弾性ストッキング装着による皮膚トラブルについて

健育会グループ 研究事例
平成23年2月度 第5回リハビリテーション研究会
弾性ストッキング装着による皮膚トラブルについて
西伊豆病院 吹上 美香 ( 共同 : 川路 知世、須田 麻里 )
研 究 背 景
近年、深部静脈血栓症(以下DVTとする)
は増加傾向にあり、2004年1月よりDVT予防
ガイドラインが策定され、同年4月
「肺塞栓予防管理料」305点が策定導入されるように
なった。
このような背景より、
下肢の骨折にて、
手術を受ける患者に弾性ストッキングを導入
している病院も多いと思われる。
しかし、弾性ストッキング装着による足関節の皮膚トラブ
ルが先行研究1)
で報告されており、
トラブルを生じることなく効果的にストッキング装着を
支援することが必要である。
研 究 目 的
弾性ストッキングを着用することにより、足関節・足背にどの程度の圧がかかっているの
か、皮膚の影響について、明らかにすることと、看護職の装着方法の実態について明ら
かにする。
研 究 方 法
1. 期間 平成22年度(平成22年9月から11月)
2. 施設 N病院
3. 研究対象 1)調査①:N病院入院患者9名(男性4名、
女性5名)
2)調査②:N病院病棟看護師10名(男性5名、
女性5名)
3)調査③:N病院病棟看護職 (35名)
4. データ収集方法
1)調査①:年齢、病名、合併症(DVT要因とならない者)
、
ストッキング装着後と24時
間後の足関節、
足背の圧測定と皮膚の異常の有無
2)調査②:対象者に弾性ストッキング装着した状態で足首・ふくらはぎの太さ、
日勤業
務開始時と業務終了時の足関節・足背の圧を測定し、装着前に皮膚体質のアン
ケートと装着直後、装着8時間後の脱ぐ直前の痛み、痒み、
きつさについてアン ケート調査、
2時間ごとの感想を尋ねた
3)調査③:弾性ストッキング選択時の測定部位、弾性ストッキングサイズ決定時の部
位、
清拭時の清拭方法についてアンケート調査
5. 分析方法
X2検定、t検定、Fisher直接確率法、
Spearmanの順位相関係数検定
6. 倫理的配慮
調査対象者に調査趣旨、
個人情報は秘密を厳守する事を伝え同意を得た
健育会グループ 研究事例
平成23年2月度 第5回リハビリテーション研究会
結 果
1.
調査①:対象者の平均年齢は80.3±14.6歳、
大腿骨骨折が5名、
肺炎が3名、
食欲不振が1名であった。
ス
トッキング装着後に皮膚の発赤が見られた者が2名で痛みを訴えた者が、
1名であった。
この皮膚に異常を
きたした3名とそれ以外の者の間に差がないか分析したところ、
男性に有意に多かった。
2.
調査②:脱ぐ直前に痒みがある人にむくみのない人が有意に多かった。
脱ぐ直前に痒みがあるものに有意
に男性が多かった。有意差はないものの、
全体的に脱ぐ直前に痛みときつさを感じる人の方がふくらはぎ
が太く、
足関節の圧が高かった。
装着直後の痛みと脱ぐ直前の痛みについて正の相関があった。
3.
調査③:調査のなかで職員の弾性ストッキング装着手技の統一がなされていなかった。
(看護職員35名)
弾性ストッキングサイズ選択時の計測部位:足首・ふくらはぎ、
回答率約77%、
弾性ストッキングサイズ決定
時に優先する部位:足首、
回答率約51%、
弾性ストッキング装着部位の清拭方法:全部脱がして拭いてい
る
(26名)
、
ずらして拭いている
(8名)
、
無回答
(1名)
考察及び結論
今回、
患者調査では、
男性に有意に皮膚トラブルが出現した、
また、
看護師男性5名、
女性5名を選び、
日勤帯
に弾性ストッキングを着用した結果、
脱ぐ直前に痒みがある人にむくみのない人が有意に多かった。性別と脱ぐ
直前の痒みの分析で有意差が出て男性に痒みの出る人が多いことから、男性に痒みが出現しやすい可能
性がある。上記より男性は女性と比べると、
日常弾性ストッキングをはく習慣もなく、
慣れていないことより痒み、
痛
みが生じていると考えられる。
また、
今回調査した項目以外にも発汗等が影響していると考えられる。女性に対
しては着用中のトラブルも少なく着脱時も
「すっきりした」
「気持ちがいい」等の感想が得られたことにより女性に
はストッキング着用が有効であったと考える。
また、
装着後に痛みを感じていた者は脱ぐ直前でも痛みを感じて
いることから、男性では、特に装着後の症状や訴えに注意すること、装着後の自覚症状で痛み等を訴えたら、
ストッキングではなく、
弾性包帯に変更する等対応が必要である。
ストッキング装着中の患者に対する職員の手
技にバラつきがあることが疑われ、
ケア手技に対してアンケートをとった結果、調査3のような結果がみられた。
看護師一人一人の手技に違いがみられたことにより、
皮膚トラブル発見の遅れにつながったと考える。今回の
研究をもとに装着中の患者に対してのマニュアルを作成し、看護師による弾性ストッキングの正しい計測や選
択、
装着への知識・技術が向上できるような意識改革が今後の課題だと考える。
また、
職員の手技統一をする
ことで、
皮膚トラブルの早期発見に努めていく必要があると考える。
■引用参考文献
1)南方竜也 他;弾性ストッキング着用による足部褥瘡について検討―メディカルオンライン 2009
2)水口雅代 他;手術を受ける患者の深部静脈血栓症の予防:弾性ストッキング装着方法
の実態―看護研究発表論文集録 2005