ホテルのプールろ過装置の点検中に感電

ホテルのプールろ過装置の点検中に感電
この災害は、ホテルのプールのろ過器設備の点検中に発生したものである。
このプールはホテルに併設されており、敷地内には2つの屋内プールと7つの
屋外プールがあるが、災害は「波のプール」と呼ばれるプールの循環ろ過器の
あるブロックで発生した。
この循環ろ過器のあるブロックには、11基のろ過器と2基の飲料水ろ過器およ
びその附属設備があるが、「波のプール」用ろ過器は約15年前に設置され、排
水能力は140m3 /hで、ろ過された排水は排水溝(幅60cm、深さ60cm)を通じて
地下配管へ入り、近くの川へ排出される。
災害発生当日、被災者は、ろ過器内の水が逆流するので、同僚と2人でろ過
器内のゴミ等沈殿物の除去を行うよう指示され、午後7時30分頃より、逆洗と呼
んでいる作業に取り掛かった。
この作業の手順としては、
(1) 排水溝ピット内にある鋼製スクリーン(質量約10kg)を抜き取る
(2) 排水溝下手のろ過器4基について、排水バルブおよびプール側のバルブ
を開いて、ろ過器内の水を逆流させる(沈殿物が排水バルブを通って排水溝
へ排出される)
(3) 約10分後にバルブを閉める
(4) (2)と(3)の作業を4基ごとに繰り返す
ものであったが、(1)のスクリーンを2人がかりで抜き取ろうとしたがピット内に水
や堆積物が溜まっていて取れなかったので、スクリーンを残したまま逆洗作業
を開始し、4基のバルブを開けて排水バルブから水を排出した。
その後、同僚は、波のプールに給水するため、約300m離れた場所にあるポン
プ室に車で向かい、被災者はその場で待機していた。
約10分後に、同僚が戻ったところ、被災者が近くにあった水銀灯のポールの
足元に倒れており、その後、被災者を病院に移送したが感電死と判断された。
なお、被災者の右下腿に電撃痕があり、ろ過器ブロックには水が5cmほど溜
まっていた。
この災害の原因としては、次のようなことが考えられる。
1 水銀灯のポールに漏電していたこと
ろ過器ブロックには照明用の水銀灯(200V)が2基設置されているが、その
電源は変電室の変圧器(3相3線式)からナイフスイッチのところで2相2線式と
なって、ノーヒューズブレーカー、タイムスイッチ等を経て供給されており、ろ
過器ブロック内では地下を通ってきて、地上より3.8mの位置にある電灯まで
金属製のポールの中を配線されていた。
事故後に、この配線を調べたところ、地下配線(その他の電灯用等と共通
の配線になっている)とポールの中の配線がポール下部で接続されていた
が、その絶縁被覆が劣化していて、しかも、接続部の絶縁テープの中に水が
入っていた形跡があったことから、この接続部でポールに漏電していて、被
災者が何らかの理由でポールに触れて感電したものと推定される。
なお、水銀灯ポールの脚部は、腐食が激しく、幅13cm、長さ14cm∼18cmの
穴が開いていたことから、水はこの穴からポール内に浸入したものと推定さ
れる
また。同僚が被災者救出のため、ポールに触れたときに電撃を受けて一瞬
動けなくなったことからも漏電であったと推定できる。
2 漏電遮断装置が設置されていなかったこと
このホテルの変電室には、過電流遮断器は設置されていたが、漏電遮断
装置は設置されていなかったため、被災者が感電したときに電源が遮断され
なかった。
3 作業手順が定められていなかったこと
ろ過設備の鋼製スクリーンは、飲料水用除マンガンろ過器から出るマンガ
ン、酸化鉄等を除去するために1か月前に設置されたもので、約1週間前の
作業ではスムーズに抜けたが、一連の安全に関する作業手順は定められて
いなかった。
なお、被災者の服装は、半袖シャツ、半ズボンにビーチサンダルという軽装
であった。
同種災害の防止のためには、次のような対策の徹底が必要である。
1 漏電遮断装置を設置すること
一般の施設における電気設備については、「電気設備の技術基準」が適用
され、対地電圧が150V以下の電路(水銀灯の対地電圧は150V以下)につい
ては水気のある場所を除き、原則的には漏電遮断装置の設置義務はない
が、プールその他水で湿潤する可能性のあるろ過循環ポンプ、プールサイド
に設置する照明設備等の回路については、対地電圧が150V以下であっても
漏電遮断装置の設置が望ましい。
2 一連の作業手順を定め周知すること
新たに、ろ過設備のスクリーン等を設置した場合には、それの保守管理に
関する作業手順だけではなく、周辺の電気機器等への接触危険あるいは機
器、配線からの漏電の可能性についても検討し、保守点検時における安全
作業手順の中に盛り込むことが望ましい。
3 安全衛生教育等の安全管理を実施すること
プール等に付随する設備については、水による腐食、劣化が進む可能性
が高いので、その部分を重点的に点検するとともに、あらかじめ担当者に安
全衛生教育(安衛則第35条)を実施する。
また、電気設備を含む各種施設の点検基準と担当者を定めて、確実な点
検整備を行う。
さらに、ホテル等の経営トップは、サービス部門のみではなく、施設の保守
管理についても責任があることを認識し、定期あるいは随時に巡視してそれ
らの職場および作業の実態を把握し、必要な指示を行う。
業種
旅館業
事業場規模
100∼299人
機械設備・有害物質の種類(起因物)
送配電線等
災害の種類(事故の型)
感電
被害者数
死亡者数:1人
不休者数:0人
NO.100812
休業者数:0人
行方不明者数:0人