1. 脳特異的 DISC1結合タンパク質 DBZ はオリゴ

近畿大医誌(M ed J Kinki Univ)第34巻3号
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2009
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1. 脳特異的 DISC1 結合タンパク質 DBZ はオリゴデンドロサイトの 化を
促進する発表内容
清 水 尚 子
宮 田 信 吾
近畿大学 東洋医学研究所
田 中 貴 士
子脳科学研究部門
統合失調症は人口の1%に見られ,思春期から青
年期にかけて発症する慢性化しやすい精神疾患であ
る.妄想,幻覚や統制を欠いた行動等の陽性症状と,
会話・思 内容の 困化や社会的ひきこもり等の陰
性症状に大別される重大な精神症状が見られる.
DISC1 遺伝子はスコットランドの精神疾患多発
家系を対象とした遺伝学的研究により発見された染
色体転座の部位にコードされる遺伝子である.この
遺伝子が転座により 断されることで DISC1 タン
パク質の異常を引き起こし,精神疾患発症のリスク
を高めると えられている.その 子機序として,
DISC1 遺伝子の転座により 断される部位に結合
する 子が存在し,その因子の DISC1 との結合不全
が DISC1 の機能不全を誘導し,脳の発達障害が生じ
るのではないかと え,我々は DISC1 の転座部位に
結合する 子の探索を行った.その結果,結合タン
パク質として DBZ(DISC1-binding Zinc finger
protein)と名付けた新規因子を同定した.
近年,
ニューロンの軸索の周りに存在する髄 (ミ
エリン)を形成するオリゴデンドロサイトの 化異
武 田
近畿大学
卓
遠 山 正 彌
東洋医学研究所 女性医学部門
常を示すことが知られている Olig1 KO マウスのマ
イクロアレイ解析から,オリゴデンドロサイトの成
熟化に関わる数多くの遺伝子とともに DBZ の発現
が低下していることが報告された.
さらに,統合失調症患者死後脳の研究でオリゴデ
ンドロサイトに発現する因子の発現が低下している
ことや,オリゴデンドロサイトの細胞数の減少,配
置異常,ミエリンの形成異常が見出されていること
からオリゴデンドロサイトの機能異常が精神疾患発
症に少なからぬ影響を及ぼすのではないかと えら
れている.
これらのことから統合失調症発症の 子メカニズ
ムの解明するために,機能解析がほとんど行われて
こなかった DBZ の機能解析をオリゴデンドロサイ
トで行った.その結果,DBZ は確かにオリゴデンド
ロサイトに発現しており,生後ミエリン形成のピー
ク時である生後14日に発現が一過的に増加してい
た.また DBZ KO マウスの検討で,生後10日におい
てミエリン形成が著しく低下していることを明らか
とした.
2. 上皮間葉転換における新たな 子マーカーの可能性
村 上 哲 平
西 村 俊 司
赤 木 將 男
整形外科
背景
各組織を CADM 1#4 抗体 用し免疫染色を施行し,
上皮間葉転換(EM T)は癌の浸潤や転移に深く関
与していることが以前より知られている.当院病理
腫瘍組織内で sarcomatoid change をきたしている
部位に一致して2例陽性,2例陰性であった.組織
部との共同研究において細胞接着
子である cell
形態学的特徴として CADM1 陽性の組織では骨芽
adhesion molecule 1(CADM 1)が骨肉腫細胞株に
強発現していることが明らかとなった.このことよ
細胞様の細胞骨格変化を伴っていた.CADM1 陽性
組織では骨形成マーカーである ALP や Osterix の
り CADM 1は osteoblastic な 子マーカーの側面
を持っている可能性が指摘されている.本研究では
免疫染色においても CADM1 と同一部位で陽性と
上 皮 間 葉 転 換 に お け る CADM 1 の 発 現 の 有 無 と
なった.
