心房細動の再発予防にアミオダロンの内服と

.
.
(
.
): ∼ 一般講演 2
2
心房細動の再発予防にアミオダロンの内服と
ニフェカラントの静注が有効であった1例
古川 善郎
清水 宏紀
川口 美里
檀 碧華
峰 隆直
中尾 伸二
廣本 憲司
岩崎 忠昭*
音を聴取した.また,下腿浮腫を認めた.
症例呈示
入院時の胸部レントゲンで全肺野のうっ血像を認め
症 例:69歳,女性.
(図1)
,CTRは65%であった.血液ガスは酸素マスク
主 訴:呼吸困難.
1
0 L投与下にて pHが72
. 66 ,PaCO2が478
. mmHg,
家族歴・既往歴:特記事項なし.
PaO2954
. mmHgであった.心エコー検査では左室壁
現病歴:拡張型心筋症にて平成1
1年より当科外来に
運動は diffuseに低下しており,また左室腔の著明な拡
てフォロー中であり,うっ血性心不全にて入退院を繰
大を認め,拡張期径は8
1 mmで EFは34%,
%FSは11%
り返した.平成12年4月1
5日頃より全身倦怠感を自覚
であった.また左房径も5
0 mmと拡大していた.
し,その頃より尿量の減少も自覚した.
4月2
0日の午
入院時の血液検査では軽度の貧血と低蛋白血症,
前中より労作時の呼吸困難が出現し,安静にしていた
BUNの上昇を認めるほか,異常所見は認めなかった
が,徐々に症状が強くなり,救急車にて来院する.
(表1)
.
来院時理学所見:心音は奔馬調律であり,心尖部に
図2は入院時の心電図であるが,調律は正常洞調律
て収縮期雑音を聴取した.呼吸音は全肺野にて湿性ラ
でⅠ度の房室ブロックと心室性の伝導障害を認めた.
●入院時胸部X線写真
●血液Áas
data
O2 mask 10 L/min
pH
7.266
PaCO2
47.8
PaO2
95.4
HCO3−
21.7
B.E.
−5.2
SaO2
96.3
mmHÁ
mmHÁ
mmol/L
mmol/L
%
●心エコー所見
diffuse hypokinesis
LVDd/Ds 81/70 mm
EF 34%, %FS 11%
LA dilatation(+), LAD 50 mm
MR ; ¡度 , TR ; ¿度
LV
A P
CTR 65%
図1
*
Y. Furukawa, H. Shimizu, M. Kawaguchi, K. Hiromoto, B.Tan, T. Mine, S. Nakao, T. Iwasaki:兵庫医科大学第一内科
―
(
1176)―
第5回アミオダロン研究会講演集
表1 血液検査
末梢血 WBC 56
, 00
BUN
22 mg/dL
RBC 3
50×104 /μ L
/μ L
UA
44
. mg/dL
Hb
1
14
.
g/dL
CRE
05
. 6 mg/dL
Ht
3
58
.
%
Na
139 mmol/L
2
23
. ×10 /μ L
K
42
. mmol/L
62
.
g/dL
Cl
105 mmol/L
Alb 29
.
T―bil 08
.
g/dL
mg/dL
Ca
CRP
89
. mg/dL
03
. mg/dL
AST 1
6
U/L
T―CHO 196 mg/dL
ALT 1
3
U/L
TG
LDH 1
65
ALP 2
11
U/L
U/L
4
Plt
生化学 TP
ø
Ⅴ1
¿
Ⅴ2
¡
Ⅴ3
a R
Ⅴ
Ⅴ4
a L
Ⅴ
Ⅴ5
Ⅴ
Ⅴ6
116 mg/dL
a F
図2 入院時心電図
● 5月14日胸部X線写真
●血液Áas
data
O2 mask 8 L/min
pH
7.175
PaCO2
54.8
PaO2
70.0
HCO3−
17.4
B.E.
−8.6
SaO2
89.2
mmHÁ
mmHÁ
mmol/L
mmol/L
%
図4
ø
Ⅴ1
¿
Ⅴ2
¡
Ⅴ3
a R
Ⅴ
Ⅴ4
a L
Ⅴ
Ⅴ5
Ⅴ
Ⅴ6
以上のことから,うっ血性心不全と診断し,利尿薬お
よびカテコラミンなどの薬物療法を施行した.
これらの薬物療法で心不全は軽快していたが,5月
11日
(第21病日)
,心房細動が出現した.この患者は非
常に低心機能であり,また血圧も80mmHg台から90
mmHg台であったため抗不整脈薬は使用せず,そのま
ま経過観察していたが,その後徐々に心不全の増悪を
認めた
(図3)
.
胸部 X線写真にうっ血像を認め,血液ガスでは酸素
マスク8Lで PaO2が700
. mmHgと低酸素血症を認めた
a F
図3 5月11日心電図(第21病日)
(図4)
.
利尿薬などの薬物療法でも軽快しないため,
5月15
日,
20
0Jにて直流除細動を施行した
(図5)
.
