中酪情報505ブック .indb

古川 裕也 氏
株式会社 電通
第2クリエーティブディレクション局・
エグゼクティブ・クリエーティブディレクター
中酪情報7月号 巻頭インタビュー
よりプロダクト
(製品)
に近い
キャンペーンへ
∼「牛乳に相談だ。」今後の展開を電通・古川氏に訊く∼
17年度よりスタートした牛乳消費拡大事業「牛乳に相談だ。」
は、今年度、
全体のエリア拡大と認知済み・モデルエリアでの集中投下型・売り場キャンペーンを展開し、新たなスタートを切る。
そこで、今回の巻頭インタビューは、
「牛乳に相談だ。」
キャンペーンの総合プロデュースを手がける、
㈱電通 エグゼクティブ・クリエーティブディレクター/古川裕也氏に18年度キャンペーンの方向性と、
キャンペーンを具体的消費に結びつけるための戦略をお聞きした。
キーワードは、
「よりプロダクトに近いキャンペーン」
そして
「“拡散”
と
“統一”」。
今回インタビューをお受けいただきました古川氏は、
「2005年 クリエーター オブ ザ イヤー」を受賞されました。
また、
「牛乳に相談だ。」は、シンデレラ編のCMで
カンヌ国際広告祭・ブロンズ賞を、
キャンペーン全体でカンヌ国際広告祭・プロモライオン賞を受賞しました。
─ 1 ─
中酪情報7月号 巻頭インタビュー
国内外の広告業界で高い評価を得た「牛乳に相談だ。」
本誌:まずは、カンヌ国際広告祭での受賞おめでとうございます。
古川:今回のカンヌ国際広告祭では、
「牛乳に相談だ。」のラブレター編CMでフィルム部門・ブロ
ンズ賞を、キャンペーン全体ではプロモライオンをそれぞれ受賞しました。日本から2作品しか
受賞しなかったフィルム部門でブロンズを受賞できたことは非常に嬉しいですね。
とは言え、ラブレター編はアドフェストというアジアの広告祭でもシルバーを獲得していたの
で、カンヌでも、
「もしかしたらブロンズはいけるかな?」と内心では思っていました。だから予
想通りといえば予想通りですね(笑)。
プロモライオンでは、キャンペーン全体を評価するものですから、駅や街頭、塾やカラオケと
いったターゲットが行く先で待ち伏せするキャンペーン展開や、酪農家さん自らがTシャツの着
用などを通して広げる自己増殖型のキャンペーン展開を広げていくクロスメディア型キャンペー
ンが評価されたと考えています。
CMそのものも、キャンペーン全体も高い評価を得たことは、私としても非常に嬉しいですね。
カンヌ国際広告祭・フィルム部門、
プロモライオンとは?
・フィルム部門は、世界中のCM約5000本
の中からグランプリ1作品、ゴールド・シルバー・
ブロンズ合わせて約60作品を選ぶCMの国際
賞。今回、日本からは「牛乳に相談だ。」を
含め2作品が受賞した。
・プロモライオンとは、今年から新設されたプロ
モーション領域を評価する賞を指す。
牛乳は飲みたい飲料のベスト5に入らなければいけない
本誌:18年度の「牛乳に相談だ。」は、
“エリアの整理・拡充”とエリアに応じた展開、とくに“認
知エリアでの購買者対策”の2本柱とお聞きしていますが…。
古川:そうですね。
「牛乳に相談だ。」スタートに当たって中央酪農会議の前田事務局長から、
「面白いモノを作った
からといって、すぐに消費に結びつくものだとは思っていない。3∼5年の中期にかけてじっくり
腰を据えて戦略的に展開してほしい」との要望がありました。そのとき私がお話したことが、
「情
報は内容より“誰が言ったか”が大事だ」ということです。
牛乳に興味のない中で“背が伸びる”といったベネフィット(利益・有益性)を投げかけても、
誰も聞いてくれません。同じ内容でも尊敬や信頼できる人から言われれば納得するし、興味の対
象外にいる人から言われてもその情報は取り入れませんよね。それでまずは、牛乳の存在感を上
げることが必要だと考えました。
─ 2 ─
中酪情報7月号 巻頭インタビュー
牛乳は知名度100%、経験率も100%ですが、あまりにも当たり前の存在になってしまってい
て、存在感が希薄過ぎます。だから“のどが渇いたな”と思ったときに、牛乳を“飲みたい飲料”
のベスト5以内にあげる中高生っていないんじゃないかな。すーっと脳の中を通りすぎてしまう。
まずは“飲みたい”飲料のベスト5に入らないといけないですよね。そのためには、脳の中に牛
乳の存在感を植えつけることから始めないと、いくら「身体に良いです」と言ってもダメです。
だから初年度・2年度は「牛乳って面白いね」「牛乳って最近よく聞くよね」「牛乳って目立つね」
といったターゲットの牛乳イメージ、存在感の変化に資源を集中しようと計画しました。そのう
えで、牛乳の存在感が上がったら、よりベネフィットを訴求し、さらにより販売に結びつくよう
な戦略に移行していこうと考えたのです。
キャンペーンへの接触と飲む行動を近づける
古川:とは言っても、牛乳の消費減退は思ったより深刻な状況にあるので、2年目から少し購買
に結びつくプロモーションに取り組もうと提案しました。とくにモデルエリア(新潟・京都・横浜)
