日本消化器外科学会 第 69 回日本消化器外科学会総会【2014 年 7 月】 1 [RS-9] 要望演題 9:肝移植の長期成績に関する問題点 座長:梅下 浩司(大阪大学大学院保健学専攻周手術期管理学) 日時:2014年7月16日(水)14:50∼15:40 会場:第4会場 (郡山市民文化センター 4階 第4会議室) RS-9-1 本邦における原発性胆汁性肝硬変に対する肝移植後長期フォ ローアップ:多施設研究 RS-9-2 肝移植術後症例における腎機能障害の検討 江川 裕人:1、向坂 彰太郎:2、山本 雅一:1 1:東京女子医科大学病院 消化器外科、2:福岡大学病院 富丸 慶人:1、永野 浩昭:1、濱 直樹:1、和田 浩志:1、川本 弘一:1、小林 省吾:1、 江口 英利:1、梅下 浩司:1、土岐 祐一郎:1、森 正樹:1 1:大阪大学大学院 消化器外科学 本邦においても原発性胆汁性肝硬変 (PBC) に対する肝移植は確立された医療である 【目的】肝移植の術後成績は,周術期管理がほぼ確立された現在,良好なものとなって が,その予後危険因子,再発の意義についてまとまった報告はない.今回,厚生労働 きているが,術後晩期合併症についてはいまだ十分に検討されていない.今回,我々 省科学研究 「難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究」 班の個別研究として,多施設 は,原疾患の再発や糖尿病の発生など共に術後の QOL を左右する重要な術後合併症 調査研究を行った.日本肝移植研究会に登録された 2010 年までの症例に関して実施 の 1 つである腎機能障害に着目し,肝移植後腎機能障害を発症する危険因子について 施設に調査票を送付し,28 施設から解答が得られた 451 症例を解析した.統計ソフ 検討したので報告する.【対象・方法】教室における成人肝移植術施行症例のうち,術 トは JMP10 を用い,連続変数のカットオフ値は ROC 曲線で算出した.レシピエン 後 1 年以上生存中の 88 例 (生体 81 例,脳死 7 例) を対象とし,術後 1 年以上経過 ト年齢は 28 歳-70 歳 (中央値 51 歳),ドナー年齢は 18 歳-66 歳 (中央値 35 歳).グ 後の腎機能障害の有無を評価した.更に,腎機能障害の有無別に術前因子を比較し,ロ ラフトは左 232 例,右 216 例,全肝 3 例.生体肝移植 461 例,脳死肝移植 4 例が, ジスティック回帰分析による多変量解析を行い,腎機能障害発症に関わるリスクファ ドミノ肝移植 1 例.ドナー続柄は,一親等 247 例,二親等 77 例,三親等 5 例,四 クターを検討した.今回の解析では eGFR < 60 ml/min/1.73m2 を腎機能障害と定義 親等 2 例,五親等 1 例,配偶者を含む非血縁 116 例.観察期間は 1 日-6864 日 (中 した.【結果】全 88 例中 49 例 (55.7%) に腎機能障害を認めた.そのうち 7 例では 央値 2668 日).全症例患者生存率は 5 年 76%,10 年 80%,15 年 53%.多変量解析 eGFR が 30 ml/min/1.73m2 であり,高度の腎機能障害を認めた.更にそのうち 3 例 では透析導入となった.腎機能障害群 (49 例) では,非腎機能障害群 (39 例) と比較 して,有意に高齢で (53 ± 10 vs 42 ± 14, p < 0.0001),C 型肝炎症例の割合が高く [27/49(55.1%) vs 6/39(15.4%), p < 0.0001],術前 eGFR が低値であった (68 ± 31 vs 99 ± 28, p < 0.0001).腎機能障害発症に関するロジスティック回帰分析では,術前 eGFR 値,C 型肝炎の有無が独立したリスクファクターであった.また,術前に腎機 能障害を認めなかった症例 65 例に限った解析でも C 型肝炎の有無は術後腎機能障害 発症のリスクファクターであり,C 型肝炎症例 33 例に限った解析でも術前 eGFR 値 で有為な生存危険因子は, レシピエント 61 歳以上 (リスク比 [RR]=2.359), ドナー 50 歳以上 (RR=1.704),グラフト体重比 0.8 未満 (RR=1.611), HLA-A/B/DR-ミスマッチ (MM)(MM 4-6 対 MM 0-2; RR=4.919, MM 4-6 対 MM; 3: RR=3.093) であった.