別紙1 案件概要表 1.案件名 国 名:コソボ共和国 案件名:和名 コソボ国営放送局能力向上プロジェクト 英名 The Project for Capacity Development of Radio Television of Kosovo (RTK) 2.事業の背景と必要性 (1) 当該国におけるメディアセクターの開発実績(現状)と課題 コソボでは 1999 年に国連コソボ暫定行政ミッション(UNMIK)による統治が始まって以降 も、TV・ラジオの報道・番組制作において、セルビア人等少数民族への憎悪を煽る所謂「hate speech」が多く見られたことから、同ミッションがメディア規制機関として、「Temporary Media Commissioner(TMC)」を設置。2005 年には、TMC が活字メディアを規制する「プレス 評議会」と放送メディアを管理する「独立メディア委員会(IMC)」に分割され、それぞれの 倫理綱領に基づいて、自由・公正なメディアの育成に努めてきた。しかし、独立宣言(2008 年 2 月)前後の民族意識の高まり、強権的指導者の権力独占状態がメディアの健全な育成を 阻んできた。 また、国の規模に比してマスメディアの数が多く、市場が吸収できる規模を遥かに超えて いる状況も問題を複雑化している。現在、コソボにはコソボラジオ・テレビ局(RTK)のほか、 全土をカバーする TV 局 3 局(「ラジオ TV21(RTV21)」、Kohavision(KTV)及びケーブル局 の「Klan Kosova」)、地方 TV 局 21 局、ラジオ局 83 局の計 108 局があり、日刊紙も 8 紙刊 行されている。近年、安定した GDP 成長率(2013 年 3.0%、2012 年 2.7%、2010 年 3.2%) を達成しているが、失業率は 30%(2012 年)と依然として高く、特に若年層(15-24 歳)の 失業率は 55%(2012 年)と深刻であり 1、人口約 185 万人 2という市場規模が小さい中で、限 定された広告収入を多くの商業メディアが獲りあう状況が続いている。紛争直後は二国間ド ナーや国連開発計画(UNDP)等からメディアに対する支援も多かったが、独立後、資金提供 が漸減する中で、メディアが生き残りを賭けて利益グループ、政治勢力等に依存するように なり、ジャーナリズムの機能はさらに低下しつつある。 このような状況の中、公共放送法(Law No.04/L-046 on Radio Television of Kosovo、 2012 年)が採択され、RTK は民族の分け隔てなく、すべての国民に正確・中立・公正な放送 サービスを提供する使命を果たすことが求められることとなったが、 かつて「政府の広告 塔」だった RTK への政府の介入は今なお深刻である。 他方、国連加盟国の多くがコソボを国家承認していないことから、未だ国連に未加盟のコ ソボは他の国際機関にも受け入れられておらず、 放送・通信分野では国際電気通信連合(ITU) に未加盟であることが、周波数の新たな割り当てを阻む障壁となっている(現在コソボで使 用されている周波数帯は独立前にセルビアに割り当てられたもので、 あくまでもセルビア国 1 2 出所:世界銀行 出所:CIA、2014 年推定値 1 内の放送局としての扱い)。 また、コソボでは ITU の「GE06 プラン」3に基づき、IMC が地 上波デジタル放送への移行に向けた戦略計画を策定したが 4、財政難から独自にデジタル化 に対応できる放送局は限定されている。RTK においても財政面の問題に加え、アナログ停波 が予定されている 2015 年 6 月 17 日までに、 技術運用面でもデジタル化に対応する必要があ るなど、職員の能力向上が喫緊の課題となっている。 従って、これらの課題に起因する、RTK のテレビ放送番組の質の停滞は、公共放送局とし て正確性・中立性・公正性な情報を提供する使命を実現する上での中心問題であるといえ る。 (2) 当該国におけるメディアセクターの開発政策と本事業の位置づけ コソボ政府は「国家計画 2011-2014 年」(The Program of the Government of the Republic of Kosovo 2011-2014 5)の中で、「ガバナンス及び法の支配の強化」に加え、通信分野の整 備を含む「持続可能な経済開発」等を戦略目標として掲げている。RTK ではアハティサーリ 案や「コミュニティ及びその構成員の権利に係る法律」に基づいて策定された公共放送法の 下、 セルビア系住民をはじめとするマイノリティの言語で放送する第 2 チャンネルを設立す ることを通し、マイノリティによる公共放送へのアクセスの充実を目指している。 他方、同法は、RTK が受信料回収方法を新制度に移行するまでの 3 年間、政府からの補助 金で運営することを規定しており、さらなる政治介入が懸念される。独立性及び中立性 を 確保するためには、放送番組の視聴率を上げて広告収入を増加させる等、独自財源の確保を 可能にする持続的かつ多様な手段が求められている。 本事業は、RTK においてテレビ放送番組の質を向上させることを目指すものであり、独立 公共放送局として、すべての民族に正確・中立・公正な情報を提供する役割を果たし、コソ ボのマスメディアにおけるモデルとなることが期待される。 (3) メディア支援を通じた平和の定着に対する我が国及び JICA の援助方針と実績 RTK において正確・中立・公正かつ民主的な公共放送を保証する能力向上を目的とする本 事業は、「対コソボ共和国援助の基本方針」に掲げる大目標「持続可能な国造りに向けた経 済・社会基盤の安定化」のなかで、重点分野「行政能力の向上と人材育成」に位置づけられ、 コソボにおいて健全なメディアが育成されることにより、ジャーナリズムを通じた法の支配 や汚職防止、民主化促進、民族間の信頼醸成、平和の定着に資するものである。 (4) 他の援助機関の対応 欧州安全保障協力機構(Organization for Security and Cooperation in Europe: OSCE)、 UNDP、欧州放送連合(European Broadcasting Union: EBU)、米国国際開発庁(United States Agency for International Development: USAID)等がジャーナリスト育成やマイノリティ・ 3 ITU では、欧州、アフリカ、一部の中東エリアにおける地上波デジタル放送のチャンネルプランとして「GE06 プラン」 が合意され、2015 年 6 月 17 日までにアナログ放送からデジタル放送に移行(アナログ停波)することが勧告されてい る。 4 Draft Strategy Transition From Analogue to Digital Broadcasting in Republic of Kosova, December 2012(IMC) 5 The Program of the Government of the Republic of Kosovo 2011-2014, Office of the Prime Minister (P.16,21) 2 メディア支援等を実施していることから、情報共有を図ることで、コソボにおいて健全なメ ディアがより効果的に構築されることが期待される。 3. 事業概要 (1) 事業目的(協力プログラムにおける位置づけを含む) 本事業は、プリシュティナにおいて、RTK 職員のテレビ放送機材に係る運用能力及び維持 管理能力の強化、および RTK 職員のテレビ番組制作能力及び報道能力の強化を行うことによ り、RTK のテレビ放送番組の質の向上を図り、もって RTK がコソボにおけるすべての民族に 対し、正確・中立・公正な情報を提供するマスメディアのモデルとなることに寄与するもの である。 (2) プロジェクトサイト/対象地域名 プリシュティナ市の RTK 本部 (3) 本事業の受益者(ターゲットグループ) 直接受益者:RTK 1TV(主にアルバニア語放送)RTK 2TV(セルビア語及び少数民族言語放 送)の技術職員、番組制作職員、報道職員 最終受益者:RTK の他部局、コソボのテレビ視聴者、放送メディア (4) 事業スケジュール(協力期間) 2015 年 5 月~2017 年 4 月を予定(計 24 カ月間) (5) 総事業費(日本側) 約 1.8 億円(予定) (6) 相手国側実施機関 コソボラジオ・テレビ局(RTK) (7) 投入(インプット) 1)日本側 ① 専門家派遣:放送機材運用・維持管理(7M/M)、報道・番組制作(14M/M) ② 本邦研修:合計 5 名程度(番組制作分野) ③ 機材供与:編集機材等 ④ 現地活動費 2)コソボ国側 ① カウンターパート配置:約 26 名(プロジェクトダイレクター 1 名、プロジェクト マネジャー 1 名、その他の合同調整委員会(JCC)メンバー 約 7 名、ワーキング グループ(WG)1 技術職員 約 8 名、WG2 報道・番組制作職員 約 9 名) ② 施設と機材:日本人専門家の執務スペース、ワーキンググループ活動のための会議室 3 /セミナールーム、活動で使用する放送機材等 ③ ローカルコスト:活動に参加する RTK 職員の人件費、活動で利用する RTK 施設・機材 の維持管理費等 (8) 環境社会配慮・貧困削減・社会開発 1) 環境に対する影響/用地取得・住民移転 ① カテゴリ分類:C ② カテゴリ分類の根拠 本事業は、「国際協力機構環境社会配慮ガイドライン」(2010 年 4 月公布)に掲げる 影響を及ぼしやすいセクター・特性および影響を受けやすい地域に該当せず、環境への望 ましくない影響は最小限であると判断されるため。 2) ジェンダー平等推進・平和構築・貧困削減 実施プロセスを通し、ワーキンググループ、番組制作の対象地域やグループ等の選定の 際は、民族構成を平等に保つよう配慮する。 (9) 関連する援助活動 1)我が国の援助活動 JICA がコソボに派遣している援助調整専門家との情報共有を密に行い連携を図る。 2)他ドナー等の援助活動 ジャーナリスト育成やマイノリティ・メディア支援を実施している OSCE、UNDP 等と本 事業により作成するアクション・プランやガイドライン等を共有し、RTK による公共放送 サービスの取組みを広く周知する。また、番組審議会を外部メディア専門家で構成する際 は、これらの援助機関へ参加協力を依頼し、国際的な知見及び中立的な観点から助言を得 ることでより質の高い番組の制作を導く。 4.協力の枠組み (1) 協力概要 1) 上位目標: RTK がコソボにおけるすべての民族に対し、正確・中立・公正な情報を提供するマス メディアのモデルとなる。 指標 1:公益に係る情報の提供に際し、RTK が最も信頼されるメディアとなる 6。 2) プロジェクト目標: すべての民族に正確・中立・公正な情報を提供するための独立公共放送局として、RTK のテレビ放送番組の質が向上する。 指標 1:RTK 内の運用不備による放送事故件数が減少する。(ベースライン(月・年 6 多民族社会における公共放送の正確性・中立性・公正性といった繊細な要素を含む変化に関する指標については、中 立且つ客観的な立場から外部メディア専門家の意見などをもとに測る。 4 あたり)●●件⇒目標値:●●件) 指標 2:「RTK において独立した編集権を持って番組を制作する手順が遵守されてい る」と回答する番組制作・報道職員の割合が増加する。 (ベースライン●●% ⇒目標値:●●%) 指標 3:番組審議会による RTK 番組の「正確性」「中立性」「公正性」の観点からの 質の評価が上昇する。 3)成果 成果 1:RTK 職員のテレビ放送機材に係る運用及び維持管理能力が強化される。 成果 2:RTK 職員のテレビ番組制作能力及び報道能力が強化される。 4)活動 1-1: WG1 が、日本人専門家と協力し、RTK のテレビ放送機材に係る運用及び維持管 理システムの現状分析を行い、課題を特定する。 1-2: 1-1 を踏まえ、WG1 が、日本人専門家と協力し、RTK のテレビ放送機材に係る 運用及び維持管理システムを改善するためのアクション・プランを作成する。 