10
0Jで洞調
律とならず2
00Jでの通電にて洞調律となったが,約5
―
(
1177)―
. 5/15 DC 200J
DC 200J
5/16
Af
amiodarone 400 mÁ/day
nifekalant 0.3 mÁ/kÁ/h cont.iv
Af 再発
Af
nifekalant 0.3 mÁ/kÁ iv
sinus rhythm
ø
Ⅴ1
ø
Ⅴ1
¿
Ⅴ2
¿
Ⅴ2
¡
Ⅴ3
¡
a R
Ⅴ
Ⅴ4
Ⅴ
Ⅴ5
Ⅴ
Ⅴ6
a L
a F
DC 200J
Ⅴ3
Ⅴ
Ⅴ4
Ⅴ
Ⅴ5
a R
a L
Ⅴ
a F
Ⅴ6
図5 臨床経過
分後,心房細動が再発した.このため,同日の夕方か
ま
らアミオダロン 4
00 mg/dayの内服を開始し,翌1
6日
と
め
にニフェカラント 03
. mg/kgで静注した後,ニフェカ
心房細動の除細動後の再発防止にニフェカラントの
ラント03
. mg/kg/hrにて持続静注を開始し,その直後
静注とアミオダロンの内服が有効であり,その維持に
に直流除細動を施行した.このときは2
0
0Jで1回の通
アミオダロンの内服が有効であった.
電にて洞調律となった.ニフェカラントの持続静注は
文
約4時間で中止し,その後も洞調律を維持した.心不
全は軽快し,現在まで洞調律を維持している.
考
察
心房の有効不応期は,除細動後も短縮していること
が報告されている1).このため,心房細動の再発予防と
して心房の有効不応期を延長させるⅢ群薬の投与が有
効であると考えられ2),洞調律の維持にアミオダロン
が有効であるとの報告は多い.わが国ではⅢ群薬であ
るアミオダロンの注射薬はなく,本症例のように洞調
律の維持が心不全の予防に不可欠な場合,わが国で唯
一使用できるニフェカラントの静注とアミオダロンの
内服の併用が有効であると考えられた.
献
1)Manios, E., Kanoupakis, E., Chlouverakis, G. et al.:
Changes in atrial electrical properties following cardioversion of chronic atrial fibrillation:relation with
3,2
00
0
recurrence. Cardiovasc. Res. 47
(2)
:244―25
2)Roy, D., Talajac, M., Dorian, P. et al.:Amiodarone to
prevent recurrence of atrial fibrillation. N. Engl. J.
0,20
00
Med. 3
4
2:913―92
3)Nishino, M., Hoshida, S., Tanouchi, J. et al.:Time to recover from atrial hormonal, mechanical, and electrical
cardioversion of persistent atrial fibrillation. Am. J.
54,2
00
0
cardiol. 8
5:14
51―14
4)Tieleman, R., Gelder, I., Crijns, H. et al.:Early recurrences of atrial fibrillation after electrical cardioversion:A result of fibrillation―induced electrical remodeling of the atrial ? J. Am. Coll. Cardiol. 31:1
6
7―
17
3,19
98
―
(
1178)―
第5回アミオダロン研究会講演集
質疑応答
(日本医科大学付属多摩永山病院内科助教授)
座長/新 博次
(兵庫医科大学第一内科)
演者/古川 善郎
新(座長) どうもありがとうございました.除細動
慢性の Afに対していわれていることで,もしかすると
後しばらくの間,ニフェカラントの持続静注を行った
この方は Afになってから5日ぐらいだったので,不応
ということですね.
期の短縮がまだ少なくてそれだけで戻ったのかなとも
古川(演者) そうです.
考えています.
新 そうしますと,いわゆる急性期の cardioversion
長谷川
(はせ川内科循環器科医院)
治療経過が中途
後の post medicationとしてニフェカラントの静注が
半端な感じがします.といいますのは,心不全で心機
よかった.それ以後は,アミオダロン単剤でも維持で
能が悪い,拡張型心筋症が基礎にあり心房細動を起こ
きたというお話ですね.
したわけですが,抗不整脈薬で弱心作用が出ると具合
古川 そうです.
が悪いのでというお考えですね.アミオダロンはむし
新 そうすると,急性期だけ IKr ブロッカーの作用が
ろ心機能改善に作用しますので,ただちにアミオダロ
必要だったというお考えなのでしょうか.再発のリス
ンを投与すべき,あるいは DCをただちに行うといっ
クというのは,もちろん除細動後間もない期間は高い
た経過が最良だと思います.随分遅れ遅れになって,
と考えられるわけですが,以後も再発する可能性はあ
いろいろな処置が行われているという感じがしまし
るわけです.ところが長期的には,アミオダロンの投
た.
与が必要であったというところに何かお考えがありま
いまの経過からいうと,アミオダロンを早期に入れ
すでしょうか.
ておけば,ニフェカラントを入れなくても DCなしで
古川 心房の不応期というのは,大体2
4時間で回復
34
, )
済んだのではないかという印象さえ受けます.
,再発には1週間以内が
笠貫
(東京女子医科大)
ニフェカラントの使い方に
多いという報告がありますので,いまから考えると少
気をつけていただきたいですね.ニフェカラントは,
なくても24時間あるいは再発の多い1週間ぐらいはい
QT時間を急激に延ばして TdPに移行します.そうい
くべきだったのかもしれませんが,主治医の研修医の
う意味で,アミオダロンの服用中にニフェカラントを
先生が辞められて,また再開しようかとも考えたので
点滴して DCショックをかけるという使い方は原則的
すが,その時点で洞調律でしたのでそのまま様子をみ
に避ける方がよいと思います.先ほどの質問の先生の
ました.
ような治療法がよかったと思います.
4時間しかいかなかったので,それで洞調律が維持
古川 わかりました.
できたというのは偶然だったのかもしれませんが,そ
新 よろしいでしょうか.それでは,どうもありが
のように24時間で有効不応期が戻ってくるというのは
とうございました.
するという報告があったり
―
(
1179)―