血漿分画製剤 - 一般社団法人 日本血液製剤機構

2011 年 5 月作成(第 1 版)
− 医薬品の適正使用に欠かせない情報です。使用前に必ずお読み下さい。−
「使用上の注意」の解説
血漿分画製剤
特定生物由来製品
処方せん医薬品注)
生物学的製剤基準
乾燥抗D(Rho)人免疫グログリン
注)注意-医師等の処方せんにより使用すること
【禁 忌】
(次の患者には投与しないこと)
( 1 )D(Rho)陽性の新生児及び妊産婦〔本剤を投与すると溶血を起こす可能
性がある。〕
( 2 )本剤の成分に対しショックの既往歴のある患者
【原則禁忌】
(次の患者には投与しないことを原則とするが,特に必要
とする場合には慎重に投与すること)
本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者
販売
製造販売元
はじめに
抗D人免疫グロブリン筋注用 1000 倍「ベネシス」
(一般名:乾燥抗D(Rho)人免疫グロブリン;
以下,本剤)は,D(Rho)因子に対する抗体である抗D(Rho)抗体を高力価に含有する人の血漿
から,生物学的製剤基準「乾燥抗D(Rho)人免疫グロブリン」に準拠して製造された筋注用製剤
です。D(Rho)陰性の女性が,D(Rho)陽性の児を妊娠,分娩や流産等によりD(Rho)因子に感
作された後に,再びD(Rho)陽性の児を妊娠し,血液型不適合による胎児溶血性貧血が発症した
場合,児の予後は不良であることが報告されていることから,D(Rho)因子による感作予防とし
てD(Rho)陰性妊産婦への本剤投与が有用と考えられています。
抗D人免疫グロブリン製剤は,1960 年代にFredaとClarkによって開発され,欧米豪では 1960
年代後半から使用されるようになりました。我が国では,当社が 1972 年 1 月に「抗D人免疫グ
ロブリン−KABI」の輸入承認を取得し,発売を開始し,その後,輸入品から国内製造に切り替え
るための承認を 1977 年 1 月に取得し,1977 年 8 月に発売するに至りました。
本剤は,Cohnの低温エタノール分画で得た画分からポリエチレングリコール 4000 処理,
DEAEセファデックス処理等により抗D(Rho)人免疫グロブリンを濃縮・精製した製剤であり,
ウイルス不活化・除去を目的として,製造工程において 60℃,10 時間の液状加熱処理及びウイ
ルス除去膜(平均孔径 19nm)によるろ過処理を施している製剤です。
本剤は発売以来,「Rh式血液型のD(Rho)陰性の産婦に,D(Rho)陽性の胎児を分娩した後に
与えることにより,母体血液中での抗D(Rho)抗体の産生を抑制する。」を効能・効果として承
認を取得していましたが,2011 年 5 月にこれまでの分娩後の投与に加え,妊娠 28 週前後の投与
及び妊娠中の検査・処置後等のD(Rho)因子による感作のリスクがある場合の投与が追加承認さ
れました。
本冊子では,これらの効能を含めて本剤のご使用に際しての注意事項を各項目ごとに解説し
ました。本剤の適正使用の一助としてご活用願います。
1
目 次
【効能・効果】 3
〈効能・効果に関連する使用上の注意〉 3
【用法・用量】 3
【使用上の注意】 4
1.禁忌 4
2.原則禁忌 4
3.効能・効果に関連する使用上の注意 4
4.慎重投与 5
5.重要な基本的注意 6
6.相互作用 8
7.副作用 9
8.妊婦,産婦,授乳婦等への投与 9
9.臨床検査結果に及ぼす影響 10
10.適用上の注意 11
【添付文書冒頭記載】 11
2
【効能・効果】
D(Rho)陰性で以前にD(Rho)因子で感作を受けていない女性に対し,以下の場合に
投与することにより,D(Rho)因子による感作を抑制する。
・分娩後,流産後,人工妊娠中絶後,異所性妊娠後,妊娠中の検査・処置後(羊水穿刺,
胎位外回転術等)又は腹部打撲後等のD(Rho)感作の可能性がある場合
・妊娠 28 週前後
〈効能・効果に関連する使用上の注意〉
( 1 )本剤の注射にあたっては,事前に妊産婦のD(Rho)陰性を確認しておくこと。
( 2 )本剤は,新生児がD(Rho)陽性である場合,胎児・新生児の父親がD(Rho)
陽性である場合,又は父親がD(Rho)陰性であることが不明であり,胎児・
新生児もD(Rho)陰性であることが不明の場合も,妊産婦に投与すること。
