かいけい童話6 ☆アリの国の貿易商 あるところに、アリの国とお隣のキリギリスの国がありました。 アリの国とキリギリスの国は、むかしから、とても仲がよく、友好関係が何百年にもわ たって続いてきました。 アリの国は、国民の働きアリが毎日コツコツと仕事をして、着実に食料を増やしていき ます。そうして手に入れたたくさんの食料を、キリギリスの国に輸出していました。 いっぽう、キリギリスの国は、美しい土地に、多くの芸術家・音楽家が住んでいます。 日頃の労働に疲れたアリたちの観光地として、栄えてきたのでした。 アリの国は食料を多く生産してキリギリスの国へ輸出し、キリギリスの国はアリ国の国 民に観光サービスを提供することで、ずうっと、上手くやってきました。 なんか、経済学で有名なリカードの「比較優位説」を思い出しますね! ちなみに、アリの国は、人間の日本と同じ「円」という単位の通貨を使い、キリギリス の国は、人間のアメリカと同じ「ドル」という単位の通貨を使っていました。でも、為替 レート(お互いの通貨の交換比率)の決め方は、人間社会のそれとは、独立していました。 なお、これまで、アリの国の通貨「円」とキリギリスの国の通貨「ドル」の交換比率(為 替レート)は、100年前から固定されており、次のとおりでした。 円 : ↓ 1 ドル かいけい童話6 100円:1ドル そして、アリの国の食料1食分が100円でした。 また、キリギリスの国では、1回のコンサート料金が1ドルでした。 つまり、アリの国の食料1食分とキリギリスの国の1回のコンサートの効用が等しいと、 従来は考えられていたのです。 たとえば、アリの国の貿易商は、食料100食分をキリギリスの国へ輸出すると、10 0ドルのお金(外貨)を受け取って、アリの国の銀行でアリ国の通貨10000円と交換 していたのでした。 こうして、100年間、両国は実にスムーズに国際取引を行っていました。 ところが! もともとキリギリスの国は、芸術家気質で気まぐれな人が多かったことと、しばらく好 景気が続いた事が重なって、将来を担う若者の間から「努力して芸を磨こう!」という向 上心が薄れていたのでした。つまり、国全体の強みである「芸術性」がだんだんと弱まっ ていったのです。 これにより、年々アリ国からの観光客が減少し、ついにはピーク時の半数にまで下がっ てしまいました。 「最近、キリギリス国では、どうもコンサートがつまらなくなったよねえ…」 「ほんと。私の若い頃には、スターがたくさんいたのに、今は盛り上がりに欠けるわ」 「今年の夏は、わざわざ高い金を払ってキリギリス国に行くのはやめて、家でのんびり 2 かいけい童話6 テレビでも見て休日を過ごすかなあ…」 こんな会話が、アリ国の家庭のあちこちから聞かれるようになりました。 こうなると、みんな、キリギリス国でモノを買う必要がないので、ドルを持つ必要がな くなりました。また、経済的にみると、キリギリス国より堅実で強いアリ国の通貨である 円の方に信頼を寄せるようになります。 つまり、みんな、キリギリス国のドルを手放して、アリ国の円を求めるようになりまし た。 そうなると、需要と供給の関係から、100円の通貨を手に入れるためには、従来の1 ドルでは足りず、1.1ドル⇒1.2ドルと、どんどん円が値上がりしていったのでした。 そして、たった1ヶ月の間に、100円を手に入れるために必要なドルは2ドルにまで なったのです。 現在の為替相場⇒ 100円=2ドル 50円=1ドル だから、 となりました。 1ヶ月間で、1ドル100円が、1ドル50円と、倍の交換比率となったのです。 ここで困ったのは、アリ国の貿易商です。 「いやー、まいったよ!1ヶ月前に食料100袋を100ドルで輸出した時は、1ドル 100円だったから、アリ国通貨で10000円の売上と認識していたのに、うっか りドルを円に交換しないで放って置いたら、1ドル50円の超円高になってしまっ 3 かいけい童話6 た! いま、100ドルを銀行に持っていったら、5000円しか手に入らんからなあ。 為替相場の変動で、5000円もの損をこうむってしまったぞ!ほんっと、海外貿易 は、日頃から注意して迅速に対応しないと、恐ろしいわい!」 外国通貨は、最新の為替相場で評価して、相場変動の実態を把握しなければなりませ ん。 そのときに、変動にともなう差額がでてしまうのです。 これを、人間社会では、「為替差損益」といって、損益計算書の「営業外損益区分」とい う場所に表示するらしいですねえ。 それでは、今日のお話はこのへんでおしまいとしましょう。 みなさん、ごきげんよう(^o^)/ 以 4 上
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