察
osteoblastic maturation の関連性について検索し,
EMT の新たな 子マーカーとなり得るかを検討し
EMT にはカドヘリンなどの接着 子が代表とさ
れているが,本研究で癌組織の EMT に CADM1 お
た.
よび骨形成マーカーの発現が認められ,新たなマー
方法と結果
カーとなりうる可能性かある.今後,癌腫や症例数
当院にて2008年から2013年まで手術を行った腎細
胞癌で EMT により sarcomatoid change を認める
4例のパラフィン包埋切片を 用し実験を行った.
を増やし悪性度や予後との相関性について検討して
いく予定である.
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近畿大医誌(Med J Kinki Univ)第34巻3号 18A 2009
3. マクロファージ 化の組織障害,再生への関与についての再検
濱 﨑 真 一
小 堀 宅 郎
丹 羽 淳 子
近畿大学医学部 麻酔科学教室
マクロファージは, 化することにより組織障害
や再生に関与することが
中 尾 慎 一
髙 橋 英 夫
薬理学教室
れる.以上より,膜抗原の発現によるマクロファー
かってきている.M1 マ
クロファージは組織障害に関与し,M2 マクロファ
ジの効果について検討している.
ージは組織再生,修復に関与している.しかし,M 1,
メージ関連
M2 マクロファージといった
molecular patterns:DAM Ps)が放出され,これ
が免疫細胞の受容体に認識されることで炎症反応を
類では,膜抗原の発
現から えると説明しきれない.マクロファージの
化は Th1,Th2 環境に関連すると えられてき
た.これらシフトに関連するメディエーターである
細胞死や細胞の損傷が生じると,その細胞よりダ
子 パ タ ー ン(damage-associated
惹起する.DAM Ps の中でも近年注目されている
サイトカイン,オータコイドやエンドトキシンで刺
HMGB1は,細胞核内に局在する DNA 結合タンパ
ク質であり,組織損傷を受けた細胞から放出される.
激すると,M1 マクロファージ,M 2 マクロファージ
の膜抗原がともに増加したり,抗原発現パターンが
HMGB1 は組織障害だけでなく修復にも関連して
いると えられているが,まだその機序は明らかで
メディエーターによりそれぞれ異なっている.
また,
刺激濃度,時間依存性に関してもマクロファージ抗
はない.我々は,HMGB1 のマクロファージ 化に
対する作用を検討することにより,組織障害,修復・
原発現パターンは様々である.マクロファージの
再生機序における HMGB1 の関与を示唆する知見
化により免疫応答への関与の仕方が異なると えら
を得たので報告する.
4. IL-10ノックアウトマウスを用いた出血性ショック後の腎障害における
Heat Shock Proteins の検討
中 尾 隆 美
村 尾 佳 則
濱 口 満 英
平 出
丸 山 克 之
太 田 育 夫
植 嶋 利 文
敦
救急医学教室 救命救急センター
【はじめに】 出血性ショック後の腎障害において高
張食塩液と IL-10が関与しているかを検討し,IL-10
ノックアウトマウスでは腎障害が尿細管にて軽減さ
リンゲル液と脱血血液;2LR 群を作成し,無処置の
Control 群間での4時間・48時間後の BUN/Cre 値
れた結果が得られた.そこで我々は出血性ショック
ならびに Heat Shock Protein 群の発現を DAB 染
色行い検討した.
後の BUN/Cre 値ならびに Heat Shock Protein 群
の発現の関連性を検討した.
