー、グローバル・ヴィレッ
ジの広報担当をしております胤森と申します。まず最初に、私どもの組織が何をやっているかということ
をご説明したいと思います。今、私はフェアトレードカンパニー株式会社という名前と、グローバル・ヴィレ
ッジという二つの名前を挙げました。この2つの組織は、実は1つの同じ組織の二つの活動を呼び分け
ている、と言った方が実態に近いんですけれど、もともとは、今も私どもの代表を務めますサフィア・ミニ
ーというイギリス人の女性が、1990 年に来日しまして、当時バブルの日本で、環境に対する意識とか南
北問題に対する意識が、彼女の出身国であるイギリスに比べて非常に低いということで、それを自分が
なんとかしようということで立ち上げたNGOがグローバル・ヴィレッジです。
グローバル・ヴィレッジとして、貧困問題の原因は何なのかだとか、それに対して個人は何ができるのか
という提案を続けている中で、その一つの手段として「フェアトレード」というものを広めようとしてきました。
フェアトレードは、今では皆さんも言葉を聞いたことのある方も多いと思いますけれど、一言で言うと「貿
易を通じた途上国支援」。途上国の貧困に苦しんでいる地域の人達に雇用を提供することによって南北
の格差を埋めていこう。そういった社会運動です。具体的にいうと、途上国の人達が作ったものを先進国
と呼ばれる国々の消費者が買い支えることによって、貧困を無くしていく。自分が着るもの、食べるもの
を何かしらフェアトレードのものに変えることによって誰でも参加ができる。これをもっともっと広めたいと
いうことで、活動の柱にしてきました。
そして 1995 年に、このフェアトレードの事業部門、具体的にいうとフェアトレードの商品を生産者団体と共
に開発して輸入し販売するという事業部門を会社組織にしたのが「フェアトレードカンパニー株式会社」で
す。今私たちは、いわゆる「啓発活動」、貧困の問題についてのキャンペーンを行う、セミナーを開く、と
いった活動を引き続きグローバル・ヴィレッジの名前で、商品を開発し、輸入・販売するという事業をフェ
アトレードカンパニーの名前で行っております。ですので、私は二つの組織の広報の代表を務めているこ
とになります。
ちょっと前置きが長くなりましたが、フェアトレードカンパニー株式会社としては、今 20 ヵ国 70 団体の生産
者組織と商品開発をしております。その 70 団体というのは、アジア、アフリカ、南米諸国にある現地のN
GOであったり現地の民間組織であったり、あるいは農民の自助グループだったり、いろんな形がありま
す。そういった国々のカウンターパートと一緒に商品を開発して、その商品を日本で売っております。4年
前にはミニーの祖国であるイギリスにも、「ピープル・ツリー・リミテッド」という会社を作りまして、その会
社を通じてヨーロッパ諸国、イタリアやオランダなどにも商品を販売しております。それから、先ほどグロ
ーバル・ヴィレッジの説明で申し上げたように、フェアトレードの商品を単に売るだけではなくて、なぜフェ
アトレードが必要なのかということに対して、もっともっと意識を高めていこう、広めていこう、という活動を
行っています。この活動は、主にグローバル・ヴィレッジの名前で行うことが多いです。
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では、そもそも「フェアトレード」とは何なのか。何をもって普通の貿易ではなく「フェアトレード」と呼ぶのか、
ということに関して9つの観点から説明をしていきたいと思います。フェアトレードはもう 40~50 年の歴史
がありますのでフェアトレード団体が世界各地にありまして、この団体で国際連盟をつくっています。この
9つのポイントは、この国際連盟で「こういうことを守っているのがフェアトレードだ」とみんなで合意したも
のです。その9つのポイントに沿ってご説明したいと思います。
最初は、「経済的に立場の弱い人々に、仕事の機会を提供する」、これがまず第1の目的です。というの
は、途上国という言い方はあまり好きではないんですけれど、いわゆる途上国と呼ばれているアジア、ア
フリカ、南米の国々で作られたものを、先進国で消費する、買うという、別にこれだけではフェアトレード
ではないわけですね。例えば今日本は、衣料品でいえば、皆さんもし自分が着ていらっしゃるものを家に
