特 集 バリアフリー 1 鉄道バリアフリーは今 交通バリアフリーの現状と今後の展開 ―日本におけるバリアフリー化の進展― 羽田 憲一 (株)ケーエスデザイン デザイン室 ●交通バリアフリー法施行後の状況 ●バリアフリーとユニバーサルデザイン 2000年11月「高齢者、身体障害者等の公共交通機関 最近、バリアフリーに替わりユニバーサルデザインが を利用した移動の円滑化の促進に関する法律」 (以下交通 話題になっている。一部から、 「バリアフリーは終わっ バリアフリー法と称する)が施行され、今年で4年目と た、これからはユニバーサルデザインの時代だ」との声 なる。 も聞く。 鉄道車両での交通バリアフリー法に関する具体的な対 ユニバーサルデザインの概念は、アメリカの建築家で 応は、 「移動円滑化のために必要な旅客施設及び車両等 あり工業デザイナーであった故ロン・メイス氏によって の構造及び設備に関する基準」 (以下移動円滑化基準と称 7つの原則として提唱されたものである。 する)に記載されており、この基準に基づき対応がなさ れている。 わかりやすく表現するならば、 「バリアフリー」は、す でにバリア(障壁)があってそのバリアを取除くことであ 鉄道車両での身障者対応設備については、1990年に刊 行された「心身障害者・高齢者のための公共交通機関の車 るのに対し、 「ユニバーサルデザイン」は、最初からバリ アをつくらないとする考え方である。 両構造に関するモデルデザイン(運輸省) 」を参考に具体 また、 「バリアフリー」は障害者への対応であるのに対 的な対応が図れてきた経緯がある。2001年春にその改訂 し、 「ユニバーサルデザイン」は、障害者も含めすべての 版となる「障害者・高齢者等のための公共交通機関の車両 人が恩恵を受ける対応としている。 等に関するモデルデザイン(財)運輸政策研究機構」 (以下 今後の動向として、バリアフリーからユニバーサルデ モデルデザインと称する)が刊行された。このモデルデ ザインへ移行しつつあることは間違いないであろう。た ザインには、 「移動円滑化基準」に示されている対応内容 だし、ユニバーサルデザインのもつ概念を具現化するに も含まれ、かつ具体的に表現されていることから、モデ は、それなりの対応条件が求められる場合も多く、既設 ルデザインでの対応が一般的となっており、その結果、 の施設や設備など、寿命の長いものあるいは立地条件の 移動円滑化基準以上の対応が図られているというのが現 あるものについては、建替えや新設が難しく、結果とし 状であろう。 て特定の身障者を対象としたバリアフリーにより対応を 現在、交通バリアフリー法の基本方針に示された、 2010 図るというのが実情ではないか。 年までに現有鉄道車両のうち15, 000両(約30%)の移動 鉄道に関しても同様の状況があり、駅施設と係わりの 円滑化達成に向け、新造車両はもちろんのこと、既存車 あるホームと車両との段差・隙間解消などは、バリアフ 両についても暫時対応が図られている。 リー対応となるであろう。その他、利用状況によっては、 鉄道車両のバリアフリー化については、ホームと車両 ユニバーサルデザインで求められている誰もが恩恵を受 間の段差・隙間など解決に時間を要する項目以外は、移 けるという概念では対応できないケースも考えられる。 動円滑化基準をおおむね達成しつつあり、今後は2005年 乗車密度の高い鉄道車両の場合もその一つで、高齢者・ に予定されている交通バリアフリー法改定を受けての対 障害者の利用を主としたバリアフリー対応が適切な場合 応が中心となる。 も多いのではないか。 したがって、当分の間は、バリアフリーとユニバーサル デザインが並行するものと思われ、また今後は状況に即 近畿車輌技報 第11号 2004.11 ● 04 ● した使い分けがなされていくのではないかと考えられる。 発が進んでいるものの、ホームの立地条件や多様な列車 運行、あるいは安全管理など、本格的な設置には解決す べき課題も多い。これなどは、バリアフリー化が単に設 ●交通バリアフリー今後の対応 備機器の開発のみでは対応できない具体例であろう。 交通バリアフリー法が施行後4年目となり、交通バリ また、交通バリアフリー法やハートビル法により、市街 アフリーの今後の対応を考えるにあたり、今一度、交通 地での移動環境と利用環境の整備が進むなか、高齢者や バリアフリー法の目的について確認しておきたい。 身障者が、気軽に街中を出歩き買物などを楽しむ姿が見 交通バリアフリー法の目的を要約すると、高齢者や身 受けられるようになってきた。今後のバリアフリーは、 障者が自宅から目的地まで公共交通機関を利用して移動 そのような状況を踏まえ、さらに多数の高齢者や身障者 する際、安全、便利でかつ円滑な移動が自立して可能と の利用をも考慮したバリアフリー対応が求められる。ま なるよう、移動に関わる施設や設備に対して障害となる た、高齢者や身障者などが市街地間を気軽に移動できる 要因を除去(バリアフリー)することである。 交通機関として、超低床LRVの導入も切望されている。 交通バリアフリー法の目的を生かし今後より一層の対 応を図るためには、新たな観点からの対応も求められて バリアフリーが本格化するにつれ、施設や設備が高度 化、大規模化、また高額化する傾向が見られる。 いるように思われる。 また、バリアフリーにしろユニバーサルデザインにし 移動経路にボトルネックとなる個所がないのか、過不 ろ、単に施設や設備などハードの整備だけでは解決が図 足のないバランスの取れたバリアフリー対応となってい れないケースもあり、その場合、事業者はもちろんのこ るのかなど、個々でのバリアフリー対応だけでなく、移 と、一般市民の理解ある人的サポートが欠かせない。 動経路全体としての対応が求められている。 交通バリアフリー法では、施設設備に対するバリアフ また、バリアフリーからユニバーサルデザインへの要 リーだけではなく、 「心のバリアフリー」についても言及 望の高まりには、移動に際し利便性へのニーズの高まり されており、ハードとソフト両面の特性を生かした対応 が背景として読み取れ、その対応も求められている。 により、真のバリアフリー社会が実現するものと思われ 例えば、利便性への対応として、 「身障者への移動情 る。鉄道車両に携わるわれわれとしても、それだけでなく 連続した中で考えていくことが求められている。 報の提供」がある。 交通バリアフリー法以後、精力的に対応が図られてい るものの、バリアフリー設備の設置場所がわかりにくく、 全体としての利用環境に疑問を呈する意見がある。サイ ※1 歩行者ITS:P3用語説明参照 ンシステムは充実しつつあるものの、その中にバリアフ ※2 サイバーレール(CyberRail): リー設備を連続的に示すサインが不足しているという指 摘である。このような問題を解決する手段として、現在、 歩行者ITS やサイバーレール ※1 ※2 など、高齢者、身障 者など個人に移動情報を提供するシステムの開発が進め られている。 鉄道車両に関しては,ホーム-車両間の段差・隙間の解 消がある。すでに、ハードについては、実用に向けて開 ● 05 ● 鉄道に係わる利用者の交通機関相互の乗り継ぎ利便性の向上 を図り、移動のバリアフリーとシームレス化を実現するため、 最先端の情報通信技術を用いてスムーズな情報伝達と機能の 連続性を提供するシステムで、 (財)鉄道総合技術研究所を中 心に研究開発が進められている。
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