( 3 )本剤はD(Rho)因子に未感作のD(Rho)陰性の妊産婦に投与すること。既に
D(Rho)因子で感作され抗D(Rho)抗体を持っている婦人(分娩前の本剤投
与により受動抗D(Rho)抗体を持っている婦人を除く)及びD(Rho)陰性の
新生児を分娩した婦人には,本剤投与による予防は無効であるため,投与し
ないこと。
( 4 )妊娠 28 週前後及び妊娠に関連したD(Rho)感作が疑われる場合の妊娠中の
投与に加え,新生児がD(Rho)陽性の場合,分娩後にも産婦へ本剤投与を行
うこと。
【用法・用量】
本剤は,1 バイアルを添付溶剤(日本薬局方 注射用水)2mLに溶解し,効能・効果に
応じて以下のとおり投与する。
・分娩後,流産後,人工妊娠中絶後,異所性妊娠後,妊娠中の検査・処置後又は腹部
打撲後:
72 時間以内に本剤 1 バイアルを筋肉内に注射する。
・妊娠 28 週前後:
本剤 1 バイアルを筋肉内に注射する。
3
【使用上の注意】
1.禁忌(次の患者には投与しないこと)
( 1 )D(Rho)陽性の新生児及び妊産婦〔本剤を投与すると溶血を起こす可
能性がある。〕
( 2 )本剤の成分に対しショックの既往歴のある患者
〈解説〉
( 1 )について:
D(Rho)陽性の新生児及び妊産婦に本剤を投与すると,溶血による貧血
の進行とビリルビンの上昇を来すおそれがあることから設定しました。
D陽性赤血球 1mL(全血として 2mL)を破壊するには,20~25 μgの抗D
(Rho)抗体が必要といわれています 1, 2)。
( 2 )について:
人 免疫グロブリン製剤投与によりショックを来すことがある。一度
ショックを起こした患者に再投与した場合,再度ショック等の過敏症状
が起こるおそれが考えられることから,他の人免疫グロブリン製剤と同
様に設定した。
《参考文献》
1 )元島正信:産科と婦人科 1989;56(8):1785−1790
2 )WHO Technical Report Series No. 468:Prevention of Rh Sensitization, Report
of WHO Scientific Group 1971;5−36
2.原則禁忌(次の患者には投与しないことを原則とするが,特に必要とする場合に
は慎重に投与すること)
本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者
〈解説〉
本剤の再投与により過敏症状を来すおそれがあることから,他の人免疫グロ
ブリン製剤と同様に原則禁忌と設定しています。
3.効能・効果に関連する使用上の注意
( 1 )本剤の注射にあたっては,事前に妊産婦のD(Rho)陰性を確認してお
くこと。
( 2 )本剤は,新生児がD(Rho)陽性である場合,胎児・新生児の父親がD
(Rho)陽性である場合,又は父親がD(Rho)陰性であることが不明で
あり,胎児・新生児もD(Rho)陰性であることが不明の場合も,妊産
婦に投与すること。
4
( 3 )本剤はD(Rho)因子に未感作のD(Rho)陰性の妊産婦に投与すること。
既にD(Rho)因子で感作され抗D(Rho)抗体を持っている婦人(分娩前
の本剤投与により受動抗D(Rho)抗体を持っている婦人を除く)及びD
(Rho)陰性の新生児を分娩した婦人には,本剤投与による予防は無効
であるため,投与しないこと。
( 4 )妊娠 28 週前後及び妊娠に関連したD(Rho)感作が疑われる場合の妊娠
中の投与に加え,新生児がD(Rho)陽性の場合,分娩後にも産婦へ本
剤投与を行うこと。
〈解説〉
( 1 )について:
本剤投与前に妊産婦のD(Rho)陰性を確認してもらうことを徹底するた
めに記載しています。
( 2 )について:
投与が必要な妊産婦を示し,投与されるべき患者に対し確実に投与が行
われるよう設定しました。
( 3 )について:
既にD(Rho)因子で感作されている妊産婦に対して本剤を投与しても無
効であり,感作されていない妊産婦に対して投与すること及び,D(Rho)
陰性の児を出産した産婦に対しては,D(Rho)因子に感作される恐れが
ないため投与が不要であるを周知徹底するために記載しています。
( 4 )について:
海外の同一成分添付文書での記載を参考に,今回効能追加された妊娠中
