プロジェクトアドベンチャーの理論と実践 −高等学校への導入を視座として

プロジェクトアドベンチャーの理論と実践
−高等学校への導入を視座として−
学校教育専攻
学習臨床コース
佐
1. 研究の目的
教育現場、特に高等学校において、他者との
協力により、問題を解決する場面を見ることが
少なくなってきている。その原因は、いろいろ
考えられよう。いずれにしても「学びの場」で
は、人間同士が協力できる関係を図る必要があ
る。そのためには、何よりも信頼関係が築かれ
ていなければならない。信頼関係を築くのに有
効なプログラムとしてアドベンチャープログラ
ムが挙げられる。このアドベンチャープログラ
ムに体験学習の手法を取り入れたのが Project
Adventure(PA)プログラムである。
PA プログラムは、1971 年にアメリカで生ま
藤
洋
司
により、今後の学校教育への導入の一助となる
ことを目的とする。
2. 論文の構成
序章
第1章
PA の歴史と基礎理論
第2章
日本における PA の取り組み
第3章
青少年教育施設における PA
−「国立妙高少年自然の家」を事例として−
終章
3. 研究の概要
序章では、研究の目的を述べ、PA プログラム
の概説をするとともに、
先行研究の状況を示す。
れた。日本では、1995 年に Project Adventure
PA プログラムに関する研究は、アメリカを中
Japan が設立され、国内でも講習会が実施され
心に諸外国で行われ、PA プログラム参加者の自
るようになってから、国立の青少年教育施設や
己概念が向上することが明らかになっている。
民間の野外教育施設などを中心に急速に普及し
日本では、PA プログラムが導入されて間もない
ている。また、近年では、良好な人間関係を築
こともあり、
多くは研究されていない。しかし、
くのに有効なプログラムとして PA プログラム
アメリカで実施された研究の成果と同様、自己
を取り入れる学校が急増している。
概念の向上とともに、生徒相互の肯定的な関係
本研究では、今後も学校教育への導入が増え
づくりなどの効果が期待できる、とされている。
続けることが予想される PA プログラムを取り
第 1 章では、PA の歴史を示し、また、PA の
上げ、その基礎理論を整理するとともに、
「国立
基本理論について、これまで国内で発行された
妙高少年自然の家」おける PA プログラムの実
文献から、そのとらえ方についてまとめる。
際を通して、
「心の安全」の構築、生徒が成長し
PA プログラムは、1971 年、高等学校のカリ
ていく過程を示す。また、先進校において、学
キュラムにアドベンチャーの要素を取り入れよ
校教育に導入した事例などを通し、PA プログラ
うという目的でアメリカにおいて開発された。
ムの効果および問題点などを明らかにすること
1982 年に、非営利団体 Project Adventure が設立
され、その後、全米に普及した。
PA プログラムは、(1) 自分も含め、お互いの
「外面的な反応」から「内面的な反応」へと変
化が見られるようになると同時に、導入から 2
人格を最大限に尊重するということの約束であ
年が経過して、導入の目的もほぼ達成している。
る「フルバリューコントラクト」、(2) 参加の仕
第 3 章では、PA の専用施設が整備されている
方、チャレンジのレベルなどを誰からも強制さ
国立妙高少年自然の家を取り上げ、同施設にお
れずに自分で決める「チャレンジバイチョイス」
、
ける PA プログラムの実際を通して、
「心の安全」
(3) 体験→ふりかえり→一般化→適用→体験→
を築き、生徒が成長していく過程を示す。
……の循環性に着目し、その過程を支援するこ
同施設で PA プログラムを実施した中学校を
とによって活動を効果的な学びとすることがで
取り上げ、その活動から「ハブユーエバー」と
きる「体験学習サイクル」を基本理念としてい
「島巡り」について考察した。その結果、
「ハブ
る。これらが相乗的に作用することで、その効
ユーエバー」では、活動前には「心の安全」が
果が最大限に発揮されると考えられている。
確保されていない様子だった生徒が、この活動
第 2 章では、先進校として PA プログラムを
を通して「心の安全」を築く過程を示すことが
導入し、効果を上げている学校に着目し、導入
できた。また、
「島巡り」では、 “Comfort, Stretch,
の経緯、プログラムの効果などを明らかにする。
Panic model” を用いることにより、 “Comfort
1997 年、トキワ松学園で PA プログラムを初
Zone” が広がっていく過程を示すことができた。
めて教科教育に導入して以来、玉川学園、横浜
終章では、PA の基本理念を通して学校生活を
中学校・高等学校でも導入している。宮城県教
見直すとともに、学校へ PA プログラムを導入
育委員会では、宮城県蔵王高等学校などで PA
する際の問題点について検討し、まとめとする。
プログラムを導入した結果、その成果が肯定的
PA プログラムのアクティビティのみに限ら
であったことから、2002 年度から県内の全小中
ず、日常の学校生活にも PA の基本理念を導入
高等学校を対象に導入を計画している。
することにより、お互いを思いやり、良好な人
トキワ松学園では、1998 年度の高校 1 年生 38
間関係が生まれることが期待できる。
名に対し、体育の授業として 1 学期 4 時間、2
しかし、PA プログラムの導入に際し、課題も
学期 5 時間、計 9 時間、PA プログラムを取り入
残されている。それは、PA の基本理念は、安易
れた授業を行った。その結果、70%以上の生徒
にマニュアル化できるものではないということ、
が「助け合いを体験した」「協力した」「一体感
さらに、これらは体感して初めて良さが分かる
を感じた」
「達成感を味わった」などの感想を強
ということである。
く持った。
以上のように、PA プログラムは信頼関係の構
宮城県蔵王高等学校では、
「生徒同士の豊かな
築、自己概念の向上といった魅力ある力を秘め
人間関係を構築すること」を目的として PA プ
ている。このプログラムを学校教育に活用する
ログラムを導入した。1 年目は、体育と LHR に
ことで、そこに関わるもの全てが生きる学びを
おいて PA プログラムを導入していたが、2 年目
実感できるであろう。
からは、国語、英語、理科などでも PA の手法
を取り入れている。その結果、PA の体験回数が
増えるにつれて生徒の反応がより肯定的になり、
指導
小 林
恵