夢中・熱中,体育学習

平成 21 年度
研究テーマ・研究計画(案)
研
究
部
夢中・熱中,体育学習
∼学習内容を習得・活用する授業づくり∼
はじめに
20 年度は「夢中・熱中,体育学習∼学習内容の系統性を踏まえた授業づくり∼」のテーマの
基,「授業を通して子どもたちが体育学習に『夢中・熱中』できたか否か」「その原因の追求」
「 実 践 を 系 統 表 に 反 映 」 に 取 り 組 ん で き た 。 こ れ ら の 目 標 を 具 現 化 し て い く た め ,「 学 習 内 容
の妥当性を探る」「 教材化の効果」「 支援の在り方」の3つに焦点化し,形成的授業評価や授 業
分析等を用いて検証を行ってきた。
その研究の成果を,第 46 回中・四国小学校体育研究大会(香川大会)において,会場校の実
践並びに各郡市の提案において,中・四国の先生方に発信することができた。
1
研究テーマ設定の背景
(1)
新しい学習指導要領から
新しい学習指導要領改訂の基本方針となった「中教審答申」では,体育の課題として「運
動への関心や自ら運動する意欲,各種の運動の楽しさや喜び,その基礎となる運動の技能や
知識など,生涯にわたって運動に親しむ資質や能力の育成が十分に図られていない例も見ら
れる」と指摘している。支援という名の下,楽しさだけを追求させることに大きな関心が向
けられ,教師の指導性については,関心が向けられてこなかった傾向があるのではないか。
また,新しく改訂された学習指導要領では「発達段階を踏まえて指導内容の明確化を図る」
「運動の系統性を図る」「保健における指導内容の改正」「健康に関する内容の明確化」「知
識を身に付ける」ことが中心となって改訂が行われた。そしてこれらの力を確かなものにす
るために,「習得,活用,探求」の学習のサイクルも示された。これらのことからも,教育
のプロとして,授業力の向上をめざすことが大切とされている。
では本県のこれまでの研究と,新しい学習指導要領とはどのように整合するのであろうか。
まず,「発達段階を踏まえて指導内容の明確化を図る」「運動の系
統性を図る」ことについては,これまでも学習内容を「わかる・で
きる・かかわる」と設定し,それらがともに重なり合うことで楽し
さにつながることとであると考え,研究を進めてきた。このことは
わかる
できる
かかわる
新しい学習指導要領の趣旨を踏まえていると捉えることができる。
しかしながら「発達段階を踏まえて指導内容の明確化を図る」において,具体的にどのよ
うに指導するかについいては,単元の中で何をどのように習得させるのか。そして習得させ
た知識や技能をどのように活用させ,確かな習得につなげていくのかといった研究までは十
分深めることはできなかった。
(2)これまでの研究から
研究を進めることで,概ね以下のような成果が得られた。
○ 系統性は短い期間の研究で検証できるのではなく,修正を加えながら研究を進めていくことが大切で
あると考え,長期的な展望にたち研究を進めることができた。
- 1 -
○
系統性をテーマに進めることで,子どもの学びの道筋を捉えることができ,系統表を基に,単元計画
のモデル,教材分析表,場の工夫,基礎感覚づくりや技につながる動き,効果的な指導や補助など授
業づくりにつながる形で研究を進め,形としてまとめることができた。
○
形成的授業評価を活用し授業改善を行うことで,児童の意識に沿った学習が展開でき,教師の関わり
を見直すことができた。教師の支援の在り方を考えることができるようになった。
こ の 成 果 に つ い て は 今 後 も 継 続 し て い き た い 。 そ の 反面,いくつかの課題も生まれた。
●
系統性を授業でどのように意識していくか,明らかになっていない内容や単元がある。
●
系統表だけでは体育を専門としない先生にとって授業づくりは難しい。
●
新しい指導要領では「指導」が重視されている。支援の在り方でよいのか。
これらのことについて,なぜこのような課題が生まれたか,振り返ってみたい。
まず1つ目の課題である。系統表はあくまでも目標レベルであって,目標を設定しただけ
で授業が大きく変わるわけではない。授業を変えるためには,教材開発や教材分析等の授業
研究が大切である。しかしながら,このような意見が出されたのは,系統表よりも授業づく
りに課題があったと考えられる。6年間で「何を」「いつ」「どのように」学ばせることは明
らかにすることができたが,単元や1単位時間において「何を」「いつ」「どのように」学ば
せていくかまで踏み込んで研究を深めるまでは至らなかった。このことは課題の2つ目とも