の投与を行った場合でも,新生児がD(Rho)陽性であれば,再度,分娩
後 72 時間以内に本剤を投与する必要があることを明記しました。
4.慎重投与(次の患者には慎重に投与すること)
( 1 )IgA欠損症の患者〔抗IgA抗体を保有する患者では過敏反応を起こすお
それがある。〕
( 2 )溶 血性・失血性貧血の患者〔ヒトパルボウイルスB19 の感染を起こす
可能性を否定できない。感染した場合には,発熱と急激な貧血を伴う
重篤な全身症状を起こすことがある。〕
( 3 )免 疫不全患者・免疫抑制状態の患者〔ヒトパルボウイルスB19 の感染
を起こす可能性を否定できない。感染した場合には,持続性の貧血を
起こすことがある。〕
〈解説〉
( 1 )について:
I gA欠損の人は先天的にIgAを作らないことから,体内にヒト由来のIgA
5
が入るとこれを異物(抗原)として認識し,抗IgA抗体が産生される可能
性があります。現在の人免疫グロブリン製剤は微量のIgAを含んでおり,
それを投与することによって抗原抗体反応に基づくアレルギー反応を来
すおそれがあります 3)。
(2)
( 3 )について:
血
液凝固因子製剤,アンチトロンビンⅢ等の投与によりヒトパルボウイ
ルスB19 に感染したとの報告があります 4~6)。また,他の血漿分画製剤中
にもヒトパルボウイルスB19 のDNA が検出されたとの報告があります 7)。
ヒ
トパルボウイルスB19 は,エンベロープ(脂質膜)が無いため有機溶媒
/界面活性剤処理での不活化が難しいこと,熱に強く加熱による不活化は
容易ではないこと,ウイルス粒子が直径 18~26nm と小さく,膜(フィル
ター)による除去が困難であることなど,現在の製造工程での不活化・
除去が困難です。
一
般に,人がヒトパルボウイルスB19 に感染すると,感染は一過性で自
然治癒すると理解されていますが,溶血性・失血性貧血の患者,免疫不
全患者,免疫抑制状態の患者,妊婦等に感染した場合は重篤な症状を起
こす可能性が否定できません。このことから平成 8 年 11 月 11 日付旧厚生
省薬務局安全課事務連絡により,血漿分画製剤の「使用上の注意」に記載
されました 8)。
《参考文献》
3 )北村聖 他:Biotherapy 2002;16(5)
:467−476
4 )Santagostino, E. et al.:Lancet 1994;343:798
5 )Yee, T. T. et al.:Br. J. Haematol. 1996;93:457−459
6 )Mosquet, B. et al.:Therapie 1994;49:471−472
7 )Saldanha, J. et al.:Br. J. Haematol. 1996;93:714−719
8 )厚生省薬務局:医薬品副作用情報 No. 141, 1997;7−9
5.重要な基本的注意
患者への説明:本剤の使用にあたっては,疾病の治療における本剤の必要
性とともに,本剤の製造に際し感染症の伝播を防止するための安全対策が
講じられているが,血液を原料としていることに由来する感染症伝播のリ
スクを完全に排除することができないことを,患者に対して説明し,理解
を得るよう努めること。
〈解説〉
薬事法第 68 条の 7 において,特定生物由来製品を使用する際には,製品の有
効性及び安全性,その他適正な使用のために必要な事項について,患者さん
又はその家族の方々に説明を行い,理解を得るよう努めることが求められて
おります。これに基づき,平成 15 年 5 月 20 日付厚生労働省医薬食品局安全対
策課長通知により定められた生物由来製品の添付文書の記載事項に基づき記
載しました。
6
( 1 )本剤の原材料となる血液については,HBs抗原,抗HCV抗体,抗HIV
−1 抗体,抗HIV−2 抗体陰性であることを確認している。更に,プール
した試験血漿については,HIV−1,HBV及びHCVについて核酸増幅
検査(NAT)を実施し,適合した血漿を本剤の製造に使用しているが,
当該NATの検出限界以下のウイルスが混入している可能性が常に存在
する。本剤は,以上の検査に適合した血漿を原料として,Cohnの低
温エタノール分画で得た画分からポリエチレングリコール 4000 処理,
DEAEセファデックス処理等により抗D(Rho)人免疫グロブリンを濃