帰ってタグを見ると7割ぐらいの人が「中国製」と書いてあると思うんですけれど、ほとんど衣食のものが
輸入品ですよね。その輸入品の多くが途上国と呼ばれる国々で作られている。これが全部、途上国を支
援しているのかというと、そうではないと私たちは思っています。
それは何が違うかというと、貿易の目的として、「誰を支援しているのか」、「作っている人達が誰なのか」、
「何の目的で貿易をしているのか」というところです。例えば、大量生産のために人件費の安い中国に工
場を建てて、そこで「安い労働者」として農村の出稼ぎの人達を使うというやり方は、決してフェアトレード
ではないと思うんですね。それは単に安い労働力をいわば搾取しているわけで、こういったかたちではな
くて、私たちは一番仕事を必要としている人にその地域で仕事を提供するということをしようと思っていま
す。ですので、ここの出発点が違います。途上国からモノを持ってくるだけで利益を上げることが目的で
はなくて、誰を支援するのか、というところが一番のポイントになってきます。
そして2番目に「資質の向上を目指す」。これは英語で“キャパシティ・ビルディング”なんて開発関係の人
はよく使います。例えば、先ほど言った安い労働力として途上国の人を使うという考え方ですと、単純に
ロボットのように部品を組み立てて働いてくれればいいわけですね。でもフェアトレードはそうではなくて、
作る人と対等なパートナーシップをもって、その人達がより自分達の技術をアップしたり、生活のレベル
を向上させていく、そういったことを一緒に考えるというやり方です。そして、その仕事に対して公正な価
格、具体的には賃金、モノの値段ですね、そういった公正な対価を支払うということが、フェアトレードの
まず大きなポイントです。
その例として、どういったところで私たちが生産者パートナーをもっているかというと、左の写真はバング
ラディッシュの機織りの女性です。これはバングラディッシュのある小さな村です。この村は独立戦争の
時に男性が殺されてしまって、女性と子どもが残された。そこでどうやって仕事をつくろう、どうやって生
活の手段を確保しようか、ということで発足したプロジェクトなんですね。もともとはスウェーデンの援助組
織が支援していたんですけれど、単純にお金をあげて支援するというだけではなくて、継続的にそこで仕
事を生むためにはどうしたらいいかということで、女性が機織りを覚えて自分達で布を織るようになった
んですね。私たちはこの団体と7、8年前から一緒に仕事をしているんですけれど、この女性たちが作っ
た布で服をデザインして売っています。右の写真はインドで、うちの商品開発のマネージャーが現地に出
張して、どういった商品が日本で売れるのか、ということでこちらでデザインしたものを向こうに作ってもら
って、現地で品質管理のやりとりをしているシーンです。
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次の3つのポイントを紹介します。まず「安全で健康的な労働条件を守る」。それから「性別にかかわりな
く平等な機会を提供する」、「子どもの権利を守る」。これは主に働く人達の条件、働く人達が人としての
権利を守って仕事ができるようにということです。これは先ほどのレインフォレスト・アライアンスの方のお
話とかなりダブルかと思いますが、こういった条件だけを見ると別にこれはフェアトレードの条件というわ
けではないと思うんですね。
例えば、安全で健康的な労働条件とは、一日の労働時間であったりとか、休日がちゃんと週に1日か2
日あるとか、そういったことは当然の権利として、ILO の国際条約を各国が批准していてそれぞれの国に
法律があり、本来であれば守られているべきものなんです。ですから、これが守られているからフェアトレ
ードというのではなくて、これはどんな貿易であっても守られなきゃいけない基準なんですね。ところが実
際はそうはなっていないんです、残念ながら。
例えば先ほど言った大企業の下請工場がたくさん途上国にあります。そこでは残念ながら、かなりひど
いことが起きています。もちろんすべての大企業の委託工場で人権侵害が行われているとは申しません
けれど、いろんな人権団体、NGO などの報告をみていると、例えばある工場では、工場に寝泊まりして、