【結果】 wild type 群では出血性ショック48時間後
に IL-10ノックアウト群に比較して尿細管障害が多
【方法】 wild type の C57BL6/J マウスと IL-10ノ
ックアウトマウス(B6.129P2(IL-10)
)を用い,全
く認められた.BUN/Cre は4時間後に wild type
群が IL-10ノックアウト群に比較して有意に上昇し
身麻酔下に左大
動脈に PE10のカテーテルを挿入
ていた.HSP40と HSP70は尿細管に発現する傾向
し,ヘパリン100U/kg を投与後脱血し血圧を40±5
を示した.特に HSP70は wild type 群よりも IL-10
mmHg に60 保つ出血性ショックモデルを作製し
ノックアウト群において48時間後に多く発現してい
た.蘇生液として 4ml/kg の7.5% NaCl と脱血血
た.この発現によって HSPs が修復ならびに障害の
液;HS 群ならびに脱血血液の2倍量のラクテート
軽減に関与したと
えられた.
近畿大医誌(M ed J Kinki Univ)第34巻3号
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5. 高血圧による OA 変化:つくば高血圧モデルマウスを用いた検討
山岸孝太郎
墳 本 一 郎
井 上 紳 司
橋 本 和 彦
赤 木 將 男
整形外科
【目的】
諸家の報告により,高血圧患者は変形性関節症の
発症率が有意に高いことが既に明らかとなってい
る.しかし,未だその機序の詳細は不明である.今
OARSI score を用いて評価した.また,関節軟骨変
性をⅡ型,
Ⅹ型コラーゲンの免疫染色にて評価した.
【結果】
回我々は,レニンアンギオテンシン系(RAS)を人
コントロールと THM の両者とも,強制走行負荷
により内外側コンパートメントの変性は経時的に増
為的に亢進させたつくば高血圧マウス(THM )を
加した.内側コンパートメントでは,コントロール
用し,高血圧症と,関節軟骨変性の関連を組織学的
と THM で変性の程度に有意差を認めなかった,外
に明らかとすることを目的とした.
側コンパートメントは,2・4週間の走行負荷では
【方法】
変性の程度に有意差を認めなかったが,6・8週間
C57BL6/Jc1 マウスにヒト・アンギオテンシノー
ゲン及びヒト・レニンをトランスジェニックして得
の走行負荷後では OARSI score は THM 群がコン
トロール群より有意に上昇した.また,THM 群では
られる THM に,トレッドミルを用いて11m/ ×
コントロール群に比べ2型コラーゲンの発現が有意
15 の強制走行負荷を隔日で加えた(n=6)
.負荷
後,2・4・6・8週で 殺し,左膝関節を摘出し
た.サフラニンOとファストグリーンの重染色を施
行 し,内 外 側 コ ン パ ー ト メ ン ト の 関 節 軟 骨 を
に減少し,Ⅹ型コラーゲンの発現は増加した.
【結論】
RAS 亢進による高血圧症は,変形性関節症進行の
危険因子である可能性が示された.
6. 乳児の湿疹に対する早期皮膚治療による食物アレルギー発症予防の可能性」
山 崎 晃 嗣
竹 村
豊
長 井
恵
竹 村
司
近畿大学医学部 小児科学教室
【はじめに】 近年,食物アレルギーの原因としての
皮膚炎という構図(=経皮感作)が注目され,乳児
期の食物アレルギーとアトピー性皮膚炎の え方は
180度転換したとも言える.さらに,皮膚治療による
アレルギー一次予防の可能性も示される様になって
きた.しかし“いつから”皮膚治療を開始すれば良
いのかについてはいまだ明らかでない.
【目的】 乳児の湿疹に早期から治療介入することで
食物アレルギー発症予防が可能か検討する.
【方法】 対象は湿疹を主訴に来院した乳児66人で,
カルテを用いて後方視的に検討した.皮膚炎の治療
には,ステロイドを用いたプロアクティブ療法を実
施した.食物アレルギー診断は,特異的 IgE 抗体
(卵
白,牛乳,小麦,大豆)測定を行ない,感作が認め
られないものは基本的に自宅での摂取を指示し,確
定診断は自宅での摂取確認の問診,もしくは食物負
荷試験を実施し,診断した.1歳半時に卵,牛乳,
小麦,大豆アレルギー発症の有無を離乳食開始前と
えらえる早期介入群(生後1∼4か月,33人)と
後期介入群(生後5∼11か月,33人)に けて比較
した.