縮・精製した製剤であり,ウイルス不活化・除去を目的として,製造
工程において 60℃,10 時間の液状加熱処理及びウイルス除去膜による
ろ過処理を施しているが,投与に際しては,次の点に十分注意するこ
と。
1 )血漿分画製剤の現在の製造工程では,ヒトパルボウイルスB19 等のウ
イルスを完全に不活化・除去することが困難であるため,本剤の投与
によりその感染の可能性を否定できないので,投与後の経過を十分に
観察すること。
2 )現 在までに本剤の投与により変異型クロイツフェルト・ヤコブ病
(vCJD)等が伝播したとの報告はない。しかしながら,製造工程に
おいて異常プリオンを低減し得るとの報告があるものの,理論的な
vCJD等の伝播のリスクを完全には排除できないので,投与の際には
患者への説明を十分行い,治療上の必要性を十分検討の上投与するこ
と。
( 2 )シ ョック等重篤な副作用を起こすことがあるので,注意して使用し,
経過を十分観察すること。
( 3 )妊娠後期又は分娩時の胎児母体間出血により,D(Rho)陰性の母親の
循環血中に胎児のD(Rho)陽性赤血球が存在した場合には,母親の血
液型判定において,誤判定を起こすおそれがある。
〈解説〉
( 1 )1 )について:
本剤は,原料血漿のスクリーニング,製造工程でのウイルス不活化・除
去処理等を行っているが,現在の製造工程ではヒトパルボウイルスB19
等のウイルスを完全に不活化・除去することが困難であり,感染の可能
性を否定できないことから,すべての血漿分画製剤の「使用上の注意」と
して設定しています。
〈参考〉
製
造工程のウイルス不活化・除去能を評価するために,GLP適合施設
である英国の第三者研究機関において,ウイルスプロセスバリデーショ
ン試験を実施しています。また,輸入血由来の血漿分画製剤のウイル
スマーカー試験の実施状況は次のとおりです。
7
輸入血由来・血漿分画製剤のウイルスマーカー試験実施状況(2011年5月現在)
原料血漿
採取段階
試験項目
梅毒関連
抗 HIV − 1/2 抗体
HIV − 1・RNA
注 1)
抗 HCV 抗体
HAV 関連
〇
〇
〇
HBV・DNA
HCV 関連
〇
注 1)
HBs 抗原
HBV 関連
最終製品
〇注 2)
梅毒関連抗体
HIV 関連
ミニプール
プール血漿
血漿
〇
〇
〇
〇
〇
〇
〇
〇
〇
HCV・RNA
注 1)
〇
〇
〇
HAV・RNA
注 1)
〇
〇
〇
〇
〇
〇
ヒトパルボウイ
B19・DNA 注 1)
ルス B19 関連
備考)
上記試験項目は,(株)ベネシス又は原料供給元で実施。
注 1)NAT(核酸増幅検査)により実施。
注 2)各ドナーにつき 4 カ月に 1 度,RPR法で検査。
( 1 )2 )について:
血漿分画製剤の製造工程において異常プリオンを低減し得るとの報告が
あるものの,理論的なvCJD等の伝播リスクを完全には排除できないこと
から,すべての血漿分画製剤の「使用上の注意」として設定しています。
( 2 )について:
本剤の投与によりショック等が発現することがあるので,本剤投与開始
後の経過を十分観察することが必要であることから,他の人免疫グロブ
リン製剤にあわせて設定しました。
( 3 )について:
海外の同一成分添付文書の記載を参考に,妊娠後期又は分娩時の胎児母
体間出血のために母親の血液型判定において誤判定を起こすおそれがあ
ることから注意喚起を追記しました。
6.相互作用
[併用注意]
(併用に注意すること)
薬剤名等
非経口用生ワクチン
⎧ 麻疹ワクチン
⎪ おたふくかぜワクチン
⎪ 風疹ワクチン
⎪
⎪ これら混合ワクチン
⎩ 水痘ワクチン等
⎫
⎪
⎪
⎪
⎪
⎭
臨床症状・措置方法
機序・危険因子
本剤の投与を受けた者は,生
ワクチンの効果が得られない
おそれがあるので,生ワクチ
ンの接種は本剤投与後 3ヵ月
以上延期すること。
本剤の主成分は免疫抗体であ
るため,中和反応により生ワ
クチンの効果が減弱されるお
それがある。
〈解説〉
人免疫グロブリン製剤中には,原料血漿の供血者が保有している各種病原微
生物に対する免疫抗体が含有されており,これによって,生ワクチンの効果
8
が減弱されることが考えられることから,海外の同一成分添付文書及び他の
免疫グロブリン製剤に準拠して設定しています。
