ヘルパーが介助に困り、訪問リハビリ開始となった症例 − 他職種、家族と

健育会グループ 研究事例
平成18年2月度 第2回リハビリ研究発表会
ヘルパーが介助に困り、
訪問リハビリ開始となった症例
− 他職種、
家族との連携 −
ひまわり訪問看護ステーション 理学療法士 斎藤 梨香
【症例紹介】
46歳 男性、診 断 名は脳 幹出血、障 害 名は四肢 麻 痺・協 調 運 動 障 害 。
介護度は要介護5。両親、妹と同居。
【現病歴】
平成16年9月25日に発症し、平成17年10月17日に自宅退院するまで
には下記の経過を送っている。
退院時はA病院の医師が主治医となり、月一回往診している。サービス
を開 始して間もなく、ヘルパーより大 柄で協 調 運 動 障 害があるため、起
居 動 作・車 椅 子 移 乗 時の介 助が難しいということで、
PTへヘルパーへ
の介助指導の依頼があった。ヘルパーでの介助は危険が伴っていたた
め、
ご家族が運動機能の向上と介助量軽減を希望され、週2回の訪問
リハ開始となった。
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平成18年2月度 第2回リハビリ研究発表会
【初期評価】
体幹には失調があり、
左上下肢には企図振戦が見られた。
ADLの介助量。
しているADLは全介助だが、利用者様の能力を生かすこと
により介助量の軽減が図れることが分かった。
【ケアプラン】
訪問リハは週2回、
約1時間。
ヘルパーは毎日朝昼夕3回、
調理・食事介助、
車
椅子移乗、
おむつ交換のケア内容で訪問している。
【生活環境】
福祉用具は電動ベッド、エアマットなどを使用している。
1日の生活は、食
事の時以外はベッド上で過ごされ、左側への寝返りは自力にて行えるも
のの、自発 的には動こうとせず、ほとんどはい臥 位の姿 勢で臥 床してい
た。
【問題点】
1.
過剰な福祉用具の使用により、利用者様の残存機能を生かすことが
できない生活環境であった。
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2.
大柄で協調運動障害があったため、
立位時に見られる動揺で介助者によっ
ては支えきれず、
転倒の危険性があった。
ヘルパーによる車椅子への移乗は、
朝昼夜の食事のときに行われていたが、訪問するヘルパーは身体介護の経
験が豊富なメンバーでチームを編成していた。
しかし訪問回数が頻回なため、
メンバーを増員するためにも介助負担の軽減が求められていた。
3.
ヘルパーの介助方法が統一されていなかったため、
リスク管理が曖昧となっ
ていた。
そのため利用者様の不安を誘発していた。
4.
離床時間が少なく、長期臥床により廃用症候群を引き起こす可能性が高く
なっていた。
【理学療法プログラム】
介 助 時の安 全 性を向 上させるため、環 境 整 備と家 族・ヘルパーへの介
護指導を行った。
また訪問当初、廃用症候群による運動機能低下の可
能 性も高く、動作獲得もあり得ると考え、約1時 間の訪問で協 調運動障
害の改 善を基 本としアプローチを行うこととした。
また訪 問リハは週2回
のため、運動効果を高めるために日常生活への働きかけを行った。
【環境整備】
ベッド柵を利用し、立ち上がるときにベッドが大きく動いてしまうため、滑り
止めの目的でベッドの下にゴムマットを敷いた。
褥創予防の目的でエアーマットを使用していたが、起き上がり動作や座
位保持が不安定になり、協調運動障害を増強させていたため、低反発
マットレスに変更した。変更直後は訪問スタッフへ皮膚状態のチェックを
強化した。
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体幹を安定させる目的で背クッションを使用していたが、
それが座面を狭くし、
ずり落ちの原因となっていた。
そこで背クッションを取り外し、
座位をとってみると
体幹の動揺を抑え、
座位が安定した。
【生活環境】
カンファレンスを開き、利 用者 様の残 存 機 能を有 効 活 用することにより、
今後立位動作の介助量軽減が図れることを説明した。そこで、訪問リハ
だけではなく日常生活で立位動作を促すことにより、運動効果が高めら
れることを理 解して頂き、介 助 方 法を統 一してもらった。立ち上がりと移
乗動作の介護方法を、以上のように統一した。
運動機能向上に応じてカンファレンスを開き、段階的に介助量を変更し
ていった。介 助が不 安なヘルパーは、訪 問リハへ同行したり、気づいた
ことをメモに残し報告するようにした。当ステーションでは複写式の記録
用紙を使 用し、自宅と事 務 所に記 録が残るようになっている。その記 録
用紙が自宅にあることにより、ヘルパーの訪問時の様子が分かりやすく、
ヘルパーとの連絡も取りやすい状況となっている。
【訪問リハビリの内容】
口頭指示を多くし、視覚フォードバックを意識してもらうようにアプローチした。
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【結果1】
2月現在介助量が変更したものを●で示している。特に「しているADL」で改
善項目があり、
介助者の負担の軽減がうかがえる。
【車椅子駆動】
現在の起き上がりの状況。起き上がりは見守りにて可能だが、単座位の姿勢
に落ち着くまでに前後方向の動揺が見られるため、
介助が必要。
立ち上がりの状況。立ち上がりから立位姿勢に落ち着くまでに前後方向に動
揺が見られるため、
介助が必要。
車椅子やベッドに安全に座って頂くためには、
方向転換後、
ゆっくりと膝を屈曲
して頂く必要があるが、
まだご自分ではできないため、
誘導的な介助が必要。
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結果2
ヘルパー介助時の転倒の報告が11月には2回あったが、
12月からはなく
なった。
【考察】
自宅退院時には住宅改修はしたものの、
介護者への介護指導や本人の能力
を生かした移動訓練、
あるいは指導を行っていなかったため、介助者の負担
が大きく、転倒のリスクも高かったと思われる。本人及び生活環境の評価によ
り、本人の動作を拡大する福祉用具の選択や、本人の能力を生かす適切な
介助指導を行うことで、
改善が得られたことが考えられ、
評価と指導の必要性
を確認した。
また本人の能力の改善に合わせその都度カンファレンスなどで介
助指導を行っていたことも起居動作・移乗動作の安全性の向上につながった
と考えられる。
発症から約1年間、転院を繰り返しながらもリハビリを行っており、病院では座
位訓練等も行っていたようだった。
ADL動作が全介助での退院後4ヶ月で起
居動作・移乗動作の介助量軽減が見られた。協調運動障害の治療の一つで
あるフレンケル体操では、
身体位置・動きを確認することで、視覚によるフィード
バック制御を強化し、
正確な動作の反復を行うことで、
運動の協調性に改善が
見られると考えられている。
今回の症例においては訪問リハの回数は週2回と制限がある中で、
毎日訪問
し1日6回の移乗介助を行っているヘルパーの介助方法を統一したことで、
日
常生活で必要な動作のフィードバックコントロールを強化する事につながり、
4ヶ
月という短期間で運動機能向上に繋げられたものと考えている。
【まとめ】
現 在、当ステーションは他 職 種と共同して連 携をとりやすい職 場 環 境と
なっている。利用者様が希望する在宅状況に少しでも近づけるようこれ
からも努めて行く。