【結果】 特異的 IgE 抗体感作は,早期介入群で12人
が卵白,牛乳,小麦,大豆の全てにおいて認められ
ず,後期介入群ではそれは4例と少なかった.初診
時の TARC は早期群で中央値3176pg/ml で,後期
群では1939pg/ml であった.食物アレルギー確定診
断に,66例中34例(早期群10例,後期群24例)に対
し負荷試験を実施した.食物アレルギー発症は早期
群で4例で,それに対し後期群では11例と発症数が
多かった(P<0.05)
.
【 察】 早期介入群では多くが食物感作を認めなか
ったため,多様性のある食生活(除去食品のない食
生活)
を離乳食開始時から送っている可能性があり,
これが食物アレルギー発症を抑えた可能性もあり,
皮膚治療のみが今回の結果に寄与したかは不明であ
る.しかし,乳児の皮膚炎は「乳児湿疹」と診断さ
れ,自然軽快する疾患として積極的な治療対象とな
らない現状を えた場合,今回の我々の結果がそれ
を改める契機となりうる可能性が えられた.
【結論】 乳児の湿疹に対して早期から積極的に皮膚
治療を行なうことで,食物アレルギー発症を抑制で
きる可能性が示された.
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近畿大医誌(Med J Kinki Univ)第34巻3号 20A 2009
7. 早期再 極症候群患者の周術期発生頻度と心血管系イベント
北 浦 淳 寛
冬 田 昌 樹
稲 森 雅 幸
岩 元 辰 篤
鎌 本 洋 通
平
謙 二
中 尾 慎 一
近畿大学医学部麻酔科学講座
背景)
心電図上の早期再 極(ER:early repolarization)は, 康成人に認められる正常異型の一つだと
えられてきたが,しかし近年,早期再 極の部位
やJ点の増高程度,J波の有り無しにより,実は致
死的な不整脈を誘発する危険な心電図であることが
認識されだした.周術期,特に手術中や手術後は,
麻酔関連薬剤,手術侵襲や電解質異常などにより,
不整脈を惹起しやすい環境となっている可能性があ
る.本研究の目的は,各 ER 症候群の発生頻度と周術
期の心血管系イベントの関連を調べることである.
方法)
施設の倫理委員会の承認を得て,後ろ向きの検討
を行った.2012年1月から12月までの,心臓手術を
除く17歳以上の手術患者789名(57±17歳)を無作為
に抽出した.不整脈薬物治療や植え込み型除細動器
が装着されている患者は除外した.ER は J 点の0.1
mV 以上の上昇が2つ以上の誘導で認められるもの
と定義し,1. ER が側壁誘導(Ⅰ,Ⅴ4-5)に認め
られるもの( 康成人に多い)
,2. ER が下壁誘導
(Ⅱ,Ⅲ,aVF)に認められるもの(心室細動:VF
との関連が報告されている),3. ER が全誘導に認
められるもの(VF の発生率が非常に高い),4. ER
が V1-3 に認められる Brugada タイプの4群に
けた.
結果)
ER パターンを示したものは65人(8.2%)であり,
そのうちJ波も認めたものは16人
(2.0%)
であった.
J波を認めた,Ⅰ群7人
(0.9%)
,2群5人
(0.6%),
3群2人(0.3%)および4群2人(0.3%)であり,
このうちJ点上昇が0.2mV 以上のものは4群の2
例のみに認められた.この2例のうち,1例は,手
術中に特に誘引なく VF となり,もう1例は,手術
後にセプシスとなった時に,無脈性上室性頻脈症と
なった.
結論と 察)
J波のある2群や3群の患者も認められたが,J
点上昇0.1mV 以下であり問題はなかった.一般に
言われているように,ER の部位と0.2mV 以上の上
昇ということが危険であることが確認された.
