芳香族求電子置換反応

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:芳香族求電子置換反応
求電子試薬として働く分子は, E-A の構造を持っていて,反応時に E 生成し,E が求電子
試薬となると考えます.
例
3540
+
HNO3
O2N OH
A
E
Br2
Br
H+
FeBr3
Br
+
O2N
O+H2
N+O2 + H2O
E+
Br+
FeBr4-
Br+ + FeBr4-
A
E+
E
図 1.有電子試薬は E-A の構造を持つ.赤字が求電子試薬.
ベンゼン等の誘導体の芳香環は π 電子が豊富にあるため,求電子試薬の攻撃を受けやす
くなります.下図に,ベンゼンに対する求電子置換反応の代表的例を示します.
X
X2, FeX3
(X=Cl, Br)
+
HX
NO2
HONO2
+
H2O
H2SO4
SO3H
+
SO3
E
H2SO4
E
E
H
H
H
+
+
R
RCl
+
HCl
AlCl3
E
X
+
RCOCl
AlCl3
+
H
HCl
図 2.芳香族求電子置換反応の例とアレニウムイオンの共鳴極限構造(右)
求電子試薬 E の攻撃を受けた付加体はアレニウムイオン(
アレニウムイオン(areniumu ion)とよばれる比
較的安定な中間体となります.アレニウムイオンは,ベンゼノニウムイオン(benzenoniumu
ion)
,σ-錯体(
-錯体(σ-complex)ともよばれます.
アレニウムイオンは,H が脱離して安定な芳香環を復元する傾向にあり,このとき芳香
環の H が E で置換します.
+
ベンゼンのハロゲン化
ベンゼンは Lewis 酸の存在でハロゲンと求電子置換反応します.Lewis 酸として主にハロゲ
ン化鉄(FeX )が用いられます.反応過程は,初めにハロゲンと Lewis 酸が反応して E-A
3
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を生成します.
X
+
X
+
FeX3
FX4-
X
ハロゲンは,F,Cl,Br で,I の反応性は極端に乏しくなります.
ベンゼンのニトロ化
ベンゼンは硝酸と硫酸の存在下,反応してニトロベンゼンを与えます.E-A の E は下式の
ように硫酸によりプロトン化によって生成します.また,A は H O となります.
2
H
HO3SO H
HSO4− + H O+
+ H O NO2
+
OH2
NO2
NO2
E
ベンゼンのスルホン化
ベンゼンのスルホン化では,濃硫酸や発煙硫酸(硫酸に SO を溶かしたもので,発煙硫酸
を入れた容器の栓を開けると空気中の水分が凝集され煙のようにみえるのでこの名称があ
ります)を用いますが,いずれの場合も SO が求電子試薬です.濃硫酸の反応は,2分子
から1分子の SO ができます.SO は S O の構造をとり E として働きます.
3
3
3
3
SO3 +
2 H2SO4
+
S
O
O
S O−
O
H
3
O
S O−
O
H
+
O
SO3−
HSO4−
+
−
H3O+ + HSO4−
遅い
O
+
+
SO3H
H3O+
速い
速い
図 3.ベンゼンのスルホン化
反応
塩化アルミニウム(AlCl )または BF などの強力な Lewis 酸と塩化物を用い芳香族環に炭
素結合を導入する反応を Friedel-Crafts 反応といいます.
FriedelFriedel-Crafts
3
3
R
+
AlCl3
R
X
Cl
Al
Cl
Cl
R= alkyl-, RCO-
X=Cl
図 4.Friedel-Crafts 反応と AlCl の構造
3
反応では,触媒として主に AlCl が用いられます.(AlCl {Ne; 3s 3p}は
BF{He;2s 2p}と同じ振る舞いをすることは,それらの構造を比較するとよく分かります.
つまり,AlCl の構造:3s 軌道と 2 つの 3p 軌道で,sp2 混成軌道を作り,Cl 原子と結合す
Friedel-Crafts
3
2
3
3
3
2
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る.空の 3p 軌道があり,そこに電子が入ります.BF の関与する反応機構と同じであるこ
とがわかります.
アルキル化反応:アルキル化反応では,AlCl はアルキルカチオンの生成のときに働きます.
アルキルカチオンは芳香族求電子置換反応での E-A の E に相当,A は AlCl です.
3
3
−
4
H3C
Cl
CH
H3C
Al
Cl
H3C
Cl
Cl
+
CH Cl
−
Al
H3C
Cl
Cl
H3C
CH
Cl
+
+
H3C
Cl
−
Cl Al
Cl
Cl
一方,Friedel-Crafts 反応は,AlCl や BF の他に HF を用いて進行する場合もあります.