死 因は 1 年以内が感染症 (37/87),1 年以降 10 年未満悪性腫瘍 (10/32),10 年以降では 肝不全 (6/9) が最も頻度が高かった.PBC 再発の影響と危険因子は 1 年生存例 361 例 で解析した.再発の危険因子は,単変量ではレシピエント 52 歳以上と HLA-A/B/DRミスマッチであったが多変量ではレシピエント年齢 52 歳以上 (RR=3.559) のみが有為 であった.再発症例と非再発症例の生存率に差は認めなかった.初回移植後 10 年以内 に実施された再移植症例 9 例の摘出肝を詳細に検討したが再発による肝不全は認めな かった.一方で移植後 10 年以降肝不全死亡 6 例のうち 4 例で生前に生検で PBC 再 発が確認されていた.まとめ:PBC 肝移植後危険因子はレシピエントおよびドナー年 齢,グラフト体重比,HLA ミスマッチであった.再発の危険因子はレシピエント年齢 であり,生存率には有為な影響はないが,10 年以降に影響する可能性がある. は術後腎機能障害発症のリスクファクターであった.【結語・考察】肝移植症例におけ る術前 eGFR 値,C 型肝炎の有無が,術後腎機能障害を発症するリスクファクターと して同定された.この結果より,術前に腎機能障害発症のハイリスク症例を予測するこ とが可能となり,更には術後腎機能障害発症の予防に繋がる可能性が示唆された. RS-9-3 生体肝移植における免疫抑制剤離脱症例の長期予後 RS-9-4 原発性胆汁性肝硬変に対する肝移植後長期成績 川岸 直樹:1、藤尾 淳:1、西村 隆一:1、三浦 佑一:1、中西 渉:1、戸子台 和哲:1、 武田 郁央:1、宮城 重人:1、佐藤 和重:1、大内 憲明:1 1:東北大学病院 移植 · 再建 · 内視鏡外科 森 章:1、海道 利実:1、吉澤 淳:1、藤本 康弘:1、小川 晃平:1、秦 浩一郎:1、冨 山 浩司:1、岡島 英明:1、上田 佳秀:2、上本 伸二:1 1:京都大学大学院 肝胆膵・移植外科学、2:京都大学大学院 消化器内科 目的:当科で施行した小児生体肝移植症例のうち,免疫抑制剤離脱症例を長期にわたっ 目的:原発性胆汁性肝硬変 (PBC) は肝移植術のよい適応疾患とされる.本邦における生 て観察し得たので,その結果を報告する. 体肝移植術が開始され 20 年経過し,次第にその長期経過が明らかとなってきた.当 方法:1991 年から 2013 年までに,当科で 159 例の生体肝移植が行われ,91 例 (57.2%) 院における PBC 患者に対する肝移植後の成績について,原発性硬化性胆管炎 (PSC) が 18 歳以下の症例であった.小児例のうち 7 例が免疫抑制剤を離脱でき,長期の合 患者と比較検討した.対象:1994 年 11 月から 2012 年 8 月までに肝移植が行われた 併症,QOL などについて検討した. 成人 PBC 患者 100 例.レシピエントは,女性 95 例:男性 5 例,年齢 50.7 ± 8.3 歳 結果:生体肝移植時の平均年齢は 1.5 歳 (6 ヶ月から 6 歳).原疾患は,胆道閉鎖症 6 (28 - 67 歳),生体肝移植 97 例:脳死肝移植 3 例.ドナーは,男性 71 例:女性 29 例,年 齢 41.3 ± 12.4 歳 (19 - 66 歳),血縁 63 例:非血縁 37 例.結果:PBC 患者の肝移植後 1 年,5 年,10 年生存率は 71%,69%,61% であり,同時期の他疾患に対する成人肝 移植成績 74%,71%,64% よりやや低値である.PBC の組織学的再発は,29 例に認 め,その診断時期は,移植後 4.4 ± 3.5 年 (0.5 - 14.7 年) であり,3 年,5 年,10 年再 発率は 16%,33%,43% と高率である.PBC 再発率は,レシピエントの移植時年齢が 50 歳未満の症例で高い傾向 (P=0.09) であり,移植前 IgM 値 500 以上,AMA-M2 値 180 以上,術後細菌感染無の症例で有意に高率であった (P=0.03, P=0.005, P=0.05). ドナー血縁有無,HLA ミスマッチ数,ACR 有無,血液型適合性,免疫抑制剤種類は 有意差を認めなかった.