閉じ込められるようにして外から鍵をかけられて夜中の2時3時まで働いている。バングラディッシュの例
で言うと、最近も火事があって何十人かが亡くなったんですけれど、その時にも逃げ出さないように外か
ら鍵がかかっていたものですから、火事になっても逃げられなくて焼け死んでしまったんですね。そういっ
た、人として扱われないような条件で働いている人達がたくさんいます。それから人件費を低く押さえる
ために子ども達が労働力として使われるということも、残念ながらアジア、アフリカなどの各国では頻繁
に行われています。ですからこういった、守られて当然であるべきものを、改めて私たちは条件として掲
げて、きちんと守ろうと決めています。
これはまた別の、私たちが支援しているプロジェクトの例です。右側は、先ほどのバングラディッシュの農
村のプロジェクトとはがらっと違って近代的な工場ですけれど、インドの南部にある工場、衣料品の縫製
作業所です。ここで私たちはTシャツや、下着、ベットリネンなどのオーガニック・コットンを素材にしたもの
を縫製してもらっています。この縫製工場はもともとカトリックのシスターが立ち上げた福祉プロジェクトで、
耳の不自由な女性とかあるいは貧しい家庭出身の女性が仕事を得られるようにということで始めた職業
訓練の作業所だったんですね。この作業所に縫製の仕事を依託しまして、今は働いている女性達が 150
人ぐらいになりました。ここでは女性達がきちんと権利を守られながら働いています。
それから左は、ジンバブエの紙とTシャツのプリント工場です。ここも工場とはいっても本当にアットホー
ムな作業所で、とくに貧しい人をターゲットとしているわけではないんですが、ジンバブエがインフレ率何
百パーセントというひどい状況にあるなかで、できるだけ従業員の権利を守るようにということで、非常に
ポリシーをもった経営者が運営している作業所です。
そして最後の3つ。これは、「環境に配慮する」、「事業の透明性を保つ」、そして「フェアトレードを推進す
る」ということです。「環境に配慮する」というのは、フェアトレードはもともと人権がポイントですけれど、や
はり環境を守りながら持続可能な生産をしないかぎり、社会的にも持続可能ではないわけですね。です
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から私たちは生産の中でできるかぎり環境に負荷をかけない。自然素材を使うとか、危険な染料を使わ
ないということを自分達でポリシーで決めています。それからそういった情報をできるかぎり買っていただ
くお客様に伝えて、透明性を保つようにしています。そして最後に、フェアトレードを推進すると言うのがフ
ェアトレードの条件というのもちょっとおかしいんですけれど、単に実践するだけではなくて、自分達が実
践して見せて、さらにそれを広げていく、そういうことを自分達の行動の使命にしています。
環境を守るということでは、先ほどのオーガニックコットンのプロジェクトですね。インドで農薬や化学肥料
を使わずにコットンを育てる生産者を私たちは支援して、ここでとれたコットンを原料に先ほどの縫製の
作業所で T シャツに仕上げています。そして右は紙製品です。紙製品はできるだけ非木材紙、あるいは
これは桑の木なんですけれど、蚕を育てているところで葉っぱは蚕に食べさせるので木自体はとても余
っている。その枝を使ってこういった紙製品を作るといったような、木をどんどん伐って森林破壊に繋がる
ような紙生産ではない紙を提案しています。
こういったかたちで始めた私たちの事業は、1995 年に法人化してからの売上の数字を年ごとに並べてい
ますけれど、最初の 3400 万円が、去年の数値で6億 4000 万円くらいになっています。これだけみると 20
倍という、最初がちっちゃいもんですから、かなり大きくは見えるんですけれど、売上は年々伸びていま
す。最近では、「素敵な宇宙船地球号」というテレビ朝日系の番組にとり上げられたり、この「Be」という
のは朝日新聞の週末版なんですけれど、こういったところでうちの代表のミニーが取材を受けたりという
ことで、メディアの注目もかなり高まっています。
今は私たちの会社の数字だけをあげましたが、フェアトレードは世界的にもどんどん広がっています。先
ほど9つの基準を定めた国際連盟という話をしましたけれど、今、IFAT、国際フェアトレード連盟のメンバ
