議事録〜「この会合での決定は際どい判断だった」(2016/10

*グローバル投資環境
No.1472 *
ご参考資料
髙木証券投資情報部
米国FOMC(9/20~21)議事録~「この会合での決定は際どい判断だった」
2016年10月13日作成
米国の中央銀行にあたるFRBは12日、9月20日から21日にかけて開いたFOMCの議事録を公表
した。当該FOMCでFRBは、政策金利であるFFレートの誘導目標を、6会合続けて0.25~0.50%で
据え置くことを決定しているが、投票権を有する10名のメンバーのうちカンザスシティー連銀
のジョージ総裁、クリーブランド連銀のメスター総裁、ボストン連銀のローゼングレン総裁の3
名が25ベーシスの利上げを主張して反対票を投じていた。
ところで、FOMC終了直後に公表され
た声明文におけるポイントの一つは、7
月26~27日開催の前回FOMCの声明文で、
「経済見通しに対する短期的なリスク
は減少した」ことを明記したのに続き、
今回の声明文では、 「経済見通しに対
する短期的なリスクは概ねバランスし
た」と述べたことであり、「リスクは
バランスした」という認識が示された
のは、ゼロ金利政策の解除に踏み切っ
た昨年12月のFOMC以来6会合ぶりだが、
この点について議事録ではさらに、
「彼らのうちのかなり多くが、Brexit
に起因するリスクは後退したことを表
明した」ことに言及する一方、「少数
は、全体的なリスクはダウンサイドに
傾いていると引き続き判断している」
ことも指摘している。
《声明文のポイント》
7月の会合以降に入手した情報は、経済活
動は今年の上期にみられた控えめなペース
から上向いたことを示している
労働市場は引き続き強まった。ここ2~3ヶ月
労働市場
の失業率はほとんど変わらなかったが、雇用
の伸びは平均すると堅調だった。
家計消費
家計消費は力強く成長した
設備投資
軟調だった
以前のエネルギー価格の下落と非エネル
ギーの輸入価格の値下がりを一部反映して
我々の長期目標を引き続き下回って推移し
物価
た。市場ベースのインフレ指標は引き続き低
く、ほとんどの調査に基づく長期の期待インフ
レは結局のところここ数ヶ月余り変わってい
ない。
金融政策スタンスの緩やかな調整により、経
済活動は緩やかなペースで拡大するととも
に、労働市場関連の指標はいくらか強まるこ
とを見込んでいる。早い時期のエネルギー価
格の下落を一部反映してインフレは短期的
には低位にとどまるとみられるが、過去のエ
景気と物価の先行き ネルギー価格及び輸入価格下落の一時的
効果の消失と労働市場のさらなる改善によ
り、インフレは中期的に2%に向けて上昇す
るだろう。経済見通しに対する短期的なリス
クは概ねバランスした。我々は引き続きイン
フレの動向とグローバル経済と金融の変化を
注視する。
景気の現状全般
また、景気の現状について声明文で
は、「7月の会合以降に入手した情報は、 決定した政策等
経済活動は今年の上期にみられた控え
めなペースから上向いたことを示して
いる」と述べており、家計消費に関し
ては7月FOMCの声明文に続いて「力強く
成長した」という極めてポジティブな
表現を使っていたが、この点について
フォワードガイダンス
議事録では「6月以降の小売売上の軟化
を反映して、消費支出の伸びは、第2四
半期の速いペースから、第3四半期には
いくぶん緩やかになったように見受け
られる」という記述もみられる一方、
これらを背景に、FF金利の目標レンジを0.25
~0.50%で維持することを決定した。FF金利
引き上げの論拠は強まったと判断している
が、当面は目標に向けて進展を続けているさ
らなる証拠を待つことにした
FF金利のさらなる調整のタイミングと規模の
決定においては、雇用の最大化と2%のイン
フレ目標に関連する経済情勢を、現実と予想
の双方について再評価する。評価に際して
は、労働環境に関する指標やインフレ圧力と
インフレ期待、金融情勢と国際情勢の変化を
含む幅広い情報に注意を払う。現在のインフ
レが2%の目標を満たしていない観点から、
我々は、現実と期待のインフレ目標に向けた
進展を注意深くモニターする。経済情勢が極
