整形外科における脊椎脊髄外科治療への取り組み

No.55
4月
2016
April
表紙記事
整形外科における脊椎脊髄外科治療への取り組み
特集 1
最近話題のHBOC
特集 2
・ MRI 装置のバージョンアップの紹介
・ 4 月より、 火曜午後に総合診療外来を開始
特集 3
慢性腎臓病に対する医療連携
整形外科における脊椎脊髄外科治療への取り組み
4 月 1 日から河北総合病院整形外科で脊椎脊髄外科
の顧問をさせていただく白石建です。治療の中心は体
への負担が少ない低侵襲手術(ていしんしゅうしゅ
じゅつ)を行うことです。その特長は、背骨を後ろか
ら支えたり動かしたりする筋肉に傷をつけないことで
す。
現在行われている首の手術を例にとれば、首を支え
ている筋肉を全て骨から切り離したり、裂いたりしま
す。そのため、術後は頑固な首や肩の痛み、首の姿勢
異常、首の運動障害などの問題が生じます。
そこで私は、誰にでもある筋肉と筋肉の隙間に注目
し、1999 年に脊椎外科の歴史では初めて、筋肉を傷つ
けずにこの隙間を広げて行う手術を開発しました。広
げた隙間は、手術後には自然に元通りになります。
この術式によって、手術後の問題がなくなり、早期
離床・退院・社会復帰を実現できるようになりました。
今後、河北病院整形外科ではこの低侵襲手術を頚椎
や腰椎に広く応用しながら、脊柱管狭窄症、変性すべ
脊椎・脊髄病センター顧問
しらいし
たてる
白石 建
医師
卒業年度 : 1977 年
卒業大学 : 慶応義塾大学
主な専門分野
脊椎
認定専門医
日本整形外科学会認定医
日本整形外科学会リウマチ医
日本脊椎脊髄病学会評議員
日本脊椎脊髄病学会脊椎脊髄外科指導医
日本整形外科学会脊椎脊髄病医
日本脊椎脊髄神経手術手技学会理事
り症、椎間板ヘルニア、脊髄腫瘍などに積極的に取り
組んでまいります。
よろしくお願いいたします。
特集 1
近年メディアで大きく取り上げられている遺伝性乳
がん卵巣がん Hereditary Breast and Ovarian Cancer
(HBOC)。卵巣がんの約 15% は BRCA 関連の遺伝子異常
を有すると言われており、米国婦人科腫瘍学会が 2014
年 10 月に提示したガイドラインには「卵巣がん・卵
管がん・腹膜がんの患者は明らかな家族歴がなくても
遺伝カウンセリングを受け、BRCA 検査を受けるべきで
ある」と記されています。
<治療方法>
BRCA 変異を持つ卵巣がんはプラチナ感受性が高いこ
とが知られています。更に、BRCA 変異を持つがん細胞
特異的に抗がん効果を発揮する薬剤としてポリ ADP リ
ボシルポリメラーゼ (PARP) 阻害剤の開発が進められ、
2014 年 12 月にはオラパリブが BRCA 変異を持つ進行性
卵巣がんに対する治療薬として、FDA に認可(わが国
では第Ⅲ相試験実施中)されました。
<予防的手術>
また、話題になっている背景には、予防的治療の介
入の是非があります。BRCA 関連の乳がん予防には予
防的乳房切除術や乳房形成術、卵巣がん予防にはリ
スク低減卵管卵巣摘出術(risk reducing salpingooophorectomy・RRSO) が最も効果的と考えられていま
す。RRSO の検体からは occult cancer が見つかること
があり、卵管と卵巣の詳細な病理学的評価が必要です。
<妊孕性について>
一般的には RRSO は 35-40 歳もしくは挙児希望終了
時が望ましいとされていますが、BRCA 関連の乳がん・
卵巣がんは疫学的に若年発症であり、これから妊娠
を考慮する生殖年齢である可能性が十分にあります。
産婦人科 医師
あさだ
か
よ
浅田 佳代
医師
卒業年度 : 2009 年
卒業大学 : 東京大学
主な専門分野
産婦人科一般、婦人科腫瘍
認定専門医
日本産科婦人科学会会員
日本婦人科腫瘍学会会員
日本癌学会会員
また、BRCA 遺伝子異常は卵巣予備能の低下をもたらす
ことが知られており、それに伴う不妊治療が必要にな
ることも多いのです。
この不妊治療こそが卵巣がん発症のリスクになるか
どうかも今後の重要な検討課題となっています。
<遺伝カウンセリングの問題>
上記のように、今後 BRCA 検査が日常診療に大きく
関わってくる可能性があります。しかし、すべての
卵巣がん患者に遺伝カウンセラーや臨床遺伝専門医
が説明を行うことは不可能です。打開策として日常診
療の一環として外来医師が遺伝子検査の説明を行い、
