記 憶 か ら 未 来 を 紡 ぐ

日本ロシア文学会 ЯАР
第66回全国大会
プレシンポジウム
ソ連崩壊後25年、
ペレストロイカから30年。
社会はどう変化し、
文学にはなにが求められるのか。
ソローキン、
アレクシエヴィチ、
トルスタヤ、
ウリツカヤ
―新しい「現代」や
「リアル」に向き合う作家たちのいまに、
ロシア文学の未来を探る。
岩本和久(稚内北星学園大学)
「30年の間に失われたもの」
越野剛(北海道大学)
「アレクシエヴィチ─ソ連のない世界でソ連を思い出す」
高柳聡子(東京外国語大学:日本学術振興会特別研究員)
「ジャンルを開拓する女性作家たち」
松下隆志(京都大学:日本学術振興会特別研究員)
「
『テルリア』
─ 時空間のトータル・トリップ」
司会
上田洋子(ゲンロン)
現
代
ロ
シ
ア
文
学
の
30
年
記
憶
か
ら
Улицкая
П а м я т ь с о з д а е т б уд у щ е е :
3 0 л е т с о в р е м е н н о й р у с с ко й л и т е р а т у р ы
Алексиевич
報告
未
来
を
紡
ぐ
Толстая
Сорокин
2016
10.21[金]
18:30-20:30
北海道大学
人文・社会科学総合教育研究棟(W棟)6番教室
予約不要・聴講無料
主催:日本ロシア文学会 2016年大会実行委員会
お問い合わせ:北海道大学文学研究科・望月研究室
TEL/FAX 011-706-3050 [email protected]
日本ロシア文学会 ЯАР
第66回全国大会
プレシンポジウム
ソ連邦が崩壊しました。崩壊のひとつのきっかけと
1991年、
イリ原発事故でした。核の事故での情報隠
に、ソ連政府への
国民の信頼は完全に失われます。そして、前年に就任したばか
りのゴルバチョフ書記長のもとで、情報公開とペレストロイカ(建
て直し)が進みました。
1986 年、文学は当然のごとく自由を求めていました。共同の利
益が標榜されるソ連では、
その影で個人の自由が抑圧されてい
たからです。ソ連崩壊後の自由の謳歌の時代を経て、30 年後
のいまはどうでしょうか。ノーベル賞作家のアレクシエヴィチは、
(2015)
『セカンドハンドの時代』
で、自由であることの難しさを述
べ、
ドストエフスキーの大審問官の問題に回帰しています。
変化し続ける「現代」や「リアル」に、作家たちはどう向き合って
いるのでしょうか。
今回のシンポジウムでは、
ソローキン、
アレクシエヴィチ、
トルスタヤ、
ウリ
ツカヤら、
ソ連からロシアへの移行期を体験
しつつも、強 度ある作品を作り続ける作家
たちのいまを考えます。そして、
ソ連崩壊後
25 年、ペレストロイカから30 年の文学を総括
しつつ、これからのロシア文学を議論してみ
たいと思います。
30年の間に失われたもの
岩本和久│IWAMOTO Kazuhisa
ペレストロイカから今日までの 30 年間の現代ロシア文学
の動向を振り返りながら、一定の自由が獲得された一方
で、何が失われたのかを考察する。
ペレストロイカ期の文学の特徴として挙げられるのは、
グ
ラスノスチ政策による変化、
すなわち出版できなかった
題や手法の解禁であろう。
ザミャーチン、
プラトーノフ、パス
テルナーク、
ソルジェニーツィンらの作品がソ連で活字に
なり、
またアイトマートフが麻薬について、
ルイバコフがス
ターリンについて取り上げ、ヴィクトル・エロフェーエフらの
ポストモダン的な手法が脚光を浴びた。
それに続く、90 年代以降のロシア文学はいくつかの波に揺られながら、現
在に至っている。90 年代半ばにはソローキンやペレーヴィン、00 年代初頭
にはブイコフやスラヴニコヴァ、00 年代半ばにはグツコ、
プリレーピン、
セン
チンといった若い世代のリアリズム作家が登場した。
2010 年代はこのような「新しい時代の波」とは無縁のように見える。2011
年の反プーチンデモ、2014 年のウクライナ紛争とロシア社会が大きく動く
中で、それぞれの作家は自分の立場を明確化することを強いられている。
ロシア語作家の政治性については国際的にも注目され、
アレクシエヴィチ
がノーベル文学賞を受賞するに至った。
ソ連解体後、社会主義体制下の文学システムを押しのける形で、商業主義
化やポストモダニズム的な文学の「格下げ」が進み、作家はかつてのような
オーラを失った。文学賞選考の場での、商業主義の圧力も深刻だ。
国家的遺産として文学を評価する動きは権力の側からもなされているが、
現代ロシア文学に対する国際的な注目度はソ連期よりも低い。アレクシエ
ヴィチの例のように、ロシア語作家の政治的な役割に対する国際的な関
心はいまだに高いが、
それはプーチンの陰画でしかないのだろうか? 「 20
世紀後半はブレジネフの時代ではなくソルジェニーツィンの時代と呼ばれ
る」とかつては言われたものだが、果たしてそのような作家は今のロシア
に見出せるのだろうか?
現
代
ロ
シ
ア
文
学
の
30
年
3 0 л е т с о в р е м е н н о й рус с ко й л и т е р а т у р ы
古いテクストの解禁、
ソ連体制下で使用できなかった主
未
来
を
紡
ぐ
Па м я т ь с о з д ае т буд у щ е е:
なったのは、
ちょうどその 5 年前、
1986 年に起こったチェルノブ
アレクシエヴィチ
─ソ連のない世界でソ連を思い出す
越野剛│KOSHINO Go
2015 年のノーベル文学賞受賞者スヴェトラーナ・アレクシエヴィチ
は、戦争や原発事故といった大きな出来事の記憶を「小さな人た
ちの声」を集めることで独特なかたちで表現した。主として『チェル
ノブイリの祈り』
『セカンドハンドの時代』の 2 作品を中心に、
ソ連解
体後のロシアやベラルーシにおいてソ連の記憶がどのような意味
を持っているのかを考える。
記
憶
か
ら
ジャンルを開拓する
女性作家たち
高柳聡子│TAKAYANAGI Satoko
女性作家たちは、新たな創作の可能性を模索する
ように、既成のジャンルへの挑戦を行っている。常
にジャンルを変更するペトルシェフスカヤ、
フィクショ
ンから回想へ 移 行したトルスタヤ、独自のジャンル
設定を行うパレイ、聖と俗をひとつのジャンルに調
和させるウリツカヤ、4人の代表的な作家のジャンル
意識に焦点を当て、
「女性文学」の現在を考える。
『テルリア』
─ 時空間のトータル・トリップ
松下隆志│MATSUSHITA Takashi
ロシアのポストモダン 作家ウラジーミル・ソローキンの最新長 編
( 2013 )は、
イスラム原理主義との戦争などによって細分
『テルリア』
化した 21世紀後半のロシア・ヨーロッパを、
スタイルも登場人物も
まったく異なる50 の章から描き出した、内容・形式ともにきわめて
野心的な作品である。本報告では、作中において顕著な「旅」や
「観光」のモチーフに着目し、
人や物から言語やイデオロギーまで、
ありとあらゆるものの移動と混淆がもたらす世界の構造的変化に
ついて考察する。
13 条門
104
105
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2
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