柔道の背負投で生じた上腕骨小頭離断性骨軟骨炎の一例と その発生機

柔道の背負投で生じた上腕骨小頭離断性骨軟骨炎の一例と
その発生機序の考察や予防についての提言
橋爪 良太1)2)
米田 忠正2)
1)本部会員
【はじめに】
米田 實2)
2)米田病院
考えられる。釣り手の使い方について米田は手関節
柔道の背負投における釣り手の動作は野球の投
掌屈・回外位(巻き手)とすることで、内側側副靱帯
球動作と同様に、英語では同じ throw という言葉が
をサポートする尺側手根屈筋が有効に働くため肘関
用いられる。今回、背負投によって生じたと思われ
節のストレスは減少する
る上腕骨小頭離断性骨軟骨炎(以下 OCD)を経験し
に巻き手を指導していると、筋力不足等から出来な
たので、その症例報告と同時に発生機序について検
い場合が多いのが実態である。本症例も巻き手を指
討し、釣り手の使い方による予防法についても考察
導されていたが、手関節背屈・回内位でかけること
を試みた。
が多かった。回内位は腕橈関節の応力が増大するた
【症例提示】
め
14 歳男性、右組み。小学 2 年生から柔道を始め、
2)
1)
と報告しているが、子供
、上腕骨小頭には繰り返して強い圧迫力が加わ
っていたと考えられる。
得意技は背負投であった。小学高学年の頃から背負
背負投は少年柔道でも比較的早期に教える技の
投を繰り返し行うと右肘の疼痛があったが、中学に
一つであり、無理な体勢で入ることを繰り返すと釣
入り疼痛が増強し、徐々に可動域制限が出現した。
り手の肘関節に負担が増大してしまう。予防として、
平成 20 年 1 月 8 日当院受診。初診時、肘関節外側
担ぐ際に肩関節を水平内転させるように指導するこ
関節裂隙部に圧痛あり。前腕の回内外制限はないが
とで自然と巻き手になり、更に肩関節内旋を若干加
肘関節は屈曲 130°、伸展-50°と可動域制限あり。
えるよう指導することで、肘関節への外反ストレス
X 線・CT・MRI 検査の結果、上腕骨小頭部に OCD の
はある程度軽減できると考えられる。
所見がみられ、関節面後方に遊離骨軟骨片が嵌頓し
身体のできあがっていない成長期では背負投な
ていた。平成 20 年 2 月 27 日手術施行(関節鼠摘出・
ど、単一の技に頼る柔道は避け、釣り手の肘に痛み
滑膜切除・ドリリング)。平成 20 年 5 月 3 日試合復帰。
が生じるようであれば背負投を中止することも考慮
【考察】
しなければならない。また、野球ではボールを投げ
本症例は背負投を得意技として競技を継続し、
るという動作は必須であるが、柔道では左右をはじ
徐々に右肘関節の可動域制限、疼痛が出現していた。
め技の種類が多くあり、特定の技に固執する必要は
得意技の変更やテーピング等による補強、疼痛を回
ない。特に成長期には一部の関節等に負担がかかり
避した動作にて練習を継続していた。
過ぎないように留意して OCD のような重篤な障害を
野球における OCD はコッキング期から加速期での
腕橈関節への圧迫・剪断力が影響している。背負投
においても、担ぐ際に釣り手の肘関節には屈曲位で、
外反力と相手の体重が乗ることでの軸圧負荷がかか
る。また、肘関節内側には牽引力と外側(腕橈関節)
には圧迫・剪断力が加わることで OCD が発生すると
予防することが必要であると思われた。
【まとめ】
・ 背負投による OCD を経験し発生機序から釣り手
は巻き手とする必要性があると思われた。
・ 成長期では背負投だけに頼る柔道は避けるべき
であると考えられた。
Key words:柔道、上腕骨小頭離断性骨軟骨炎、背負投、釣り手、巻き手
引用文献
1) 米田實:日本武道の肘障害.整形・災害外科 32.1479-1484,1989
2) Morrey,B.F,et al:Force transmission through the radial head.J.Bone Joint Surg,70-A:250-256,1988