1-3: 1-2 で策定されたアクションプランに基づき、 WG1 が、 日本人専門家と協力し、 技術職員のための OJT を行う(運用管理簿の作成含む)。 2-1: WG2 が、日本人専門家と協力し、RTK における番組制作の現状分析を行い、課 題を特定する。 2-2: 2-1 を踏まえ、WG2 が、日本人専門家と協力し、「正確・中立・公正な番組制 作のためのガイドライン」を作成する。 2-3: 2-2 で作成するガイドラインを活用し、WG2 が、日本人専門家による OJT を通 じ、国民への正確・中立・公正な情報の提供を目的とする時事番組を制作す る。 2-4: WG2 が、日本人専門家と協力し、番組審議委員会を設置する。 2-5: 番組審議委員会が、2-3 で制作した番組を審議する。 5.前提条件・外部条件 (リスク・コントロール) (1) 前提条件 ・ RTK をすべての民族のための公共放送局にするという政策が維持される。 (2) 外部条件 ・ プロジェクト期間を通し、同じワーキンググループメンバーが継続して活動に取り 組む。 ・ コソボ政府による通信・放送インフラ整備の取組みが継続される。 6.評価結果 本事業は、コソボ国の開発政策、開発ニーズ、日本の援助政策と十分に合致しており、 また計画の適切性が認められることから、実施の意義は高い。 5 7.過去の類似案件の教訓と本事業への活用 (1) 類似案件の評価結果 「ネパール国平和構築・民主化促進のためのメディア能力強化プロジェクト(技術協力 プロジェクト、2010 年 11 月~2013 年 10 月)」の教訓では、ラジオネパールにおける公共 放送化に向けた組織強化活動の主体となるべきカウンターパート間で方向性に関する認識 共有が不十分である等という問題が、プロジェクト前半に発生したが、その後、JICA 専門 家により積極性の高い者をワーキンググループのコアメンバーとして特定したことで、カ ウンターパートによるより積極的かつオーナーシップの高い活動の展開につながった。 (2) 本事業への教訓(活用) 本事業においては、公共放送局として番組制作手法や放送機材の運用・維持管理のノウ ハウの定着と継続的運用の保証が求められることから、初期段階からカウンターパートの コミットメントを高め、関係者間の意思疎通を促し、活動の遅延などが発生しないよう、 プロジェクト開始に合わせ、各分野のワーキンググループを設置し、現状調査及びアクシ ョン・プラン策定等についてもワーキンググループを主体とした活動をプロジェクト計画 に反映させた。 8.今後の評価計画 (1) 今後の評価に用いる主な指標 4.(1)のとおり。なお、評価のベースとなる指標の数値を決定するため、プ ロジェクト開始後なるべく早期にベースライン調査を行う。 (2) 今後の評価計画 事業開始 3 か月以内 ベースライン調査 (3) 実施中のモニタリング計画 事業開始 3 か月後、1 年後:JCC における相手国実施機関との合同レビュー 事業終了 3 ヶ月前:終了前 JCC における相手国実施機関との合同レビュー 9.広報計画 (1)当該案件の広報上の特徴 1)相手国にとっての特徴 RTK は公共放送局化に向けた改革を行っている最中であるため、当該案件を紹 介することにより、自らの取組みを対外的にアピールするインセンティブは 高い。また、当該案件はメディアを対象とした協力であるため、協力対象で ある RTK を利用した広報が可能。 2)日本にとっての特徴 コソボにおける健全なメディアの育成を目指す本事業は日本にとっても関心 の高い事項であり、民主化促進に向けた日本の取組みに焦点を当てた広報が 6 可能。 (2)広報計画 プロジェクト開始時や機材供与時等において、専門家を通じ、RTK による当プロ ジェクトの広報を促す。 当該案件の活動で制作される番組の中で、日本(JICA)の協力で作成されたもの であることを明示する。 ウェブサイトを立ち上げ、プロジェクトの活動内容を発信する。 以上 7
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