8. 重症敗血症患者における心筋トロポニンTと臨床的重症度との関連について
田 端 志 郎
日 下 荘 一
吉 川
耳原
治
井 上 剛 裕
冬 田 昌 樹
合病院 ICU
【背景】 重症敗血症における敗血症性心筋障害の存
在が知られているが,心筋トロポニンT(cTnT)の
上昇と臨床的重症度との関連性については明らかで
はない.
【目的】 重症敗血症患者の cTnT 上昇が臨
床的重症度と関連しているかを検討すること.
【対
象】 2012年12月から2013年11月まで,当院 ICU に
重症敗血症のため入室した連続67例(男性39例,平
年齢73才)
.
【方法】 前向き観察研究.入室後72時
間以内に cTnT,PCT,BNP を測定した.臨床的重
症度は入室時 SOFA スコア,入室時 APACHE Ⅱス
コアとし,予後として ICU 死亡,28日死亡を調査し
た.cTnT≧0.100ng/ml 群
(P群)と<0.100ng/ml
群
(N群)
の2群に け,年齢,性別,PCT,BNP,
臨床的重症度,予後に差があるかを比較検討した.
【結果】 P群24例,N群43例.年齢74vs 73才(P=
0.67)
,男性50vs 63%(P=0.31)
,PCT6.79vs 5.57
,BNP720.1vs 213.9pg/ml(P=
ng/ml(P=0.77)
0.003),SOFA スコア10vs 7
(P=0.02)
,APACHE
Ⅱスコア22vs 18
(P=0.05)
,ICU 死亡率25vs 7%
(P=0.06)
,28日死亡率25vs 14%(P=0.32)と,P
群において有意に BNP が高く,SOFA スコアが高
かった.APACHE Ⅱスコアは有意ではないものの
P群で高い傾向を示した.ICU 死亡率は有意ではな
いもののP群で高い傾向を示し,28日死亡率には有
意差を認めなかった.cTnT に影響を与えると え
られた腎機能と心機能について後ろ向きに検討を加
えると,Cre2.02vs 0.99mg/dl
(P=0.0007)
,CKD
の 既 往33vs 12%(P=0.05),維 持 透 析17vs 2 %
(P=0.05),AKI46vs 44%
(P=0.90)
,CHDF13vs
14%
(P=1.00)
,心不全の既往29vs 23%
(P=0.59),
(P=1.00),左室収縮能障害62
IHD の既往21vs 19%
vs 34%(P=0.04)と,P群において有意に Cre が
高く,左室収縮能障害が多かった.CKD の既往と維
持透析は有意ではないもののP群で高い傾向を示し
た.
【 察】 敗血症においては cTnT の上昇は一般
的に認められ,冠動脈血流障害によるものではなく
サイトカインによる直接の心筋細胞障害が機序とし
て えられている.本研究において P 群で BNP が
高く,左室収縮能障害をより多く認め,cTnT の上昇
は敗血症性心筋障害の存在を示していると えられ
た.また cTnT 上昇の一因に CKD が寄与している
可能性が えられた.
【結論】 重症敗血症患者にお
ける cTnT は敗血症性心筋障害を反映していると
えられ,臨床的重症度と関連している可能性が示
唆されたが,予後との関連性は明らかではなかった.
近畿大医誌(M ed J Kinki Univ)第34巻3号
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9. 化学物質過敏症患者の揮発性有機化合物への曝露と症状との関係について
水 越 厚
萬 羽 郁 子
東
賢 一
奥 村 二 郎
環境医学・行動科学教室
化学物質過敏症の発症や症状発現の原因物質とし
て心拍変動を測定し,自律神経機能を評価した.患
て,揮発性有機化合物(VOC)への曝露が えられ
ている.病態の解明,症状の予防のためには,VOC
者8名に対して,症状自覚時と通常時で比較したと
曝露と症状の関係を調査することが重要であるが,
有意ではないが症状自覚時に TVOC 濃度または
このような研究は稀である.本報では,化学物質過
敏症患者の VOC への曝露と症状の関係について調
TVOC 濃度の変化量が大きく,曝露と症状に関連が
あることが示唆された.心拍変動に関しては,症状
査した研究についてレビューした.