多変量解析では,レシピエント 50 歳未満と術後細菌感染無が 独立した危険因子であった (P=0.04, P=0.02).既報の PSC における肝移植後再発危険 因子である血縁ドナー,HLA-DR15,CMV 感染は,PBC においては有意差がなかっ た.PSC では 11 例中 5 例が再発後 3 年以内にグラフト不全に陥ったが,PBC では 再発後の 5 年生存率 77% と良好である.しかし移植後 6 年以降のグラフト不全が増 加傾向である.まとめ:若年で発症し肝移植を受けた PBC 患者は,移植後早期に再発 を来しやすい.プロトコール肝生検により早期に PBC 再発が診断される.進行は緩徐 例,Alagille 症候群 1 例,ドナーは母親 4 例,父親 3 例であった.生体肝移植からの 平均観察期間は 14.8 年 (11.9 年から 17.7 年),免疫抑制剤離脱からの平均観察期間は 7.7 年 (4.7 年から 10.9 年) であった.7 例中 5 例で,初期免疫抑制剤導入はタクロリ ムスとメチルプレドニゾロンで,他の 2 例はアザチオプリンを加えた 3 剤であった. 免疫抑制剤離脱直前はタクロリムスを少量で服用していた.生体肝移植から免疫抑制剤 離脱までの平均期間は 7.2 年 (4.8 年から 10.5 年) であった.周術期に 2 例で急性細 胞性拒絶反応があったが,移植後 3 ヶ月以降の晩期急性拒絶反応はなかった.1 例で 周術期の急性細胞性拒絶反応がステロイド抵抗性で,デオキシスパーガリン,OKT3 を 使用し軽快した.2 例に対して免疫抑制剤離脱後のプロトコール肝生検をしたが,線維 化の進行などは認めなかった.7 例全例通常の生活を送っている. 結語:当科における免疫抑制剤離脱症例は,全例合併症なく通常の生活を送っている. 周術期にステロイド抵抗性の急性拒絶反応があっても,小児の症例では免疫抑制剤離脱 ができるほどの免疫寛容が誘導されると考えられた. であることが多く,短期生命予後は良好である.長期経過において肝不全に陥り,再移 植を必要とする症例が増加している. 第69回 日本消化器外科学会総会 日本消化器外科学会 The Japanese Society of Gastroenterological Surgery 日本消化器外科学会 第 69 回日本消化器外科学会総会【2014 年 7 月】 RS-9-5 成人生体肝移植後の遠隔期死亡症例の検討 2 RS-9-6 当施設における生体肝移植後胆管合併症に対する治療と長期 予後 金子 順一:1、菅原 寧彦:1、赤松 延久:1、石沢 武彰:1、青木 琢:1、阪本 良弘:1、 長谷川 潔:1、田中 智大:2、田村 純人:1、國土 典宏:1 1:東京大学附属病院 肝胆膵・人工臓器移植外科、2:東京大学附属病院 臓器移植医療部 眞田 幸弘:1、浦橋 泰然:1、井原 欣幸:1、岡田 憲樹:1、山田 直也:1、平田 雄大:1、 笹沼 英紀:2、佐久間 康成:2、安田 是和:2、水田 耕一:1 1:自治医科大学附属病院 移植外科、2:自治医科大学附属病院 消化器外科 【目的】脳死肝移植後の遠隔期死亡症例では,de novo 発癌と心血管合併症によるもの が多いとされる.成人生体肝移植症例の長期成績に関する問題点を探るために,遠隔期 【 背 景 】肝 移 植 後 胆 管 合 併 症 は 胆 管 空 腸 吻 合 部 狭 窄 (HJS:hepaticojejunostomy 死亡症例を検討した. anastomotic stricture) と肝内胆管狭窄 (NAS:non-anastomotic biliary stricture) に 【方法】2013 年 12 月までに当科で施行した成人生体肝移植 441 例のうち,術後 1 年 以上生存が得られた症例を対象とし,その後の死亡原因を検討した. 【結果】術後平均観察期間は 8.1 年で,1 年以上生存したのは 387 例であった.肝移植 大別される.