関連しており,一般化をねらって系統表を作成したものの,目標レベルに留まってしまった
ことは否めない。
3つ目の課題である。本県では支援の中でも「具体的な言葉かけ」に視点をあて,子ども
たちが授業を通して,学習内容を確実に習得させるための具体的な教授行為を「夢中・熱中
させるための支援」と捉えてきた。これまでの支援より,一歩踏み込んだものであることは
説明してきた。しかし,新しい学習指導要領では教育のプロとして指導力が求められている
の も 確 か で あ る 。「 こ れ ま で の 単 な る 支 援 で は な い 」 と 言 う こ と を , 説 明 し て も , 今 後 も 同
様の意見は出されるであろう。教育のプロとして教えるべき内容はしっかり教えるというス
タンスを大切にするためにも,「支援から指導へ」の変更が必要と考える。
(3)平成21年度研究のテーマ
これまでの研究の成果からも,「学習内容の系統性を明らかにすること」「学習内容を身に
付 け さ せ る た め に 教 材 化 を は か る こ と 」「 そ れ ら を 踏 ま え た 授 業 づ く り を 行 う こ と 」 は こ れ
からの体育学習にも望まれていることである。つまり,子どもが授業に夢中・熱中になって
体育学習に取り組み「わかる」「できる」「かかわる」という学習内容を,しっかりと習得 ・
活用させることが大切であることは,今後とも継続していく。
しかしながら課題でも挙げられたように,単元や1単位時間において「何を・いつ・どの
よ う に 学 ば せ て い く か 」, つ ま り 「 学 習 内 容 を 単 元 や 1 単 位 時 間 の 中 で 習 得 ・ 活 用 さ せ て い
くためには,どのような教材や教師の働きかけが必要か」と言ったことは明らかにしていく
必要がある。そのことが,系統表を授業づくりに生かすことや,体育を専門にしない先生方
に広めることにもつながるかもしれない。
そこでテーマを,
「夢中・熱中,体育学習
∼学習内容を習得・活用する授業づくり∼」
と設定し,単元において学習内容を確実に習得・活用させる道筋を明らかにすること,その
ために必要な教師の指導の在り方を明確にすることを研究していきたい。このことにより,
「夢中・熱中した体育学習」が,全県下に広がることを期待している。
- 2 -
2
今年度の研究の視点
これまでの研究や,香川大学米村耕平先生のご指導から,夢中・熱中できる授業の条件と
して,次の4つのことが大切であると考えてきた。
① 学習目標がはっきりとしている授業
③ 学習方法の形式が多様な授業
② 教材や場作りの工夫が見られる授業
④教師の指導性が明確な授業
授業の中でこれらのことを具現化していくことが必要である。今年度はその具現化してい
くための様々な手だてや方略を明らかにし,学習内容を確実に習得・活用させることで「夢
中・熱中できる授業づくり」を提案していきたい。
(1)
習得させる学習内容の明確化
このことについては,これまでも研究してきた内容である。今更,研究の視点にする必要
がないのでは,と言う声もあろう。しかし,習得 させる内容自体が不明確のままで は,夢中 ・
熱中する授業には至らない。また,学習内容を設定しても,それがそのまま子どもの腑に落
ちることはなく,いくつかのカテゴリーやレベルが存在し,それらを習得し活用していくこ
とで確かな学習内容が確実に身に付くことにつながる。
例えばリレーの授業で考えてみたい。リレーで大切な学習内容は「テークオーバーゾーン
の 中 で , 減 速 の 少 な い バ ト ン パ ス を す る 」 こ と で あ る 。 そ の た め に は ,「 バ ト ン の 受 け 渡 し
方 」「 コ ー ナ ー ト ッ プ な ど の 知 識 」「 走 る 順 番 」「 走 り 出 し の タ イ ミ ン グ 」 な ど の 内 容 を 習 得
させる必要がある。それらの習得した内容を他の教材の場で活用させることで,互いがスピ
ードに乗った状態でバトンのパスが行えれば,バトンのスピードが落ちずにつながっていく
と言った確かな学習内容を身に付けることができる。
単元において習得させる内容は何か。各領域,学年ごとに何を学ばせなければいけないの
か,さらに明らかにしていきたい。
(2)
習得・活用させるための教材化
次に,習得・活用させるための有効な教材を探っていく。
子どもたちが学習内容を習得したり活用したりするのは,あくまで教材を介してである。
そのためにはこれまでの教材化の視点に「習得させるための教材」「活用させるための教材 」