自覚時に副
ころ,1名を除く全ての被験者において,統計的に
感神経の指標である HF が低下する
被験者が多い(8名中6名)一方,2名の被験者は
篠原ら は,ポンプを用いたアクティブ法とパッ
シブサンプラを組み合わせた AS/PS 法により,症
状発現時の平 濃度と日常生活における平 濃度を
HF が上昇していたことから,症状自覚時による自
律神経活動の変化は患者によって異なる可能性が
比較し,症状を引き起こしている VOC を同定した.
えられた.
その結果,患者によって症状を示す VOC は異なり,
どちらの手法も,患者によって様々な傾向が確認
しばしば室内濃度指針値よりも低い濃度で症状が発
されたことから,これらの測定を患者に対して行う
現時していた.また,日常生活の平 濃度は 常者
ことで,患者それぞれの病態を把握し,症状の予防
よりも低く,患者は VOC を避けて生活しているこ
の対策を立てるのに役立つ可能性がある.
とが示唆された.一方,水越 は,化学物質過敏症の
参 文献
症状は曝露後,瞬時に起こることが多いことから,
リアルタイムでの VOC への曝露と症状の関係を調
べることを目標とし,VOC モニタを用いて TVOC
曝露濃度の経時変化を測定し,同時に心電計を用い
1. N. Shinohara, et al., Journal of Exposure
Analysis and Environmental Epidemiology, 14,
84-91, 2004
2. 水越厚 ,東京大学学位論文,2008
10. 輸血・細胞治療センター技師による中央手術部における業務支援の取り組み
加 藤 祐 子
福 島 靖 幸
金 光
川 野 亜 美
靖
山田枝里佳
田 隆 司
村
井 手 大 輔
菅野知恵美
到
輸血・細胞治療センター
中央手術部の検査室の業務は中央臨床検査部の技
検,⑩業務時間の拡大など.
師によって行われていたが,平成23年2月から輸
中央手術部において輸血専任技師が業務を行うこ
血・細胞治療センター技師(輸血専任技師)が行う
とによって,術中大量出血時の情報 換がスムーズ
ことになった.従来の業務内容は,血液ガス・血中
になり,迅速な血液の確保ができるようになった.
マグネシウムイオン・血漿タンパクの測定および測
また,未 用の血液製剤の返却は従来中央手術部の
定機器
(血液ガス:ABL800FLEX 2台,血中マグネ
看護師が行っていたが,輸血専任技師が行うことに
シウムイオン:NOVA 1台)の管理とメンテナンス
より,血液製剤の回収が円滑になり,院内の在庫の
であった.
管理も容易になった.さらに新鮮凍結血漿の解凍や
平成25年7月からは従来業務に加えて,輸血専任
技師の特性を生かすために以下の業務を追加した.
アルブミン製剤の管理を輸血専任技師が行うことに
よって安全性が向上した.
①中央手術部に出庫された血液製剤の受取および管
手術中の出血やショックに対する血液製剤の円滑
理,②各ルームへ血液製剤の搬送,③術中大量出血
な供給は患者の予後を左右する.輸血・細胞治療セ
時の情報 換,④未 用血液の返却,⑤新鮮凍結血
ンター技師が,血液製剤の 用量の多い中央手術部
漿の解凍,⑥定数配置アルブミン製剤の点検および
において検査業務を担当することは,付随する輸血
管理,⑦術中 用アルブミン製剤の事後 用処理,
関連業務に貢献でき,
非常に有用であると思われた.
⑧フィブリングルーの解凍,⑨血液保冷庫の温度点