化粧品に関する研究 Ⅰ 概要 自分達で化粧品を作り、市販化粧品を比較サンプルとして用いて、その評価を行った。 また、資生堂リサーチセンターを訪問し、見学・実習を行った。 Ⅱ 研究目的・意義・方法 最近、流行している「手作り化粧品」は本当に肌に良いのか、また市販の化粧品との違 いは何か、について疑問に思いこのテーマを設定した。 化粧品について研究を行う上で、評価基準や方法について、東京工科大学応用生物学部 化粧品材料化学研究室の柴田雅史准教授に助言していただいた。 柴田先生の助言と資生堂リサーチセンターでの実習をもとに、3つの化粧品(ファンデ ーション、化粧水、口紅)について実験・考察を行った。 Ⅲ 実験 実験1 ファンデーション (1)実験の方法・手順 市販品2つをサンプルとして比較し、官能評価(使用感と目で見た評価【ファンデーシ ョンの評価基準】参照)とダイレクトスキンアナライザー(肌を拡大して見るカメラ)で ミクロ的に肌を観察した。 か888(8ファンデーションの評価基準 〔ファンデーションの評価基準〕 ファンデーションの評価基準 ①“美肌の再現”はできているか。 ①“美肌の再現”はできているか。 ②肌の部分欠点補正はできているか。 (しみ、しわ、くすみ、など) ②肌の部分欠点補正はできているか。 (しみ、しわ、くすみ、など) ≪実験手順≫ 1.表1の材料を混ぜ合わせ、ファンデーションを作る。 (以下、「手作り」と表記する) 2.2つの市販品ファンデーション(以下、「サンプル1」 「サンプル2」と表記する)、手 作りの3つを各 0.02gずつ電子ばかりで量り取る。 3.ひじ下にアイブロウで、3㎝四方のマーキングをする。 4.3つのファンデーションをひじ下の内側に量りとった分ずつ、均等な厚さになるよう に紙スプーンで塗り、官能評価を行う。 5.ダイレクトスキンアナライザーで、分析する。 (汗による化粧崩れを防ぐために、室内温度に留意して実験を行った) 【↑マーキングのようす】 【↑マーキング後】 【←ファンデーション塗布後 (左から、手作り、サンプル1、サンプル2)】 図1 表1 ファンデーションの塗布 「手作り化粧品キット」中の主な成分とその効用 カオリン(小さじ4) 白色の粉で、肌なじみをよくする。 酸化チタン(小さじ1/2) 白色の微細な粉末で紫外線を遮断する。 マカダミアナッツオイル(小さじ3) 酸化されにくくし、粉末を固める。 精製水(小さじ3) 肌に対して、のびをよくする。 1,3-ブチレングリコール(小さじ 1/16) 肌への刺激が少なく、保湿効果が高い。 イエローオキサイド(小さじ 3/8) 染料として使用。 オレンジオキサイド(小さじ 1/32) 染料として使用。 ブラックオキサイド(小さじ 1/24) 染料として使用。 <参考;株式会社 pinoa より引用> (2)実験データの分析 ①官能評価 ・ 塗布したときに、サンプル1、2はともに粉のすべりが滑らかで、自然な広がり方が見 られたが、手作りは粉末の粒子がそのまま肌にあたるような、ザラザラする感じがした。 ・ 肌の部分欠点補正にはそれほど差はみられなかったが、手作りはサンプル1、2に比べ、 自然な“美肌の再現”ができておらず、人工的に塗り固めている印象を受けた。 ②ダイレクトスキンアナライザーでの分析(図2) ・ 手作りは粉の広がり方がまだらである。 ・ サンプル1,2は肌のキメに均等に入り込んでいるのに 比べ、手作りは肌の表面に乗っているだけにみえる。 ・ 手作りは粉末同士が均等によく混ざりきっていない。 【何も塗らない素肌】 【手作り】 図2 【サンプル1】 【サンプル 2】 ダイレクトスキンアナライザーによる肌の拡大画像 (3)実験結果の考察 ファンデーションを作る時もよく混ぜたつもりだったが、やはり人間の技量では限界が あり、また、サンプルの方が元々の粉末の粒子が細かい、といった印象を受けた。 全体的に見ても、比較サンプルとして用いた市販品の方がクオリティーが高いのは明ら かであった。手作り化粧品はそれに含まれている材料が確認できて安心できるといったこ と以外は、市販品に勝る点はほとんどないと思われる。 実験2 化粧水 (1)実験の方法・手順 ≪使用したサンプル≫ 自分で作った化粧水 (精製水100ml、エタノール2.5ml、グリセリン3ml) 資生堂で作った化粧水 (成分としてヒアルロン酸を含む) ≪方法≫ 肘下の内側に各化粧水をつけて時間を置き、肌の水分量をモイスチャーチェッカーで調 べた。 (汗などの影響が出ないように、室内気温に留意して行った。) (2)実験結果・実験データ 表2 各化粧水の経過時間と水分量 経過時間 化粧水なし 自分で作った化粧水 資生堂で作った化粧水 30分後 39.2% 43.2% 45.8% 1時間後 34.3% 37.7% 44.9% 2時間後 33.5% 36.5% 41.9% (3)実験データの分析 ・時間が経つにつれて肌は乾燥していったが各時間における肌の水分量は常に 〔化粧水なし<自分で作った化粧水<資生堂で作った化粧水〕 という結果になった。 (4)実験結果の考察 実験結果は思った通りだったが、自分で作った化粧水が思ったよりも保水力があった。 ヒアルロン酸は現在最も保水力がある物質と言われているだけあって、それを含んだ資生 堂で作った化粧水の保水力が1番大きかった。 また化粧品の官能評価において重要視される使用感は、自分で作った化粧水では少し水 っぽく、つけた時に浸み込んでいく感じがあまりなかった。もう少しグリセリンの量を調 節してとろみを出せば市販の化粧水に近づくだろう。 一方、資生堂で作った化粧水はつけた瞬間肌に浸み込んでいくのが感じられた。資生堂で 作った化粧水は実際に売られているとのことだったので、やはり市販のものにはかなわな いと思った。 図3 実験で使用したモイスチャーチェッカー (参考) 表3 モイスチャーチェッカー肌別水分表(測定器販売のサトテックより) 測定部位 ドライ肌 ノーマル肌 額やや下 37%以下 36~54% 52%以上 目尻 40%以下 40~54% 52%以上 前腕内部 37%以下 36~45% 43%以上 実験3 ウェット肌 口紅(光沢性) (1)実験の方法・手順 化粧品には基礎化粧品とメーキャップ化粧品があるが、口紅はメーキャップ化粧品に分 類される。本実験では口紅を自分たちで作り、市販されている口紅の評価方法を基に比較 評価を試みた。 ≪口紅の作成≫(株式会社 pinoa より引用) 材料 ・キャンデリラロウ(1g) ・ミツロウ(1.3g) ・ホホバオイル(10g) ・スクワランオイル(2.5g) ・マイカ M-300(0.5g) ・カラーマイカ・オレンジ(0.05g) 1.ベース基材を 2.ワックスが溶 3.リップチュー 4.1~2 時間そのま 耐熱容器( ビー けたら湯煎から ブ・コンパクトケ ま動かさないよう カーなど)に入れ おろし、色材を加 ースなどの容器 にして、固まったら て、湯煎にかけ えて軽く混ぜる。 にすばやく流し 出来上がり。 込む。 る。 図4 口紅の作成手順 ≪方法≫ モデル系での保湿性能評価を行った。 実験用の水の入った小瓶を用意し、口紅を塗ったガーゼをかぶせ、蒸散量の比較を行っ た。(右:手作り化粧品 実験前 図5 蒸散量の比較実験 左:市販の化粧品) 実験後 (2)実験データの解析・分析 実験結果から下記の表 4 に基づいて評価を行った 表 4 一般化粧品の評価項目 効果 評価方法 仕上がり 実使用テスト(目視評価) 顔料分散性 顕微鏡観察 使用感 被験者による意見 化粧持続性 実使用テスト 自作の化粧品の評価結果は以下の通りである。 ・仕上がり…市販の化粧品とほぼ変わらなかった。 ・顔料分散性…実験機材となる顕微鏡がないため評価なし。 ・使用感…市販の口紅よりも、油っぽい。 ・化粧持続性…蒸散量の比較実験から保湿性については市販のほうが優れているといえる。 (3)実験結果の考察 手作り化粧品と市販の化粧品との比較の結果、顕著に現れた差異は保湿性であった。ガ ーゼに口紅を塗布した時点で、手作り化粧品の方は表面張力が弱いためか繊維の目に沿っ た隙間が多く見られた。このことからも手作り化粧品よりも市販の口紅は持ちが良く、保 湿性が高いということができた。また、企業で行われている評価を実際に行うことで、化 粧品は実験結果から数値をデータ化して、化学的根拠に基づいて改良を進めていくだけで なく、使用者の使い心地も評価項目に入れるなど、メンタル的な部分も重視していること もわかった。 Ⅳ 感想 興味本位で始めた研究だったが、講義を受けたり見学に行くことで化粧品についての知 識を深めることができ、研究も無事に終えることができて良かった。SSH 活動として高校生 にも関わらず本格的な研究をすることができ非常に有意義だった。この経験を今後に生か していきたいと思った。 Ⅴ 謝辞 今回私たちは先輩のように資生堂に行きたいという気持ちだけでこの研究を始めました。 そのため、自分達でそれぞれ化粧品を作ったもののその先へ進めませんでした。そのよう な時に柴田先生を知って化粧品の官能評価の仕方についてアドバイスを受けると共に貴重 な講義も受けることができました。その結果、いくつかの実験をすることができました。 また、資生堂リサーチセンターでは企業における化粧品の研究・開発について詳しく知 るとともに最先端の化粧品研究も垣間見る事ができました。見学後に行われたディスカッ ションでは私達 4 人のためにたくさんの研究者の方が協力してくださり質問にも快く答え てくださいました。研究員の方の中に高女の卒業生がいたのも私達の励みになりました。 今回私達のために快くご協力してくださった柴田先生、資生堂の皆様にお礼申し上げま す。
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