やむを得ず本剤投与後 3ヵ月以内に風疹ワクチン等の生ワクチンを接種され
た場合には,血清学的検査を行い抗体価の推移を確認すること。
7.副作用
( 1 )副作用の概要
本剤は,使用成績調査等の副作用発現頻度が明確となる調査を実施し
ていない。
( 2 )重大な副作用,その他の副作用
( 1 )重大な副作用
ショック(頻度不明):ショックを起こすことがあるので,観察を十
分に行い,悪心,嘔気,発汗,四肢冷感,血圧低下等の症状があら
われた場合には投与を中止し適切な処置を行うこと。
( 2 )その他の副作用
下記のような症状があらわれることがあるので,観察を十分に行い,
発現した場合には,適切な処置を行うこと。
頻度
種類
注)
頻度不明
過敏症
発熱,発疹等
注射部位
疼痛,腫脹,硬結
注)このような場合には投与を中止し,適切な処置を行うこと。
8.妊婦,産婦,授乳婦等への投与
本剤の投与によりヒトパルボウイルスB19 の感染の可能性を否定できない。
感染した場合には胎児への障害(流産,胎児水腫,胎児死亡)が起こる可能
性がある。
〈解説〉
一般に,ヒトパルボウイルスB19 に感染すると,感染は一過性で自然治癒す
ると理解されています。しかしながら,妊婦等に感染した場合には次のよう
な重篤な症状を招く可能性があることから,すべての血漿分画製剤の「使用上
の注意」に記載しています。(「慎重投与」
( 2 )
( 3 )の解説の項をご参照くだ
さい)
9
・妊婦
流産,胎児水腫,胎児死亡を起こすことが
ある。
・溶血性,失血性貧血の患者
発熱と急激な貧血を伴う重篤な全身症状を起
こすことがある。
・免疫不全患者,免疫抑制状態の患者
持続性の貧血を起こすことがある。
9.臨床検査結果に及ぼす影響
( 1 )本剤には各種感染症の病原体又はその産生物質に対する免疫抗体が含
まれており,投与後の血中にこれら免疫抗体が一時検出されることが
あるので,臨床診断には注意を要する。
( 2 )妊娠中に本剤を投与した場合,母体血清中の受動抗D(Rho)抗体によ
り,間接クームス試験が陽性になることがある。また,そのような母
体から出生した新生児においては出生時の直接クームス試験で弱い陽
性反応を示すことがある。このような場合でも,新生児がD(Rho)陽
性であれば分娩後にも本剤を母体に投与すること。
〈解説〉
( 1 )について:
免疫グロブリン製剤の多くは,各種感染症の病原体又はその産生物質に
対する免疫抗体が含まれています。これら免疫抗体には感染性はないも
のの,梅毒などの抗体検査で陽性を示すことなどが知られています。そ
こで免疫グロブリン製剤の投与を受けた患者が上記のように抗体陽性に
なる可能性があることに関して,昭和63年6月16日付薬安第64号により,
免疫グロブリン製剤に共通する「使用上の注意」として記載するよう通知
されたことから,本剤も他の免疫グロブリン製剤と同様に追記しました。
本剤投与後,一過性に各種感染性の病原体又はその産生物質に対する抗
体陽性となる可能性がありますので,投与後の臨床診断にはご注意願い
ます。
( 2 )について:
妊娠中の本剤投与により妊産婦の血清中に受動抗D(Rho)抗体が存在する
場合や,妊娠中に本剤を投与した母親から生まれた新生児の血清中に母
体から移行した抗D(Rho)抗体が存在する場合では,クームス試験結果に
影響を及ぼし誤判定を引き起こすことが考えられることから,注意喚起
を追記しました。
10
10.適用上の注意
( 1 )投与経路:
筋肉内注射にのみ使用すること。決して静脈内に注射してはならない。
( 2 )筋肉内注射:
筋
肉内注射にあたっては,組織・神経などへの影響を避けるため,下
記の点に注意すること。
1 )神経走行部位を避けるよう注意すること。
2 )注射針を刺入したとき,激痛を訴えたり,血液の逆流をみた場合は,
直ちに針を抜き,部位をかえて注射すること。
( 3 )調製時:
1 )溶解時に著しい沈殿が認められるものは投与しないこと。
2 )本剤はチメロサールその他の保存剤を含有していないので,一度溶解
したものは 1 時間以内に使用し,残液は再使用しないこと。
( 4 )アンプルカット時:
添
付溶剤の容器はワンポイントカットアンプルを使用しているので,
丸印を上にして下方向へ折ること。なお,アンプルカット時の異物混
