実績報告 - 富山大学 芸術文化学部

様式9(第11条第1項関係)
(別紙1)
補助事業の実績
本補助事業の目的は、「学内を学生作品で埋めつくそうプロジェクト」を効果的に継続・発展させ、
これを学外連携へと展開し、本取組みに還元し得るしくみを構築することにある。そのため、本年度
(平成 17 年度)は、まず、取組の継続・推進に加え、教育成果や資料の蓄積と教育資産の可視化、
実習教育環境の充実など学内整備基盤のさらなる充実を図った。さらに、取組の舞台を学外にも広げ
るよう、第三者評価や特別授業に工夫を凝らし、地域との連携授業のためのデータベースを構築する
ことで、本取組の運営構造をより強固なものにした。また、最終年度であることからフォーラムを開
催し、本取組の外部への公表と連携への足がかりを強固なものとした。
具体的な事業実績は以下の通りである。
1.学内を学生作品で埋めつくそうプロジェクトの継続・推進
(1)学生作品の制作支援として、材料や作品配置場所を提供し、学内を舞台に
したものづくり授業を継続した。また、新たな試みに地域企業・行政の要請を
受け、それを課題(条件)としたものづくり連携授業や応募企画を支援した。
・「洗心苑(本学宿泊施設)のための家具製作」授業名「家具製作」
本科 2 年生 13 名(電話台、ゴミ箱、作品パネル、傘たて等 13 点)
・「中庭タブの木のイルミネーションデザイン」授業名「CG 演習」
本科1年生 60 名(学生デザインした中から 1 点を選び中庭タブの木で実現)
・「ディスプレーボックスの制作」(量産授業)授業名「特別講義」
専攻科 1 年生 7 名(各教員室前に取り付け)
・「顧客へ渡す気の利いた小物」(地元企業からの課題)
授業名「複合造形」専攻科1年生 22 名
・「高岡道の駅モニュメント」(高岡市役所からの課題提案)
学内応募、ノミネート 17 名(市民会議メンバーによる審査で 1 点を決定)
(2)9 名の講師による実践的な特別講義や第三者評価を実施した。
(詳細は、外部への拡大とも関係するため地域連携基盤作りの項で)
2.知識や技術等の視覚化(可視化による教育支援)
(1)学生作品の写真パネル製作・展示活動では、平成 16 年度に引き続き、
各教員が保存していた学生作品の画像データを集め、その中の優秀作品を
写真パネル(33 枚)にして、大学食堂など学内壁面に設置した。
(2)目に見えて触れることができる教材の可視化を目指し、作品見本の製
作・購入することで、発想を促す教材を充実させた。
(四方盆工程見本・ジグ一式、逢引き完成品・材料とジグ一式、木象嵌見本、
北欧家具(7 点)、北欧生活用品(28 点)ヤイリギター一五一会・音来、
ギター内部部品展示パネル、漆手板展示用バネル、鏨見本(寄付)、
鋳造技法による加工見本、パソコン内部展示標本制作 ネーム:「ミルパソ」)
(3)学生作品・制作技術、道具、学習環境整備などの情報のデジタル化を
図り、データベース制作に利用した。こうして可視化された教材が新たな
発想を促す役割を果たすことを狙いとした。
3.実践的で安全な教育環境の充実
加工機械の導入に伴い、授業時間(加工機械の安全操作、木工機械での加工等)
以外にも実際に機械を取り扱う際には各々に取り扱い方法を説明し、安全への意
識高揚に勤めている。また、安全な環境への配慮として、新たに救急箱を各実技
室に設置したり(10 個)、加工機械用の手元照明 13 台を購入したり、より快適な
作業環境づくりを行った。
右図は、安全性と同時に作品教材にもなるように精密に制作した刃物棚である。
4.生活者意識等の実態調査
利用者を意識した視覚化とその展示方法の調査を5名の教員が博物館や学校、病院、動物園など
10 箇所にわたり実施した。また、北欧(スウェーデン)における大学、工房、商店などを訪ねて美
術的水準の高い生活者意識がどのような環境で育成されるのか、また、ものづくり現場において、
