スライド 1

1
小さな青き水の星、我が地球
今日も太陽と月の絶妙なるエネルギーバランスを保ちながら人智を超えた速さで回
り続ける命のメリーゴランド
我が地球
70奥の人間と数えきれない生き物たちが祈り繋がり合って紡ぎだす 天地をつなぐ
命の物語
今この一瞬からどんな新しい物語が生まれ どんな試練が待ち受けているのだろう
2
時は1611年、江戸初期の頃、秋たけなわの相馬原釜漁港
一年に一度、宝形の海に感謝をささげる、大漁祭の日のことです。
祭の始まりを告げる太鼓とホラ貝の音が鳴り響き大漁旗を仕立てた浜中の漁船が
一斉に沖の方へと勇壮に乗り出していきます。
3
それを見送る浜の人々が大歓声をあげます。老いも若きも、浜も陸も分け隔てなく
歓喜の笑顔を分かち合っています。
年に一度の無礼講の一日が始まります。
4
ちょうどその時です。二度三度とグラッときました。自身です。
浜にいて感じたのですから、そこそこ大きな地震であったはずですが、ほとんどの人
は気づいていない様子でした。
世話役の幾人かは揺れを感じて、ほんの少し動きを止めたのですが、すぐにまた浜
の衆の喜びの渦にまぎれていきました。
ただ一人浜の向こうの家の揺れを見逃さなかった網元は不吉なものを心に感じな
がら祭の輪を見つめるのでした。
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歌をうたい舞を舞い 祝い酒を酌み交わします。日本中どこの集落へえ行っても同
じような光景が見られる平穏な祭の縁が延々と続きます。
日に焼けた浜の人々の笑顔が今にも弾けそうです。どの顔も満足そうに笑っていま
す。
ことし一年精一杯生きた証か歓喜のるつぼと化した感謝の祭も、やがて月の出を合
図に終焉を迎えようとしています。
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「津波だ!津波がくっど」はじかれるように他の者たちも一斉に海を見ました。
なんとまるで干潮の時の遠浅のように沖の方まで波が引いているではありませんか。
誰もが固唾を呑んで胴元の次の言葉をまちました。
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「お前らは、そことそこにたって、やってくる浜の衆をその高台へと連れていくんだ。
いいが 一刻を争うど
心してかがれ 一人でも多くの浜の衆の命を救うべ!たのんだぞ!
その言葉はもはや祈りにも似た魂の叫ぶとなってみんなの心を突き動かしたのです。
運命の太鼓がなり始めました。残りの者たちが口々に叫び始めました。時間との争
いです。
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「知らせんだ!みんなを呼び戻せ!浜の衆を救うんだ!んだんだ 太鼓をたたけ
叩いて叩いて 叩き続けるんだ
もうそれしか救う手はねえど!頼むぞ!浜のみんなの命がかかってど!
ほりゃほりゃ 叩け!叩け!叩き続けろ!
年老いたとはいえ責任を背負った男の声には力がありました。
魂を揺さぶるまことがありました。
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「好きだなあ もう祭は終わったんだ いづまで太鼓なんかたたいてんでねど うる
せな」
こお運命の太鼓をこんな感覚で聞いていた浜の人々もあまりにも激しく乱打される
太鼓の音に何か違うものを感じ
我が耳を疑いながらも太鼓のなる方へ 太鼓のなる方へと集まってきました。
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再び網本が叫びます。「急げ!津波だ!津波がやってくっど」
残りの世話役たちも錆びます。「歯夜具あがれ!あがれあがれ!あの高台へ、ここ
からあがるんだ!急げ!」
騒然となる女 子供たちに声の限り叫び続ける網元と 叩き続ける太鼓の響き
そんな一種異様な空気の中、浜の衆が次から次へと高台へと避難していきました。
その時です。高台にたどり着いたひとりの男が海を指さし、大声で叫びました。「つ、
津波だ!」
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走る浜の衆、駆け上がる世話役たちが叫びます。「網元、網元」
目の前にせまった津波に一瞬だ治炉ぎながらも網元の脇をしっかりと抱えて走り出
した若者
その姿を追いながら、何人かが他k代から声を張り上げました。
「やめろ」「太鼓はもう ぜー」
「早ぐ早ぐ」「早ぐ上がれ」
網元も降る向きざま、最後の力を振り絞ってさけびました」
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「こっちさこう!早ぐ早ぐこっちさこ早ぐ」叫ぶが早いか津波はあっという間に浜辺を
超え
祭の広場と太鼓をたたき続けた一人の若者を呑みこんでしまいました。
「磯吉!」「磯吉!」「磯吉!」
太鼓をたたきづづけた若者の名を叫ぶ浜の衆。たたきながら、その場に名菊連れる
者
黒い物体となって目の前に迫りくる津波の恐怖におびえて抱き合うもの
悲鳴を上げる者、狭い高台は極限の修羅場となりました。
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津波は高台の中腹で止まりました。浜の衆は九死に一生を得たのです。唖然と津
波の跡を見つめる命永らえた浜の人々。
網元は何もなくなった祭の広場の跡を見下ろし、手を合わせ絞り出すような声でつ
ぶやきました。
「心から例を言うど 変わってやれなくてすまねえ おまえは浜の衆の命の恩人だ
おめえのことは生涯忘れねっど ありがと」
網元の人として政治欝なその言葉に涙で答える浜の衆たち
たださっきまでの悪夢はウソのような海の潮騒だけが
その言葉にこたえているように聞こえるのでした。
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こうして網元の機転が数十名もの命を救ったが この慶長の大津波で九死に一生を
得た浜の衆たちは
いまさらながら思知らされ屋海の力の偉大さと 一人の青年の命を懸けた勇気ある
行動が教えた命の尊さを
後世に語り継ごうと 命を救ってくれたこの高台に感謝と気づきの記念碑として陣者
を建立すうrことにしたのです。
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津人者と名付けられたこの神社は信仰の対象としてではなく 津波が起こればここ
までやってくるぞと云う事と
人は人の命によって支えられて生きていることを忘れないために建てられたようで
す。
このことが、ひとからひとへと語り継がれ いつしか津人者の事が津波を意味する
“つのみずさん”とよばれるようになり
「いざというときはつのみずさん(津神社)へ逃げろ」という“つのみず伝説がうまれた
ようです。
親から子へ 子から孫へと語り継がれるこの学びと戒めのつのみず伝説は今も海と
運命を共にする浜の人々の「心」にいきているようです。
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