入を避けるため,エタノール綿等で清拭しカットすること。
【添付文書冒頭記載】
本剤は,貴重な人血液を原料として製剤化したものである。原料となった血液を採取する
際には,問診,感染症関連の検査を実施するとともに,製造工程における一定の不活化・
除去処理を実施し,感染症に対する安全対策を講じているが,人血液を原料としているこ
とによる感染症伝播のリスクを完全に排除することはできないため,疾病の治療上の必要
性を十分に検討の上,必要最小限の使用にとどめること。(「使用上の注意」の項参照)
〈解説〉
平成 15 年 5 月 20 日付医薬安発第 0520004 号(生物由来製品の添付文書記載要領について)に基
づき,特定生物由来製品につきましては,添付文書本文冒頭に段抜き枠囲いで,感染症伝播の
リスクに関する全般的な注意事項を簡潔に記載しています。
11
「禁忌、原則禁忌を含む使用上の注意」の
改訂に十分留意すること
商品名
和名 抗D人免疫グロブリン筋注用1000倍「ベネシス」
洋名 Anti-D Human Immunoglobulin I.M. 1000-BENESIS
一 般 名
乾燥抗D
(Rho)人免疫グロブリン
規制区分
特定生物由来製品 処方せん医薬品注)
注)
注意−医師等の処方せんにより使用すること
包 装
抗D人免疫グロブリン筋注用1000倍「ベネシス」 1瓶
溶剤
(日局 注射用水2mL) 添付
※ 血液型記録カード
(患者携帯用)
添付
※同封の「血液型記録カード」は、本剤投与時に必要事項を記入して妊産
婦に渡し、必要時に担当医師へ提示出来るようご使用下さい。
本剤は、貴重な人血液を原料として製剤化したものである。原料となった血液を採取
する際には、問診、感染症関連の検査を実施するとともに、製造工程における一定の
不活化・除去処理を実施し、感染症に対する安全対策を講じているが、人血液を原料
としていることによる感染症伝播のリスクを完全に排除することはできないため、疾
病の治療上の必要性を十分に検討の上、必要最小限の使用にとどめること。
(「使用上
の注意」
の項参照)
日本標準商品分類番号 876343
承 認 番 号
薬価基準収載
販 売 開 始
**効 能 追 加
取扱い上の
注 意
22100AMX01667
1972年11月
1977年 8 月
2011年 5 月
記録の保存:本剤は特定生物由来製品に該当することから、本剤を投
与した場合は、医薬品名(販売名)、その製造番号
(ロット番
号)
、投与した日、投与を受けた患者の氏名、住所等を記録
し、少なくとも 20 年間保存すること。
貯 法:凍結を避け 10℃以下に保存
検定合格の日から 3 年(最終有効年月日は瓶ラベル及び
有効期間:
*
外箱に表示)
が、血液を原料としていることに由来する感染症伝播のリスクを完全に排除すること
ができないことを、
患者に対して説明し、
理解を得るよう努めること。
(1)
本剤の原材料となる血液については、HBs 抗原、抗 HCV 抗体、抗 HIV-1 抗体、
抗 HIV-2 抗体陰性であることを確認している . 更に , プールした試験血漿につい
ては、HIV-1、HBV 及び HCV について核酸増幅検査
(NAT)
を実施し , 適合した
血漿を本剤の製造に使用しているが , 当該 NAT の検出限界以下のウイルスが混
禁忌(次の患者には投与しないこと)
入している可能性が常に存在する . 本剤は , 以上の検査に適合した血漿を原料と
して、Cohn の低温エタノール分画で得た画分からポリエチレングリコール 4000
(1)D(Rho)陽性の新生児及び妊産婦〔本剤を投与すると溶血
**
処理、DEAE セファデックス処理等により抗 D(Rho)
人免疫グロブリンを濃縮・精
を起こす可能性がある。〕
製した製剤であり , ウイルス不活化・除去を目的として、
製造工程において 60℃、
10 時間の液状加熱処理及びウイルス除去膜によるろ過処理を施しているが、投
(2)本剤の成分に対しショックの既往歴のある患者
与に際しては、
次の点に十分注意すること。
1)血漿分画製剤の現在の製造工程では、ヒトパルボウイルス B19 等のウイルスを
原則禁忌(次の患者には投与しないことを原則とするが、特に必要とする場合に
完全に不活化・除去することが困難であるため、本剤の投与によりその感染の可
は慎重に投与すること)