知識や技能をどのように可視化し利用されてきたのかという点について調査した。これらの調査に
より、快適な環境と展示の関係、生活者意識の醸成などを把握し、本学における取組の改善に反映
させた。各調査は報告書にとりまとめて、本事業の資料とした。
5.地域連携基盤作り(学外への展開へ)
(1)本補助事業では、プロジェクトの継続・推進に加え、地域への発展を
念頭に社会性を加味したものづくり教育を目指してきた。そのため、多様
な専門家による第三者評価・特別講義・特別講演の実施を推し進めた。
・「社会性を持ったものづくりの重要性」作品発表講評
授業「複合造形」専攻科 1 年生 22 名、教員 3 名
講師 ㈱オフィスオクト代表 高橋百合子氏/マーフィー株式会社社長 藤重嘉代子氏
・「木工手道具に込められた工夫と手仕事の重要性について」実演・講義
合名会社 井上刃物店 代表社員 井上時夫氏
・「素材を切る -鋭利な刃物での切削と仕上がりの美しさ-」実演・講義
授業「手道具での加工」本科 1 年生 17 名、教員 2 名
講師 割烹魚八店主 布野一博氏
・「ナイフ制作の魅力-ナイフスタイルの多様性と制作技法について-」実演・講義
授業「造形工芸実習」専攻科 1 年生 11 名、教員 2 名
講師 宗像市立地島小学校教諭 篠崎暁生氏
・「漆工芸沈金技法の魅力と漆器普及の意義について」実演・講義
本科 2 年生、専攻科 1 年生(漆工芸専攻者)講師 山岸一男氏
・学内展示作品の評価
評価者 Laurentian-University Prof.Richard R.Danielson
Danielson-Research Consultants Karen F.Danielson
・特別講演「「トップスイマーから水の導化師へ―作品づくりと表現へのこだわり―」
対象 教職員及び学生(学内者 48 名、一般8名)
講師 オフィス トゥリトネス代表 不破央氏
(2)本取組を学外へ展開し、大学と地域の連携授業を推進するために、
データベースを構築した。当初、まず外部情報の収集を予定していたが、
学生作品、作品制作の工程、作業環境のカテゴリー検索を優先し、本取組の内容を外部に発信する
基盤を作った。一方で、学内者であってもパスワード入力しなければならないシステムとし、個人
情報保護にも配慮した。(http://waza.takaoka-nc.ac.jp/ tcumet/login.php)
(3)大学と地域の連携の拠点として、インキュベーション施設(独立工房ウロジ)と連携をとり、
本事業に関わる作品の依頼、地域からの要請と大学教育との共同活動を試みた。
(本事業の意見収集箱(オピニオンボックス)、救急箱(10 個)、ギター部品見本パネル、他学科(当時別大学)
国際交流トロフィー、アンケートボックスなど5種の製作)
6.成果のまとめ、報告(成果の公開・アンケート調査による評価)
(1)本事業の実施内容は、富山大学高岡キャンパス内にある学生作品や写
真パネルの常時展示と日常的利用によってだれもが確認することができる。
その他にも、作品展示の開催(6 回:下記)、活動発表(3 回)、報告書、
Web ページ(http://www.tad.u-toyama.ac.jp/tnc/edgp/GP/)で随時公開してきた。
本事業の総まとめと今後の継続した活動の基盤作りとして、平成 18 年
3 月に他 GP との共催で、フォーラム「学外から地域そして世界へ−もの
づくり教育におけるキャンパス社会化を目指して−」を開催した。
・写真パネル展示(高岡市ウィングウィング)、(富山銀行本店)
・洗心苑のための家具展(家具制作展)(富山大学高岡キャンパス TSUMAMA-HALL)
・イルミネーションデザイン in 05 クリスマス(中庭タブの木)
・イルミネーション応募作品展示(富山大学高岡キャンパス TSUMAMA-HALL)