では、実験的によりプロモーショナルな展開をしようと考えています。アドバタイジング(広告)
とプロモーション(購買行動の喚起)の距離を縮める、もしくはイコールにするということです。
というのは、
CMやポスターを見ることと実際に“飲む・買う”ことには大きな距離があるからです。
とくに牛乳は自販機がほとんどないので、広告で“面白い”と感じられても、すぐ手に入れるこ
とができないので、これらの距離が離れがちです。ですから、「牛乳に相談だ。」のコピーに共感
を持ってもらって、さらに実際の牛乳をその近くに置こうというのが今回考えている手法です。
そのなかで、スーパーの牛乳売り場など、店頭がもの凄く大きなメディアになるでしょう。牛
乳売り場を一つのメディアと捉え、そこでポスターやコピーを見せることで、その売り場に立ち
止まってもらうというイメージです。私も何軒かのスーパーで牛乳売り場を見ましたが、何とな
く“シ∼ン”としているというか、通り抜けやすい雰囲気を持っていますよね。それをアドバタ
イジングやプロモーションといったクリエイティブの力で変えてみたいですね。スーパーで何か
を買おうとしている消費者に、牛乳の存在感を取り戻してもらうことが狙いです。つまり、従来
通りのターゲットへの接触はもちろんですが、牛乳を実際に買う人への接触も増やしていくとい
うことです。当然、実際に牛乳を買うのは親が多いわけですから、ここへの広告表現は「うちの
子に牛乳を飲まそう」と思わせるようなものに微調整していきます。
このことはスーパーとの交渉事になるので難しい側面もありますが、“貼る場所が命”ですか
ら、より製品に近いところでの展開を考えています。
牛乳はもっと娑婆に出るべき
本誌:
「牛乳に相談だ。」スタート当初、「酪農家は『牛乳に相談だ。』の構成員」と位置づけられ
ていましたが、本年度もその路線は変わりませんか?
古川:はい。われわれは酪農家の皆さんはビッグメディアだと認識しています。Tシャツを着て
いただいたり、イベントで広めてもらうなどをしていただいておりますが、アルバイトで雇った
人間と違って生産の現場、牛乳の現場にいる本業の方々ですから説得力が違います。
本誌:昨年は全日本共進会のような酪農の一大イベントがあって、非常に盛り上がりましたよね。
こうしたビッグイベントが毎年あればキャンペーンも盛り上げやすいですよね。
─ 3 ─
中酪情報7月号 巻頭インタビュー
古川:そうですね。地域によって違うんでしょうが、今年は原宿の商店街とタイアップしてポス
ターやのぼりを使ったイベントを予定しています。
原宿は全国からターゲットである中高生が買い物や遊びにくるわけですから、そうした原宿っ
ぽさやカルチャーを織り込んだコピーに置き換えて掲示する予定です。例えば「スカウトされま
した 相撲部屋に――牛乳に相談だ。」とかね。また、原宿警察署が防犯の標語をのぼりに掲げ
るので、その文体を借りてコラボレーションしようと考えています。
「どんなに牛乳が好きでも
万引きはいけません」――みたいな感じです。
とにかく牛乳が娑婆に出て行くというか、どんどん牛乳の露出を上げることが大原則ではあり
ますが、それもできるだけ製品に近いところで展開したいですね。
“拡散”と“統一”が予算以上の効果を生む
本誌:総予算10億円弱という予算の中で、CM、ポスター展開や各種イベントなど非常に効率的
にキャンペーン展開されていると感じていますし、それがプロモライオン受賞に結びついたと考
えています。改めて古川さんの手腕には頭が下がります。
古川:ありがとうございます。
キャンペーンのポイントは、「“拡散”と“統一”」です。
「牛乳に相談だ。」のメディアはテレ
ビあり、ポスターあり、イベントありさまざまですし、接点も家や通学途中、塾、カラオケなど
の場所、それからTシャツを着た酪農家さんとの接触など多岐にわたって拡散させています。実
は、こうしたメディアを広げること、“拡散”させることはそれほど難しくないのですが、それ
ぞれを“統一”させることが重要で、そのためには中央司令塔が必要です。それがクリエイティ
ブディレクターの仕事になります。
全部同じトーン――「牛乳に相談だ。」で言えば「メリットをめぐる日常の悩み、それを『牛乳
に相談だ。
』で受ける」という構成に統一していますので、全体のイメージが固まることで予算
規模以上に大きく感じるようになるはずなのです。そして、
「牛乳に相談だ。」ではすべて同じトー
ン、同じ構成式で展開していますので、
「あ∼、あれか!」と蘇りやすいものになっていると思い
ます。
いずれにしても、重要なことは中央酪農会議、具体的には牛乳消費拡大促進委員会が決定機関
ですが、これらの組織やその事務局、すなわちクライアントと、私どもクリエイターやプランナー
が、戦略や想いをしっかり共有して仕事を進めることがキャンペーンの成功の絶対条件です。こ
れまで、こうしたリレーションシップが非常にうまく機能してきました。今後も引き続き、こう
した関係者の方々の理解を基礎に、一緒に頑張って行きたいですね。
─ 4 ─
中酪情報7月号 巻頭インタビュー