能性を否定できないので、
投与後の経過を十分に観察すること。
2)現在までに本剤の投与により変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)等が伝播
したとの報告はない。
しかしながら、製造工程において異常プリオンを低減し得ると
本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者
の報告があるものの、理論的な vCJD 等の伝播のリスクを完全には排除できない
ので、投与の際には患者への説明を十分行い、治療上の必要性を十分検討の上投
組成・性状
与すること。
抗D(Rho)抗体含有
抗D(Rho)
抗体価
(2)
ショ
ック等重篤な副作用を起こすことがあるので、注意して使用し、経過を十分観
有効成分〔1瓶中〕
人免疫グロブリンG
1,000倍 2mL相当量
察すること。
**(3)妊娠後期又は分娩時の胎児母体間出血により、D(Rho)陰性の母親の循環血中に
グリシン
45.0mg
胎児の D
(Rho)
陽性赤血球が存在した場合には、母親の血液型判定において、誤
D-マンニトール
20.0mg
判定を起こすおそれがある。
添加物〔1瓶中〕
塩化ナトリウム
12.0mg
3.
相互作用
水酸化ナトリウム
適量
併用注意
(併用に注意すること)
塩酸
適量
薬剤名等
臨床症状・措置方法
機序・危険因子
白色の凍結乾燥製剤である。本剤を添付溶剤で溶解するとき、わ
性状・剤形
ずかに白濁した液剤となる。
非経口用生ワクチン
本剤の投与を受けた者は、生 本剤の主成分は免疫抗体であ
(麻疹ワクチン
ワクチンの効果が得られない るため、中和反応により生ワク
pH※
6.4∼7.6
おたふくかぜワクチン
おそれがあるので、生ワクチン チンの効果が減弱されるおそ
浸透圧比※
約1∼2
(生理食塩液に対する比)
風疹ワクチン
の接種は本剤投与後 3 ヵ月以 れがある。
これら混合ワクチン
上延期すること。
添付溶剤
日局 注射用水 2mL
抗D(Rho)抗体含有人免疫グロブリンGは、
ヒト血液に由来する。 水痘ワクチン等)
備考
(採血国:米国、採血の区別:非献血)
4.
副作用
本剤は、
使用成績調査等の副作用発現頻度が明確となる調査を実施していない。
※本剤1瓶を添付溶剤に溶かした水溶液
(1)
重大な副作用
ショック
(頻度不明):ショックを起こすことがあるので、観察を十分に行い、悪心、
効能・効果
嘔気、発汗、四肢冷感、血圧低下等の症状があらわれた場合には投与を中止し、適
** D(Rho)陰性で以前に D(Rho)因子で感作を受けていない女性に対し、以下の場合
切な処置を行うこと。
に投与することにより、D(Rho)
因子による感作を抑制する。
(2)
その他の副作用
・分娩後、流産後、人工妊娠中絶後、異所性妊娠後、妊娠中の検査・処置後(羊水穿
下記のような症状があらわれることがあるので、観察を十分に行い、発現した場合
刺、
胎位外回転術等)
又は腹部打撲後等のD(Rho)感作の可能性がある場合
には、適切な処置を行うこと。
・妊娠28週前後
頻度
頻度不明
種類
** 〈効能・効果に関連する使用上の注意〉
過敏症注)
発熱、発疹等
(1)
本剤の注射にあたっては、事前に妊産婦の D(Rho)陰性を確認しておくこと。
(2)本剤は、新生児が D(Rho)陽性である場合、胎児・新生児の父親が D
(Rho) 注射部位
疼痛、腫脹、硬結
陽性である場合、又は父親が D(Rho)陰性であることが不明であり、胎児・新
注)このような場合には投与を中止し、適切な処置を行うこと。
生児も D(Rho)
陰性であることが不明の場合も、妊産婦に投与すること。
(3)本剤は D(Rho)因子に未感作の D(Rho)陰性の妊産婦に投与すること。
既に ** 5.妊婦、産婦、授乳婦等への投与
D(Rho)因子で感作され抗 D(Rho)抗体を持っている婦人(分娩前の本剤投
本剤の投与によりヒトパルボウイルス B19 の感染の可能性を否定できない。感染
与により受動抗 D(Rho)抗体を持っている婦人を除く)及び D(Rho)陰性の新
した場合には胎児への障害
(流産、
胎児水腫、
胎児死亡)
が起こる可能性がある。
生児を分娩した婦人には、本剤投与による予防は無効であるため、投与しない
6.