と,明確な目的をもってその教材化を行っていく必要がある。例えばバスケットボールの授
業では,単元の前半において,ボールの操作技能を習得させるためのドリルゲームや,ボー
ルを持たない者の動きを習得させるためのタスクゲームなど,習得することを中心とした下
位教材の設定が考えられる。また,単元が進むにつれ,これまで習得してきた内容を活用す
る場として「3on3」などの主教材が設定され,下位教材で習得した内容を主教材において
活用し,確かな学習内容を身に付けることが考えられる。
こ れ ま で の 教 材 化 の 視 点 を 生 か し つ つ ,( 1 ) で 明 ら か に な っ た 内 容 を 確 実 に 習 得 さ せ た
り,活用させたりするための教材化の道筋を明らかにしていきたい。
(3)
指導の在り方
学習内容を習得・活用させていくには,どのような指導が必要なのか探っていく。
体育の授業において,よい授業の基礎的条件としては次の4つがある。
①学習従事時間が確保されている
②学習規律が確立している
③教師の肯定的な関わりが見られる ④学習者の情緒的解放や肯定的な関わりが見られる
これらの条件をクリアするためにも,1単位時間の授業に留まらず,単元を通してどのよ
- 3 -
うに授業を構成していけばよいのかを明らかにしていきたい。
単元の中では,発問,説明,指示といった教師が主導となる場面と,自分のこだわりをも
たせ,自分なりに追求・探求させて子ども達同士で話し合うといった子ども主体となる場面
がある。それらの場面を単元の中でどう取り入れていくかが大切である。そのための,教師
の指導の在り方を明確にしていきたい。
3
研究の方法
(1)
学習内容を習得・活用できたかどうか子どもの様相から探る
授業においての子どもの「動き」はもちろんのこと,子どもから出された「言葉」からも,
学習内容を習得・活用することができたかどうか探っていく。
「動き」から探っていくことは,これまでも行われてきたことである。では「言葉」であ
る。子どもたちは授業において,友だちの動きを見てアドバイスを送ったり,チームで作戦
を 考 え た り す る 際 に 「 言 葉 」 を 用 い る 。「 言 葉 」 は 授 業 中 に 話 す も の も あ れ ば , ワ ー ク シ ー
ト等に書くものもある。教師は「言葉」として表出されることで,子どもが学習内容を理解
できているかどうかを捉えることができる。これまでのように「動き」だけではなく,子ど
もの「言葉」からも,学習内容を習得・活用できたかどうか探っていきたい。そのためには,
学んだことや,感じたことが表出できるワークシート等をあらかじめ準備し,記録として残
していく。また可能な限り,授業の中での子どもの反応を拾い上げ,記録として残していく
こととする。それらの「言葉」を手がかりに,学習内容を習得・活用することができたかど
うか探っていく。
(2)
教材化・指導の在り方を単元レベルでまとめる
これまで,単元全体を通しての授業の展開や指導の在り方を「授業づくり活用表」として
まとめることを提案してきたが,その意図について共通理解を図ることができないままであ
る 。 そ こ で , 研 究 部 か ら の 応 答 で も 説 明 し た よ う に ,「 授 業 づ く り 活 用 表 」 と い う 名 前 は 使
わないこととする。しかし,研究をまとめる際には,単元を通して「明確にした学習内容」
「 習 得 さ せ る た め の 教 材 」「 活 用 さ せ る た め の 教 材 」「 具 体 的 な 指 導 方 法 」「 子 ど も の 様 相 」
などをまとめ,一つの単元の大まかな展開がつかむことができるようなものを作成する。
イメージとしては平成 18 年度に紀要でまとめた教材化に,下位教材や指導の在り方を追
加していくようなものと考えている。
この表に「学習内容」や「下位教材」,
「指
導の在り方」等を書き加えていく。
- 4 -
4
研究の構想
(1)
めざす子ども像
生涯にわたって運動やスポーツに親しむのに必要な資質と健康・安全に生きていくのに必要な
身体能力,知識を身に付けた子ども
(2)
研究構想図
め ざ す 子 ど も 像
身に付けさせたい力
「わかる」「できる」
「かかわる」は共に重
なり合い,体育学習に
できる
夢中・熱中できる。
かかわる
わかる
教材を通して「わか
学習内容の高ま
る」
「できる」
「かか
りと共に,より
わる」が高まり,深
上位の教材へ発
まっていく。
展していく。