Germline 変異が見つかった場合のみ専門のチームが
改めて患者及び家族にカウンセリングを行う仕組みに
なっている英国のケースもありますが、忙しい外来診
療においてなかなか実現できるものではありません。
そこで当院産婦人科では、大学病院と連携を取りなが
ら、啓蒙活動を始めたいと考えております。
[ 参考 ]NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology
Genetic/Familial High-Risk Assessment: Breast and Ovarian, version 1, 2015
HBOC Syndrome Testing Criteria
・ 家系内で BRCA1/2 遺伝子の病的変異、 またはがん発症に関与する遺伝子変異
が見つかっている
・ 乳がんの既往歴があり、 次のどれかに 1 つでも当てはまる ;
〉 45 歳以下で診断
〉 2 つの原発性乳がんで、 初発は 50 歳以下で診断
〉 50 歳以下で診断され、 かつ血縁者が (年齢問わず) 乳がん発症 (1 人以上)
〉 60 歳以下で診断されたトリプルネガティブ乳がん
〉 (年齢問わず) 乳がんと診断され、 かつ血縁者が 50 歳以下で乳がん発症
〉 (年齢問わず) 乳がんと診断され、 かつ血縁者 2 人以上が乳がん発症
〉 (年齢問わず) 乳がんと診断され、 かつ血縁者が浸潤性卵巣がんを発症
〉 (年齢問わず) 乳がんと診断され、 膵がん、 または前立腺がん (Gleason
score ≧ 7) と 診断された血縁者が 2 人以上いる
〉 男性乳がんを発症した血縁者がいる
〉 BRCA1/2 遺伝子の病的変異保有頻度が高い民族である
・ 浸潤性卵巣がん (卵管がん、 原発性腹膜がんを含む) の既往歴がある
・ 男性乳がんの既往歴
・ 前立腺がん (Gleason score ≧ 7) の既往歴があり、 かつ血縁者が乳がん (50
歳以下で発症)、 浸潤性卵巣がん、 あるいは膵がんまたは前立腺がん (Gleason
score ≧ 7) を発症
・ 膵がんの既往歴があり、 かつ血縁者が乳がん (50 歳以下で発症)、 浸潤性卵巣
がん、 あるいは膵がんを発症
・ 家族歴だけがある (がん既往歴がない場合は、 検査結果の解釈に限界があるこ
とを議論する)
〉 第一度あるいは第二度近親者に検査基準に当てはまる人がいる
〉 第三度以内の近親者が乳がんあるいは浸潤性卵巣がんを発症、 かつ血縁者 2
人以上が 乳がん (少なくとも 1 人は 50 歳以下で発症) あるいは浸潤性卵巣
がんを発症
遺伝性乳がん ・ 卵巣がんの情報サイト (医療従事者向け) http://www.falco-genetics.com/brca/medical/index.html
2015 年 6 月
特集 2
MRI 装置のバージョンアップの紹介
新年より当院の MRI 装置がバージョンアップ致しま
した。
従来の装置は磁石部分を残すのみで、検査台、ソフ
トともに最新の機種と同等のものへと変わりました。
体に装着する部分のコイルも最新のもので、特に関
節などの専用コイルが増えて画
質が向上しました。
磁場の均一性が増したために
全体の画質も改善しています
が、それに加えてソフトの進歩
のため、従来アーチファクトの
多かった症例でも補正されるよ
うになりました。
さらに特に腹部など息止めが必要とされる部位での
撮像時間が短縮されたことで、今までに比べ検査を楽
に受けることが出来、また呼吸によるブレの少ない画
像を得られています。
放射線科 部長
はやの
ち
え
早野 千恵
医師
卒業年度 : 1986 年
卒業大学 : 東京女子医科大学
主な専門分野
画像診断
認定専門医
放射線診断専門医
撮像時間の短縮により以前よりは予約もお受けしや
すくなってくると思います。
これからもよろしくお願いいたします。
4 月より、火曜午後に総合診療外来を開始
総合診療外来開設のご案内
河北総合病院では、2016 年 4 月から毎週火曜午後に
総合診療外来を開始します。この総合診療外来では、
地域の先生方からご紹介いただいた、診断がつかず担
当科の判断に迷うような患者さんについて、家庭医療
学センターの総合医が診療にあたっています。この総
合診療外来を、河北総合病院の機能と地域の方々に必
要な医療をつなぐ窓口としてご活用ください。
河北総合病院 ・ 総合診療外来の役割
杉並・中野・練馬などの地区は、2025 年をピークに