めて緩やかなFF金利の引き上げに限って正
当化される形で改善され、FF金利はしばらく
の間、長期的に有効とされる水準を下回って
推移するだろう。しかしながら、FF金利の実
際の道筋は今後のデータによる経済見通し
に依存する。
「得られるデータは、消費支出全般の伸びがなお堅調であることを示しており、多くの参加
者は、家計支出がこの先も経済成長の主要な貢献者になると予想している」と述べている。
また、声明文におけるもう一つのポイントは、政策決定に関して「FF金利の目標レンジ
を0.25~0.50%で据え置くことを決定した」という結論の後に、「FF金利引き上げの論拠
は強まったと判断している」ことを明記した点だが、結局は「当面は目標に向けて進展を
続けているというさらなる証拠を待つことにした」(さらなる証拠が経済指標を指すこと
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最終頁の「ご注意いただきたいこと」を必ずお読み下さい。
髙木証券投資情報部
はいうまでもないだろう)ことは周知の通りであり、この
点について議事録は「最近の証拠は、労働市場になお多少
の弛みが残っていることを示唆しているとの見方を多くの
参加者が示した」と述べる一方、「目標に向けて進展を続
けているというさらなる証拠を待つことを支持した参加者
のうちの複数が、この会合での決定は際どい判断だった
(the decision at this meeting is a close call)こと
を表明した」ほか、「何人かの参加者は、労働市場が引き
続き改善し、経済活動が強まるのであれば、FF金利の誘導
レンジを比較的早い段階で引き上げることが適切になると
考えている」ことを指摘している。なお、声明文公表後に
開かれた会見でFRBのイエレン議長は、「労働市場の改善が
続き、新たなリスクの芽が出ないのであれば、多くのメン
バーも私も今年1回の利上げが適切だと考えている」と述べ
ており(「ドットチャート」も年内1回の利上げを示唆して
いる)、利上げ再開の条件の一つに労働市場の堅調持続を
挙げているが、去る7日に発表された9月の雇用統計では、
非農業部門の雇用者数の伸びは15.6万人となり8月の16.7万
人を下回ったものの、その3ヶ月平均は19.2万人増で堅調を
持続しているほか、労働参加率の上昇や前月を上回る平均
時給の伸びを考えれば、年内の利上げに向けた最初の試金
石はクリアしたと考えている。
また、前述の通り、FRBが利上げ見送りの理由として挙げ
ているのは経済指標見極めの必要性だが、髙木証券では、
利上げに対するマーケットの織り込み度合いがFOMCの時点
では低過ぎたため、その状況で利上げをすれば金融市場が
混乱する懸念があったことも、FRBに利上げを思いとどまら
せる方向に働いたのではないかと考えている。そうした観
点で最近のマーケットの動きをみると、FOMC直後には米国
債券買い、米ドル売りで反応したが、多少のタイムラグを
おいて米国債の利回りが上昇に転じるとともに、米ドルも
堅調さを増す展開となって、円に対しては年初来の下落ト
レンドに終止符を打ちつつあるようにもみえる。米国の早
期の利上げに対する投資家の意識の高まりを反映している
と思われるこうした市場の動きを踏まえれば、理屈の上で
は11月1~2日に開かれる次回のFOMCでの利上げも可能だと
みられるが、イエレン議長の会見がセットされない次回の
FOMCでは、昨年12月以来となる利上げが実施された場合に、
間違いなく市場関係者にとっての次の最大の関心事になる
であろう今後の利上げペースに対して何らかのガイダンス
を示すことが難しいため、議長の会見が開かれる12月13~
14日のFOMCで利上げが実施されると考えるのが普通だろう。
ご参考資料
FOMC参加者の金利見通し(9/21発表)
2017年末
2016年末 「中央値」
1.125%
「中央値」
0.625%
(文責:勇崎
聡)
(出所:FRB、Bloombergのデータより髙木証券作成)
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