わかる
できる
かかわる
夢中・熱中とは
それぞれの学習内容が
教材によって深まり,
互いに重なり合うこと
で「わかってできるよ
うになった」や「かか
わってできるようにな
わかる
できる
かかわる
った」
「かかわってわか
った」という意識を,
体育授業の中で感じる
ことができる。
子どもの経験・願い
わかる
できる
かかわる
○言葉やイメージでよい動 ○運動の特性にふれるために必 ○ルールやマナーを守るとともに,友
きのコツがわかる。
要な技能を身に付けている。
達と教え合い,高め合おうとする。
○健康・安全な生活の仕方
○健康・安全な生活に関心をもつとと
がわかる。
もに,友達と教え合い,高め合おう
とする。
- 5 -
5
研究の計画
(1)
研究に関する主な行事と内容
行事
開催時期
総会
5月上旬
○ 本年度の研究テーマ・研究計画の提案
第1回研究委員会
6月上旬
○ 研究テーマ・研究計画の確認
第1回体育研究会
7月上旬
○ 公開授業(附属坂出小)
夏季研修会
7月下旬
○
第2回研究委員会
11月下旬
○
第2回体育研究会
12月上旬
○
第3回研究委員会
2月中旬
○ 来年度の方向性について検討Ⅰ
第3回体育研究会
3月上旬
○ 来年度の方向性について検討Ⅱ
(2)
内
容
平成21年度以降の事業計画
平成21年から27年度の間に,各郡市必ず1回は中四国大会の提案を行う。
中・四国体育研究大会
香小研夏季研修会
担当郡市
開催県
平成15年度
仲多度・善通寺
高知:
担当領域
坂出
基本・低
高松
基本・中
平成16年度
三豊・観音寺
山口:
丸亀
表現
平成17年度
さぬき・東かがわ
鳥取:
小豆
器械
高松 A
愛媛:
さぬき・東かがわ
基本・低
仲多度・善通寺
ボール
水泳
平成18年度
平成19年度
坂出・綾歌
島根:
高松
平成20年度
高松 B
香川:
全郡市発表
平成21年度
仲多度・善通寺
岡山:
高松東
表現
丸亀
徳島:
丸亀
走・跳の運動低
三豊・観音寺
ゲーム低
平成22年度
平成23年度
平成24年度
三豊・観音寺
広島:
(
)
ゲーム中
小豆
高知:
(
)
体つくり運動(体ほぐし)
(
)
器械・器具・低
平成25年度
さぬき・東かがわ
山口:
(
)
走・跳の運動低・中
平成26年度
高松A
鳥取:
(
)
器械運動中・高
平成27年度
坂出・綾歌
愛媛:
(
)
ボール
(
)
保健
(3)
各郡市の研究領域
郡市
領域
郡市
小豆
坂出・綾歌
さぬき・東かがわ
丸亀
高松
木田・香川
東
表現
領域
陸上
仲多度・善通寺
西
三豊・観音寺
南
- 6 -
ゲーム
6
夏季研修会について
(1)
日程について(予定)
受
付
開
全
会
体
行
提
事
案
移
動
分
科
会
Ⅰ
昼
食
・
移
動
分
科
会
Ⅱ
移
動
全
開
体
講
会
指
演
行
導
事
来年度も実技講習は行わず,全体会を行う。その際の全体会は,研究部から実践を踏まえた提案を
行う
(2)
講演について
・ 新しい指導要領の移行期との関連から,教科調査官等(白幡先生)。
7
体育研究会について
中・四国大会に向けて平成 18 年度から名称や開催場所,開催方法を変更し「県内の体育部員の先
生方が集まり,郡市・県の研究について検討する場」
「県のテーマについて共通理解を図り,研究集
団として組織を構成する場」
「中・四国大会に向けて,研究を推進していく場」として実践を行った。
また香川大学米村先生からは,アドバイザーとしてご指導を頂くことができた。その結果,今年度
の第2回大会には参加者が 60 名を越す会となり,会の研究の目的を達成することができた。
来年度も年3回の体育研究会を開催するが,中・四国大会を終えると「参加者の減少」という課
題が再び浮かび上がってきそうである。そこで来年度の1回目は研究部が授業を公開して討議を行
うが,2回目以降については,以下のような案を考えている。
第1回
7月上旬
附属小学校において授業公開(研究部)
授業についての討議
※授業者・単元名・討議の方法については未定
※指導者に関しては,香川大学の先生を希望
第2回目以降
各郡市からの実践発表(H17 までと同じ取り組み)
市ごとの取り組みが活発になり,郡市からの実践を基に研究の方向性を決定する(トップ
ダウン→ボトムアップ)をねらって,平成 17 年度までの取り組み同様,提案する内容を各
郡市に任せて行う。1回の研究会で2つの郡市の提案を検討中。
体育研究会の当番郡市
1学期
平成21年度
2学期
研究部
平成22年度
平成23年度
平成24年度
- 7 -
3学期