肝移植後胆管合併症はグラフト不全の原因や時に致死的になるため,早期 診断治療が重要である.今回,当施設で経験した生体肝移植後 HJS と NAS について 検討したので報告する. 時の平均年齢は 49 歳,原疾患は B 型,C 型肝炎肝硬変 174 例,胆汁うっ滞性肝疾患 【方法】2001 年 5 月-2011 年 5 月に当科で肝左葉系グラフトを用いて生体肝移植を 104 例,劇症肝炎 39 例,胆道閉鎖症 19 例,その他 51 例であり,そのうち 109 例 に肝細胞癌を合併していた.術後 1 年以上経過した後に死亡したのは 46 例 (12%) で あった.もっとも多いのは,悪性腫瘍による死亡で 16 例であった.その内訳は,de novo 発癌による死亡が 10 例 (悪性リンパ腫 2 例で,大腸癌,食道癌,Langerhans cell sarcoma,Merkel cell carcinoma,口腔癌,子宮頚癌,腎癌,悪性黒色腫が各 1 例),肝細胞癌の再発死亡は 6 例であった.2 番目に多いのは感染症で 8 例であった. 内訳は胆管炎 3 例,細菌性肺炎 3 例,ウイルス関連血球貪食症候群 1 例,真菌肺炎 1 例であった.3 番目に多かったのは,心血管合併症で,7 例 (心不全 5 例,解離性大動 脈瘤 1 例,大動脈弁狭窄症 1 例) であった.残る死亡例は,C 型胆汁うっ滞性肝炎 6 例,慢性拒絶 2 例,原発性硬化性胆管炎再発 2 例,その他疾患によるものは 5 例で 行った 199 例を対象にした (胆管胆管吻合の 1 例を除く).男性 76 例,女性 123 例で あった. 【結論】成人生体肝移植後の遠隔期死亡症例では de novo 発癌による死亡が最も多く, 脳死肝移植後の報告に類似していた.肝移植後の長期成績をより改善するためには,de novo 発癌の早期発見と治療が寄与する可能性が期待される. あり,年齢は中央値 1.6 才 (0.1-19.5 才),体重は中央値 9.8kg(2.6-65.0kg) であった. 観察期間は 2 年-12 年であった. 【結果】肝移植後 HJS は 36 例 (18.1%) に認め,発症時期は移植後中央値 154 日 (3-2269 日) であった.HJS の危険因子は肝左葉グラフトであった (p=0.034, OR 2.353, 95%CI 1.068-5.186).HJS に対する初回治療は,外科的再吻合 2 例,PTCD 18 例,DBE 14 例,Rendezvous 法 (PTCD+DBE,PTCD+ 腸瘻)2 例であった.初回治 療後 13 例 (36.1%) に HJS の再発を認め,PTCD 2 例,DBE 9 例,Rendezvous 法 (PTCD+DBE)2 例を施行した.HJS 症例と非 HJS 症例のグラフト生存率はそれぞれ 97.2% と 91.4% であり (p=0.532),HJS によるグラフトロスは認めなかった.肝移植 後 NAS は 5 例 (2.5%) に認め,発症時期は移植後中央値 65 日 (26-553 日) であっ た.原因は肝動脈血栓 1 例,ABO 血液型不適合移植関連胆管合併症 1 例,急性拒絶 反応 (疑い)2 例,原因不明 1 例であった.NAS に対する初回治療は,全例 PTCD で あった.4 例で PTCD チューブを抜去できたが,そのうち 2 例で肝機能障害が遷延し ている.1 例は難治性胆管炎からグラフト不全を合併し,移植後 8 カ月時に再移植を 施行した. 【結語】肝左葉グラフトは肝移植後 HJS のハイリスクであるため,周術期管理において HJS の合併を念頭に置く必要がある.肝移植後 HJS は晩期においても発症する合併症 であるが,早期診断と治療の工夫によってグラフトロスを防ぐことができる.肝移植後 NAS はグラフト不全の原因となり,長期予後も不明な難治性合併症である. 第69回 日本消化器外科学会総会 日本消化器外科学会 The Japanese Society of Gastroenterological Surgery
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