外形標準課税導入論議

【視点・論点】
【視点・論点】
外形標準課税導入論議
政府が導入を目指している「法人事業税への外形標準税制導入」は、2001年度税
制改正では実現しなかったものの、政府与党でも消費税率の見直しや相続税制の改正な
どと並んで重要な税制改正の論点に位置づけられている。2001年においては、夏の
参議院選挙を睨み、税制改正論議を展開することは極めて難しい政治環境にあるものの、
2002年度税制改正さらに来年に予定される統一地方選挙の争点として大きな位置
を占めざるを得ない。現行の法人事業税が原則として法人税同様、所得課税であるのに
対して、外形標準課税は法人の外形的事業活動の規模等を基準に課税する仕組みである。
この外形標準課税に対する政府の基本的な考え方は、政府税制調査会地方法人課税小委
員会報告(99年7月9日)〔http://www.mha.go.jp/news/990910.html〕で提示されて
いる。外形標準課税で適用される外形基準としては基本的に次の4形態が考えられる
(図表1)。
(図表1)外形基準の基本形態
事業活動価値
利潤・給与総額・支払利子・賃貸料等により算定。法人事業税の全
体を事業活動価値によって課税
給与総額
給与総額を事業活動価値の代表的代理変数として活用。所得課税と
併用する方法が一般的
物的人的価値
事業所の床面積・資産価値など物的基準と給与総額など人的基準を
組み合わせる。所得課税との併用が一般的
資本等の金額
事業所数や従業員数を加味しつつ資本金等の金額により算定。所得
課税等との併用が一般的
法人事業税への外形標準課税導入の理由については、①地方自治体が提供する行政サ
ービスへの対価としての性格(応益税)を持つことから受益と負担の接近及び税の性格
付けの明確化が図れる、②欠損法人への課税を行うことで行政サービスへの対価として
の性格を有する法人事業税の公平性を確保できる、③所得課税たる従来の法人事業税に
比べて税収の安定的確保が可能となる、④事業の規模など外形基準によって課税するた
め企業経営の効率化に繋がる、⑤資本取得控除制度の導入等により設備投資を促進する
ほか、所得課税方式に比べ企業にとって納税額が予測しやすい、などが上げられている
(諸外国の例については、税調委員海外調査報告〔http://www.mha.go.jp/news/990910c.html〕
等参照)
。
一方、反対意見としては、①労働集約型産業や低付加価値産業への重税感が大きい、
②地方自治体間の財政力格差を生む原因となる、③新規創造型産業の育成に反する、
④行財政改革等による経費削減に努力すべきである、などの理由が提示されている(2
「PHP 政策研究レポート」
(Vol.4 No.46)2001 年 1 月
2
000年7月6日経済五団体意見、同年9月21日日本商工会議所第92回通常会員総
会決議等)〔http://www.jcci.or.jp/nissyo/iken/G-000706.html〕
。
法人事業税外形標準課税に関するシミュレーションには様々あるが、99年5月に東
京税理士会等が行ったものは基本形といえる。同シミュレーションは、外形標準モデル
を4種類に分けて行っている〔http://www.alpha-web.ne.jp/tozei/1/anketo1.html〕
。
法人事業税の外形標準課税問題は、国と地方、大企業と中小企業、雇用構造とも密接
に関連した課題であり、行財政そして税制全体を視野に入れ、充分な情報共有の下で議
論する必要がある。アダム・スミスは「国富論」のなかで政治経済学の目的を、第一に
国民が充分な収入や消費財を自分で調達できるようにすること、第二に公共社会(国や
地方自治体)に対して、公務の遂行に充分な収入を提供すること、としている。この二
つの目的から、政治経済学は国民と公共社会(施政者)をともに富ませることを目指し
ているといえる。そして、この両者の実現には、功利とくに公共的功利の存在が必要で
あり、その存在には施政者の政策に対する信頼性が不可欠となる。
「PHP 政策研究レポート」
(Vol.4 No.46)2001 年 1 月
3