臨床検査結果に及ぼす影響
こと。
(1)
本剤には各種感染症の病原体又はその産生物質に対する免疫抗体が含まれてお
(4)妊娠 28 週前後及び妊娠に関連した D(Rho)感作が疑われる場合の妊娠中の
り、投与後の血中にこれら免疫抗体が一時検出されることがあるので、臨床診断に
投与に加え、新生児が D(Rho)陽性の場合、分娩後にも産婦へ本剤投与を行う
は注意を要する。
こと。
**(2)妊娠中に本剤を投与した場合、母体血清中の受動抗 D(Rho)抗体により、間接クー
ムス試験が陽性になることがある。
また、そのような母体から出生した新生児にお
いては出生時の直接クームス試験で弱い陽性反応を示すことがある。
このような
用法・用量
場合でも、新生児が D(Rho)陽性であれば分娩後にも本剤を母体に投与するこ
** 本剤は、1 バイアルを添付溶剤(日本薬局方 注射用水)2mL に溶解し、効能・効果
と。
に応じて以下のとおり投与する。
7.
適用上の注意
・分娩後、流産後、人工妊娠中絶後、異所性妊娠後、妊娠中の検査・処置後又は腹部
(1)
投与経路:
打撲後:
筋肉内注射にのみ使用すること。
決して静脈内に注射してはならない。
72時間以内に本剤1バイアルを筋肉内に注射する。
(2)
筋肉内注射:
・妊娠28週前後:
筋肉内注射にあたっては、組織・神経などへの影響を避けるため、下記の点に注
本剤 1 バイアルを筋肉内に注射する。
意すること。
1)
神経走行部位を避けるよう注意すること。
使用上の注意
2)
注射針を刺入したとき、激痛を訴えたり、血液の逆流をみた場合は、直ちに針を抜
1.慎重投与(次の患者には慎重に投与すること)
き、
部位をかえて注射すること。
(1)IgA 欠損症の患者〔抗 IgA 抗体を保有する患者では過敏反応を起こすおそれがあ
(3)
調製時:
る。
〕
1)
溶解時に著しい沈殿が認められるものは投与しないこと。
(2)溶血性・失血性貧血の患者〔ヒトパルボウイルス B19 の感染を起こす可能性を否
2)本剤はチメロサールその他の保存剤を含有していないので、一度溶解したものは
定できない。感染した場合には、発熱と急激な貧血を伴う重篤な全身症状を起こす
1時間以内に使用し、
残液は再使用しないこと。
(4)
アンプルカット時:
ことがある。〕
添付溶剤の容器はワンポイントカットアンプルを使用しているので、丸印を上にし
(3)免疫不全患者・免疫抑制状態の患者
〔ヒトパルボウイルス B19 の感染を起こす可
て下方向へ折ること。
なお、アンプルカット時の異物混入を避けるため、エタノール
能性を否定できない。感染した場合には、持続性の貧血を起こすことがある。
〕
綿等で清拭しカットすること。
2.重要な基本的注意
患者への説明:本剤の使用にあたっては、疾病の治療における本剤の必要性ととも
**2011年 5 月改訂(第17版)D13
に、本剤の製造に際し感染症の伝播を防止するための安全対策が講じられている
*2011年 3 月改訂
〈文献請求先〉くすり相談室