3
H 3C
H
C
H
CH 2
3
F
H+
H 3 C C CH 3
CH 3
CH CH 3
H
H
+
BF3
O
+
図 5.触媒として HF と BF を用いた Friedel-Crafts 反応の例
3
アシル化反応:酸塩化物(RCOCl),酸無水物((RCO) O)と AlCl はつぎの次のようにし
てアシリウムイオン
アシリウムイオン(R-C≡O )が生成します.
2
3
+
O
R
C
Cl
Cl
Al
Cl
R
C O+
R
+
C O
R
C O+
+ Cl
+
AlCl4−
acylium ion
O
R
C
R
C
O
Cl
O
Al Cl
+ Cl
+
R
RCOAlCl3−
+
C O
図 6.塩化アシル,酸無水物と AlCl によるアシリウムイオンの生成
3
アシリウムイオンは共鳴構造をとり,比較的安定です.アシリウムイオンは,芳香族
求電子置換反応での E-A の E に対応し,A は AlCl あるいは RCOAlCl に対応します.
−
4
−
3
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つぎはアシリウムイオンとベンゼンの反応です.
H R
R
C
C
O+
O
+
arenium ion
R
+
R
C O
C O
H
+
AlCl3 +
HCl
AlCl4−
図 7.ベンゼンとアシリウムイオンとの反応.
反応の注意すべき点
Friedel-Crafts 反応は,C-X(X はハロゲン)を塩化アルミニウム等の強力な Lewis 酸でカ
ルボカチオン(C )を生成させ,ベンゼン核に直接 C-C 結合を形成する求電子置換反応で
す.C+を生成するものとして,ハロゲン体以外の場合もあります.合成化学的な利用価値
が高い方法ですが,以下の点に注意する必要があります.
アルキルカチオンの転位の問題:ハロゲン化アルキルによる Friedel-Crafts 反応では,求
電子試薬のアルキルカチオンができますが,アルキルカチオンは,より安定なイオンへ転
位する傾向にあります.そのため,アルキル化体(アルキルベンゼン)は混合物となりま
す.
反応例
FriedelFriedel-Crafts
+
CH3CH2CH2CH2Br
AlCl3
CH3CH2CH+CH3
CH3CH2CH2CH2+
H3 C
CH2CH2CH2CH3
AlBrCl3-
CH2CH2CH3
図 8.アルキルカチオンの水素転位により,アルキルベンゼンの混合体となる.
カルボカチオンの生成しにくい場合がある:sp や sp 混成軌道に結合した塩化物(下図に
示すような化合物)は,AlCl 等ではアルキルカチオンが生成しにくいため Friedel-Crafts
反応によるベンゼン核のアルキル化はできません.ただし,sp 炭素原子に結合したハロゲ
ンでもアシル基の場合は,カルボニルの非結合電子対によるカルボカチオンの安定化の寄
与があるため,Friedel-Crafts 反応によるアシル化は容易に進行します.
2
3
2
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Cl
R
HC
H
C
R
C
C
Cl
Cl
電子吸引性置換基を持つベンゼン核には反応は起こりにくい: Friedel-Crafts 反応は求電
子反応ですので,ベンゼン核のπ電子が少なければ反応速度が遅いか,全く反応しなくな
ります.例えば下図のような電子吸引性の置換基を持つベンゼンの誘導体では反応は進み
ません.
R
COOH
NO2
CF3
COR
SO3H
図 9.電子吸引性置換基のついたベンゼン誘導体では Friedel-Crafts 反応は起こらない.
アミノ基等塩基性の強い置換基を持つベンゼン核にも反応は起こりにくい:電子供与性の
置換基であっても,Lewis 酸と結合して電子吸引性置換基となることがあります.その場合
は,反応は起こりません.
NH2
−
Cl3Al
N+H2
図 10.アミノ基は AlCl が孤立電子対を取り込み電子吸引性基に変わる.
3
多置換アルキル化体となる場合がある:Friedel-Crafts 反応でアルキルベンゼンができると,
アルキル基は電子供与性の基であるため,アルキルベンゼンの方がベンゼンより Friedel
-Crafts 反応が起こりやすくなります.そのため,ベンゼンに複数のアルキル基が置換され
たものもできます.
H3C
CH OH
+
H3 C
BF3
H3 C
CH
CH3
H3 C
CH
CH3
+
H3C
CH Cl
+
H3 C
AlCl3
CH
H3 C
CH3
図 11.Friedel-Crafts 反応によるベンゼンのアルキル化は多置換体を与える