チ 高齢猫への診療アプロー 第5回 高齢猫と腎臓病 〜本当に CKD でしょうか?〜 服部 幸 東京猫医療センター はじめに 高齢猫の健康診断で血液検査を行い、Cre が上昇し 表1.猫の代表的な腎臓病 ていたらそれだけで「慢性腎臓病」 (以下 CKD)と診 断してはいないでしょうか? 腎前性および腎後性高 窒素血症を除外できたとしても、Cre が上昇している のはあくまで採血時点の腎機能が低下していることを 示しているに過ぎず、厳密には急性腎障害(AKI)と の区別をすることもできません。 高齢猫の腎機能が低下する疾患は、慢性間質性腎炎 猫の代表的な腎臓病 リンパ腫 水腎症 腎臓腫瘍 アミロイドーシス 腎結石 腎盂腎炎 多発性嚢胞腎 糸球体腎炎 腎周囲嚢胞 猫伝染性腹膜炎(FIP) (いわゆる CKD)の他にも、腎臓腫瘍や腎リンパ腫、 多発性嚢胞腎、腎結石などいくつもあります(表1) 。 CKD の診断は血液検査だけに頼るのではなく、必ず これらの疾患は、それぞれ治療法も予後も異なるため 腎臓を触診し画像診断や尿検査、場合によっては組織 一括りに CKD と診断するのは危険です。 学的検査を組み合わせて診断を進める必要があります。 そもそも C K D とは? CKD は「なんとなくずっと腎臓が悪い」というも よって提唱された猫の CKD の病期分類(表2)でも のではありません。CKD は定義されている用語です。 初期である Stage Ⅰは、 1) 改めて確認すると以下の通りとされています 。 ●高 窒素血症が見られないが、その他に腎臓の異常が ① :3カ月以上持続する腎臓のダメージ(組織学 的検査、血液検査、尿検査、画像診断で証明 されGFRについては不問)。 ② :3カ月以上持続するGFRの低下。 ③ :①②のいずれか、または両方。 見られる場合(腎臓以外の原因が否定できる尿濃縮 異常) ● 触診または画像診断での腎臓の異常 ● 腎由来の蛋白尿 ● 腎生検での異常所見 ● 血漿 Cre の進行性の上昇 仮に Cre が基準範囲内であったとしても、他の検査 と定義されています。ここで注目していただきたいこ で異常が3カ月持続すればやはり CKD という判断を とは、必ずしも血漿 Cre の上昇だけで判断されているわ しなければなりません。 けではないということです。血漿 Cre は猫が削痩してい International Renal Interest Society(以下 IRIS)に ると上昇しにくく、腎機能の悪化を過小評価してしまう ※ NJK は、みなさんで作る雑誌です。症例紹介、御質問、御意見をどしどしお寄せください。 6 Nov 2016
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