液体水素輸送コンテナ

新製品・新技術
内槽は高性能断熱材でしっかり断熱されている
(左)。日本初の「液体水素輸送コンテナ」は川崎重工・播磨工場で製作された。
タンクは内槽(容量約15m3)、
外槽の二重構造
燃料電池車に使われる液体水素の輸送・貯蔵用
約600kmの公道走行試験でその高性能を実証
“究極の低公害車”と期待される
燃料電池車
世界的な環境規制の高まりで、世界
の自動車メーカーが燃料電池車の開発
を競い合っている。
燃料電池は、水素と酸素を化学反
応させて発電する。燃料電池車はそ
の燃料電池を車に載せ、発電した電
気でモータを回して走る仕組みだ。燃
料電池は、現在の車のように二酸化炭
素(CO2)や窒素酸化物(NOx)
などを
排出せず、
基本的には水しか排出しない。
そのため、
“究極の低公害車”
といわれ
ている。
一方で、燃料電池車は、燃料となる
水素をどのように供給するかが課題とさ
れている。
これに関連した技術開発とし
て、
2003年度に始まった経済産業省の
国家プロジェクト
「水素安全利用等基
盤技術開発」で、
水素インフラ関連の開
発などに取り組んでいる。
このほど、
川崎重工が独立行政法人
新エネルギー・産業技術総合開発機構
(NEDO)からの委託研究で開発した
「液体水素輸送コンテナ」
もその一環で
ある。
なお、
「液体水素輸送用コンテナ」の
開発は、
わが国で初めてである。
約6m
−253℃で液化し、
体積が約800分の1に
水素は、
水の電気分解や水性ガス
(合
成ガス)
、
コークス炉ガス、
天然ガスの分解、
などによって得られるが、
現在、
現実的に
大量に得られる方法は天然ガスの分解
である。
また、水素の運搬・貯蔵にはいくつか
の方式があるが、
そのひとつが液化する
方法だ。水素は圧力をかけ、
さらに冷却
することなどにより液化する。液化すると
体積が約800分の1に収縮するので大
規模な運搬・貯蔵に
枠組
はより有利である。
タンク
ただし、液化水素は
−253℃という極低
温液なので、
その取
り扱いには極めて高
外槽
い安全性が求めら
れる。
約2.
6m
内槽
防波板
支持構造
(テンションロッド)
液体水素を運ぶコンテナは日本で初めての開発である。
18
公道約600
kmを無事に走り
終え、東京・江東区の燃料
電池自動車用水素ステーショ
ンに到着した、
「液体水素輸
送コンテナ」
を積んだトレーラ。
積層真空断熱材
液体水素輸送コンテナ概要(テンションロッド方式)
川崎重工が開発した「液体水素輸
送コンテナ」は、
国際標準化機構(ISO)
規格の20フィートコンテナ(長さ約6m、
幅約2.
4m、
高さ約2.
6m)
に容積約15m3
のタンクを組み込んだ構造になっている。
タンクは内槽、外槽の二重構造。内
槽の材料は、液体水素の極低温でも
強度や靭性が低下しないステンレス鋼
(SUS304L材)
を使用している。
ちなみに、
普通の炭素鋼では、
−253℃の液体水
素を充填するとすぐに割れてしまうという。
内槽は、支持構造(テンションロッド)
で外槽に固定されている。
「内槽支持は停止・発進時の加速力
に耐え、
しかも、
−253℃の液体水素によ
る内槽材の収縮に対応しなければなり
ません。さらに、内槽支持材を伝う外熱
侵入をできるだけ少なくし、液体水素の
蒸発を少なくすることが重要です。そこで、
支持部材は十分な強度を保持したうえで、
できる限り細くしました。太いほど侵入熱
が多くなりますから。この辺りの設計が
苦心したところです」
(川崎重工 鉄構ビ
ジネスセンター 技術総括部 装置技術
部 装置グループ 木村由史主事)
「開発の条件が20フィートコンテナを
使うというものでしたので、
この限られた
寸法の中で、
できるだけ大量の液体水
素を安全に、
できるだけ少ない蒸発率で
運べるようにするために苦労しました。
内槽と外槽との真空空間もぎりぎりの設
定です」
(川崎重工技術研究所 化学技
術研究部 化学プロセスグループ 神谷
祥二参与)
内槽内には、運搬中に液体が大きく
揺れて波立たないように防波板が4枚
設置されている。防波板は波立ちを防
ぐとともに、運搬中に激しくかき混ぜられ
て液体温度が上がるのを防ぐ役割もある。
液体温度の上昇は、
液体の蒸発につな
がるからである。
べ、
鉄道や船での輸送も可能になる。
また、
2、
4月には、
千葉県君津市と東京・
江東区の液体水素ステーション間の輸
送試験も行なわれ、
いずれも好結果を示
した。
本コンテナは、
輸送装置としての役割
のほか、他の機器類をコンテナフレーム
内に配置することで、
移動式水素ステー
ションあるいは発電装置へと発展するこ
とが予想されるという。
「現在、
NEDOからの委託研究で本
コンテナのより一層の高度化を目指して、
内槽タンクの素材にステンレスではなく
複合材を用いてより軽量化を図ることや、
液体水素のより効率的な排出方法など
の研究、開発に取り組んでいます」
(神
谷参与)
より一層の高度化を目指して
軽量化などを研究
この「液体水素輸送コンテナ」
は1月末、
兵庫県尼崎市の水素液化基地から東京・
江東区の燃料電池自動車用水素ステー
ションまでの約600kmの公道走行試験
を行ない、運搬中の液体の揺れや蒸発
量が設計値通りであることを実証し、実
用化にメドをつけた。実用化されれば、
タンクローリで運ぶよりも一度に大量に運
江東区・有明
尼崎市
蒸発量を低減した断熱材と
内槽内の防波板
内槽には、断熱材(アルミなどを蒸着
した放射シール)
が多層積層され、
さらに、
内槽と外槽の間は真空になっていて外
部からの熱侵入を防いでいる。内槽支
持部材の工夫やこうした高断熱構造に
より、
現在のタンクローリで運ぶのに比べ
て蒸発量が半減(1日の蒸発量0.
7%)
した。
公道走行試験は兵庫県尼崎市∼東京・江東区間(上の地図)
を夜間、
走った。
Kawasaki News
138 2005/4
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