高齢者の医療需要が増大するといわれています。この
世代の方々は現在、都心部の大病院に疾患単位で受診
していることが多いと推測されますが、今後これらの
方々は加齢に伴って地域の医療機関に移行してくるも
のと予測されます。当地区在住の方々の医療の主体が
大病院から地域のかかりつけ医に移行する中で、臓器
別・疾患別の医療から複数の疾患を持つ方々を総合的・
継続的に診療する医療への転換が求められています。
総合診療外来では、河北総合病院の医療資源を活用し
つつ、このような地域のニーズに応え、大病院と地域
のかかりつけ医との橋渡しとしての役割を担いたいと
考えております。
家庭医療科 科長
さとう
みきや
佐藤 幹也
医師
卒業年度 : 1996 年
卒業大学 : 筑波大学
主な専門分野
内科一般、労働衛生
認定専門医
日本プライマリケア学会認定家庭医療認定医・指導医・代議員
日本内科学会認定医
日本公衆衛生学会会員
日本産業衛生学会会員
労働衛生コンサルタント
公衆衛生学修士
医学博士
総合診療外来受診後の流れ
受診した患者さんの個々の症状や疾患に応じて総合
的に評価・診断します。その結果により、ガイドライ
ンに沿った治療の導入、症状の緩和、専門医の紹介な
どを行い、患者さんに必要な保健・医療・福祉を評価
し、患者さんの希望に応じてコーディネートした上で、
ご紹介頂いた医療機関に逆紹介させていただきます。
特集 3
CKD は多くかつ危険
慢性腎臓病(CKD)は、成人人口の 13%が罹患し、進行
すると透析が必要となったり、心血管疾患が合併しやすく
なります。その中でも推定糸球体濾過率(eGFR)が 50 未
満かつ蛋白尿陽性例が高リスクとされ、腎専門医の介入が
必要とされています。しかしこのような患者さんは、人口
の 5.7%(区内で約 31500 人)おり、区内に腎専門医は 15
名であることから、CKD はかかりつけ医と腎専門医が連携
して診療する必要があります
杉並 CKD 連携パスについて
2008 年、近隣の診療所の先生方と当院で、杉並 CKD 医療
連携の会を発足し、CKD 連携パス(手帳)を使って、共同
診療するシステムを立ち上げました(図 1、表 1)
。
当院に CKD で紹介となった患者さんを中心に CKD パスを
開始し、2016 年 1 月末現在、66 診療所 3 病院の先生方と
223 名の患者さんに運用しています。CKD 手帳は小冊子で、
CKD に対する説明・治療法が書かれており、患者さんが自
己学習に利用し、診療の度に持参し、各医療機関で検査デー
タや問題点を自由に記載します。先生方からは記載に負担
はなく、情報交換にとても有用との声をいただいています。
杉並 CKD 連携の紹介・連携の流れ(図 1)
河北総合病院 分院 院長
おかい
たかひろ
岡井 隆広
医師
卒業年度 : 1987 年
卒業大学 : 旭川医科大学
主な専門分野
腎臓、膠原病、リウマチ
認定専門医
臨床研修指導医
日本リウマチ学会指導医・専門医、評議員
日本腎臓学会指導医・専門医
日本内科学会指導医・総合内科専門医
日本透析医学会指導医・専門医
杉並 CKD 連携パスの有用性
CKD パス導入患者さんの平均年齢は 75 歳、紹介時の平均
血 清 Cr.1.98mg/dl で、CKD ス テ ー ジ は G3b(eGFR30~45)
、
G4(eGFR15~30) がほとんどです。専門外来受診時に、薬物
療法の評価、生活指導、管理栄養士による栄養指導などを
中心に、CKD 進行抑制に向けた診療を行います。パス導入
後の腎機能保持率、血圧、Hb、HbA1c、LDL、尿蛋白の目標
達成率を示します(図 2)
。新規心血管疾患の年間発症率は
5.7%と低く抑えられています。何よりも CKD パスで一緒
に診ているかかりつけの先生方の CKD に対する診療レベル
が日々向上するのを実感します。今後 CKD パスがもっと浸
透し、地域の CKD 診療の質がさらに向上することを願って
います。
CKD 連携パス運用患者の目標達成率(図 2)
CKD連携パスにおける役割分担(表 1)
しぐま [Sigma] No.55
発行責任者:清水 利夫 発行:社会医療法人 河北医療財団 河北総合病院 広報課
〒 166-8588 東京都杉並区阿佐谷北 1-7-3
2016 年 3 月 18 日発行
TEL:03-3339-2121(代)
FAX:03-3339-2928 ホームページ : http://kawakita.or.jp