・フォーラム作品・可視化教材展示(富山大学高岡キャンパス TSUMAMA-HALL)
(4)本取組への評価の一つとして、学内にてアンケートを実施した。対象は取組参加学生(作り手)
と一般学生および教職員(使い手・生活者)である。実施時期は 2 月 15 日∼2 月 28 日で、回収数は、
作り手 20 名(全員)、使い手 136 名であった。
調査の結果、作り手としての評価(取組参加学生)では、本取組に参加したことにより、「使いに
くい環境に気づくようになった(85%)」「利用者や配置場所のことを考えるようになった(85%)」な
ど環境やユーザへ意識が向けられるようになっている。また、「共同作業時のコミュニケーションの
重要性を実感した(85%)」、「デザインなどへの学習意欲が高まった(70%)」など学習への効果もみ
ることができる。全体評価としては、今後も「授業を継続してほしい(86%)」との意見が多くあった
一方で、「使った人の意見をもっと聞きたい」、「他コースが参加しやすい授業にしてほしい」など
の要望も寄せられた。
使い手としての評価(一般学生、教職員)では、学内の学生作品に、「学内をアットホームに感じ
る(88%)」「大切にしたい」「心地よさを感じる」などには、学生、教職員を問わず多く回答があっ
た。「学生作品に日常的に触れる喜びを感じる」、「学生が何を学んでいるのかがわかりやすい」と
いうコメントも多い。卒業した学生の作品写真パネルについては、全体に「学内がにぎやかでよい
(85%)」が多く、特に産業造形学科生からは「先輩の作品に刺激を受ける」に多く回答が寄せられた。
教職員からは「大学の軌跡を見るようである」との意見もある。
また、本取組に対しては、作り手学生と同様に「今後も継続してほしい(85%)」が一番多い回答
であったが、「大学全体をコーディネートした作品づくり」や「大学内だけでなく大学周辺にも展
開してほしい」などの要望・改善点などもあった。
補助事業に係る具体的な成果
本年度においても、基本的な事業活動計画を順調に進めることができた。具体的な成果として挙
げられる点は以下である。
1.取組継続の成果(授業を進化させる仕組みの構築、授業参加意欲の向上)
学内に設置するための作品制作授業では、大学全体の支援体制(材料や作品設置場所の提供、受
注生産方式、原価計算による予算だて、複数教員の共同授業支援、全学的引渡しセレモニーの実施
など)を、より効果的なものとして充実させることが出来た。
アンケート調査でも明らかなように、授業に参加した作り手側の学生は、「もの」を制作・配置
してその人の生活環境に変化を加えようという作り手の基本的使命感を自覚し、制作した後どのよ
うに使っているのかを考えるようになった。また共同でものをつくる際のコミュニケーションの難
しさを実感し、制作を通して「やりがい」、「生きがい」の具体性を実感すると同時に、今後の学
習意欲・就職意欲を高めていった。
2.知識や技術等の視覚化(授業を進化させる仕組みの構築)
過去の学生作品の写真パネル展示は、大学の教育成果を財産として再認識する機会となった。ま
た、それを日常的に目にする学生にとっては、新しい発想を生むヒントとなっている。実際に、学
内に展示された写真パネルを見て、大学の絵葉書などを飾るボード作品への発想に結びつけた学生
が出るなど、写真パネルという形で可視化した情報によって、新しい発想を導くという狙いは効果
を上げつつある。さらに大学を訪れるさまざまな人の目に触れ、本学の教育内容の一端をアピール
する道具として、また大学の教育活動を知るための情報として役割を果たしている。工芸技法を加
工工程順に制作した見本は、実技指導の現場で利用すると「分けて示すことがよく分かることに有
効である」という認識を深め、各教員の技能開示や、教育資産の再利用に対する意識変化をもたら
した。