ーが 60 ヵ国 260 団体ぐらいになっています。このメンバーで2年に1度国際会議を開いて、どうやってフェ
アトレードをもっと広めていくかというような話し合いをしているんですけれど、どんどんこのメンバーも増
えています。そして、このネットワークの非常にユニークなところは、日本や欧米のフェアトレード組織、バ
イヤー側の組織だけではなくて、そこのバイヤーに製品を提供している生産国側の団体も加盟メンバー
になっているんですね。ですので、バイヤーとプロデューサーが同等に意見を言い合って、どうやってフ
ェアトレードを広めていくかということを話し合う場になっています。今このIFATに加盟している団体同士
が把握しているだけでも、その活動を通じて仕事を得ている人が、直接的・間接的に 100 万人ぐらいにな
っているんじゃないかと試算しています。この団体は実際取引しているバイヤーとプロデューサーが一緒
に話し合っているわけですから、ここでお互いがどういった基準を守って活動しているのかということを、
いわば相互評価をしあって、きちんとフェアトレードの9つの理念を守っていますよ、ということをお互いに
確認しあっています。
フェアトレードは広がってはいますが、いくつか困難なこと、クリアしなきゃならない課題があります。まず
モノを売ることで支えられている活動ですのでお客様に買っていただかなくては成り立たないわけですね。
ですから、この競争の激しい日本や欧米の市場で、どうやって売れるものを作るかという努力は非常に
大切です。
あとは、今の貿易慣行ですと資本を持っている人が大きな工場を建てて大量生産する方がとても効率が
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良くて儲かるということで、そういったやり方が幅をきかせているなかで、農村の地域の小さなグループと
か、あるいは本当に理念をもってやっている小さな作業所、そういったところの人達が貿易に参加できる
ように、仕組み自体を変えていくという活動も必要だと思っています。
それから、フェアトレードの場合、小さな力のない生産者グループを支援するために、例えば、発注時に
代金の半分を前払することもあります。ですからフェアトレードをやろうとすると非常にコストがかかるん
ですね。そういった活動を支えるための融資の制度ですとか、金融面での支援も必要だと感じています。
私たちは株式会社として一応売上だけで成り立ってはいるんですけれど、非常に簡単ではないです。こ
ういった財政面での支援制度もあったらいいと思っています。
あとはもっともっとこのフェアトレードを広めていくためには、啓発、もっと知ってもらう、参加してもらう、そ
ういう活動が必要だと思っています。最後の写真は、5月に「世界フェアトレード・デー」という日を決めま
して、フェアトレードをやっている団体が一斉にフェアトレードについてアピールしているんですが、これは
そこでのファッションショーなんですね、ファッションショーなどを通じて楽しく明るくフェアトレードをアピー
ルするということで広めていこうと思っています。では、ちょっと駆け足になり、時間をオーバーしてしまい
ましたが、またパネルディスカッションのときに質問等あればお願いしたいと思います。ありがとうござい
ました。
■ 枝廣コメント
ありがとうございました。フェアトレードについて全体的な考え方とか動きとか、最近非常に伸びている様
子とかを伝えていただいたと思います。今日は企業の方もたくさん来ていらっしゃいますが、少し前は環
境報告書という形で、環境面に焦点に絞って活動をしたり報告してきた。それがここしばらく持続可能性
報告書とかもしくはCSRと言うような形で、環境だけではなく経済面や社会面も入れて、持続可能な取り
組みをしようというふうに広がってきたと思います。そうすると、社会面の中でフェアトレードがところどこ
ろで出てくるようになってきています。そういった意味では、いろいろな追い風が吹いているんだろうなと
思いますし、フェアトレードの基準を見せていただいても、まさに経済面・社会面・環境面すべて入った形
で、CSRという言い方ではないですけれども、表・裏というような感じがしています。
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