3.実践的で安全な教育環境の充実(効率的で安全な実践教育の促進)
安全な加工機械や作品設計用PCなどにより、効率的で安全な実践型教育が促進され、実社会と
同スケールのものづくり教育や、職場での安全意識を大学教育の場で意識させることができた。ま
た、各実技室に救急箱を設置したり、手元に明るい照明を取り付けたりするなど、安全で使いやす
い環境を整えることで、学生の作業環境と安全意識を高めている。
4.生活者意識の実態調査(使い手/生活者意識の育成)
国内外の調査により、どのような展示方法や見せ方、作り方が使い手や生活者にとって心地よい
のか、よい環境を意識することに有効なのかなどについて、指導者である教員の意識が高まったと
同時に、自らが提案できる使い手育成を検討する1つの材料となった。
実際に、使い手側の変化としては、学生作品に(ゴミ箱)の上に花を生ける学生が現れたり、談
話室のテーブルが設置されたことでその周りの環境の悪さに気づき、新しいカーテンが取り付けら
れたりするなど、学生のみならず教職員全体に環境への意識が高まったといえる。また、空き時間
の居場所が増え、思い思いに過ごす姿が学内に活気をもたらし、さらに不便に気付いて改善を求め
る声が多く聞かれるようになるなど、使い手の側にも環境に対する関心が高まった。こうした動き
をきっかけに要望や提案の意見箱が設置された。
また、アンケート結果においても、同様に作り手の使い手への配慮や使いやすい環境への気づき
が見られ、使い手は学内をアットホームに感じるなど、生活者意識醸成の端をみることができる。
5.地域連携基盤作り(社会性をもった活動を行う基盤、フィードバック体制の確立)
学外専門家(9 名)による第三者評価や特別講義などを実施することによって、多様な評価・価値
観を知ることになり、多くの学生のみならず教員にとっても社会性をもったものづくり教育の視点
が醸成された。また、授業履修学生は、プレゼンテーション能力が飛躍的に向上し、商品化を目指
した企業との連携授業、第三者評価を通して社会性を認識し、さらに文化祭等で作品を販売するな
どの意欲が芽生えていった。さらに、インキュベーション施設ウロジとの連携・共同制作へ活動が
広がるなど効果が波及した。
学生作品や作品工程、技術、作業環境などのデータベースは、今後地域社会や企業との連携の媒
介として機能させることが期待できる。
6.成果のまとめ、報告(フィードバック体制の確立)
本年度は、作品 2 種(宿泊施設の家具、ディスプレーボックス)の常設作品のほか、中庭のイル
ミネーションデザインの長期設置を含む学生作品やパネルの展示を学内外の 7 箇所にて実施した。
また、2 年間の事業の最終年度であることから、平成 18 年 3 月に「特色・現代3GP 採択記念フォー
ラム」を開催した。フォーラムには 250 名以上の参加を得て、本事業への関心と今後の継続につな
げる基盤が構築されていることを認識できた。
また、本事業に対する評価のひとつとして実施した全学へのアンケート調査では、学生への教育
効果(意識変化や満足度)があったことがわかり、作り手・使い手双方から本事業の継続が強く求
められていることや、さらなる拡大の期待があることが分かった。寄せられた改善点を含め、具体
的な評価を得ることができた。
今後、本事業を継続し更なる展開につなげるために次のような推進策を検討している。
① 意見箱を活用し、ユーザからの要望に直接応える作品製作授業の展開
② 企業と連携した商品開発等の連携授業の拡大
③ 多様な公募展への積極的参加
④ 富山大学芸術文化学部5コースおよび3キャンパス融合授業の拡大
⑤ 独立工房ウロジの活性化と連携強化
( 注 )交 付 申 請 書 の「 補 助 事 業 の 目 的・必 要 性 」、「 本 年 度 の 補 助 事 業 実 施 計 画 」と 対 応
させて分かり易く記入すること。